8話 秘密の特訓が始まってしまいました。
正門を抜け少し歩くと、少し大きめの建物とグランドを塀で囲んだようなものが見えて来た。
「凌多っ!!アレじゃない?」
「たぶんアレが訓練場だろうな」
「だよねっ、ちょっと見てくるね〜」
リリーは凌多の肩から飛び立つと建物の中に向かって飛んで行った。
そんなに急ぐ必要もないだろと思いつつ歩く速度を上げリリーを追う。建物にたどり着くとリリーが外に出てきた。
「なんかあったか?」
そこまで興味も無さげに凌多がリリーに尋ねると
「ベッドが並んだ部屋がいくつかあっただけで変わったものは無かったよっ!」
「警備の人たちの仮眠室でも兼ねてるんじゃないか?」
「でも、人が誰も居なかったし埃っぽかったから使われてないみたいだったよっ」
「概ね戦争中だから戦える者達は戦線に引っ張られたんだろうよ」
エルフの王様が戦争の被害を止めるために動いたって言ってたけど、そりゃ国中の村々から兵士を召集したら何かしらの問題は起こるわなぁ。
そういえば門番も昨日見た顔だったし、集落の安全が買える最低限だけが残ったのだろうと勝手に納得した。
「まぁ。いいわっ!人がいない方が好都合だもの」
リリーは無い胸を張ると、目を細め納得したように頷いている。『リリーは何を考えてるんだろう?』リリーは感情のみで動くタイプに見えるので少し不安だ。
「で、そろそろ訓練場で何をするのか教えてくれるのか?」
「人が居ると出来ないことよっ!ちょっとは考えなさいよねっ!」
具体性を帯びていない答えが帰ってきた。
「全然分かんねーよ、人が居ない建物にベッドがあるってことくらいしか情報が、、、、、、まさか!!」
「なぁに?やっと分かったのかしらっ!本当に凌多ってば考えなしなんだからっ」
「リリー済まない、気持ちはありがたいんだが、何せ俺とお前じゃ身体のサイズに差がありすぎて、、、」
「凌多なにいってるの?」
「なにってナニだろ?いやぁ、俺の童貞を貰ってくれようとする気持ちは嬉しいんだが、流石に無理があるだろう」
凌多が言い終わると、リリーは空中で顔を真っ赤にすると小刻みに震えていた。
「違うわよっ!凌多の変態っ、スケベっ、バカぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
大きな声を上げて怒鳴りながら、俺に向かってかなりの速度で突っ込んでくると、勢いそのままに俺の顔面に向け飛び膝蹴りをかましてきた。
リリーの蹴りが顎にヒットすると、凌多は気を失った、、、
「そろそろ起きなさいっ!」
頬にペチペチとした感覚を感じ、目が覚めた。
リリーが起こしてくれたみたいだ。
「あぁ、起こしてもらってばかりで悪いな、でも思いっきり蹴りすぎじゃないか?手加減って知ってる?」
「ふんっ!さっきのは全部凌多が悪いわっ」
そう言い放ったリリーは、訓練場の方へとふわふわと進んでいく、後をついて行くと訓練場の真ん中には3本の木が立っていた。
「なんだあれ?」
凌多が不思議そうに見ていると、リリーが答える。
「誰かさんが馬鹿なこと言って寝てるから私が用意したのよっ」
そう言うとリリーは3本の木に向かって手を向けて『自然管理《ネイチャーコントロール》』と唱えた。
すると、3本の木は『大きく成長した木』『地面に突き刺さった丸太』『木になる前の苗木』に変化した。
スゲェと凌多は驚きながら見ているとリリーが説明してくれた。
「これが私の魔法よっ」
エルフの集落に飛ばされる前、山の頂上付近でも見せてもらったが実際に動きが出ると魔法の凄さに驚く。
日本にいた頃にはあり得ない状況に対して理解出来ても納得する感情が追いつかない。
なんとも言えない感情で凌多は棒立ちになってしまった。
「私が凌多の今後を思って魔法を教えてあげようと思ってたのに、、、、凌多ってば本当にバカなんだからっ」
リリーは少し呆れたような拗ねたような声で言った。俺が思っている以上にリリーは色々考えてくれていたらしい。
