7.事件の決着。
――しかし、終わりは訪れなかった。
「…………な、ぜ?」
フリーラスは驚きに目を見開く。
そして、自分の傍らに立った少年の姿を見た。
「どうして、お前がここにいるんだ!?」
「それは、またあとで。とりあえず――」
少年――アインは、フリーラスに淡々と告げる。
そして、双子の方を見て言った。
「ちょっと悪ふざけが過ぎるよ、二人とも」――と。
◆
ボクが間に割って入ると、サナちゃんとリナちゃんはすぐに得物を収めた。最初から殺すつもりなどなかったと、そう言いたげな表情を浮かべながら。
ただ、今回もさすがにやりすぎだった。
どうしてこんなことをしたのか、その理由を問いたださないと……。
「……それで? どうして、こんなことをしたの」
「そこのクソ教師が、本当に改心しているのか気になったんだよ」
「もしかしたら、またお兄ちゃんに酷いことをするつもりかもしれないし。そうだったら本気で殺しておこうかな、って」
「……はぁ……」
訊ねるとそんな答え。
ボクは肩を落としながら、大きくため息をついた。
そして微かな怒りを込めながら、妹たちにこう宣告する。
「あとで、アレの刑だからね?」
「…………」
「…………」
双子はそろって苦笑いを浮かべた。
そんなわけで、ボクは今回に限っては被害者である彼に向き直る。ボクの姿を見た瞬間から、彼――フリーラスは、ずっと呆けた表情を浮かべていた。
腰が抜けているのか、立ち上がれないまま。
元教師は震えた声でこう言った。
「お、お前……! どうして、助けた!?」
恨んでいるであろう自分を、と。
ボクは彼のそんな言葉を聞いてまた、一つため息をついた。
「妹たちが人殺しになるのは嫌ですからね。それに――」
そして、こう伝える。
「今回の一件で、ボクの中の貴方は変わりましたから。ベネットからも話は聞いています。だから正直複雑ですが、手打ちにしようかな、って」
「手打ち、だって……?」
手を差し出すと、困惑の表情を浮かべるフリーラス。
しかし数秒の間を置いてから、首を左右に振った。
「いいや。まだ、ダメだ」――と。
彼は震える足で立ち上がってから、ゆっくり呼吸を整える。
そして、おもむろに両膝を地面について座った。
「あの、なにを――」
「黙って見ていろ! これが、最大限の謝罪だ!!」
「………………」
フリーラスは、額を地面に押し付ける。
それは土下座だった。
「お前――いや。キミには、済まないことをした。許してほしいと頭を下げるのは、私のわがままにすぎない。だからこれを、詰まらない行為だと切り捨てても構わない」
彼は言う。
「私は心の底から後悔している。再び上流階級には戻れなくてもいい。むしろ、戻る資格などないと理解している。ただ、キミには――」
深い反省と、未来を思って。
「もう一度、学園に戻ってほしいと思っている」――と。
その声は、ボクたちの耳に届いた。
それはきっと、この言葉がいまのフリーラスにとっての本心だから。
だとすればボクにできる答えは――。
「分かりました。でも――」
呼吸を整えて、しっかりと告げた。
「学園に戻るかは、もう少しだけ考えさせてください」
こうして、事件は解決。
色々と問題は出てきたけれど、それはまたあとで考えるとしよう。