34話 作戦会議は凌多の言葉で静まりました。
首都の観光をしていた3人は大通りに面したお店で昼食を取っていた。
「首都だけあって広くて1日じゃ周りきれそうにないねっ!!」
「そうですね、かなり大きいので魅力を伝えるのも一苦労です」
そう言って優しく微笑むと、カンナは食後のデザートとして運ばれて来た木苺のケーキを頬張った。
「(さっきまで話してた緊張感の無い国民の一人になってるじゃん!!)」
とカンナに対してツッコミを入れたかった凌多であったが、食事中のイジリは虎の尾を踏む場合があるとリリーで経験済みなのでやめておこう。
それにしても、よく食べるな。
リリーの食後のケーキをホールで頬張る姿には、正直ドン引きだ。身体と同じくらいのサイズはあるぞ.....
運動しているから体重なんかは気にならないのかも知れないが、リリーといい、カンナといい、どれだけ食べれば気が済むんだと思いながらも食事の風景を眺めていた。
もし、こんなメンツで旅なんてしたらすぐに食費が尽きてしまうだろう。
そんな事を思いながらも、食事の後の予定として凌多にはやっておきたい事があったので2人に確認をしてみた。
「食べながらでいいから聞いてくれるか、この後、首都の外に出てやりたい事があるんだけど2人も付き合ってくれないか?」
「なんで外に出るのっ?」
「地形を確認しときたくてな」
「地形ですか? それなら王城に資料が沢山あると思うので、凌多さんならそちらを使って頂いても大丈夫だと思いますよ」
首都では、様々な研究を行なっている。
その中の一つとして地形の研究も行われているのだ。なぜそのような事をしているのかカンナには、分からないが、かなりの力を入れて地形や地質の研究は行われている。
実際、温泉を発見したのも、その研究の最中の事であった。
そんな事情を知っていたため提案をしてみたのだが、凌多は困ったような表情を浮かべた。
「うーん、今の俺だと、紙の上で見るよりも実際に確認しながらの方が把握しやすいんだよ。何せ、ほらエルフ秘伝の魔法をかじってるからな」
そういえば、多くの出来事があったために忘れてしまっていたが、集落に残っていたのは、エルフ秘伝の魔法を学ぶためであった。
「なるほど、納得しました。私は大丈夫です。でも、リリーさんはまだ食べ足りないのでは?」
「そうだねっ、まだ全然足りないけどっ凌多が行きたいって言うなら付き合ってあげる!」
「まだ足りないのかよっ!!!!」
凌多はリリーの食欲を見誤っていたらしい。ってか段々に食べる量が増えて来ているのは間違いだろうか?
「何っ、文句でもあるのっ? 昨日は、いっぱい動いたから今日はエネルギーが足りて無いのっ!」
「いつどこで動いたんだよ……」
凌多はリリーの適当な言い訳に対して愚痴を吐くと、屋台でリリーのおやつを買いながら向かう事で了承を得たのであった。
3人は大通りを正門に向かって移動しながらリリー専用のおやつを調達すると、正門を抜けて外へと出た。
「ここからだと、どこが一番確認しやすいかな?」
「私だったら高い所が確認しやすいかなっ! 魔法は使うんだろうけどっ、凌多はまだまだ練習不足だと思うからそっちの方がいいと思うよっ!」
「なるほどな、そうするか」
凌多とリリーは確認し合うと、丘のようになってる場所へと歩みを進めた。
「リリーさん、何か嬉しそうですね!」
カンナの言葉に対してリリーはうんっ! と首を縦に振るとニコニコとした笑顔を浮かべる。
「凌多がイキイキしてるからねっ!」
そう言うと、リリーはフワリと宙に浮かんだままクルリと回った。
「なるほど。でもリリーさん、凌多さんは何故、地形を確認したいんでしょうか?」
「たぶん戦争の時にどうやって使うのか考えたいんだと思うよっ!」
「地形を使うのですか? 私たちがするのは防衛戦です。この場所には森と山しかないと思うのですが……」
カンナが言いたいのは、普通であればこの戦場だと特に仕掛けられるような使い方はできないと言う事だ。
