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36話 膝枕の攻撃は絶大であると知りました。




side:カンナ



 カンナは修練場へと向かっていた。



「はぁ……気が乗らないですね」



 凌多(りょうた)さんに無理矢理に近い形で剣を教えることにさせられてしまった。私は先日感じた()()()の答えをまだ完全に出せずにいる。


「少し心配ですね、エルフの事なので凌多(りょうた)さんにはもっと楽な気持ちで居て欲しいのですが.......」


 違和感の正体は十中八九あまり良くないことだろう。実際、戦争が始まるまでに後、1ヶ月近くある。こんな状態のままの訳にはいかない


 協力を勝手に仰いで、その上、迷惑までかけているとすれば、エルフの失態だ。いや、もう既にかなり迷惑を擦りつけているのだが、これ以上は私のプライドが許さない。


「タイミングを作って聞こう。何を考えているのか? 今の凌多(りょうた)さんはらしくない」


 修練場が近くなると、中心部分で剣を振るっている凌多(りょうた)さんを見つけた。










 衣服が汗にまみれている事がこの距離からでも十分に見える。

 かなりの時間、剣を振るっているのだろう。


 凌多(りょうた)さんがコチラを見つけた事が分かったので、挨拶を交わした。


「おはようございます」


「おはよ、思ってたよりも来るのが早かったな」


「それはこちらのセリフです。いつから剣を振るっているのですか?」


「あぁ、早く起きて、やる事が無くてな」


 早く起きたからといって、この時間から剣を振るう必要は無いだろう。剣を振るうためにこの時間に起床した様にしか思えない。


「それで、()を教えて欲しいという事でしたが、()()()()()()をお(おし)えすれば良いのですか?」


 剣と言っても種類がある。


 剣はただの刃物だ。それをどの様に使うか、何を目的とするのかによってどの様な剣を教えれば良いのかと言う事は大幅に変わって来る。


「正面での対人戦が出来るようになりたい」


「そうですか…..分かりました」


 予想された答えの一つではあったが、正直、難しい注文である。


 剣を教える事は簡単な事では無い。


 これが、魔法を中心に使って接近戦にもつれた際の護衛術として使う事や、エリスさんから学んでいた魔法によって気配を潜めて急所を一撃で落としに行く様な戦法。正面からの戦闘でなければ要点を絞って伝えればなんとか形になるかもしれない。


 しかし、正面からの対人戦は少し異なる。こればかりは、()()()()()()が物を言う。


 本人の資質なども関係して来るが、資質を感じる事が出来るところまでそれなりに時間がかかる。1ヶ月は短すぎるのだ。


 私ですら、まだまだ修行の身であり、成長の途上であると自分自身で実感できるレベルである。


「どうすれば良いでしょうか………少し考えさせてください」


 短い期間で出来るだけ形にするにはどうすれば……..と考えていると、凌多(りょうた)さんからの提案がなされた。



「いちばん手っ取り早い方法でやって欲しいから、体力の続く限り俺と模擬戦(勝負)をしてくれないか?」














「はぁ、はぁ、はぁ、悪りぃ、もう一本頼めるか?」


「分かりました。お相手しましょう」


「サンキュー、行くぞ」


 凌多(りょうた)さんは、真っ直ぐにコチラへと向かって来る。


 魔法は纏っていない。この鍛錬では魔法を使わずに純粋な剣のみで勝負を挑んでくる。

 目の前で深く踏み込むと、そのまま重心をかなり下げた状態で横薙ぎに剣を振るってきた。


「甘すぎです」


 私は、単純すぎる動きに対して一歩後退すると剣は空を切った。そのまま連撃を仕掛けようとしたのか、返す剣で私の胴体を狙って来る。


「剣での応戦は、次の動作への布石(ふせき)をどれだけ打てるか、詰みの一手を間違えない事が重要です」


 必要な情報を伝えながらも私の体は、後退した足で踏ん張りを効かせて反動を用いて前に出る。


 剣が胴体を捉えるよりも早く私の剣が凌多(りょうた)さんの胴体にめり込んだ。


「ぐわっっっ!!」


 寸止めでは無く、当たったところで止める。


 これは私の指導方針からやっている事では無く、凌多(りょうた)さんから頼まれてやっている。


 凌多(りょうた)さんは、脇腹を抑えながら地面に突っ伏した。


「はぁ、はぁ、はぁ…….」


 当てるだけと言ってもかなりの痛みが走る。戦場で何度も体感した痛みだ。この衝撃で突っ伏してしまうと、そのあとの本命の攻撃が当たってしまう。


 するとどうなるか? 簡単だ。命を失う。


 打撲系の攻撃であれば、運が悪く無い限り、命まで失わない。


 しかし、剣での斬撃、魔法が当たると運が良くなければ基本的に死に直結してしまうだろう。


「すぐ立ってください。このくらいで倒れていては、戦場などとてもではありませんが出られません」


「クッソ、ペッ……」


 凌多(りょうた)さんは内臓系に衝撃が走ったのか、口から血を吐いた。


「もう一本だ」


 私は、言われるがままにもう一度構え直した。


「とりあえず、次で最後にします。休憩を挟みましょう」


 そう言うと、今度は私から仕掛ける。木刀であるため、普段使っている大剣とは違った使い方が出来る。

 

