35話 凌多の作戦は実行される事になりました。
会議室は静寂に包まれた。
視線は凌多に集まる。
全員が驚きの表情を浮かべる中で唯一、変化させなかったのはリリーだけであった。
「凌多さん、それって本当に言っていますか!?」
カンナが焦りと怒りが混じり合ったようなそんな声を上げた。
全員が確認したかった台詞である。
凌多の真意をカンナが代表して確認した。
それもそのはずだ。いざ、戦闘が始まった時に凌多と行動を共にするのは、カンナとリリーである。
リリーはゆったりとした様子で話を聞いている事から既に話を聞いていたのだろう。
魔族と正面から戦う軍隊として連れて行くのが10人だけ........
カンナとしては自分の命もかかっている。当然、許容できる話では無い。
カンナの発言に対して凌多の返答は酷く冷めたものであった。
「本当だぞ? こんな時に嘘ついたって仕方ないだろう?」
凌多は何を言っているんだ? とでもいいたげな顔をカンナに向けた。
そんな凌多の自信満々の開き直った様な態度に、一瞬自分が間違っているのかと思ったが、やはりどう考えてもおかしな話である。
カンナは何をどう聞いたらいいのか迷っていると、シルベルが凌多に対して疑問を投げかけた。
「それって、何かしらの策があるってことでいいのよね?」
「あぁ、もちろんだ」
「お聞かせ願えるかしら?」
「面倒だから、要所だけ話すぞ.......」
凌多は作戦の内容の要所を簡単に纏めて、全員に説明をした。
その作戦は、凌多とリリーありきのものであるため、誰でも行うことが出来るような作戦では無い。魔族にとっては予想外の展開であるだろう。
「だから地形の確認してたんだねっ、納得したよっ」
リリーは、知っているものであると思っていたのだが、今聞いた話であるらしい。
いつもであれば慌ててるであろうリリーが、今日はおとなしく凌多の成すことを聞いている。
「という事は、凌多さん一人で考えたんですね.........」
カンナはそんな独り言を呟いてしまった。
カンナは凌多に対して今までバカであるとまで思った事は無い。
しかし、何かを生み出せるようなタイプには見えなかった。
そんな凌多がリリーにも相談せずにこのような作戦を考え付くなんて......
カンナの驚きなど、つゆ知らず。
その作戦に賛成を示したのは最年長の二人であった。
「あらあら、その作戦は面白いかしら」
「うむ、一番効率が高そうだ」
「部隊の10人はカンナちゃん以外どんな子達がいいのかしら?」
「逆にこちら側が邪魔になる事はないか?」
作戦に乗り気になっている2人は凌多とその作戦について細かい内容を詰めていった。
積極的に話を進める2人とは、対照的にメリアとカンナの2人は難色を示していた。
凌多、王様、セフィリエルとは反対側に位置しているため、3人に言葉は届かない程の声での相談を行っていた。
「本当に上手くいくのですぅ?......」
「この作戦だと、勝敗をつける為に必要以上の人数を削ってしまい、不可侵条約を結ぶ事が大変な事に........」
そんな甘えたような事を言っている二人に対してフォローに入ったのは何と、シルベルであった。
王様とセフィリエル、凌多が3人で話している間、逆サイドでは、シルベルとメリア、カンナでの話し合いが行われた。
「この作戦は理に適っているわ。人数の少ない理由は無駄に引き連れない事で、防壁の近辺に少しでも多くの正規の軍を展開することが出来るから、奇襲に対しての対策が立てやすいし、国民も少しは安心するでしょう」
「でも、作戦が成功すれば魔族側の被害は勝敗に必要以上になるですぅ!」
「分かっているわ、彼は覚悟を決めたからこの作戦を提示したんでしょう?」
「シルベル様、どうゆう事か説明をして頂いてもいいですか?」
「恨まれるかも知れない覚悟を決めたって事よ、メリア姉さんは戦線に立つ事が仕事じゃないし、カンナも作戦を立案した事は無かったわね? それなら分からなくて仕方ないかもしれないわね」
「そ、そうですか.........責任が関係してくるのですか?」
「そうね、簡単に言うと責任を背負った指揮官が迷うと、軍がブレる。中途半端な意志しか持っていなければ、中途半端な結果しか生まれないわ」
シルベルは凌多を指差して説明を続ける。
「彼は、エルフでもないにも関わらず、魔族から恨まれて憎まれても、たとえ殺されたとしても、この戦争に勝つ事を覚悟したのよ。全力を尽くしてね...... 」
シルベルの言葉が少し聞こえたのか何事だと凌多はこちらを振り返り、シルベルが目に入ると確認を始めた。
「シルベルも戦線に出るんだろ?」
「そうね、あなたとは違って私は好き勝手に、動こうと思っているわ」
「ガリアル将軍の居場所が分かったら伝えようか?」
「そうね、出来るならばお願いしたいわね、でもそんな約束していいのかしら?」
「俺の考えが正しければ、大丈夫だと思っている.......」
「そう、ならそれで良いわ。別にあなたがどう動こうと構わないのだけどね」
凌多とシルベルの2人しか分からない会話を繰り広げると、最後に返答したシルベルが、冷静なままにクスッと笑うと会話は終了した。
そんな姿を見ていたメリアは声を上げた。
「いつの間にウチの妹と仲良くなってるですぅ?」
「いや、メリア様、あれはむしろ逆かも知れないです…..」
そんな話を繰り広げていると、王様が一つ咳払いを行い、話をまとめた。
