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本と神様の約束  作者: 全無
第零章 従魔と森の覇者〜魔物国建国編〜
17/53

依頼され、新たなる

 武器ががしゃりと音を立て、兵の手から溢れる。身を護る為の武器を。

 彼らの眼には何が映っているのか、遠目からでは私には分からない。俯く姿は死を受け入れ、斬首を待っているようだった。


 彼らは見る。小さな希望を。

 彼らは願う。一族の存亡を。

 彼らは乞う。

 自らの命と引き換えに、幼き命を救ってくれと。


 足りない頭を必死に回し、最期に足掻いて縋る。

 ()()()殺されなかった事実だけを受け止め、その先がどのような形かに目を瞑り。そうでなければ冷静を保っていられなかった。いや、今このときですら、冷静など失って立っている。

 震える手を動かし、ガクガクしている足を止める為膝を折った。醜い顔を晒さぬようにと頭を垂らし、人生で初めて舌が回らないという感覚の中で。


「っ、…………我々には、もう、戦う意思は御座いません。どうか、……どう、かっ」


 一人の代表が口を開くと、他の者も続くように跪いて総意なのだと示した。代表は、戦いに敗れたことよりも、勝者の持つ力に光を見た。発した言葉は、始めこそ形になったものの、感情に押された胸が軋んだことで崩れていく。

 流す涙がどちらのものか、彼らは答えを知らない。知る権利も、流すことすらも。弱肉強食の世界を生きる魔物には、敗者に与えられることなどないものだ。それが許されているのは、言う相手を間違えているからだ。


 漆黒に塗られた獣に跨がり現れたのは、同じ色を持ちながらも、陽の光で照らされ、深海から覗くような深さと鮮やかさを兼ね備えた髪を持つ小さき者だった。本物の光のように輝き、黒いはずの髪が白く映える。人目見て、この者こそが指揮者だったのだと思い知らされる。


「今日は、ゴブリンさん」


 戦に似合わない挨拶から始まった会話は途切れ途切れのゴブリン側に合わされ、円滑とは言えないまでも、状況的にはスムーズに進行された。ゴブリンにとっては、初めての同族外との会話だった。


 勝者側の要望は二つ。

 一つは、この戦以外で、村に何が起きているのかということを、嘘偽りなく話すこと。

 そしてもう一つは、その先の指示に従って欲しいということ。できれば契約を交わして欲しいと。


 私は、契約を結ぶことは縛られることだと、そう伝えた上でゴブリンに願った。

 自分達の力を確かめる為とはいえ、酷い戦い方だったとは思う。言えば伝わったかもしれないのに、私はこの方法を選んだのだ。けれど、これからを考えると、他に方法はなかったとも思った。


 ゴブリンの代表から話を聞いた。


 ここから少し川を下った先に、蜘蛛の魔物が巣を張ったらしい。

 その蜘蛛が厄介なことに、何でも喰らう雑食なんだとか。縄張りに入り捕まれば、それが何であろうと喰らう。同族であろうと、我が子であろうと。それ故に、群れを成すことはない。放置もできない為討伐するしかないが、ゴブリン達にそんな戦力はなかった。一度、村の精鋭を集め向かったが、部隊は壊滅。今もその時に出た負傷者が大勢いるらしい。


 この森では今、食料問題が多発している。それによる戦争で森の魔物は減ったが、外から来る魔物で意味を成していなかった。

 原因は、荒野の侵食。数ヶ月前、森に巨大な穴が開いた。そこから生気を吸うように、周囲の森だった地は荒れ、荒野と化した。当時の勢いはないにしろ、今も少しずつ荒野は〝魔力を吸い〟、その領域は拡大する一方だった。


 現在、森の魔物にとって、森の恵みは命と同等なほど大事だった。それを際限なく喰らう蜘蛛の魔物は、森の魔物全体の敵となった。しかし、犠牲が出るとわかっていながら戦に挑む勇気はなかった。

 私からして見れば、何故協力関係を結ばずにいるのか理解できない。そこはやはり、私が魔物とは違うということなのだと思う。




 ゴブリンの代表者は、村長と考えた末、私との従魔契約を受け入れた。ざっと見百は下らない数がいると思われる。話に出た負傷者を含めればもっとだろう。

 深呼吸を数度行い、頭の中を空にする。どうせ埋められ塗り潰されるのだ。考え事をするだけ無駄だ。

 ゴブリン全員と、契約を交わす。


 う、っ……。


『怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、死にたくない。死なせたくない。生きて。死なないで。痛い、痛い。大丈夫だ。一人にしないから。一人にしないで。イヤだ、兄ちゃん! 怖くない、怖くないよ。お父さん? 待って、行かないで。お願い、お願い、お願い。生きていてほしい。必ず帰るから。帰ってきてね。待ってる。まだ。まだ? 皆の為に。家族の為に。親の為に。子の為に。…………子孫の為に。

 誰か………………』
















『っ助けて……!』




 頭蓋の割られるような衝撃に、一歩後退る。躓き倒れそうになったが、ガロウが支えてくれた。強く瞑った瞼をまだ開く気になれない。眉間に皺を寄せていないと、意識が簡単に吹っ飛びそうだ。気力でなんとか立ち直し、ゴブリンに向かって命令する。従魔契約は絶対服従させることも可能だった。