「ごめん、ごめん、聞いたのにはぐらかされたからちょっと言い返してやろうと思っちゃって、、、悪気しかなかったけど許してください」
頭を下げて謝るとリリーはふんっと凌太に背を向けると『今回だけよっ!』と言いつつ許してくれた。
「前にも言ったけど私は自然を司る妖精よっ、だから魔法は自然を操るのが一番得意なのっ!」
そういえば言っていたと納得すると疑問を聞いてみた。
「リリーは他の魔法は使えないのか?」
「使えるわ、でも一番得意なのは自然を操る魔法なのっ、それ以外に妖精族は風、土、水魔法の系統も使えるわっ」
「なるほど、種族毎に得意な魔法が変わってくるのか、人間族はどうなんだ?」
「人間は万能よ、全部の系統に適性があるわっ。でも、特別に得意な系統もないから器用貧乏ともいえるわねっ」
なるほど、まだ状況についていけない部分もあるが少し納得できた。
「でも俺は魔法を使えるのか?こっちには転移してきたわけだし、体の構造が違うとかの理由で、もしかすると使えないなんて事もあり得るのか?」
魔法が使えるなんて夢みたいなこと言われて、転移してきたから出来ませんでしたじゃ話にならないので一応確認してみる。
「魔法っていうのは周囲の魔素を自分の体に溜め込んでその魔素を放出することで現象を発生させるんだよっ、だからこの世界においては凌多も魔法が使えるよっ!」
ほっと、胸を撫で下ろすと期待してしまう。スゴイ魔法を使ってドヤ顔無双する姿を、そうだ異世界に行った後、大抵の物語ではチートを使って無双してたもんな。俺にも、もしかして、、、
ニヤニヤしつつ妄想を膨らませてしまう。
「凌多、『ステータス』出してみてっ!!」
リリー言われて表示させる。
名前 :加藤凌多 (かとうりょうた)
年齢 :19歳
種族 :ヒューマン
レベル:1
HP :100
MP : 50
筋力 : 30
耐久 : 42
敏捷 : 61
魔力 : 24
スキル:分析 ステータス 言語理解
ギフト:【∞収納袋】【神託】
称号 :異世界転生者、【神託】を授かりし者、妖精と絆を結ぶ者
※【神託】現在はありません。
表示させるとリリーが説明してくれた。
「魔力が24だねっ、人間族の平均の数値はだいたい50だからあまり高くは無いみたいねっ!」
凌多は崩れ落ちた。
「ドヤ顔無双で異世界ハーレム生活の夢はここで絶たれるのか、、、」
悲しみに打ちひしがれているとリリーが声をかけた。
「大丈夫だよっ、そんなもんだと思ってたからさっ!」
笑顔で言い切るリリーの笑顔でさらに心はえぐられる。ここで天然攻撃なんて酷い娘やぁ、、、、
「魔法を一度も使った事がなければこんな感じだよ〜。これから使えるように特訓してもらおうと思うんだけど、英雄様がしょぼい魔法を使ってるとこ長老達には見せられないからねっ、この場所は最適よっ!」
リリーは本当にしっかり考えてくれていたらしい。心の中で『ありがとう』と呟き、凌多はリリーに向き合うと「教えてください」と頭を下げた。
リリーの魔法講座では最初に魔素、魔力、MPについて説明された。
【魔素】
空気中に散布さているもの。酸素などと同じような感覚のものを指す
【MP】
周囲の魔素を吸収し、貯めておく袋のような存在を指す
【魔力】
貯めた魔素を発生する現象のイメージ化の速度と精度の事を指す。
と言う事らしい。意外と簡単に理解できた。
「それじゃあ、特訓のやり方を教えるわっ!」
「お願いします、先生!!」
リリーは先生と言われて嬉しいのか、やる気がみなぎっているように見える。
「最初は、私の魔力を感じてもらって、その後実際に使ってもらうわっ!」
リリーはそう伝えると、凌多に右の手のひらを目の前に突き出すような体勢になるよう指示した。
凌多の手の平に自分の手の平を合わせると魔力を流し始めた。
「うわっ、何だコレ、くすぐったい」
チリチリとしたこそばゆい感覚を感じると、リリーは「少しずつ増やすわよっ!」と言うと徐々に手のひらから水が流れ込んでくるような感覚になった。
