5.ダンジョンにて、王女。
「う、うーん? 最近、どこからか視線を感じるな……」
「視線? どうかしたのか、アイン」
「気のせいかな、とは思うんですけど、ね」
――ダンジョン探索中。
ボクは違和感を覚えて何度も振り返っていた。
思わず口にすると、隣を歩いていたガンヅさんがそう訊いてくる。気のせいだと答えたけれど、しかしなかなか困ったものだった。
「もしかして、ストーカー……?」
「いやいや、それはないでしょ。ベネット」
「あり得ますよ! アインさん、カッコよくて可愛――」
「ストップ! それは言わないで!!」
雑談に参加してきたベネットが、先日の(結果的に)女装した話を引き合いに出そうとする。それを必死に止めて、ボクはため息をついた。
とにもかくにも、不自然なことが起こっているのは確かだ。
ストーカーの線はないとしても、注意しなければ……。
「二人とも、気にしなくていいからね。それじゃ――」
――先に進もう。
ボクがそう提案しようとした時だった。
「あぁーれぇー!!」
なにやら、わざとらしい悲鳴が聞こえてきたのは。
「今の、なに……?」
「悲鳴か……?」
「さぁ……?」
ボクたちは顔を見合わせる。
すると、しばしの間を置いてから、再び――。
「あぁぁぁぁれぇぇぇぇぇ!!」
今度は、少し強めな語調で。
ボクらは首を傾げながら、とりあえずそちらに向かった。
「……ん、あの人って」
すると見えたのは、一人の女性がゴレムに襲われている姿。
「助けてくださいー」
棒読みで助けを求めるその人は、しかし華麗なステップで攻撃を躱していた。助ける必要性があるのか、それを問われると疑問しかない。
しかしながら、このまま放置するわけにもいかなかった。
……うん。それに、知ってる人だし。
「大丈夫ですか? ナタリアさん」
「貴方は、アイン!!」
声をかけると、彼女――ナタリアさんは、いそいそとボクの背後に隠れた。とりあえず簡単な魔法でゴレムを退治して後ろを見ると、そこには瞳を輝かせる美少女。そんなナタリアさんは、ふぅ、と息をついてからこう言った。
「助かりました。私は武術の心得があるものの、魔法の才はないので……」
「はぁ……。そう、なんですか」
彼女のことは覚えている。
学園時代、自主鍛錬中に声をかけてきた人だ。
名前はナタリア。自己紹介する際に、なにか考えたようにそう言ったのが印象的だった。しかし、そんなナタリアさんが、どうしてここにいるのか。
「実は私も冒険者になろうと思いまして!」
「冒険者、ナタリアさんが……?」
そう訊ねようとしたら、先に彼女から答えを言われた。
首を傾げると大きく頷く相手。そして――。
「あぁ、でも私は独りだと心細いのです!」
なにやら、芝居がかった口調でまたそう言った。
ちら、ちらと。ボクの顔を見てくる。
えっと、これは――。
「つまり、パーティーに入りたい、と……?」
「さすがはアインです! 話が早い!」
疑問形で口にすると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
なにやら、疑問は大きいけれど。
まぁ、いいか……?
「それでは、よろしくお願いいたします。皆さん!」
と、いうことで。
ナタリアさんが急遽、ボクのパーティーに加わるのだった。
◆
「むぅ……」
だが、その時アインは気づかなかった。
「あの人、なんだか怪しいです……!」
鋭い女の勘を働かせ、ベネットがナタリアを見つめていたことに。