 腰がけの鞘にしまった様な状態で保持するとそのままに凌多(りょうた)さんに向かって突進していく。


 凌多(りょうた)さんは、私から見て左側へと大きく跳躍した。


()()です」


 私は小さく告げると、そのまま凌多(りょうた)さんがいた場所を走り抜けて、反転し、凌多(りょうた)さんと向き合った。


「その方向への攻撃は威力が落ちると良くわかりましたね」


「そうだな、剣を腰にぶら下げている鞘から抜いてのからの抜刀は方向性が限られる。一応俺の普段使っているのは”刀”だからな、森の中で散々痛い目にあった」


「そうですか、ではこれはどうでしょう」


 そう告げると、凌多(りょうた)さんに向かって大きく跳躍をした。剣は上段に構え勢いそのままに凌多(りょうた)さんに向けて振り下ろした。


 受け止めようとする凌多(りょうた)さんは、私の剣の重さに耐えきれずに、地面に仰向けに倒れた。首元に剣を突きつけると


「ここまでですね」


 そう告げる私の声は届いているのか、届いていないのか、疲れ果てていた凌多(りょうた)さんは仰向けになったまま


「はぁ、はぁ、ありがとうございました」


 と告げるとそのままに倒れていた。












 side:凌多



「気が付きましたか?」


 柔らかい感覚が俺の頭を包んでいる。


「すまん、気を失っていたか?」


 鍛錬を二人でしていて、最後の勝負で上段からの剣を受け止めきれなくてやられたのは覚えているが、それ以降の記憶がない。


「昼食にしましょうか?」


 凌多(りょうた)はカンナからの言葉を聞いて、起き上がろうとするとヤケにカンナが近いことに気づいた。


 起き上がってからわかった事はかなり恥ずかしい状況に置かれていたという事だ。


「私の膝によだれを垂らされた時は殴ってもいいかなと思ってしまいました」


「まじか!! すまない。そんなことをしてしまったとは………」


「ふふっ、嘘ですよ。今日は凌多(りょうた)さんをイジってくれる方がいないので、私がいってみました」


「ま、まじか、それなら良かった。膝枕してもらってよだれ垂らすとか恥ずかしすぎる」


「垂らしていないのに顔は()()()なんですね」


()()とかされたの初めてだからな!!!!」


 開き直って、大きな声を張ってしまった。再び、恥ずかしさが襲って来る。


 カンナは俺をイジって満足したのか、お弁当の様な包みを差し出して来た。


「とりあえず食べましょうか?」


「そ、そうだな」


 二人は昼食を取りつつ、午後の予定について確認し合った。


「なるほどな、そうしたら午後も付き合って貰っていいか?」


「分かりましたが、条件が一つあります」


「なんだ?」


「何故そんなに急いで強くなろうとしているのですか?」


 答え方に迷った。そのまま直接伝える事はできない。


「言っただろ? 戦争の後に使うかもしれないんだ」


「何に使うのか言われていません」


「それは言いたくない……」


「そうですか…..」


 二人の会話はそこで途切れてしまった。


  昼食を食べ終わったタイミングでカンナは立ち上がると、俺の背後に回った。そのまま、首に腕を回すと後ろに引き倒された。


「うぉぉぉっ!」


 後ろに倒れこむと、そこには柔らかい感覚が。


「何をするんだ!」


 俺の頭は再びカンナの太ももに乗っかっていた。


「普通に話しても教えてくれないと思ったので、こうしたら話してくれるかと思いまして」


「強引だな、強気な女性は好きじゃないから喋らないぞ」


「そうですか? 顔を()()()にされて言われても伝わって来ませんが…….」


 カンナはそう言ってクスッと微笑むと


「話してくれるまでここから動けませんよ、リリーさんも帰って来てしまうかもしれません」


「強引極まりないな」


「そうですね、でも、どんな手を使っても聞き出さないといけないと私の勘が告げてるんです」


「そうかよ」


 そっぽを向いてみた。抵抗を示した。ちょっとすれば諦めてくれるだろう。


「そうですか、そうしたらこの先までしなければなりませんね」


 カンナは俺に顔を近づけてくる。


 ゆっくりと近づけて来ているのだろうが、この時間はかなり長いものに感じられ、このままだとカンナの口が俺の口に当たってしまう。


「わかった。話すからやめてくれ!!」


「そうですか? 残念ですね」


 そんなことを言いながらカンナは顔を離した。


「一つだけ質問だ。なんでそこまでして聞きたいんだ?」


「勘ですよ、あとは先ほどの鍛錬の際に交わした剣から暗い気持ちが伝わって来てしまいました。凌多(りょうた)さんが暗い気持ちになる理由なんて、私たちの失態でしかありませんからね」


 そういうと、カンナは暗い影を落としながらも言葉を続けた。


「本当に申し訳なと思っているんですよ、勝手に協力して貰って、その上、凌多(りょうた)さんの作戦に反対して、少し反省しました。」


「いや、別に俺は俺が思うがままに動いてるからな」


「そうですか? それにしてはかなり気持ちが悪い方向に入ってる気がします。自分の意思じゃなく動いているようなそんな感覚は昨日から感じていて、先ほど確信へと変わりました」


「そんなことないぞ」


「簡単に言うと、らしくないです………」


カンナはその後の言葉に詰まると、悲しげな顔を浮かべて一言漏らした。



「同じ表情を昔に見たことがあります。凌多(りょうた)さんの今の感情が私の考えとあっていれば、その感情は好きじゃありません。昔の事を思い出してしまいます」








らしくない、らしくないですね。

凌多も、カンナも??


ここまで読んでくださってありがとうございます

次回の更新は水曜日の予定です。

もしよかったら読んでくださると嬉しいです!!

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