4.アインとナタリー。
ちょこっと昔話、といっても一ヶ月くらい前。
「あの、貴方はどうして一人で鍛錬しているのですか?」
「……え?」
ある日のことだった。
一人で黙々と、様々な事柄を練習するアインを毎日観察していたナタリー。いよいよ我慢できなくなり、直接そう声をかけた。
すると六つ下の少年は、幼い顔を傾けて王女を見る。
どうやら、彼はナタリーの素性を知らないらしい。
ナタリーは父から少年のことを聞いていた。だから、なおのこと気になった。
「どうして、自身の努力を人に見せようとしないのですか?」――と。
この学園の学生はみな、自分に強い誇りを持っている。
悪く言えばお高く留まっている、ということなのだが、少なくともこのアインという少年にはそんな雰囲気はなかった。
だから、王女は訊ねる。
貴方はこのままで、いいのか――と。
「えー、っと……」
彼女の問いかけに、少年は困ったように頬を掻いた。
そして、一つ頷いて答えるのだ。
「そうですね。きっと、その方がみんなに認められるとは思います」
「それなら――」
「でも、ですね? ボクはこう思うんです!」
青く広がった空を見上げながら。
まるでありのまま、自然のままに、生きているかのように。
「大切なのはきっと、自分の中の自分を裏切らないことじゃないか、って!」
まだまだ愛らしさ残る顔に、柔らかな笑みを浮かべて。
アインは、ナタリーにそう語った。
「自分の中の、自分……?」
それに、彼女は首を傾げる。
意味は分からない。それでも、なにか大切なことのような気がした。
だから王女は、こう考えたのだ――。
「それなら、教えていただけませんか?」
この少年から、教わろう、と。
きっと、それは将来この王都を統べるために必要なことだったから。そして、このアインという少年にはすでに、その素養が備わっていると思ったから。
「え、え……?」
「うふふ。肩肘張らないで下さい」
「わ、分かりました!」
困惑する彼に、微笑みかける王女。
しかし、この時が二人にとって学校での最後の会話になるのだった。