4.フリーラス、覚悟を決める。
「あれ、サナちゃんとリナちゃん。どうしたの?」
「ベネットさん、少しだけお兄ちゃんのところに行っててくれないかな」
「ちょっとだけ中の人と、お話したいんだよね」
「…………え? それって、どういうこと?」
双子に呼び出され、ベネットは自宅より少し離れた場所にいた。
サナとリナはにこにこと笑いながら、よく分からない提案をしてくる。それに対してベネットは首を傾げた。そして、こんな疑問を口にする。
「それに、二人はフリーラスさんの知り合いなの?」
「そうだよー、とっても仲良し!」
「だから、秘密のお話がしたいの!」
すると双子は、表情を崩さずにそう答えた。
「そうなの?」
ベネットは少し疑問を抱きながらも、二人の言葉を信用することにした。
以前は敵対していたけれど、アインに灸をすえられた今となっては無茶なことをしないだろう。そう考えたのだった。
そんなわけで、少女は小さく頷いてその場を後にする。
彼女を見送った双子は、その後姿が見えなくなるのを確認して……。
「さぁ――」
「始めましょう?」
ニヤリ、邪悪な笑みを浮かべるのだった。
◆
「ふむ、ベネットさん遅いな……」
鍋の様子を見ていてほしい。
そう頼まれて以降、彼女が戻ってこないことをフリーラスは不思議に感じていた。何やら友人がきた、とのことだったが、話し込んでいるのだろうか。
そろそろ鍋の中の料理も良い具合に煮込まれている。
火を消して、フリーラスは外の様子を見ようとして――。
「きゃー!」
「なっ!?」
悲鳴を聞いた。
それは間違いない、ベネットの家族のもの。
素早く外に躍り出たフリーラスは――。
「大丈夫か、みんな!? ――なに!?」
その目に、サナとリナを捉えた。
「貴様、たちは……!」
双子の背後に、みんながいる。
何が起きているのか分からない、といった表情だが、フリーラスの脳裏をよぎったのは最悪の事態だった。
つまりは、人質だ。
この極悪非道(フリーラスの中では)な双子なら、やりかねない。
そう考えた彼は、息を呑んだ。
そして、震える声でこう言うのだった。
「なんの、つもりだ!」
「ふふふ」
「あはは」
するとサナとリナは、各々に笑ってこう言う。
「きっと、貴方の想像通りだと思うよ?」
「このままだと、どうなるか分かっているよね?」
「くっ……!?」
それに対してフリーラスは唇を噛んだ。
なぜなら先日の一件で、自分の実力が彼女たちに劣っていると知っていたから。真正面から戦えばまず、返り討ちに遭うであろうことを肌で知っていたからだ。
その上で、彼は双子にこう問いかける。
「なにが、目的だ……」
最大限、呼吸を整えて。
すると双子姉妹は、くすくすと笑いながらこう言った。
「貴方のこと、ボコボコにしたいだけだよ」
「でも本気で戦わないと、この子たちどうなるか分からないかも?」
それは狂った思考であるように思われる。
だが、フリーラスの中では判断材料が少なかった。
この双子の目的が何かは分からない。それでも、自分によくしてくれたベネットの家族に危害が及びかねないとすれば――。
「分かった。戦えば、良いのだろう……?」
彼は中空から杖を取り出し、一つ深呼吸。
そして、サナとリナを睨んでこう叫ぶのだった。
「だが、あの時のようにいくとは思わないことだな!!」――と。