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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
24/53

19.リスライム

 目を覚ますと、ベッドが狭く感じるのはいつものこと。そう、いつものこと……。

 朝から溜め息が絶えないのは、疲れの所為か誰かさんの所為か。朝食を食べながら眉間に皺が寄るのを、リュフォネの前である為必死に堪える。

 建物らしい建物の、部屋らしい部屋の、朝食らしい朝食を食べる。いよいよ自分が何に生まれ変わったのかわからない。これから人らしい生活ができるというのに、違和感を感じているのだから。


「じゃあフェル。俺は家建てればいいんだよな」

「え、あ、うん。デルダ、村長に聞いてくれれば家の配置とかも教えてもらえると思う」

「おぉ。じゃ、行ってくる」


 朝食を済ませてすぐ、リュフォネは能力で家を建てに行った。「行ってらっしゃい」と見送るのは久しぶりで、暫くの間呆けてしまったのは仕方のないこと。

 昨夜、移動中に話した通りガロウ達に聞いた結果、三人とも受け入れてくれた。記憶を以心伝心で与えたところ、自分の記憶との区別ははっきりとついているらしい。そして何故か感情や思考まで入っていると言われた。リスラは何も言わないのに。命令で知識以外覗くことを禁止した。言葉で命令したとはいえ、抜け道はできてしまうから見ようと思えば見えてしまうのだろうけれど。


「俺は部屋にいるから、何かあったら通信よこして。じゃ」


 ダイニングで未だ寛いでいるリスラ達に声をかけ、リュフォネが作ってくれた私室に向かう。中にある家具は全て見せかけだけの偽物らしいが、生地を張ったら殆ど本物だ。

 収納魔法にある布団を敷いたベッドに倒れ込む。ぼふんと良い音が鳴って身体が沈んだ。


 ここが、ゲームの世界なら……。

 ……メニューを表示。


〈ストーリー一覧〉

 メインストーリー

 サブストーリー

 シークレットストーリー

〈アイテム一覧〉

 武器

 防具

 アクセサリー

 特殊

〈キャラクター一覧〉

 ユノアナ

 死神


 ずらーーーーっと、視界全面に文字が浮かぶ。図鑑の如く文字の羅列が続き、一点に意識を集めるとそこのファイルが開かれる。キャラクター一覧には従魔の名前も載っている。

 その上、言語切り替えまで付いていた。この世界の言語と前世の言語らしい。


 死神って、私があったことがあるとしたら、ユノアとあの男しかいないはず。あの男が死神?

 どちらにしろ、会って全てを聞き出す目的は変わらないけれど。


 メニューを開いた目的は……

〈キャラクターメイキング〉

 あった。メイキングに含まれていたメニューの一つ。


 ユグドラシルの醍醐味の一つだ。プレイヤーである主人公は勿論のこと、キャラクターの一部では、細かくはなくとも設定変更が可能なキャラクターもいる。

 特に乙女ゲームのルートに入れば必ず攻略対象者がいる。それを自分好みにできると評判だった。変更には範囲指定があるが、ストーリーの大元となるキャラにも、所謂モブと呼ばれるキャラにもある。外見を変えることはできずとも、色が変われば印象は大きく変わる。

 それにそれだけではないのが、メイキングの凄い所だ。キャラの設定によりナレーションの内容が変化するのだ。人によっては、その全てを周回して見たという人もいるだろう。

 そんなキャラクターメイキングでは、自身の容姿の幅がとても広い。自分の容姿は変更できるが、この世界の住人である他のキャラクター達はできないようだ。設定とかは自分が知っていれば表示され、知らなければ表示されないらしい。知っていても解析不能(エラー)になって見れないものもある。


 調べるのはこれくらいかな。

 身体は成長するのかわからないし、変えるなら色か。


 天井を視界のモデルカラーが彩り幻想的な壁紙になっている。髪は『銀の海』。瞳は『金の空』。時間や場所、翳りで色が変動する類いのものだ。人気はあまり高くはなかったが、私は好きだったカラーである。


 色がなくなり、普通の天井に数だけがくっきりと浮かび上がる。


『3/4』


 一度目、転落死。崖から流狼族の一匹により転落し、死亡。

 二度目、毒死。リュフォネにより毒を盛られ、死亡。

 三度目、圧死。リュフォネの能力により潰され、死亡。


 このままだとあと一回しかライフがない。確か残りのライフをストックといったはずだ。まだ一月も経たない間に三回も死んでいる。この先死なない保証なんてないし、寧ろ増えていく気しかしない。


