40話 探偵メリアは、見逃しませんでした。
リリーが発した言葉は聞き馴染みのない。いや、聞いたこともないような作戦であった。
「い、いや待ってくれなんだその作戦は!?」
「えっ、凌多が提案した作戦なんだけどっ…?」
「俺が??」
「そうだよっ、この前の王様との話の後に準備して欲しいって言ってたじゃないっ!」
「それは、首都で朝食を食べている際に私が聞いたあの作戦のことですか?」
「そうだよっ! カンナがさっき王女様に提案する時に名前が欲しいって言ってたから考えたんだけどっ!」
「えっ、あっ、なるほどそうですか…」
あー、やっちまった…
凌多とカンナは二人して渋い顔を浮かべる
本人は気づいていないようだが、リリーは完全にネーミングセンスが欠落している。
ドヤ顔自信満々に言ってきたことからこの名前を変える事は無いのだろう。
はぁ…
二人は揃って大きなため息を吐いてしまった。
「二人共どうしたのっ?」
リリーは完全にため息の理解が出来ていない。これはこの作戦名のまま通ってしまいそうだな…
そんな事を考えている二人に救世主達は突然現れた。
エルフA「はっはっはー、笑ってしまいますね、何ですかその作戦名!!」
エルフB「そんな作戦にエルフの命運が託されるとは困ったものでござる」
エルフC「リリーちゃんー、可愛いだけじゃこの世は渡っていけないよー」
エルフD「才能….皆無….」
エルフE「ねぇ、ねぇ、お腹減ったんだけど、帰っていいかなっ? かなっ!!」
凌多とカンナは、この救世主達のことを一生忘れないだろう。リリーのネーミングセンスにツッコむ為だけに、ここまで自分を犠牲にできるやつらはそうそういない。
二人は、隠れるようにしながら小屋を出た。
ボンっ!ドンっ!ドカーンっ!
「「「「「ふぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!!!」」」」」
小屋の中からは魔法の破裂音と、今まで疲れ果てて寝ていたエルフ5人の叫び声が聞こえてくる。
10分後、音が消えた小屋の中にゆっくり確認しながらも凌多とカンナは戻る。
「生きてますか〜?」
カンナはエルフ5人の生死を確認すると、何とか生きてはいるみたいだ。良かった良かった。
黒焦げになって、エルフなのか他の種族なのか分からなくになっているが、何とか生きているようだ。
「ねえっ、私ってネーミングセンスが無いのかなっ?」
黒焦げたちの中心に浮かんでいるリリーは悲しそうな表情を浮かべながら凌多に確認をして来た。
「え、えーっと、いやそんな事は無いと思うぞ。そいつらの感性が悪いんだろ?」
凌多はあっけらかんと言い放つと、リリーはホッとしたような表情を浮かべる。
床に倒れている5人からは
エルフA「う、裏切り者っ....」
呻き声が、凌多を責めているように聞こえるが、これにはノータッチでいいだろう。
残念ながら、こいつらとは初対面だからな
エルフB「さっき、俺らの発言に頷いてたでござ….」
グギュっ!!
「うぎゃぁあ!!」
凌多は間違って何かを踏んでしまったようだが、そんな事で気を止めるような凌多では無い。
何か、足の動かし方を間違ってしまったんだろう。黒焦げの1つに凌多の足が乗っかって、グリグリと押し付けるようにしている気がするが、これについては気にしなくて良い。
「リリーの名前で決定にしよう! それでだ、その作戦の準備が完了したってどうゆう事だ? かなりの仕事量もあったあだろうし、手紙板も完成させたんだろ? そんな余裕あったか?」
凌多は、すかさず話を変えた。
リリーはホッとした表情から、自分の功績を褒められて少し恥ずかしそうな顔をしながら言った。
「リリーに任せてくれればそのくらいはチョチョイのチョイよっ!!」
「リリーさん、流石ですね!!」
凌多の作った話にカンナはすかさず乗る。
「えへへっ、そうかなっ! みんなの為に頑張っただけだよっ!!」
カンナが乗った事によってリリーのテンションは最高潮に達する。
エルフC「いやー、あっちの準備はー、俺たちが...」
グギュっ!!
