15.求めているモノ
取り敢えずはそれぞれの村で過ごしてもらうとして、村の再建をして纏めた方が良さそうだ。
ステータスの従魔欄を見つめ思案する。昨日のことで従魔のゴブリンが異様なほどに増え、命名ができずに今日に至る。今朝は今日こそと思えたが、見れば見るほどやる気が失せる量だ。肩から力を抜き息を吐けば、固まった身体が少し楽になった。
朝食はいつも収納魔法内のパンだ。朝食でなくとも肉や木の実などが主な為、米が恋しい。朝食が済んだ後は村のゴブリンを集めた。
「これから全員に名前を与える。一列に並んでくれ」
一番目は村長だった。デルダと名付けた。
二番目は村長の息子。初めて見た顔ではないと思ったら、案内をしてくれた兵士だった。彼はデルタと名付けた。
三番目は兵の指揮官。彼も村長の息子で、デルタとは歳の離れた兄らしい。兄である彼にはデルクと名付けた。
呪文のように夥しい数の名前を唱え、隣でガレウとガラウが交互に記録を取っていく。ここの村は一番規模が大きかったからか、他の村は比較的楽だった。空の色を見れないほどに疲弊し、スライムの丁度良い弾力の中、睡魔に誘われていった。
…………?
賑やかな音が聞こえ、意識が持ち上がる感覚がする。沈んでいたものを引っ張りあげられる。
「フェル様、おはようございます。既に皆、進化は済んでおります」
スライムのリイムにソファーの形になってもらい身体を起こせば、ガレウの明るい挨拶と報告が飛んでくる。また一日が経っていたらしい。名付けで一日潰してしまった。
それにしても、スライムがとても便利だ。主に家具として使える。……間違ってる? そこは実用性重視だから。
ステータスを見ていて新たに出てきた項目がある。
レベル。殆どの従魔がレベル10前だった為、まだ上がるのだろう。最高値がいくつかは分からなかった。
レベルに加えてステータスバーも表示されるようになった。数値はないが、バーの長さで何となくだが分かる。
そして更に、スライムの表示に進化ツリーが追加された。
進化ツリーには、進化できる先と、進化に必要な条件が書かれてあった。条件の多くが食事だったことは良い収穫だと言えよう。
コンコン。
部屋で朝食を済ませた時、扉が誰かに鳴らされた。直後、デルダであると名乗ってくる。入るように声で促せば、建付けの悪い扉がギギッと音を立てて開かれた。
「お早う御座いますフェル様」
「お、おはよう」
え、デルダ?
入ってきたゴブリンに対し、思わず目を丸めてしまう。あまりに衝撃的だった。
進化以前のゴブリンの村長は、まさに村長と言った感じの老人だった。村では最長老と言えるほどだったはずだ。それが、今目の前にいるゴブリンは誰だろうと思うほどの変貌ぶり。快活な笑みを拡げた男性が立っていた。大口を開けて笑い、若返ったと簡単に言ってくれる。私はこのとき、進化の恐ろしさを知った。
進化、怖っ!
部屋から出てみれば、どのゴブリンも同じように若返っていた。老人だった者はそれが顕著だ。子どもはそれほど変わっていないが、人に近付いた気がする。寿命が延びたということだろうか。少しでも生きられる可能性が上がったならいいが。
進化が無事済んだことで次の段階に進める。衣食住の衣と住の技術向上だ。専門家に任せるのが一番なのだが、生憎ここは魔物しかいない。
そこで頼ることになるのが、私自身の記憶だ。前世で学んだ知識がこの世界で役に立つ。そう思えば、義務教育もありがたかったと思える。問題はこの知識をどう伝えるかだ。村を歩き回り思案するが、なかなか良い方法が思いつかない。言葉や文字だけじゃ上手く技術は伝わらない。
以心伝心は従魔にあらゆることを伝えられるスキル。なら、記憶の伝達も可能なのではないか。
「スイム、ライム、リイム。私の過去、見てみる?」
人間の言葉を理解できるようになったスライムに、私は問い掛ける。理解できるようになったとはいえ、まだ赤子レベルの知能しかないスライムに。
私の問いに小さく体を震わせ、猫のように擦り寄ってくる。微かに肯定の意思が流れ込み、私は自身の記憶の全てを、以心伝心に乗せた。
スライムのボディーがぶるぶる振動し出す。呑み込もうと力が入っているように見えた。震えが止まりいつもと変わらない姿に戻る。伝えられただろうか。
「……かなし、い?」
え?