実際に普通のエルフ対魔族の戦争であるならそうなるのであろう。
防壁を使いつつ、圧倒的に攻撃するのが最も簡単だからだ。
首都にはかなり大きな防壁が存在している。戦争において攻城側は防衛側の3倍の兵量が必要となると言われている。
この状況は甘い事を言っていられる状況ではないものの、賭けに出るよりは、定石を打った方が良くなりそうである。
しかし、これはリリーと凌多が居なかったらと言う話である。
「簡単に言うとねっ、たぶん私に地形を使った魔法で敵を一掃して欲しいんだと思うよっ!」
「敵を一掃ですか? そんな簡単に?」
「私こう見えても凄いんだよっ!!」
リリーは細い腕に力こぶを作るようなポージングを見せると、凌多から声がかかった。
「おい、遅れてると置いてくぞー」
「待ってよーっ!」
カンナとリリーは凌多に追いつくために歩みを速めた。
カンナはリリーが言った意味をちゃんと理解する事ができずにいたが、作戦会議の時にでも分かるかな、と気持ちを切り替えるとリリーの後に続いた。
地形の確認をするため首都の外に出ていた3人は日が落ちてくるのを確認すると会議が始まる時間の事を思い出し、王城に向かった。
王城の前にたどり着くと、門を潜ったところに仁王立ちで構えているメリアが目に入った。
「遅いですぅ!!」
「遅いって、会議の時間にはまだ間に合うだろ?」
凌多があっけらかんとした表情でそう告げると、メリアは顔を膨らませて抗議して来た。
「会議の方ではないですぅ。朝ごはん食べたら帰ってくると思っていたですぅ!!」
「カンナから、疲れ切ってて動ける状態じゃなかったって聞いたぞ?」
「それは、朝が辛かっただけで、私もみんなと遊びたかったですぅ」
「まぁ、ちゃんと誘ったのに断った方が悪いよねっ!」
「そんな事言われたって、親が他種族って聞いて次の日すぐに遊びに行ける奴なんてこの世にいないですぅ!!!!!!」
そう言えばそんな事もあったなと凌多とリリーは思い出すと、メリアに考えていた事が伝わってしまったのか、青筋が額に走った。
「ふざけるなですぅ!!!!! メリアの人生一番の大問題だったですぅ!!!!!!」
メリアの叫びは夕暮れの王城にこだました。
「本当に全くもう、凌多もリリーもひどい奴らですぅ…..」
ぷんすか文句を言い続けているメリアを慰めつつ、案内をしてくれるというエルフの後を歩いていると、会議を行う部屋に案内された。
凌多は気を引き締めつつ、扉を開いた。
会議のために訪れた部屋を開けると、そこには精魂尽き果てた王様とセフィリエル、シルベルがすでに到着していた。
「お父様はなんでこんな状態になってるですぅ?」
メリアが少し困惑したような声で二人に尋ねると
「あらあら、シルベルちゃんの結婚をゴネてたからちょっとだけお説教したかしら」
セフィリエルのお説教という言葉にリリーが反応した。
「そうなのっ? 良く分からないけど参加したかったかもっ!」
「次のお説教の時には呼ばせてもらおうかしら?」
「お願いっ! 凌多の時の参考にしたいからっ!」
「おいおい、なんで俺がお説教されなきゃなんねぇんだよ…….」
呆れたように凌多が言い放つと、凌多たちが部屋にやって来たことにやっと気づいたのか、王様は席に座りなおし、コホンっ、と咳払いすると格好を正してから席に座るように促して来た。
「そんなことしても、失ったものは取り戻せないですぅ…….」
メリアの言葉は悲しみに溢れていた。
会議を始まる前に確認したい事があると言って、王様は凌多に昨日の夜の話についての答えを迫った。
「それでだ、凌多くん君の答えはどうなったかな?」
王様はそれなりの緊張感を含んだ声で凌多に問いかける。
凌多は、王様の質問に対して、少し口角を上げながらも答えを返した。
「ああ、答えは協力のままでいい。ちゃんと仕事を出来るように今日も下見をして来た所だ」
そう言い放つと、少し口角が上がっているくらいの表情から、ニヤケが止まらないくらいの表情に移り変わって言葉を続けた。
