5話 異世界は驚きに溢れていました。
side:???
「ううっ、、、、、」
綺羅びやかな表通りから横道に一本それると、どこにでもあるような薄暗い路地裏の中、暗闇に紛れるようにして一人の男が激痛に襲われたようにうずくまり、黒いマントに覆われていた。
男のマントは所々破け、生々しい傷跡が破けたマントの隙間からチラチラとのぞいている。
痛みが辛いのか、獣のような呻き声が聞こえてくる。
「ちくしょう、やりすぎなんだよマジで、、、、」
精一杯の悪態をつくと、息を整えるように大きな深呼吸を繰り返す。やっとの思いで、息を整えると、
「治療《キュア》」
囁やくような小さい声で、男は唱える。すると、えぐられたように裂けた傷口がまるで逆再生を行なっているかのように疼き始め、10秒も掛からず傷は綺麗さっぱり消えていた。
傷が癒え、ようやく余裕が出てきたのか、男は薄暗い笑みを浮かべると、誰に伝えるわけでもなく空に向けて叫び出した。
「成功したんだ、やり遂げたんだよ俺は!!!!」
周りを気にせず、はしゃぐ子供のように自分の喜びを爆発させている。気が済むまで、騒ぐと、男は自分のやるべきことを思い出したかのように、思案を始める。しばしの硬直後、自分の道が決定したかのように、納得顔で、路地裏を抜けた。
光り輝くような夜の繁華街が目に入ると、驚き呆けたような顔を一瞬見せるが、正解はこれだと言わんばかりの表情で人の波に紛れ、夜の街に消えて行った。
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異世界に飛ばされた、凌多は、山の頂上までもう一息という場所で周囲の地形を眺めると
「はぁ、、、」とため息を漏らしていた。
「やっと着いたと思ったのに、いきなり暗い顔になったねー、どうしたのっ?」
登っている間、相棒である凌多の肩に乗り、何度もあくびを繰り返していたリリーは、もうすぐ頂上であるにもかかわらず、喜びではなく悲しみの表情を浮かべている相棒を見て、困ったように首を傾げている。
「周りを見渡せばわかるよ、リリー」
眠たい目を擦り、周囲を見渡してみると、森が広がっているようにしか見えない。
「見渡しても、森が広がってるようにしか見えないけどっ、、、」
困ったように尋ねると、
「それが問題なんだ」と返答が返ってくる。
人里に繋がるような情報を得ることができないかと、慣れない山登りを続けて頂上付近にたどり着くのに5泊掛かった。登山未経験者ではあるが、かなり高い山を登って来たつもりである。
凌多の知っている山とは異なり、急に変わる天候も、夜になると襲ってくる寒さもなかった。地球とは、そもそもの構造が異なるのだろうと思いつつも、傾斜が変わらないような、なだらかな山を登り続け、頂上に到達した。酸素の薄れは感じないが、かなり高い所まで登って来たつもりである。
「見渡す限りの森、人が住むような街が見えないとしても、他の山くらいは見えると思ったんだけど、、、、何も、情報がない以上、向かう方角は運任せだ。」
労力に見合わないぜ、と悲しみを堪えながらもリリーに説明する。凌多の話を聞いたリリーは、小さな胸を張り、満足げに言い放った。
「なるほど、つまりリリーにお任せってことだねっ!」
「どうゆうこと?」
「運任せって言うことは、【幸運】である。リリーの出番だよっ!」
凌多の肩を蹴るようにして飛び立ち、凌多の周りを舞うように回ると、胸の前に指を絡めるように交差させ、祈るようなポーズを取ると小さく呟いた。
「自然探索《サーチ》」
リリーを中心に優しい波動が周囲に伝播するように広がっていくと、広がった伝播が返ってくるようにして、リリーに収束した。
何をしたのかと、凌多が驚いていると
「リリーは、自然を司る妖精だから自然に囲まれているこの環境なら、100km先まで、何があるか大体分かるよっ」
「そうか、5日経って忘れていたけど、この世界には、魔法があるんだっけ、、、、」
自分が魔法という選択肢を忘れていたことに後悔しつつも、リリーに近寄る。褒めてもらえるのかなと期待しつつ、笑顔で近づいてくるリリーのこめかみに両の拳を当て、グリグリと押し付け始めた。
