6話 エルフを救う事になってしまいました。
「あっ、やっちまったかな?」
興奮が抑えきれずに叫び出してしまった凌多は周りの目線がかなり痛いものになっている事にようやく気がついた。
目の前のおじいエルフなど、驚きすぎて口が開き、今にも目が飛び出してきそうだ。
「君、意外と抜けてるところが多いよね、、、」
唯一の味方であると思ったリリーも隣にふわりと浮いては、かなりの呆れ顔を浮かべている。興奮してしまってもしょうないだろ! ファンタジー世界の有名種族であるエルフが目の前にいるのだから。
少しの後悔を覚えつつも目の前のおじいエルフを見る。
呆気に取られていたおじいエルフは、ようやくのこと、気を取り直すと、叫びなど聞かなかったかのように言い直した。
「英雄様。どうか、我らエルフにお力をお貸しくださいませ」
凌多とリリーは祠のあった洞窟を抜け、エルフ達に連れられるようにして集落の中を歩いている。周囲を森に囲まれている集落を見渡すと、想像していた通りエルフと自然が共存をしている生活を確認することができた。
しかし、イマイチ理解ができない事がある。
祠に吸い込まれ、転移を行い飛ばされると祈りを捧げていたエルフからの英雄扱い、、、、
まるで、祠がエルフの元まで導いたみたいだ。
頭を下げて嘆願された凌多は、話がこじれる前に、自分が英雄では無いという事を伝えようとしたが、
「この場所で長話はできない」と言われ、集落にある長老の家で詳しい話をすることとなったのだ。
ちなみに、目の前を歩いているおじいエルフは集落の長老であるらしい。
他の住居と比べ大きく作られた長老の家に着くと、話し合いをする為と、大広間に案内された。目の前には、おじいエルフを中心として左右に2人のエルフが座った。
「失礼致します」
一人の女性エルフが入って来た。優雅な佇まいで一礼すると湯呑みを用意し、人数分のお茶を淹れた。淹れ終わると微笑むような表情をこちらに向け、部屋から退室した。
見た目の年齢は30代くらいあったが、美しい所作であった。ファンタジー世界の典型では、エルフは長寿である。もしかするとこの世界でもそうなのかもしれない。
「英雄様。粗茶で申し訳ございませんが、お召し上がりながらで良いので、我らの話を聞いてくださると嬉しゅうございます」
「何も分かっていないから、詳しく説明してくれると嬉しい」
凌多が正直に答えるとおじいエルフはごほんと咳払いをし、話し始めた。
「この一年間、我らエルフは魔族と呼ばれる種族からの攻撃を受けているのです」
魔族っ!!
これまた、ファンタジー世界の有名な住人が出てきたぜ、と凌多は心を高鳴らせつつも話の続きに耳を傾ける。
「魔族は、我らエルフ族や人間族、獣人族、人魚族などに対して度々、侵略戦争を仕掛けていたのでございます。
魔族の力は他の種族と比べると強大ではありますが、種族としての総数が少なく、部族ごとの決定を重視し、種族として纏まることが出来ていなかったため、今までどの種族であっても十分に対処できるレベルであったのでございます。」
他にも、様々な種族がこの世界には存在していると分かった。今後の楽しみが分かった凌多の心の中では歓喜の舞が繰り広げられていた。
十分対応できている状態であれば、なぜ英雄を求めているのかと思案していると
「ハイっ、ハーイ!質問なんだけどっ、敵の人数も少なくて対処も出来ているのなら凌多に何を救って欲しいのっ?」
リリーの疑問はもっともだと思いながらおじいエルフを見ると、種族の恥を晒すようで申し訳ないのですが、
と前置きをしつつも、おじいエルフの隣に座っている少し強面のエルフが喋り始めた。
「3ヶ月前、敵方の援軍が到着し戦況はこう着状態に陥った。その際に、前回までの侵攻戦と比べてかなり本格的に魔族が進行してきていることが分かったのだ。戦争が長引くにつれ民衆に与える被害が大きくなると考えたエルフの王は、戦線を押し返そうとエルフ軍最強部隊である。戦乙女騎士団を呼び寄せたのだ。
大きな任務を終えたばかりであった戦乙女騎士団はストレスを敵にぶつけるかのように驚くべき速度で戦線を押し返し始めたのだ。」
「理由はともあれ、エルフとしてはいい事なんじゃないのっ?」
「ある事件が発生し、そのことが原因で戦乙女騎士団を中心とした進軍が止まってしまったのだ。その後、今までのアドバンテージが全て押し返されてしまったのだ。」
「原因?あっ、分かったっ! 任務が終わってすぐに連れてこられたから疲れちゃったんだねっ!」
「いや、そうではない、、、むしろイキイキしていて困っているくらいだ。」
ここから先は、話したくないという表情を浮かべた強面のエルフであったが、一つため息を吐くと続きを喋り始めた。