「負傷者を集めた場所に案内してくれ」


 ガレウとガラウに拘束した者を放すよう言い、案内しようと立ち上がった代表者に続く。相変わらず無口なガラウも、ガレウと共に縄を解いていった。それを横目に見ながら歩くと、それほどかからずに、村で最も大きいと思われる建物に着いた。病床独特の空気が、外にいる私の鼻まで掠った。自然と硬い空気になる。扉が開かれると、それはより濃いものとなった。


「負傷者はここにいる三十六名で全てです」

「そうか、ありがとう」


 三十六名。仰々しい包帯が身体を隠し、ほぼミイラ状態のゴブリンが寝かされている。看病をしているのであろう女のゴブリンが、私が入った途端動きを止め跪いた。

 回復させられるのであればそうしたいとは思う。しかし私は、光魔法も、回復魔法も使えない。ユノアからの贈り物に回復薬はあったが、効果があるとも限らない。魔物には毒になる可能性だってある。


 回復魔法、……できるかな。


 回復魔法は難易度が高い。ユノアは、深く理解していないとできないと言っていた。


 教わったことを思い出せ。

 外傷なら、魔力を傷口に流し込み、相手のルミナを操る。自己再生能力を向上させ修復する。分からなかったら、ルフティに聞くといいとかも言っていたような気がする。


 試すなら、毒になる可能性のある回復薬よりも、回復魔法の方が断然良い!


 横たわるゴブリンの兵士の一人に近付く。私の一挙手一投足を、その場にいる全員が注視していると、視線だけで感じた。包帯の上から傷があるであろう位置にそっと手を置き、魔力を流す。ルミナもルフティもよく分からないが、良くなるよう魔力に込めれば、それに応えるように何かが動いた。

 兵士の顔色が良くなる。寝息がゆっくりと聞こえ、少なくとも怪我を軽くできたのだと安堵する。隣もと続けて行えば、後ろから感嘆する溜め息が漏れた。奥へと進み魔法を施していくと、張り詰めていた空気が軽くなっていた。

 最後の一人を終えて、怪我の具合を診てもらうべく女性に声を掛ける。看護師相手に話すつもりでつい敬語になってしまうと、返事と共に謝罪された。まだ怖がられている。


 始めに魔法を掛けた兵士の包帯が解かれていく。殆ど白一色だった身体から、本来のゴブリンの緑が見えてくる。緊張が従魔に伝わらないよう、もしくは気付かれないよう願い待った。


 ……。反応が、ない。


 え、だめだったの……? 手ごたえはあったのに。


 失敗したかと俯きかけていたら、診るように頼まれていた女性が声を発した。恐れ多そうに小声で聞き取りづらいほどだが、静けきった部屋では耳にはっきりと届いた。


「な、治ってる……?!」


 その声を皮切りに、騒めきが空気を震わした。

 私は一人、誰にも気付かれることなく、魔法発動成功に身震いした。




 蜘蛛討伐作戦会議。村長の家。

 ゴブリンの代表として、村長と最高指揮官。そして、私とガロウ達三人。計六名が席に着いた。給仕として数人の女性ゴブリンがいるが、会議には入って来ない為席はなかった。床にはスライムが転がっている。

 私に用意された席は誕生日席だった。ガレウがリードするように椅子を引くし、喋らないガラウも頷いていて、ガロウはさも当然と顔が言っていて、私はぽっきりと折れてしまった。ガロウ、ガレウ、ガラウは、種族によるものなのか、三人とも瓜二つと言っていい程似ていて、三つ子のようではっきり言って可愛い。ゴブリン側に座るのも違うような気がしたと言うことにしておく。

 気を紛らわすように本を広げ、蜘蛛の情報を頭に叩き込む。討伐前に偵察して巣の状況を確認したいと思っていると、ガレウが以心伝心を使ってもいないのに察してくれた。


「今夜にでも偵察隊を出しましょう。ガラウが得意としていますので、適任かと。如何でしょうか、フェル様」

「ん、あぁ。そうなのか、ならガラウに任せるよ。日が沈んだら行ってほしい。スライムを数匹付ける。命令だ、危険だと思ったら躊躇わずに戻って来い」


 ガレウに尋ねれ、応える。ガラウが偵察が得意だったとは驚いたが、適材適所なら問題ないと判断し、ガラウに対して命令を下す。また無言だったが、今までで一番大きく頷いてくれたことから安心できる。

 ガレウを司会に会議は進み、私とガロウ達が討伐隊として蜘蛛を討伐し、ゴブリンには狼の食料提供をお願いした。私は残り物でも充分足りるし、スライムは草でも魔物でも食べれる雑食な為必要がない。


 早朝、夜明けと共に進軍となった。ゴブリンの代表者二人に、今夜の偵察の案内役を一人選出するように言い、狼とスライムには、明日の討伐戦の為に英気を養っておくよう言い渡した。