「凌多くんとシルベルが前線での攻勢に回り、私達は防壁とその周囲で防衛を担う。大臣、その際に出兵できる人数と武器類の在庫数の説明を、そのほかに..........」
会議ではその後も戦争に対しての事前準備の話し合いが行われた。
数時間を要して、大抵の事を確認し終えるとその後の細かい話し合いについては大臣とそれ以下の者たちで行うので、結果は後日、連絡すると言われた。
王様のかけ声によって解散すると、凌多達一行は、各自の部屋へと戻っていった。
side:カンナ
部屋に戻ると、今日の会議での話を自分なりにまとめ直す。
「意外だったな、凌多さんがあんな作戦考えるなんて.....」
作戦自体はかなり効率的である様に感じた。なにせ、王様とセフィリエルの二人が賛成した程である。
あの二人が揃って褒める事など、私の記憶の中には存在しない。
そんなことを思いながらも、お風呂にでも浸かって気持ちを切り替えようと思っていると、部屋のドアがノックされる音が響いた。
「凌多だ。少し話したい事があるんだが、部屋に入れてもらっても良いか?」
「あっ、はい、ちょっと待ってください!!」
外にいた人物は凌多であった。
凌多の事を考えている時に本人がやって来ると別に何があるわけでもないのに凄く焦ってしまう。
一応、鏡の前で自分の身なりを確認すると、入って良いという事を伝える。
「会議が終わった後だって言うのに悪いな…..お願いしたいことがあったんだ」
凌多はドアを開けつつ、カンナにそう告げると、部屋の中に入って来た。
後ろにはリリーが浮いている。
「リリーさんも来たんですね」
カンナからリリーは凌多に隠れて見えなかったので、何気無くそんな発言をしてしまった。
「どうゆうこと!? カンナは二人が良かったのっ!!」
リリーが、”まさかカンナも凌多の事を”というジト目で私の事を見てくる。
「違いますよ!! 姿が見えなかったので、驚いただけです」
「そうなのっ、凌多ったら女の子の部屋に一人で行くって言うから私が付いて来たのっ!」
「そうなんですね、納得しました。気にしてくれなかった凌多さんには絶望しますね」
そんな事を言いながら、リリーに対して凌多の事は興味がないよと言う事をさりげなくアピールしておく。
「からかわないでくれ、別にちゃんとした話をするから一人でもいいと思っただけだ。他意は無いよ」
凌多と私の会話で満足したのか、リリーは笑顔のままにテーブルの上の果物の盛り合わせを食べ出した。
この後、食事があるというのに大した物だな、と思いながらリリーを見ていると、ものすごい勢いで減っていく。
食事は十分に出てくる為、用意されている果物に手を出した事は無いのだが、全て無くなっているのは、自分がいっぱい食べたみたいで恥ずかしいな、なんて事を考えていると、凌多が話を振って来た。
「それでな、少し真剣な話になってしまうんだが聞いてもらっても良いか?」
「良いですよ、聞きましょう」
私が背筋を伸ばして座ったのを確認すると、凌多は助かると言って本題を語り始めた。
「戦争が始まるまで後、1ヶ月近くある。その間に剣を教えてくれないか?」
凌多の言葉は大きな疑問を私に抱かせた。
「えぇ〜っと、ちゃんと説明してもらっても良いですか?」
私の言葉に対して、凌多はシンプルな返答を返してくる。
「だから、剣を教えて欲しいんだって!」
違います。説明して欲しいのは、理由なのですが……その事を伝えると、凌多さんは、それならそうと早く言ってくれと言ってきました。
リリーさんからの蹴りが凌多さんの頬に突き刺さりました。
当然の対応です。
リリーさんがやっていなかったら、私のストレートが火を吹いていたかもしれません。
私が”理由”を求めるのは当然だと思います。
先程の作戦を実行するのであれば、実際に剣を使う場面が来てしまった時には、作戦失敗だからです。
「何故、剣の練習が必要なのでしょうか? 目の前の戦争に集中するべきであると思うのですが........」
「戦争では、必要ないと嬉しいな、それはその通りだ。でも、戦争後、すぐに必要なんだよ!」
「戦争後ですか!?」
「あぁ、オレの読みが正しければたぶんな、そのための練習だ」
「戦争に向けての準備はどうするんですか?」
「準備はリリーがするよっ! まっかしておいてっ!!」
「そうゆう事だ。正直、あの作戦の時にはオレもお前も必要なくて必要なのはリリーと部下の数人だ」
そう言うと、再び私に対して剣を教えてくれないかと頭を下げてきた。
私は正直、乗り気では無い。
理由は無い。しかし、凌多が今までと変わってしまった気がして、どこか、ズレている様な感覚だ。
しかし、この状況で断る明確な理由を思いつく事も無かった。
「分かりました。明日からお相手しましょう」
「すまない、ありがとう助かる!!」
凌多はそう言うと、果物の盛り合わせ毎リリーを持って部屋に戻る様だ。
「それじゃあ、また、後で食事の時にでも!!」
そう言って部屋を出て行ってしまった。
........違和感があった。
今までの凌多さんから、変わってしまった様な、嫌な気がする。
私の勘違いなのかもしれないが、明日からの剣の練習の際にでも少しずつ分かれば良いな..............
果物の盛り合わせがなくなった部屋には小さな違和感だけが残った。
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