「これが魔力か、初めての感覚だからどう表現していいか分からないけどスゴイな」
語彙力がねぇなと感じていると、今度は胸の周囲がいっぱいになるような感覚を感じる事ができた。
「リリー、どう表現していいか分からないんだけど胸がいっぱいになるような感覚なんだけど、、、」
「そろそろねっ!」
リリーは手のひらを離した。
「今のが魔力なのか?」
それ以外であるハズもないのだが、初めての感覚であったため思わず聞いてしまった。
「そうよっ!今のは私の魔力を凌多の中に注いだの。胸がいっぱいになった感覚はMPが満たされた証拠ねっ」
なるほど、とステータスを見ると50程であったMPは100にまで増えていた。
表示も100/100に変わっている。
「今度は両手を出してっ!」
両手を目の前に突き出すと今度は両の手にリリーが手を合わせてきた。
「今度は、君から私に魔力を送って。胸から私の手のひらまで水を流す感じよっ!」
実際にやってみると胸から俺の腕をホース代わりにその中を水が通っていくように感じる。
「うんっ、器用だね〜、上手だわっ!」
「そうなのか?」
あまりよく分かっていないが上手に出来たようだ、先程まで胸がいっぱいになっているような感覚になっていたが、リリーに送ると徐々に物足りないような感覚に変わった。
「今の感覚が魔法を使うとMPの減りが分かるでしょ、今度は私からいっぱいになるまで送り直すわよっ!」
凌多は頷いた。いっぱいになったことを伝えるとリリーは手を離した。
「こんな感じよっ、これをイメージしながら放出すると魔法が使えるわっ!」
「イメージは何でもいいのか?」
「最初は、水の球くらいがちょうどいいんじゃない?」
「了解した、早速やってみるぜ!!」
凌多は興奮を抑えきれず、すぐに行動に移した。
手のひらをリリーが変化させた丸太のような木に向けると水球を作り飛ばすイメージをすると魔力を込めた。
手のひらサイズの水球がゆっくりと木に向かって飛んでいく、ぶつかると弾けるようにして消えてしまった。
初めて使った魔法は簡単なものであったが自分が魔法を使ったという気分に酔いしれると水球を作っては木に向かって打ち始めた。
数分間水球を打ち続けた凌多は、魔力が底を尽き仰向けに倒れていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁ、、、、、魔法を使うのって、体力もいるのな」
「当たり前だよっ、苦労せずに手に入るものなんて無いんだからっ!!」
「そうだよな、魔力が尽きちまったぜ」
「あれだけ打ってればMPが100しか無いんだから当然でしょっ!」
息が整うと、凌多は満足そうな表情で起き上がるとリリーに今日はここまでだなと告げた。
集落に戻るために訓練場を出ようと歩き始めると、リリーが立ち塞がるようにして目の前に浮いている。
「えっ?何?どうしたの?」
凌多は疑問を投げかけると思いもよらない返答が返ってきた。
「私、特訓っていったよねっ?」
「今のが特訓じゃ無いの?」
「あんな遊んでるような特訓はこの世には無いよっ」
リリーは真剣な顔をしているが、意味がわからない。
「さっき、私は君に魔力を譲渡出来たよね?」
「まさか、、、、」
「大正解っ!魔力が減った分だけ私が譲渡すれば長い間練習出来るよねっ!!」
リリーはニヤリとした表情を浮かべ、ジリジリと歩み寄ってくる。
「ずっと特訓してればそのうち無双ハーレムも作れるよwww」
凌多は脱兎のごとく逃げ出したが、リリーの魔法で地面から木々が生え成長し、凌多の体を絡め捕ってしまう。
「俺がしたかったのはチートで楽々異世界無双なんだよ!!!!!」
「そんなに人生甘く無いわっ、諦めて私の愛を受け入れなさい。」
その後、凌多の特訓は夕日が沈むまで特訓を続けられた。
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