 ストック、溜めておかないと。

 あとはスライムか。


 メニュー画面を閉じた後、リスラが話していたスライムの進化について調べようと思う。進化条件は分かっているのだが、進化先でできることがどう変わるのかが知りたい。

 何かあったら連絡するように伝えてはいるが、リスラなら呼んでも迷惑にはならないだろう。

 気配を探れば森にいることが分かる。どうやら警備のスライム達を回っているらしい。


(リスラ、リスラ。こちらフェル。応答求む、どうぞ)

(こちらリスラ。どうかした〜? どーぞー)


 やけにノリがいいと思ったら、記憶を与えていたことを思い出した。ノリにノッてくれる相手がいるって、こんなにも嬉しいことだなんて思いもしなかったが。


(リスラにスライムの進化について付き合ってもらいたくてな。今空いてるか?)

(うん、空いてるよー。どーぞー)

(……それ、もうやらなくていいぞ)

(えーやめちゃうのー)


 やってみたくてやっただけだなんて、リスラ相手でも言いたくない。


(今から行くね。何匹がいいの?)

(進化可能な分だけでいい)

(りょ〜か〜い)


 やっぱり続けた方がいいかもしれない。リスラは口調がだらけ過ぎだ。

 暫く待つと、リズミカルなノックを鳴らし、十四匹のスライムを引き連れてやって来た。随分と多い。こんなに進化可能なスライムがいることに気付かなかっただなんて、主失格ではなかろうか。リスラを部屋に招き入れ、スライム達はベッドに並ばせた。

 従魔である魔物は、主の許可無しに進化ができない。スライムは進化候補が多い為選ぶことから始めるのだが、進化の条件によってはそれすらも変わってくる。

 普通、進化条件とは魔物のレベルだ。それがスライムの場合は食事になる。勿論レベルでも進化条件が満たされ進化ができるが、そうするとそのまま上位種として進化し、ステータスが伸びるだけになる。

 一方、食事による条件では、食べたものによって固有スキルを持つ上位種に進化ができる。ものによってはステータスが下がってしまうこともあるらしいが、個性のある魔物になれるわけだ。

 そして、そんな進化条件であるスライム達の食事だが、全てリスラが担っている。


「それで、どの進化条件を満たしたんだ?」


 従魔のステータスを見れば一目で分かることだが、リスラがどれだけ把握しているのかを知る為に聞いてみる。先程からニヤニヤ笑っていて少し怖い。変なもン喰わせてないだろうな。


「タラスターの死骸、キャタピラー、草や葉や枝、石、ガロウ達の毛、ゴブリンの垢、食べ物の残りや老廃物」


 何、喰わせてんの、お前?


《タラスターとは、蜘蛛の魔物の総称です。別の名を用いることもありますが、大抵の場合タラスターで通じます。

 キャタピラーとは、どの森にも生息する生息地域の広い魔物のこと言い、粘力や弾力、太さの違う糸を操る魔物です。蜘蛛に似て糸を使った戦闘を行い、タラスターは巣を作り、キャタピラーは巣を作らないのが特徴です。

 草や葉や枝。肥料や燃料となる材料の消費に加え、荒地が拡大している現在では森林破壊の原因と成り得るでしょう。

 石、流狼族の毛、ゴブリンの垢、残飯や老廃物。これらは環境に大きな影響はないと思われます。老廃物は肥料としても利用可能ではありますが、流行病が起こりにくくなるという点で良い利用法です》


 イレイア、ありがたいけど長い。イレイアの説明力をこんなところで発揮しないでほしい。


 どれから進化させようかとリスラが悩み出し、案外本気で考えている。スライムのこととなると熱が入る性格らしい。本人がスライムだからというのもあるのだろう。

 やっと決まったのか、「決めたっ!」と大声で叫ばれた。あまり広い部屋ではないからよく響き耳が痛い。周りへ配慮するという考えはないのか。


「キャタピラーからにする! フェル許可出して〜」

「はいはい」


《進化申請を受信しました。スライム一体の進化が可能です。進化先スティッキースライム、進化を許可しますか?》

(YES)

《申請承諾を確認。進化を開始します》


 進化を許可すると、ベッドの上のスライムの一体の進化が始まった。種族による違いか、眠ってはいないようだ。進化の際の違いが気になる。

 眠りの代わりにじっと固まり、薄青色の体の中心が光っている。白い光が色を帯び、黄色が生まれ混ざり合う。草原に紛れたような鮮やかな薄緑へと色を変え、一体のスライムの進化は終わった。

 薄緑色のスライム。スティッキースライムが誕生した。キャタピラーを捕食していたスライムだから緑なのか、進化したら緑になるのかは分からない。それでも明らかな進化に、冷めていた探究心に火がつくのを感じた。


