3.双子 VS ガンヅ。
「くっ!? なんだ、この子供たちは!!」
「あははは! おじさん、守りは堅いけどそれだけだね!」
「はやく、倒れちゃってよ! 貴方たちがいなければ、お兄ちゃんは――」
丸い月に二人の影が交差するように。
直後、勢いよく大鎌がガンヅ目がけて振り下ろされた。
大盾でナタリアとベネットを守るように立ち塞がり、辛うじて防御してみせる。しかし、腕への負担が桁違いだった。なんという重い一撃か。
少女二人の攻撃とは思えない。
ガンヅは先日の剣士との一戦を思い出し、それを遥かに超えていると感じた。
「くぅ……!?」
彼は守ることしかできない自身を不甲斐なく思う。
残念なことに、ガンヅの戦闘能力では太刀打ちができない。それでも、こうやって二人の少女を守ることができた。
それは確実に成長であり、進歩。
しかしながら、そのようなことを考える余裕などあるはずがなかった。
「ふふっ、私たちの攻撃を受けきるなんて――」
「アインお兄ちゃん以外に、初めてだね! サナ!」
ガンヅは楽しげに笑っている双子を忌々し気に見つめる。
そして、落ち着けと、自分に言い聞かせた。
「お前たちの目的はなんだ……!?」
考えた結果、会話をすることで時間を稼ぐ策を思いつく。
彼の言葉にサナとリナは、それぞれ反対方向に首を傾げた。
「なにって、お兄ちゃんを返してほしいの」
「貴方たちといるから、お兄ちゃんは魔法学園に帰られないの」
「なにを、言っているんだ……?」
「分からないならいいよ」
「黙って倒されてくれれば、それでね」
そこまで話したところで、二人の姿が掻き消える。
瞬間の困惑。しかし、ガンヅは素早く反応してみせた。
「ちっ――!?」
だが、間に合わない。
左右から挟み撃ちをしてきたサナとリナの標的は――。
「隠れてないで、貴方たちも戦おうよ!」
「あはははははは!」
戦いについていけない少女二人――ナタリアとベネット。
そこへ目がけて、鏡合わせの大鎌が振り下ろされた。
短い悲鳴。その後に――。
「へぇ……?」
「おじさん、凄いね。感心しちゃった」
「……へ。そりゃ、どうも……!」
双子の口からは、賞賛の言葉。
それに皮肉たっぷりに返すガンヅの腕の中にいたのは――。
「ガンヅ、さん……?」
「大丈夫か? ナタリア」
王女の姿だった。
挟み撃ちになった状況下、ガンヅはベネットを盾で守りながらナタリアを庇ってみせたのだ。結果として肩から背中にかけて深い裂傷を負ったが、まだまだ致命傷ではない。彼は驚きに目を見開く少女を見ながら、小さく笑ってみせた。
「まったく、俺には身体を張る以外にできることはないらしい……!」
そして、自身を嘲るようにそう言うのだった。
だが彼は気付いていない。それが、いかに凄いことなのかを――。
「さぁ、おじさん? そろそろ――」
「降参しないと、本当に死んじゃう――」
「……サナちゃん、リナちゃん。なにをやってるの?」
「「……えっ!?」」
その時だった。
本当に、気の抜けた少年の声が聞こえたのは。
「うそ……!」
「アインお兄ちゃん!?」
双子の少女は、声のした方へと振り返る。
すると、そこにあったのは紛れもなく……。
「ねぇ、どうして――」
静かな怒りを見せる、大好きな兄の姿だった。
「ボクの友達に、酷いことしてるのさ……!」