39話 作戦準備が終わりました。
剣の鍛錬を始めた翌日、 凌多、リリー、カンナの3人は森の中を歩いていた。
「随分と深いところにあるようですが、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよっ、私が道を間違えるわけないじゃないっ!」
「いえ、そうゆうことではなくてですね.......」
「戦時に何かあった時、俺とカンナから遠くて大丈夫か、ってことだろ?」
「それなら大丈夫だよっ! 私、本気で飛ぶとものすごく早いんだから、いつでも2人を助けに行けるよっ!」
「助けに来る側なんですね、普通であれば、本部にいるリリーさんを助けに行く立場だと思うのですが」
「えっへん、私は強いんだからっ!」
「俺から能力奪っているからな〜」
「それは言わないでっ!!!!」
そんな会話をしつつも、道無き道をリリーに案内されながら進んで行くと、なんの変哲も無いような小屋があった。
周囲はもちろん森の中であるので、木々に囲まれているのだが、少し木々の生えている量が多くなっている。
カモフラージュのために多くなっているのだろうか….
凌多は、そんな周囲の状況を見渡して考えていると、リリーが目の前に飛んできた。
「ふっふっふ、すごいでしょっ。小屋が見つからないように森を改良して森全体がここを見つけにくいようにしてるんだよっ!」
「なるほどな、そのためにこの辺りは木の量が増えているのか?」
「それだけじゃないんだよっ! 視線誘導するように仕掛けてあるから、普通にこの森を彷徨ってるだけじゃこの場所にたどり着かないようにしているのっ。多分、 凌多か私が案内してこの場所を目指して来ないとたどり着けないよっ!」
「自然探索が必要になってくるって事か」
「そうゆう事だねっ!」
この場所の説明を受けながら小屋に入ると、中は特に飾り気もなく、仕切りすらない状態であった。注目すべき点は小屋の側面にある。木の幹の部分だけを生やしたようなものが6本側面の壁に張り付くように生えている。
そして、床の上に5人のエルフが転がっている。
「ん? なんでエルフが転がっているんだ?」
凌多の言葉に反応して5人は一斉に背筋を正すと、 凌多とカンナに向かって挨拶をしてきた。
「「「「「おはようございます!!」」」」」
「お、おはようございます」
カンナが挨拶を返すと、にっこり微笑んだエルフの5人はそのまま、力尽きたように倒れ込んでいった。
「どういった状況なんだ、これは?」
「みんな 凌多のために頑張りすぎちゃっただけだよっ!!」
リリーが悪魔のような微笑みを浮かべながらそんな事を口にする。
「これって、大丈夫なんですか?」
カンナが心配そうに5人を見つめる。
「大丈夫だよっ! 少し私の事を舐めてたからセフィリエルさんに教えてもらったお説教を施して、寝ずに働いてもらってただけだからっ!」
「セフィリエルさんは何を教えているんだ…….」
凌多はこの前、の王座で話をしている時に何かを教わるといっていた事を思い出したが、こんな事になってしまうとは、と恐怖を覚えた。
「だから、あんなに早く例の物が完成したのか、この5人の犠牲と共に....」
凌多は5人に手を合わせると、リリーがこの部屋について詳しい説明を求めた。
「それで、作戦の要となる物はもう出来たんですね」
「うんっ、私にかかったらそれくらいの事、余裕だよっ!」
リリーは、大きな机の上へと飛んで行くと、2枚の木で作られた板の様なものを手に取り、 凌多とカンナに渡した。 凌多の物は1、カンナの物には2と左上に書いてある。
「これがそうなんですね?」
「うんっ、私の大発明だよっ!!」
「アイデアは俺のだけどな」
「ちょっと、 凌多っそれは言わない約束でしょっ、この魔法の板を使ってエルフの国を救った英雄として名前を残してもらう予定なんだからっ! 」
「英雄、俺からリリーに変わってるじゃねーか」
「別にいいでしょっ、 凌多は英雄に興味ないみたいだしっ! 」
「別にいいんだがな」
凌多とリリーの会話をそっちのけにしてカンナは、渡された板を興味深そうに見ている。
「それで、本当にこの板が役目を果たすんですか?」
「実際にやってみるっ?」
リリーはカンナにそう告げると、家の外に出てもらい、凌多はリリーの側に残って作業の様子を見ていた。