 そうして会議は閉会し、各自自由行動として解散した。




 村長の家を出ると、老若男女問わず私を待ち構えていた。物珍しそうに、事実物珍しいものを見る目を向けられ慄く。罵声を浴びせられる。そう思っていた私は、感謝の言葉が掛けられるなど思いもしなかった。


「ありがとう、ございますっ」「ありがとう」「本当に、ありがとうございます」「……あり、がと」


 ありがとう、ありがとうと。ひたすらにそれだけを告げられる。兄が生きていたと。父が帰ってきたと。母が笑ったと。妹が、弟が、娘が。ただただ、ありがとうと。

 どこからどう見ても、人としか呼べない。


 やっぱり私は、残酷だ。

 一歩目をいつも過ってしまう。


 一瞬でも、殲滅しようと考えた。考えてしまった。


 私って、何………………………………?






 ゴブリンの兵士の一人に声を掛け、武器庫などはないか聞いてみる。実力もそうだが、武器防具が良くなくてはこれから困る。今回、蜘蛛の魔物の討伐には参加しないでもらうゴブリンだが、自衛の為にもそういうところはちゃんとしてもらいたい。

 負傷者が寝ている建物に隣接された小屋のような所が、武器の保管場所だった。ゴブリンは人から武器や防具を奪ったり、学んだりして生きている。集団の規模によれば、武器作りをする鍛冶師もいる。そしてこのゴブリン村も例外ではなかった。

 人が来ない地なのか、使い古された武器はないが、作られた武器はいくらかあった。鍛冶師がいる証拠だ。百もいれば一人や二人いてもおかしくない。ただし、腕が良いかどうかはまた別の話だ。


「質は普通からやや悪いくらい、か。教えられるやつがいればなぁ」


 前世の知識がある私も、武器作りをリアルでとなると無理がある。ここは、専門知識を持った者に教えて貰うのが一番だろう。問題としては後回しになってしまうが、仕方ない。

 案内してくれたゴブリンに礼を言う。まだ若いゴブリン。


 未来を奪わないで……良かった。


 小屋を後にし、村の外れまで行く。ステータスの確認をしておきたかった。誰もいないところまで離れ、イレイアにステータス表示を頼む。


 名前:フェル

    ヴァイオレット

 種族:不明

 性別:不明

 年齢:不明

 職業:未定

 加護:――解析不能(エラー)

 技能:エクストラスキル『以心伝心』

    エクストラスキル『一心同体』

    ――解析不能(エラー)

 称号:――解析不能(エラー)


 従魔:漆黒狼(ガロウ)

    純白狼(ガレウ)

    銀灰狼(ガラウ)

    黒狼:5体

    白狼:4体

    灰狼:4体

    スライム:53791体

    ゴブリン:147人

 武器装備:――解析不能(エラー)











     1/3


 うわっ、スライム何でこんなに増えてんの?!!

 イレイアッ!!


《スキル『分裂』により、現在まで増加しました。従魔契約は済んでいます》


 聞いてないよそんなの。表示が増えてると思ったら……。


《従魔のステータスの一部を閲覧できます。

 表示しますか?》


 …………はい………………。


 名前:ガロウ

 種族:漆黒狼

 性別:男性・オス

 加護:――解析不能(エラー)

 称号:――解析不能(エラー)

 技能:エクストラスキル『人化(ヒトナルモノ)

    『同種擬態』


 名前:ガレウ

 種族:純白狼

 性別:男性・オス

 加護:――解析不能(エラー)

 称号:――解析不能(エラー)

 技能:エクストラスキル『人化(ヒトナルモノ)

    『同種擬態』


 名前:ガラウ

 種族:銀灰狼

 性別:男性・オス

 加護:――解析不能(エラー)

 称号:――解析不能(エラー)

 技能:エクストラスキル『人化(ヒトナルモノ)

    『同種擬態』


 名前:無名

 種族:スライム

 性別:無性

 加護:――解析不能(エラー)

 称号:――解析不能(エラー)

 技能:『擬態』『分裂』『溶解』『吸収』『自己再生』


 ほぅ、スライムにこんなスキルがあるだなんて。

 討伐戦が終わったら名前を付けてやろう。


 始めに契約した三匹は、ずっと私にくっついている。まだ名前を与えていない。慌ただしくて、それどころではなかったからだ。

 もう、日が落ち始めた。寝た方が良さそうだ。


「あの、フェル様。今晩はどちらにお泊りになるのでしょうか? 村長が、宜しければ家にと」


 先程案内してくれたゴブリンが、戻ろうとしていた私に尋ねてきた。

 すっかり忘れていた。野宿ばかりで家の存在を忘れていたらしい。ここは村。当然の事ながら家が建ち並んでいる。屋根のある、寝床となる場所だ。


 でも……


「ありがとう。でも、今夜はガロウ達といるよ。討伐戦、明日だからな」


 断る。罪悪感がまた積もる。自分で言っておいてなんだが、死亡フラグな気がしてならない。罪悪感を積もらせ、更にフラグを立てる。


「名前、はないか。君も、今日は休んだ方が良い」


 つくづく思う。

 馬鹿だなぁ、()


「また明日」
















 ……………………1/3?

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