5.フリーラス、善戦。
「あはは! おじさん、ずいぶんと戦えるようになったね!」
「ふ――これでも、魔法学園首席だったからな!」
繰り出される大鎌を回避しながら、小威力の魔法を放つフリーラス。
サナとリナも、思わず賞賛の言葉を送っていた。彼の動きは先日の比ではない。格段に素早く、迷いなく、確固たる意志を持った動きをしていた。
時に攻め、時に守り。
その判断速度には、彼女たちも驚きを抱いたのだ。
「なにが、そこまでおじさんを変えたのかなぁ?」
大地を穿つ鎌。
瞬間止まる動きを察して、フリーラスが無詠唱魔法を放ちつつ答えた。
「守りたい存在ができた! ――それだけだ!!」
火球がサナへと迫る。
しかし、それを遮ったのはリナだ。
片割れへと向かう攻撃を叩き落として、さらに問いかける。
「守りたいもの、ね? それってつまり――」
ニヤリ、おかしそうに笑いながら。
「ベネットさんのこと、かな?」
「………………」
直後、両方の間に沈黙が降り立つ。
フリーラスが少しだけ構えを解くと、双子も静かに待った。
「彼女は私に、大切なことを思い出させてくれた。若かりし頃に抱いた理想、その先にあるであろう未来の話だ。だからこそ――」
魔力が高まる。
「私はここで、貴様たちには負けられないのだ……!」
◆
「え、それってどういうこと?」
「サナちゃんとリナちゃん、フリーラスさんの知り合いじゃないのですか?」
「フリーラス……ってもしかして、フリーラス先生のこと?」
「フリーラス、先生?」
ボクは宿にやってきたベネットから話を聞いて、首を傾げた。
かくいう少女もわけが分からない、といった様子。お互いに疑問符を浮かべながら、状況をゆっくりと整理していく。
結果的に、ベネットが言っていた『拾った犬』が、何を指すのか分かったわけで。そのことに気付いたボクは、即座に立ち上がり駆け出すのだった。
「ベネット、急いで戻ろう!」
「は、はい!」
全速力で、彼女の家へと向かう。
手遅れになる前に、どうにかして止めなければいけない。
サナちゃんとリナちゃん。
あの二人は、時々に力の加減を忘れてしまうのだから……。