スライムが…………喋った!
狼が人になったときよりゴブリンが若返ったときより、開いた口が塞がらない。
「? ……? …………? ……ふぇ、る??」
「ふぇ、る。? う、ゔぁ、いお、れっと」
「…………ふぇう、あぅ、あー?」
一音一音を確かめるように発した後、私の名を口々に言い合っている。フェルと、言ったことのないヴァイオレットとと言う名を。
「「「フェル?」」」
透き通った蒼が私を呼ぶ。やっと我に返った私はスライムを連れて部屋に戻ることにした。
「フェルは」
「人の姿」
「スライムの姿」
「「「どっちが良い?」」」
練習でもしてたんじゃないかと思えるほど、息の揃った質問が投げられた。スライム相手に話しているなんて、前世の頃の自分が知ったらどう思うだろうか。
「話をするなら、人じゃないかな。スライムは普通喋らないから」
私の答えに「なるほど」と、また声が揃う。なんだか少し面白い。人と答えた為か、進化した際に獲得した人化が発動する。丸い輪郭がぐにゃりと歪み、頭と四肢が盛り上がる。三人の幼女がそこにいた。
「人化って、子どもからじゃなきゃいけないの……」
半ば呆れ気味に、思ったことが口から溢れる。すると、見事なシンクロで首を傾げられた。
「フェルに」
「合わせて」
「ある」
合わせてもらわなくても良いよ?
「あと、モデルに」
「なる姿が」
「他にない」
へ〜。……ガロウ達もそうだったら、全面的に自分が原因じゃん。
区切られて言葉が紡がれるが、一人で話すように滑らかだった。
「三人は、元々一人だったんじゃないの?」
「「「そうだよ」」」
そうではないかと、言葉を交わせるようになってからは余計に考えた。スライムは似ていても別の個体なのだ。しかし、分裂した個体は、元となった個体と血縁関係のように強い繋がりを持つ。
「元はリイム。本来、スライムの分裂は二倍にしかならない。一から殖えれば偶数にしかならないのが普通。だけど、例外がある。それが『分身分裂』と呼ばれる突然変異」
同じ姿、同じ声で、滑らかに言葉が流れる。
「分裂は容易くできる訳じゃない。数を殖やすには養分が必須。だけど、養分を獲られず餓死しそうになったら、残りの養分を使って分身を作り出す。分身に養分を集めさせ溜めたら、本体も加わってまた養分を集める。集めた養分を分身に使い、分身を分裂個体にさせる。スイムとライムはそうして生まれた」
リイムからスイムとライムが生まれたということらしい。スライムが弱いからこその存続方法だ。
「名前をもらった。その時、個としての存在が確立された。今は同じで違う。あってる?」
無駄に知識を与え過ぎたのか、疑問となって返される。聞かれても私に分かる訳もない。分からないなら合体してみれば良いと提案してみたら、リイムが二人を吸収する形で合体した。名前を付けた後は、ステータスの表示はそれぞれで書かれてあった。
『リイム・スイム・ライム/リスラ』
名前が繋がってる……。リスラ。
ステータスも、それぞれでいるときより少し伸びていた。
「合体も分裂も、自由にできるようなら好きにしていいよ」
「分かった」
ほんと、不思議だ。名前を付ければ進化して、人になったり若返ったり。もっと、知らないことがこの世界にはある。もっと、この世界を楽しみたい。もっと、〝生きていたい〟。
「フェル様。情報、集めて参りました」
リスラが三人に戻ってから暫くして、ガレウが部屋に入ってきた。集めてもらった情報とは、建築や鍛冶、縫製に精通している者、またはそういった技術者がいる人の町がないかというものだ。ガレウが集めた情報を記した紙束を手に、それを要約して読み上げる。
「人の町は、この森を抜けてもありません。ですが、変わり者が一年程前からこの森に居るらしく、その者は一晩で屋敷を築いたという噂がありました」
「そっか。じゃあ、会いに行こう。その変わり者に」
今求めているのは、木組み並みの建築技術。