「ぐはぁぁぁぁ!!」
カンナも間違って、黒焦げを踏んでしまったようだ。
あらまぁ、なんてわざとらしい演技をかましているが、リリーは褒められた事で有頂天に達している。周りのことなんて見ていない。
「それじゃぁ、準備をどうやってそんなに早く終わらせることができたのか聞きながら、王城に帰ろうか!」
凌多の言葉にリリーとカンナは頷くと、小屋を後にする。
小屋を出て少し歩くと、後ろから声がする。
「「「「「置いてかないでー」」」」」
5人のエルフは必死な顔で凌多達に追いついてきた。
後から聞いた話、リリーと別れてしまうとこの小屋から首都への帰路が分からなくなってしまうから焦っていたようだ。
それならリリーに挑発しなければ良いのにと思う凌多であった。
首都に付くと、正門の前に人だかりが見える。何かあったようだ。
「あれ何かなっ?」
「正門を抜けたところでは出し物などをやっている事が多いですが、正門の前となると珍しいですね」
人だかりをよく見てみると、兵士達のようだ。
遠くからでも聞こえるくらいの大声は、兵士達が誰かに向かって抗議している声が聞こえる。
中心に何か問題の原因があるようだが、何があるのか、誰がいるのかなど詳しい状況は人に阻まれて確認できない。
「ちょっと覗いてみるか?」
「まぁ、困っているようですが、そこまで大事ではなさそうなので、凌多さんとリリーさんの出る幕ではないでしょう」
「それもそうだねっ!」
「「「「「我らは、働きすぎた為、食事をとりたいです!!!!!」」」」」
珍しく意見が揃った事もあって、手順を踏んから正門を抜けると、王城に向かって歩き出した。
エルフの5人は働き詰めで食事を摂っていなかったのか、露天の美味しそうな匂いを嗅いでは、物凄い音がお腹から鳴り響いている。
「別に、王城まで付き合ってくれなくても良いんだが」
凌多は気を使って、5人のエルフ達に告げたのだが、5人は揃って手を前に出すとこれを拒否した。
エルフA「我らにはこれから大事な戦いがあるのです!」
エルフB「英雄かなんだか知らないが、邪魔されるのは御免でござる」
エルフC「勝ちは確定してるんだけどねー」
エルフD「条件…. 最高….」
エルフE「僕のお腹が戦闘態勢だよねっ、よねっ!」
エルフ達の目には、大きな野望の火が灯っている。
「何かあるのか?」
「「「「「我らは、あの憎っくきリリーさんとの大食い対決が待っているのです!!!!!」」」」」
「そうなのか、なんでその対決をすることになったんだ?」
エルフA「勝てば今回の給料が5倍になるという賭けをしているのです!」
「なるほどな、負けたら?」
エルフB「負けたら、食べた分の支払いでござる」
エルフD「高級料理….給料増加….楽勝人生….」
「そ、そうですか、頑張ってください」
リリーは容赦ないな、たぶんこのエルフ達は数時間後に絶望を味わう事になるんだろう。
カンナと凌多は、エルフ達に心の中で同情しつつも歩いていると、後ろの方から声が聞こえる。
「待ってくださいですぅ〜!!」
聞き馴染みのある声だ、このパターンは何回か体験している。振り返っても立ち止まってもダメだ。
実際、メリアがいたところで戦時中に一緒に戦う訳でも無いし、居ると場を乱す以外の事が考えられないので、今日は声を掛けなかった。おおかたその事についての文句でも言いに来たのだろう。
「メリアが正門で待っていたのに無視するなんて酷すぎるですぅ〜!!」
正門で人混みに紛れていたのはコイツか….
