2.王女が駆け込んだのは。
一日、更新空いて申し訳なかったです。
「これは、バレましたね……」
ナタリーはぼそり、そう呟いた。
今朝は家臣たちが何やらざわついていたのだ。まだ幸いなことに、冒険者になった、などといった子細な情報は漏れていないらしい。
無能な教員たちでも、そこは最低ラインとして守ったということか。
そんなことを考えながら、王女は少し立ち止まる。
アインたちと別れて街を歩いていたが、これは帰るべきではない。帰ったら最後、監視下に置かれて身動きが取れなくなるだろう。
「どこか、身を寄せられる場所があれば良いのですが――ん?」
その時だった。
ふと投げた視線の先に、見覚えのある背中が見えたのは。
「あれは、ガンヅさん……?」
それはパーティーメンバーの男性、ガンヅだった。
その大きな身の丈ほどある盾を背負っている姿は間違いない。ナタリーは何の気なしにその後ろをついていく。すると、彼は貧困層の中でも最も貧しい地域に入っていった。
「ん――ここは?」
そして、最後にたどり着いたのは――孤児院。
薄汚れた立て看板に、そう書いてあった。切れかけの街灯を頼りにして進むと、ガンヅは明かりもないその建物の中に入っていく。
そうしてやっと、微かな明かり――ランプだろうか――が灯った。
同時に、元気いっぱいな子供たちの声が聞こえる。
そこまで至ってナタリーは納得した。
「ガンヅさん、冒険者をしているのには理由がある、って仰ってましたけど。そういうことだったのですね……」
以前に彼は、そんなことを言っていた気がする。
それを思い出して、彼女はゆっくりと歩みを前に進めるのだった。
◆
「いやぁ、まさか……。ナタリアがついてきてるとは、な」
「申し訳ございません、勝手なことを……」
「いやいや、気にしないでくれ。それよりもロクなもてなしもできなくて、こっちが申し訳ないさ」
「それこそ気にすることないですよ」
「そうか?」
ガンヅは不意に訪ねてきた仲間を、自身の家に招き入れながら言葉を交わした。端正な顔立ちをした少女は、礼儀正しく、美しい所作で礼をする。
そして、興味津々といった風に部屋の中を観察した。
殺風景で、なにもない。
ガンヅ本人も、そう思うほどになにもなかった。
小さな部屋の中には寝床が用意されており、すでに数名の子供が眠っている。残りの子供はナタリアの登場に、にわかに活気づいていた。
「ねぇ、お姉ちゃん? どこからきたのー?」
「こらマリ、ちゃんと挨拶からしなさい」
「はーい、ガンヅお兄ちゃん!」
そして、そんな質問攻めを受けることに。
ナタリアは新鮮な感覚に微笑みながら、答えられる範囲で答えた。その様子を見て、ガンヅはふとこう訊ねる。
「ナタリアは、子供が好きなのか?」――と。
アインから訊いた話だと、彼女もまた魔法学園の学生だ。
そうなれば貴族ということになり、こういった場所に足を運ぶのは気が引けるはず。それでも笑みを浮かべられるのは、そうなのではないか、と考えたのだ。
「えぇ、そうですね。子供は、未来そのものですから」
すると、思った通りの返事。
彼女は目を細めると、マリという少女の頭を撫でた。
「子供は、未来――か」
ガンヅはナタリアの言葉に、自然と笑みをこぼす。
さらっと出てくるあたり、本気でそう思っているということだ。掴み所のないと思っていた少女と考えが似ている、その共通点に彼は嬉しくなった。
「今日は泊っていくといい。この時間は、危険だからな」
そう言って、寝床の準備に取り掛かる。
「えぇ、ありがとうございます」
ガンヅは、ナタリアの声を聞いて思った。
この王都の貴族もまだまだ、捨てたものじゃない、と。