「そんな魔法が使えるなら、なんで今まで使わなかったんだよぉぉぉおおおおお!!!」
「痛いっ、痛いってばぁ、ごめんなさい、ピクニックみたいで楽しかったから言わなかったのっ」
「そんなん、この森抜けてから、いくらでもやればいいだろうがぁぁあ!!!」
「楽しかったから、ちょっとくらい良いかなって思ったんだもん。痛い、ほんとに痛い、そろそろ許してっ」
馬鹿妖精に制裁を与えると、痛みつけたこめかみを押さえつつ、恨み言を吐いている。
「ううっ、痛かった、、、、暴力反対だよっ、シクシク」
しばらく、無視していると、泣きマネでは、効果が薄いと思ったのか、今度は、ドヤ顔を見せつつ、
「リリーのおかげで、色々分かったんだから感謝しなさいよねっ」
上から目線が普通にウザかったのでもう一度頭グリグリを食らわせた。
「ううっ、ごめんなさいっ、、、」
やっと折れたのか、魔法で把握した周囲の状況をまとめ、教えてくれた。
・100kmでは、森以外は見つけることが出来なかったこと。
・山はおろか、川すらなかったこと
・自然が広がっているように見えるが、不自然なほど木々の成長具合が同じであったこと。
「なんか、この森おかしいよっ」
リリーは、おふざけでは無い口調で、凌多に告げる。
「私は、凌多が名前をつけてくれた時に生まれたばかりの妖精だから、まだまだ足りない部分があるかも知れないけどっ、これは、おかしいって断言できるよっ」
凌多は天候、気温が全く変わらず、山頂付近に来ても、息苦しさなどを全く感じないことを思い出し、リリーの言っていることに納得した。
リリーの魔法が完璧であるなら、近くに、何も無いことは異世界だからで説明がつくが、木々の成長具合が全て同じ事なんてあり得るのか?
顎に手を当て、悩んでいると、
「もう一つ、おかしいと思ったのは、この山の頂上に祠があるの。何に使うのか分からないけど、私の探査に引っ掛からない人の気配が無いのに祠があるなんておかしいよね、調べてみる?」
確かに、少し妙な気がする。
「うーん、ここにいても情報は出てこないし、調べてみようか」
リリーは「うんっ!」と元気よく返事を返すと、凌多の肩に飛び乗った。
残り200mくらいの山道を頂上に向けて登ると、岩の陰に隠れるようにして祠が出てきた。祠の前には、朱色の鳥居が存在し、何故か凄い存在感を感じる。
「これかぁ、、、、意外と綺麗だな、っていうか作られたばかりじゃ無いか?」
「そうだねっ、なんだか凄みがあるけど、少し嫌な気がするのは私だけかなっ?」
リリーに返答を返そうとすると凌多の背中に悪寒が走った。
「リリー、偶然だな、俺もだ、、、、」
どこかで、感じたことのあるような気配を感じながらも恐る恐る祠に近づくと、祠の前に建てつけられた扉が、勢いよく開いた。
あぁ、これはどこかで感じたことがある感覚だと思ったが、異世界に転移すると言われて、おっさんと喋っているときに現れた扉の感覚にソックリだ。
「リリー俺に捕まれ!」
肩に乗っていたリリーは首筋に抱きつくと、扉は、凌多達を引きずり込んだ。
転移の光が眩しく、瞑ってしまった目を恐る恐る開くと、松明の灯りが僕らに視界を与えてくれる。
目の前には、吸い込まれた時と同じような祠が鎮座していた。岩のような材質が見える。まるで洞窟の中に作られたみたいだ。首筋にはリリーがしがみついている。一緒に転移できたようだ。
「ここはどこなんだろうねっ?転移しちゃったみたいだけど、、、」
どこなのかと、周囲を見渡すために祠と反対側に振り返ると驚きの光景が広がっていた。
「「えぇーーーーーーーーーっ」」
振り向き、下の方を見ると、15名ほどの老若男女が土下座をしている。一番先頭には腰が曲がっていることが上から見ても分かるようなおじいがいる。おじいは、二人の驚きの声を聞くと、顔を上げて祈るように嘆願してきた。
「お願い致します。祠より現れし英雄様。どうか、我らにエルフに力をお貸しくださいませ。」
話を聞きつつも、凌多は驚きと興奮で我を忘れて叫んでしまった。
「うぉぉぉぉぉおおお!!!エルフじゃねぇぇぇぇか!!!!」