 次々に許可を出して進化させていき、見事にベッドが色付いた。


 タラスター、白に黒の斑模様。または紫。スレッドスライム、ポイズンスライム。

 草や葉や枝。順に、若葉色、鮮緑色、茶色がかった深緑色。グラススライム、リーフスライム、ブランチスライム。

 石、灰色。ストーンスライム。

 流狼族の毛、黒から白のグラデーション。ビーストスライム。

 ゴブリンの垢、半透明の薄水色。クリーナースライム。

 残飯や老廃物、茶色。スカベンジャースライム。


 一度に大分種族数が増えた。でも、まだ四体残っている。これらは私の協力が必要らしい。

 何を食べさせるかって? 魔力だよ。私の魔力。

 初めてだからということで、使う魔力は四属性。火、水、土、風だ。魔法として食べさせるらしいが、食べるのだろうか。


 先ずは水。手を器として水を出す。相性の良いスライムを選別してきたとリスラは言ったが、大丈夫なんだろうなと目で訴えてしまう。目が合った途端ウィンクしてきたから余計怖い。まあ、水なら安全ではあるからいいけれど。

 手ごと包むようにして、スライムが魔法で出した水を捕食する。水は私が魔法で与えていたこともあるし、すぐに進化可能になるだろう。案の定、一度行っただけでできてしまった。

 色は、薄青色が少し濃くなった蒼色だ。名前はアクアスライム。

 魔力でも進化するとは、スライムは可能性の幅が広い。


 水の次は土。以前、器として土魔法のカップを作り消えていたことがあったが、犯人はこいつだろうか。両手に収まる大きさの土を三度捕食して進化した。

 色は予想通りの土色。名前はアーススライム。


 風魔法。これは私もよくは使わない魔法だ。もっと使おうと思えば使えるのだが、戦闘向けに改良した魔法しか使っていない為機会がない。熱を加えて温風にすればドライヤーとして使えるとは思う。

 手の中で竜巻を起こすイメージでやったら指を切った。紙で切ったときのように傷口が細く長くなり血が滲んだが、自分で制御していたのか深くは切っていないみたいだ。

 血を見た途端、リスラがもの凄い速さで出て行ったのだが、リスラって血が苦手なのかな。

 気を取り直して、微風をイメージした方がいいと分かった為、攻撃に使っていた頃の魔力量を絞っていく。ある魔力を大量に出すことは何も辛いことではない。寧ろ少なくする方が困難なのだ。

 空気を食べるようによそよそしい食事をしたスライムは、私が微風を完成させた頃には進化可能になった。恐らく散った風魔法を食べていたのだろう。挙動不審ではあったが、ちょっと可愛かった。

 色は翡翠と水色が混ざったような、角度を変えたら光の反射で変わる色をしている。完全には翡翠色と水色は混ざっていないみたいだ。名前はエアスライム。ウィンドではなかったのが不思議だ。


 最後、火魔法。正直、こんな危なっかしいことはしたくない。スライムに何かあったら一番哀しむのはリスラだろう。でもまあ、そのリスラが言い出しっぺなのだが。

 火傷してもすぐ冷やせるように、片手に火魔法。もう片手に水魔法を使うことにした。水を先に出しておき、いざやるぞと火魔法を発動させようとした、その時だった。


 バタンッ!!


 騒々しい物音が遠くから迫りくると同時に、二つの気配が近付いていたのは知っている。


「フェル! 血、血ちょうだい」


 リスラだ。

 一体のスライムを小脇に抱えたリスラが、私が切って流した血を所望してきた。また進化条件を満たす為に食材を集めているらしい。今度は血か。なんのスライムになるのやら。

 うん。先ずは、私の決意を返せッ!


 数滴しかない血を求めて駆け回ったリスラと、血との相性が良いのか、単に血が好物なのか分からないスライム。どうせ、進化させる為に血が欲しくても言い出せなかったのだろう。今から反省したような顔で萎れているリスラがおかしくって笑ってしまう。きっとリスラにとっては、進化させてみたい気持ちがあっても、それよりも好物を食べさせたい気持ちの方が強いのだろう。ちゃんと考えていて少しほっとした。


 血を与えた後、蝋燭の火程度の小さな火魔法で与え続け、十四番目のスライムが進化した。

 色は赤からオレンジ、黄色までの文字通り火の色だった。名前はファイアスライム。


 これで終わった。そう思ったが、途中入場してきた血が好物らしきスライムの進化が開始した。五番目が過ぎる頃には、イレイアに勝手に許可を出すようにしていたからだ。

 鮮やかな赤の中に、暗い黒みがかった赤がある。ブラッディースライム。十五番目の進化種である。

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