リリーは木の幹の様なものに大きく2番の番号が振られた物の目の前に立つと、幹の皮が剥がれた場所に魔法を使って文字を書いていく。
『カンナの今日のパンツは水色』
リリーが書き終わると同時に、小屋の扉が思いっきり音を立てて開き、顔を真っ赤にしたカンナが飛び込んでいた。
「なんで知ってるんですか!!」
「 凌多、上手くいったみたいよっ!」
「さすが、リリーだ良くやった」
「良くやった。じゃありません。何してるんですか、っていうか 凌多さんも見ているじゃないですか!!」
「まぁ、色くらい別にいいだろいっ」
「良くありません!!」
カンナは送った文字に抗議をしているが、反応を見る限り実験は成功している様だ。
この板は、凌多がスマホをイメージしてリリーに伝えて作ってもらった物である。戦時中、10人もいれば十分だ。というのはリリーがこの板を製作可能であった場合の人数だ。
王様達と話していた時は、断言してしまったが、リリーがこれを作る事が出来なければ、成し得なかったであろう。
勃発していたカンナとリリーの戦いは、カンナの家に温泉を作る事で決着がついたらしい。二人で熱い握手を交わしている。
実験が終わると、ふとカンナは気になっていた事を確認してみた。
「これは、誰にでも使えるんですか?」
「うんっ、誰でも使えるけど、この部屋にある木が3ヶ月で枯れちゃうから。これは 凌多と私、あと、私たちに近い自然との親和性の高い人が整備しないと長い間は使えないよっ!」
本来であれば、エリスと言えばいい所を気を使ってちゃんと説明したリリーに対して、いつもこのくらい気を使ってくれれば良いのにと思いながらも続きを話すリリーの説明を聞く凌多であった。
「簡単に説明すると、これは私の魔法『自然の置き手紙』の改良版なのっ! この部屋にある木に魔力を込めながら文字を書くと、元々同じ木で作ったその板にも同じ情報が伝わって、文字として現れるのっ!」
「行っている事は分かりましたが、そんな事を実践できる事がすごいですね」
「そうなのよっ、頑張ったのっ! まず、離れていても細胞がリンクしていて、魔力を持った木を生やしてっ。本体の木に魔力で文字を書くと、元々の木が持っている魔力と違う魔力が注ぎ込まれた事に対して拒否反応が出る様にしたのよっ。それを元々の細胞のリンクを使って端末であるその板に伝わる様にしたんだよっ!」
「拒否反応ですか?」
「アレルギーを持っている人が、皮膚にアレルギー物質をくっつけると腫れる反応が出る様なものか、それをこの木の板とリンクさせてるからメッセージが届くってわけだな?」
「そうゆう事だよっ!」
「全然分かりません......」
カンナは、その後もリリーに質問していたが答えにはたどり着かなかった様だ。
元々、情報を飛ばす。という概念があるか無いかで理解のしやすさが違うのだろう。
「おバカで、弱い英雄様に理解できて、私が理解出来ないなんてなんたる不覚でしょうか…」
「おいおい、分からないからって俺に当たるなよ」
「悔しいです」
「まぁ、原理が理解出来なくても使えれば良いよねっ、本当はその木の板からもこっちに情報を送れる様にしたかったんだけどっ、木の魔力がそんなに大きく無いから、どうしてもこっちからしか送れなかったのっ……」
「まぁ、リリーには『自然探索』で基本的にこっちの状況が分かるだろうし、こっちから送れなくてもそこまでの影響は出ないだろ。ここまで出来ただけでも上出来すぎる。ありがとな!」
凌多はそういうと、リリーの小さい頭を撫でてやった。
リリーは体をくねらせながらも喜んでいる。
「 凌多とリリーがいちゃついてやがるですぅ」
「おいおい、イラついてるからって、メリアの真似して良いのか? 喋り方バカにしてたって言い付けるぞ」
「バカにしてないですぅ!」
カンナは自分が理解できなかった事に相当イラついているのか、今まで見せた事も無いようなキャラになってしまっている。
「そういえば!」
拗ねていたカンナは、何かを思いついた様に声を上げると、リリーに質問した。
「これの名称はどうするんですか?」
「えっ、別に気にした事なかったけどあったほうがいいかなっ?」
「木の板では女王様達に説明する際、分かりづらいので考えてください」
「んっ〜、じゃあ、手紙板でっ!」
この時、二人はリリーのネーミングセンスの無さを初めて知った.....