「根本の目標が達成できれば、やり易いようにやらしてもらいたいんだがそれでもいいか?」
王様に確認を取った。
凌多は何かを脅すような、自分の我儘を人に押してけている時の様な表情を浮かべている。
「うむ、そうだな、君がどの立ち位置に着くか、この後の会議で話し合った後、その範囲内であれば良いだろう」
そう王様が飄々とした表情でそのように告げると凌多は納得した顔をして席に着いた。
王様は協力の確認を終えると、軽く頭を下げて「よろしく頼む!!」と正式な協力を申し出た。
形ばかりのやり取りが王様と凌多の間で終わると、メリアが疑問を口にした。
「なんで今更、凌多に確認を取ったですぅ?」
メリアの発言に同調したのはカンナだけであったが、王様がそれに答えた。
「一応な、王である私が協力の要請をしない事にはちゃんとした要請をした事にはならないだろう。そのために昨日の夜に男同士の語り合いをしたのだ」
そう告げると、メリアは「あぁ〜、なるほどですぅ」と納得した様な発言をしながら背もたれに深く寄りかかった。
「それでは会議を始めようか」
王様がそう告げると、部屋の外で待機していたであろう大臣が会議室の中に入って来て現状の敵軍の様子を含めた戦争に関した様々な情報が提示された。
敵軍の人数は正確なものが分かっていないらしい。しかし、エルフは国の規模に対してあちらの魔族は部族がいくつかくっついた規模である。
一応戦争とは言っても、防衛側が有利なこの状況で、人数差もある。本来であれば勝機はかなり高いらしい。
それにも関わらず、この数戦の敗退は今までの戦争には無かったものをあちらは所持している。
ガリアル将軍だ…….
普通であれば、一人の有能な指揮官が増えたところでこの規模の戦争でそこまでの影響は無いらしいのであるが、何故か魔族側に生まれている、死をもろともしないような士気の高さと、ガリアル将軍単体での強さによって国にまで攻め込まれている様な状況に陥ってしまっているらしい。
次に過去の敗戦がどの様にして起きてしまったかという事を説明された。
「簡単に申し上げますと、士気の高さを利用してこちらの軍との正面衝突をしている最中に、ガリアル将軍を含んだ100人前後の精鋭部隊による奇襲を仕掛けられて戦線が崩壊、その後立て直す事が出来ずに敗走という事が敗戦の流れになります」
「うむ、同じ状況で何度もやられるとは考えにくいが…..」
「本来であれば対策を講じるのですが、ガリアル将軍の動きがどうやっても掴めず、いつの間にか戦場にいるという事が何度もある様で……」
本来であれば、あってはいけない状態なのだろう。
王様の苛立ちを含んだ確認に対して大臣は申し訳なさそうな声でそう告げた。
「何か対策をしなければならないか……」
大臣の様子からこれ以上虐めても何も出てこないと思ったのか、王様がそう告げると、思わぬ方向から声が聞こえた。
「その事なら俺とリリーで何とか出来ると思うぜ、何せエルフ秘伝の魔法を教わったからな」
自信満々に言い放つと、リリーの探索魔法を見た事のあるメリアとカンナが同意した。
どのような魔法かリリーが説明すると、大臣が納得の声を上げた。
「おおっ、それなら何とかなりそうですな」
「実際にガリアル将軍の対応はシルベルに任せれば良いんだろ?」
「ええ、任せてくれて構わないわ」
シルベルがそう言うと、その後の流れに関しては前々からセフィリエルとメリア達によって検討されていた案が採用された。
「凌多くんには前線でカンナと共に戦ってもらいたいかしら。何か考えているようだけどどれくらいの軍勢が欲しいかしら?」
セフィリエルからの言葉に凌多は少し悩むような表情を見せると、口に出したのは驚くべき数字であった。
「10人だ!!」
会議室は静寂に包まれた。
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