「戦乙女騎士団の団長であるシルベル・ゼリント様が敵将軍であるガリアルに対して恋愛感情を持ってしまったのだ、、、、、
常に戦線の先頭に立ち味方を鼓舞すると共に、圧倒的な速度で軍を進める彼女は将軍であると同時にエルフの国の第二王女様でもあらせられるのだ。当然のように民衆や軍部からの信頼も集めている。しかし、王女様には唯一の欠点がある。」
「欠点って何なのー?」
「王女様は生粋のバトルジャンキーであられるのだ、、、
魔族の援軍として戦場に姿を現れた『ガリアル』は余程の手練れであったようで久々に手応えのある勝負ができると、王女様はガリアルとの闘いを嬉々として楽しんでいた。
しかし、どこをどう間違えたのか、戦いの中で王女様に恋愛感情が生まれてしまったらしいのだ。そこから、王女様は「パパに最愛の人を見つけたから結婚するって伝えてくる」と言い残すと、部隊を連れて戦線から王城に向かったのだ。
それを聞いた王様は、驚きつつもそんな事は出来ないと怒り、王女様を城から出ることが出来ないようにしてしまったのだ。
戦線は戦乙女騎士団を中心として、進軍を行なっていた為、纏まりを失い戦場から敗走、王女様が王城に向かった時に、この状況になることが予想できたので、すぐに撤退に入ることができた。不幸中の幸いではあるが、敗走したにもかかわらず死者は出ていない。しかし、戦線を押し返されてしまった為、このままの速度で敵軍に進軍されると、約2ヶ月後には王国まで攻め込まれてしまう。」
「なるほど、、、、、理解はできたが、その戦争を終わらせる為に、僕らを呼んだのか?」
尋ねると、首を横に振った。
「いや、それとは少し異なる。エルフの王国に中央に王城すら霞むような大きな樹が存在し【世界樹】と呼ばれ、信仰を集めている。その【世界樹】を管理する巫女様がいるのだが、巫女様が【世界樹】から神託を授かったのだ。」
ん、信託? 嫌な予感が、僕の脳裏を走る。
「その巫女様が言うには、「この集落の近くに存在する洞窟の祠に戦争を鎮め、恋愛を司る英雄様がエルフの国を救う為に現れる。」と言うお告げであったそうだ。
それを知った王女様は、国王様に対して、「神様が神託を授けるほどに私の恋を応援してくれている」と主張したが、国王様は「お前の間違った恋と戦争を鎮める為に現れるのだ」と主張して譲らず、お互いに戦乙女騎士団と近衛兵団を引き連れ一触即発の状態になってしまったのだ。
このままではいけないと、巫女様が中立に入り、実際に現れた英雄様に尋ねれば全て分かることだと二人を諭した。その後、どちら側にもついていない我々が派遣され、この集落の長老と共に洞窟内で英雄様を待っていた。と言うことだ。」
喋り終えた強面のエルフに尋ねる。
「そ、その神託を授けた神様のことを巫女さんは何か言っていたか?」
「そういえば、今までとは異なる女性らしい文面での神託であったと、今までの神託とは少し異なる形であったので驚いたと聞きました」
「マジかぁ、、、、、」
僕はあのおっさんやりやがったなと天を見上げる。
「あと、これは、一つ目の依頼でもあるというようなことを言っていたらしいので、巫女様は、神様からの依頼を受諾した英雄様が来てくださると仰っていたのだが、英雄様が何も知らないと言っていたので、こちらとしては少し戸惑っている状態であるのだ」
僕は小さな声で【ステータス】と呟くと、ウィンドウに表示された【神託】をタッチした。
『凌多ちゃん、転生して直ぐの依頼になっちゃってゴメンねぇん。私からの依頼として、お願い事があるわぁん。
そ・れ・は、魔族vsエルフの戦争を止めること、それとエルフがハッピーエンドになるように導いてあげてねぇん。
初めての依頼だけれど、凌多ちゃんなら上手くいくと思ってるわぁん。よろしくねぇん。うっふん♪』
ふっふっふっ、、、、、あのクソ神野郎は、ブッ飛ばしてやらなきゃ気がすまねえな。
てか、今まで何にもせずに自堕落に生きてきた何も出来ない僕なのに、異世界に飛ばされたと思ったら戦争を止めろ。しかもオマケに条件もあるよ君ならいけるっしょ頑張れって、いきなりハードすぎだろ、、、、
「それで、確認をさせて欲しいのだが、英雄様はエルフを救っていただけるのだろうか」
ふざけた事を聞きやがる。やりたくなくても、やらなきゃいけない状況にさせられてんだよ、、、
デケエ図体しやがって、こっちの顔色伺うなよ。あぁ〜、もう分かったよ。おじいのエルフも不安そうな顔するんじゃねぇ。
「俺が全員なんとかしてやるよ!」
凌多は開き直った様にそう言い捨てる。
エルフ達は「おぉー!!」と歓声をあげると、説明時に後ろめたさがあり暗くなっていた表情が一気に明るくなった。
対照的に凌多は天を見上げると心の中で叫び声を上げた。
『くそったれがーーーーーーーーー!!!!』