手紙板というネーミングセンスは置いといて、手紙板という有用性の高い物が使用可能な状態になった事を知った凌多とカンナは、小屋から王城へと戻ろうとしていた。
「手紙板はもう使えるみたいだし、修練場でも行くか」
「お付き合いしましょう」
カンナは 凌多が強くなりたいという事を知っている。その感情の根源は復讐だ。諸刃の感情である。
その為、一度は鍛錬に付き合わないなんて例もあげてみたわけだが、側にいなければ何かあった時に対処できる人がいない。
凌多の意思が変わらないと悟った瞬間から、鍛錬の際には側にいる事をカンナの中で決めていた。
そんな感情で鍛錬に付き合うと言っているカンナの事など露ほども知らないリリーは、明るさ満載で絡んで来る。
「 凌多と二人っきりになろうなんてそうはいかないわっ!」
出ようとした扉の前にふわりと浮かんでいるリリーは前で腕を組み、ドヤ顔で凌多とカンナに向けて言い放った。
「昨日の事件は私のミスだったわっ!」
「何も事件なんか起こってねーよ」
「起こってたのっ! 膝枕されてたじゃないっ!!」
「あれは、カンナの気遣いだ」
本当はカンナが 凌多から意思を聞き出そうとして行動した訳なのだが、本当の事を伝えてカンナとリリーが揉め出しても面倒なので、柔らかい表現でリリーに伝える。
「私は 凌多とカンナを二人っきりにしない方法をこの仕事を始める前から考えてたのっ!」
「別に二人っきりになりたくて鍛錬してる訳じゃないぞ」
凌多の言葉は有頂天のリリーには届いてなかったらしい。
リリーは構わずに言葉を続ける。
「仕事を終わらせちゃえばいいんだって!」
凌多とカンナは首を傾げている。
凌多がリリーに頼んでいた事をカンナは要点だけ知っている。どうやって実行に移すのか分からないが、戦争が始まる直前になって出来るか出来ないかの瀬戸際だろうと、勝手に想像をしてしまっていた。
しかし、リリーはカンナの想像をはるかに上回っていたようだ。
「まさか、もう終わったのか?」
「うんっ、誰が指揮とってると思ってるのっ?」
ますます憎たらしい顔でドヤ顔をしているリリーは、倒れていた5人のエルフを指差す。
「この優秀な部下エルフが5人もいたから予想よりももっと簡単に終わったわよっ!」
「まるで、上司に使い潰された部下みたいな扱いになってるけど......」
「どんな仕打ちを受けたのでしょうか、可哀想です」
リリーは熱が入っているのか、二人の会話を遮るように話し始めると、ドヤ顔のままに言い放った。
「彼らのおかげで1日で完成しちゃったわっ!『サプライズ落とし穴作戦」と『幻惑の戦い大作戦』の両方ともねっ!!」




