4話 僕たちの冒険は森から始まりました。
やってしまったことをくよくよしても意味がない。次回、頑張ろう。
大声を出して、スッキリした。目の前のリリーの顔が少し怖いことになっているが、不機嫌の原因は自分ではないことを祈るしかない。
余裕が出来たので、周りを見渡す。
リリーのインパクトが強すぎたため、周囲を全く気にしていなかった事に気付いた。地面につけていた腰から砂を払いつつ、注視して周りを見渡すと木々に囲まれている。どうやら森の中に飛ばされたようだ。先が見えないほど多くの樹木が立ち並んでいる。
「ここが、人の手が入った森だったら、近くに人里があると思うんだけど、そんな風には到底思えないな」
現状確認をすませると、森の中に何も出来ない僕と、金髪の妖精が放置された形だ。
「1つ聞きたいんだけどいいかな?」
「何よ、私を見て不幸だとか叫んでたくせにっ!私は【幸運】の妖精なのに........」
彼女は拗ねてるみたいだ。完全にやらかしてしまった。ネタとして受け止めてくれなかったみたいだ。
いや、ネタとしても生み出されてすぐにそんなこと言われたら傷つくか......
話題を変えて乗り切るしか無い。
「すまん、ほんの出来心だったんだ、そんなことより、リリーは、【スペシャルギフト】っていうのがどこにあるか分かる?」
「そんなことよりって......君なんてもう知らないっ!!」
リリーはそっぽを向いてしまった。失敗してしまったみたいだ。こういう女性にデリカシーの無いところが、僕が僕たらしめるところなんだろうな。必死の謝罪を行うと、リリーの気が済むまで、「僕の理想に生まれてきてくれてありがとう」と言いながらも頭を撫でることを強制された。
何度も、小さい頭を撫でるという細かい作業の中で、何度も手がつりそうになったが弱音も吐かずに続けた事は褒めてくれてもいいと思う。なんとかリリーの機嫌を直す事に成功すると、もう一度本題を聞いてみた。
「リリー、おっさん、、、神様から【スペシャルギフト】ってのをもらったはずなんだけど、どこにあるか分かるか?」
「それなら、神様からもらった知識にインプットされてるよ!『ステータス』って心の中で呟いてみてっ」
リリーに言われたように僕は心の中で小さくつぶやいた。すると、ウィンドウが目の前に表示された。まるで、ゲームの世界みたいだ。
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名前 :加藤凌多 (かとうりょうた)
年齢 :19歳
種族 :ヒューマン
レベル:1
体力 :100
魔力量 :50
筋力 :30
耐久 :42
敏捷 :61
魔力 :24
スキル:【分析】【ステータス】【言語理解】
ギフト:【∞収納袋】【神託】
称号 :異世界転生者、【神託】を授かりし者、妖精と絆を結ぶ者
※【神託】が下っています。
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ステータス画面を確認すると、【∞収納袋】と表示されていた。4次元ポ〇ットのようなものを想像していたが、魔法の世界だからスキルになるんだな。よく考えてみれば、あれは科学が発展した未来の道具だもんな。
ステータス画面にはいくつか気になる文字が表示されている。1つ目は、【神託】だ。おっさんの悪戯かなとおもいつつも恐る恐る触れてみると、ウインドウが表示され、文字列が浮かぶ。
『うっふん♪凌多ちゃん異世界へは無事たどり着けたかしらぁん。望んだスペシャルギフトは全部叶えて【∞収納袋】の中に入れておいたわぁん。
あと、【幸運】だけ特別な形で創造したから、楽しんで頂戴ねぇん。依頼は【神託】として時期が来るたびに伝えさせていただくわぁん。依頼を放置すると神罰が下るから気張って頂戴ね。ぢゃあ、またねぇん。』
「何で特別な形にしたんだよ、いらん事ばかりしやがる。」
【幸運】に関してはともかく、おっさんが書いたことの分かるふざけた文章に苛立ちつつも、【∞収納袋】に【山岳セット】【食料】【上級武器】が入っていることを確認する。