城下町に出れば騒ぎになってしまうという事を言われたくらいだ。首都の外に出ようとして兵士たちに止められていたんだろう。
無視して進もうとすると、
「「「「「結婚してください!!!!!」」」」」
綺麗にハモった5つの声が後ろで聞こえた。
絶対に振り返ってはいけない。分かっていながらも、気になってしまう。欲望に負けた凌多は恐る恐る振り返ると、5人のダメエルフが大きな花束を持って片膝をつき、メリアに求婚をしている。
「あいつら何やってるんだ?」
「どこから花束持ってきたんだろっ」
「はぁ、メリア様のお顔は王城で働いていれば知っているはずです。知っていてこの態度....バカとしか考えられません」
突然の求婚に対してメリアは、驚きの表情を浮かべていた。
「モテモテですぅ!?」
メリアの驚きの態度に対して好印象だと思ったのか、5人のダメエルフは、口喧嘩を始めた、
エルフA「おいおい、俺のメリア様の前でうるさいぞ」
エルフB「俺のメリア様でござる」
エルフC「俺のものだよー、邪魔しないでよー」
エルフD「俺….愛されてる」
エルフE「メリアちゃんが好きなのは僕だよねっ、よねっ!」
5人を見て凌多、カンナ、リリーの3人は呆れ返った。
なぜか、メリアは私のために争わないで! とまで言いそうな表情を浮かべているのだが、これはこれで無視して良いのだろう。
「すみません。凌多さん止めてきてもらっても良いですか?」
「あぁ、わかった」
こんな茶番に付き合わされるのは御免だと思いながらも、5人を止めるため口論の輪に入り、宥めようとするが5人のダメエルフは一向に止まらない。
あの手、この手を使って止めてみようとしたものの、5人のダメエルフには届かない。しかも、いつの間にか5人の恋敵という設定になってしまったようだ。
「おいおい、そろそろやめねぇと魔法ぶっ放すぞ!」
エルフA「それはひどいです。恋愛の自由を提唱します!」
エルフB「凌多殿が相手でも、拙者は正々堂々戦うでござる」
エルフC「君たちー、譲り給えー」
エルフD「我….結婚….願望あり」
エルフE「メリア様と僕は英雄様なんかに引き離されないよねっ、よねっ!」
「コイツら....ウゼェ….」
凌多が諦めて魔法を放とうとすると、メリアは凌多の腕にしがみついた。
「凌多くんがメリアの事をそんなに思っているとは知らなかったですぅ!」
「はぁっ?」
巻き込まれイライラが頂点に達しそうになっていた凌多は、メリアを振りほどこうとするが、離れない。
こいつもまとめて魔法を食らわせてやろうかな。悪ノリを始めたメリアと5人達に対して、そんな事を考えていると、
「仕方ないから、一人選ぶですぅ! 凌多くんと結婚してあげるですぅー!!」」
突然のメリアの言葉にエルフ達は崩れ落ちた。
なるほど、助かった。止める為に動いてくれたんだなと思った凌多であったが、メリアの顔を見ると、乙女チックな表情で、うんっ! とアイコンタクトを向けてくる。
いやいや、何をしているのかと思った凌多であったが、後ろから大声が聞こえた。
「「それはダメっ!!」」
そんな声と共に、リリーが凄い勢いで飛んできた。
「凌多は私の物なんだからっ、取っちゃダメだよっ!」
「俺がいつ、お前の物になったんだよ」
「嘘ですぅ。メリアはもっと良い男を探すですぅ。これは、あのエルフ達への言い訳ですぅ〜!」
「それは聞き捨てならないよっ、凌多よりも良い男なんて、そんなにいないんだからっ! 言い訳なら離れてっ!!」
「そんなにって、一人もいない訳じゃなんですぅ?」
「言葉の綾だよっ!」
「そんな言葉の綾があってたまるか!」
結局いつものメンバーによる痴話喧嘩が始まってしまった。エルフ達はこんなに大声で喋っているというのにショックで聞こえていないようだ。とぼとぼと、王城の中へと入っていく。
メリアは凌多から引き離されると、リリーは凌多とメリアが近ずかないように凌多の背中を押して王城の中へと向かった。
凌多の腕から引き離されたメリアは、一番後ろに続いていたカンナの所までトコトコ歩いてくると、
「さっきの言葉は、流石に聞き逃せないですぅ!」
「な、何のことですか?」
「とぼけても無駄ですぅ、さっきリリーと一緒にカンナも声が出てしまっていたですぅ! 観念して洗いざらい吐くですぅ〜」
頬を赤く染めているカンナは、抵抗が無駄だと分かると抵抗を辞め、みんなと別れてメリアの部屋へと連れて行かれてしまった。
夕食どきに行われた【リリーVSダメエルフ5人】の対決は、リリーの圧倒的勝利で幕を閉じ、彼らの悲痛な叫び声が王城を響き渡った。




