1.ある少女が知ったこと。
ここから第7章。
「うぅ、アインくんに会いたい……」
一人の少女が、魔法学園の図書室でうな垂れていた。
気を紛らわせるために書物を読み漁ってみたが、初恋の相手が退学処分になったショックから抜け出せないでいる。
たしかに彼の成績は最下位だったが、それは嘘に違いないと彼女は考えていた。
この少女の名はミリア・シークレウス。
シークレウス公爵家の次女であり、魔法学においての首席であった。
「お、おかしいもん。アインくんは、アタシよりも凄い魔法使ってたし……」
ボソボソとした声でそう呟き机に突っ伏す。
彼女以外に誰もいない部屋の中で、大きくため息をついた。
しかし現実は変わらない。ショックなことはショックではあるけれど、彼はもういないのだから。失恋を引きずっていては、前には進めなかった。
「でも、うぅ……」
ボサボサの黒髪を掻きむしる。
頭では理解しているが、感情が収まってはくれないのだ。
そんな自問自答を繰り返すこと、かれこれ数週間。ついに気持ちを抑えられなくなった時のことだった。
「ア、アタシはどうすれば――ん?」
なにやら、ミリアの耳に声が聞こえたのは。
時刻はもうじき夜にならんという頃合いだったが、自分以外に図書館に足を運ぶもの好きがいるのだろうか。それとも、小うるさい司書が戻ってきたか。
どちらにせよ、ひとまず姿を隠して様子をうかがった。
するとそこにいたのは、二人の教員。
事情は知らないが、国王陛下から謹慎処分を受けている者たちだった。
「おい。忍び込めたは良いが、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ。俺たちは、これを設置するだけの役割だからな!」
手にしているのは、小さな箱。
それを本棚の後ろに設置した彼らは、緊張した面持ちで続けた。
「しかし、これでフリーラスとアインは現れるのか? まだ王都にいるという噂ではあったが、この危機に駆けつけるとは思えない」
「いいや、どちらに転んでも関係ないさ。駆けつけないなら、アイツらがこれを起爆して学園への復讐を完遂するだけだからな」
「それもそうか……」
なにやら、きな臭い。
ミリアがそう思っていると、彼らは最後にこう言った。
「俺たちを突き落とした奴らには、それ相応の報復を」――と。
それを聞いた瞬間に、少女はハッとした。
これはつまり、そういうことかもしれない。
「はやく、誰かに――」
誰かに伝えなければ。
そう思って足を後ろに引いた。その時――。
「ひぃっ!?」
うず高く積まれた本が、崩れた。
しまったと、そう思った時にはすでに手遅れ。
「誰かいるのか!?」
「あわわ……っ!」
完全に気づかれた。
そう感じたミリアは全速力で、図書館の外へと駆け出す。
「学園に戻ることはできない。でも、それより――」
少女はふと、脳裏に彼の名前がよぎった。
あの男たちは彼がまだ、王都にいると言っていたのだ。
公爵家の人間である自分だが、こんなことを両親に話して信じてもらえるかは分からない。だったら、彼を探さなければならない。
「アインくん……!」
身体強化魔法をかけながら、疾走するミリア。
彼女の頭の中は、相も変わらずあの少年のことでいっぱいだった。
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