【∞収納袋】から【上級武器】を選択すると、目の前には、鞘に入っている刀が現れた。恐る恐る鞘から抜くと、刀身が美しく反っている日本刀だ。しかし、前にテレビで日本刀は2、3回切ると、刃がボロボロになってしまうと聞いたことがある。
ぶつぶつ言いながらも大丈夫なのかと悩んでいると、リリーから声がかかった。
「『アナライズ』って唱えてみてっ!」
心の中で先ほどと同じように唱えてみる。
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『 刀 LV1 』
攻撃力:+20
特性 :レベリング…所有者のレベルに合わせて進化する。
:形状維持 …破損しても元通りに直る。
※収納可
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アナライズと唱えると、物を分析することができるようだ。そういえば、分析というスキルを所持していたことを思い出した。分析の中に収納可と書いてあるので収納を試してみる。【∞収納袋】には、収納したい。と心の中で唱えると、勝手に収納できるらしい。また、出すときは出てくるように考えるだけで、出現させることが可能であった。
一通りの実験が終わると、僕はリリーに声をかけた。
「言語理解っていうのがあるんだけど........」
「それは、初心者パックだよっ!」
「初心者パック?」
「そーなの、私と君が知っている【神様】とは別の神が、新しい種族を面白そうだからって理由で生み出そうとしたのっ、でも少し抜けてる性格だったらしくて、間違えて異世界人を呼んじゃったんだってー、申し訳なく思った神はその異世界転移者に、スキルをあげたのっ。
次はミスしないようにと願いながら、神力を使ったらしいんだけど、失敗しないように、って思うあまり、その子に対してだけじゃなく、異世界転生して来る者全員に対して効果が出るように契約しちゃったんだよねっ。
その時の恩恵『分析 ステータス 言語理解』の3つを初心者パックっていうらしいよっ。」
その後、世界に与えた影響が大きすぎて、神力には代償が必要となり、ミスを犯した神様は創造神の怒りにふれ、封印されてしまったということをリリーから聞いた。
現状を把握するのはこの当たりで大丈夫だろう。今後、何をすれば良いのかそろそろ考える必要性がある。
「リリー、今僕たちがいるこの場所がどこだかわかる?」
「ごめんなさい、分からないのっ、神様に創られるときに必要最低限の知識を埋め込まれたらしいんだけど、本当に最低限だったよっ.......」
やっぱり、おっさんは使えねぇな、自分の情報が役に立たないと少しうつむき加減のリリーに今回は間違えないように声をかける。
「さっきの情報がかなり役に立ったし、十分過ぎる。これから先は僕の知恵の見せ所だな。」
「君のように抜けている人で本当に大丈夫かしら少し心配だわ。」
僕のことをからかいつつも、明るい顔になった。うまくいったようだ。でも、抜けているといわれると、先ほどの話にあった間抜け神が頭にちらつくのが、少し嫌だな。
何をするにしてもひとまず、この森を抜けて、街道などがないか確かめてみたいところではあるが、どちらに向かっていいか分からない。
とりあえず、少し離れたところに見える。小山に向かおう高いところからなら何か見えるはずだ。
リリーを見ると、準備万端という顔をこちらに向けてきた。なるほど、頼もしい相棒がいてよかった。
異世界という無知の世界を一人で進むのは流石に僕も心細かった。なんだかんだいってしまったが、リリーがいてくれるのはすごく心強い。妖精である彼女は、ふわりと宙に舞い、僕の肩に腰を掛けた。
「このスタイルで進んでいくのか?」
僕は苦笑いを浮かべる。まぁ、いいだろう。せっかく異世界に転移したんだ。こんな経験普通は出来ないし、楽しんだもの勝ちだと思う。
僕は、上がったテンションのままに両手を上へと伸ばし、高らかに宣言する。
『さぁ、僕たちの冒険をここから始めよう!!!』