4.兄妹喧嘩。
――二振りの大鎌が、空を切った。
甲高い音で石畳の大地を叩いたそれを見て、サナとリナは息を呑む。そして自分たちの兄の姿を探す。しかし視界に捉えるより先、少年の声が聞こえた。
「ねぇ、どうして? ボクの友達に、どうしてケガをさせたの」
背後から。
兄――アインの声は、徐々に怒気を増していく。
そして、その声を聞いた妹たちは明らかな動揺を見せた。
「だって、お兄ちゃんは凄いのに!」
「こんな人たちと一緒にいるから、学園に戻れないんでしょ!?」
声のした方向に向かって、鎌を振りかぶりながら二人は叫ぶ。
だがその時には、もうすでにアインの姿はそこになく、彼女たちの訴えは届かなかった。すると次に声が聞こえたのは――。
「関係ないよ。それと、ガンヅさんを傷つけたのは……」
並び立つ二人の、そのちょうど間から。
サナとリナはハッとして彼を見た。アインはうつむき加減に立ち尽くしており、あまりにも無防備だ。その様子を確認して動いたのは、サナ。
「関係なくないもん! だから、力づくでお兄ちゃんを連れて帰る!」
「そ、そうだよ! 私たちが、お兄ちゃんを――」
若干の遅れをもってから、リナも声を張り上げながら動き出した。
無遠慮に大鎌を振り回して、ついにアインを捉える。かと、思われたが――。
「それなら、手加減しない」
「……!?」
「そんな!」
左右から繰り出された斬撃。
しかし少年は――ピタリ、と指先でそれを止めてみせた。
彼女たちは必死に得物を動かそうとするが、ビクともしない。そうしている間に、アインは大きなため息をついてから行動を開始した。
「――【ショット】」
短くそう呟くと、大鎌を抑える両手の指先から魔力の塊が放たれる。その衝撃によって、サナとリナは体勢を崩した。
すかさず、アインは右手――サナの方へと駆けて、手首に手刀を振り下ろす。
サナは武器を取り落とし、痛みに顔をしかめた。
「遅いよ」
さらに、間髪を入れず。
一言そう口にすると、振り向きざまに回し蹴りを繰り出すと狙い過たず。少年の一撃は迫ってきていたリナの鎌を弾き飛ばした。そして――。
「これで、話を聞く気になったかな?」
武器を取ろうとした双子に対して、両手を突き出す形をとってアインは言う。こうなると、チェックメイトだ。
唇を噛む妹たちに向かって、アインは最後にこう告げる。
「さぁ、お仕置きの時間だよ。サナちゃん、リナちゃん」――と。