言葉 其の二
片道の切符を手に、改札を通り電車に跳び乗る。
無断で家を飛び出したことに若干の罪悪感を感じながらも、それに勝る興奮で一度塗り潰されれば、頭の隅にも入らない。浮き足立っていることを自覚しつつ、大きく深呼吸をした。
走り疲れた身体に酸素を巡らし、電車の匂いが鼻を擽る。座席シートの匂いだ。車掌の声と共に扉が閉じられる。急いで席を選んで座った。
窓の外。過ぎる景色に目だけを向け、移動経路を確認する。ぶつぶつと独り言を溢し、窓の冷たさとシートの感触に心を落ち着けた。
――はい、これ。来たかったら来ればいいよ。いつでも待ってるからさ。
無邪気な笑顔をいつも浮かべる彼は、そう言って私に一枚の紙を手渡した。書かれていたのは住所だったが、調べても出てくるのは廃校だった。
まさかとは思うが、確かめてみたいという気持ちと、もう一度会いたいという気持ちに押される。その結果、私は今電車に揺られているのだ。
田舎から出る電車は、人が殆どいない。私の乗っている車両には、私以外はいなかった。
電車を降り、目的の廃校を目指す。行き交う人々には目もくれず、私の脳内は彼に会うことで占領されていた。
調べた通り、記された住所には廃校があった。校名も分からない程に古く、雑草が生え塗装が剥がれ、金属である物は錆びていた。
舞台は体育館ステージ上。時刻問わず。勝負内容は、来てからのお楽しみ。
宣言通り、彼は体育館のステージ上で一人ゲームをしていた。「待ってました」と言わんばかりに笑みが広がる。迎えられた私はまっすぐに進み、ステージを見上げる位置で立ち止まった。
彼の口からルールが告げられる。
「十本先取でゲームは一つにつき二試合。負けた方が次のゲームを選び、引き分けなら君が選んでいいよ」
軽くステップを踏みながら、いくつものゲームを並べていく彼が、開始の合図を口にする。
「さぁ、ゲームを始めよう」
無邪気な笑みを私に向けて。
9勝12分9敗。ゲームは遂に十六個目へと突入しようとしていた。選択権を持つのは私。今までで行ったゲームは、トランプを含めたカードゲーム、ボードゲーム、テレビゲーム、スマホゲーム、リズムゲームなど。
そして私が選んだのは、オンラインゲーム。
その名を、『――――――』。
様々な機種に対応し、カードゲームやボードゲームにもなっている大人気ゲーム。どの世代にも愛され、ヒット当時から留まるところを知らず、常に新商品やアップデートが行われている。知らない方がおかしいと言われるほどのゲームだ。
主人公を育成し冒険の旅に出る。主人公自身の葛藤や登場人物の想いが細部まで再現され、プレイヤーの心を鷲掴む。更には、世界観や文明、神話、登場人物達の人生背景に至るまで、細か過ぎるシナリオが用意されていることも人々を魅了する点の一つだ。
冒険、育成、経営、恋愛、格闘、スポーツ、狙撃、音楽、料理、化学、創造。その他にもたくさんの事ができる、ロールプレイングゲーム。
勝敗の基準は、それぞれが選んだカテゴリ内で高い経験値を稼ぐこと。
そうしてゲームは始まった。
……?
「その名前……」
「うん、君の心に触れたいと思ったからかな。良い名前だろう?」
…………??????????
『プレイヤー名を入力してください。
〝 〟』
何で、今頃こんな夢を見たの…………?
ねぇ? ユウギ。




