表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/41

33話 凌多の決意は思わぬ方向に決まりました。



side:凌多



「エリスを殺したのはシルベルが結婚したいと言っている()()()()()()だ......」


 俺は言葉を失った。



 一番最初に浮かんだ言葉は”()()()()()()()()()()()()()”という事だった。


 王様は協力して欲しいと言っているにも関わらず、協力を打ち切りたくなる言葉を俺に告げた。

 最も単純な言葉で表すとするなら()()()()だ。


 こういう時に限って頭は回る。

 シルベルが結婚するのが嫌だと言っていたな、確かに俺が王様側に付けば結婚を阻止することが出来るかもしれない。


 しかし、そうするのであれば、俺ではなくセフィリエルやメリアの意見を変える方が結婚を阻止させる確率が上がるだろう。


 ()()()


 王様は意味の無い事をしない気がする。ただの勘違いかも知れないが、この場で意味のない事を俺に伝える必要がない。


 エリスを殺した張本人の名前を聞いて、すぐに考えるのが王様の言葉の()()を探ろうとしている自分が嫌になる。

 


 ”俺は何も出来ない”


 知っていた。今でも思っている。


 ”僕には何もない”



 自分が一番気にしている事を突きつけようとしているのか?

 俺には何も無いし、何も出来ないという事を自覚させようとしているのか?

 お前の協力は必要ないと暗に伝えようとしているのか?



 グルグルと回る思考の中に答えが見つからない。出てくるのは疑問ばかり、答えには辿り着かない。


 気がつけば、シンプルな疑問を王様にぶつけていた。


「何故、その話を俺に聞かせたんだ?」


 椅子に腰をかけている王様は、厳しい表情を浮かべながらも簡潔に答えを述べた。


「隠し事をしたまま協力しろなんて王である私が、申し出る訳にはいかないだろ」


「そんなもん、こんな状況なら隠したまま、()()()()ってことにしていれば良いじゃねーか!!」


「そんな事は出来ない。国のトップとして戦時には()()を尽くさなければならないからな、どこかでこの情報を知った君がシルベルに対して離反するかも知れない。戦争が始まってからコトが起こってしまえば勝率は下がってしまうと言う建前もある。が.......基本的には最初に伝えたことが全てだ」


 そう言うと、王様は席から立ち上がり窓の外を見ながら俺に二択を迫った。


「君に選択して欲しい事がある。一つはこの事を知った経緯を聞かずに協力せず、この国を去る。二つ目はこの事を知った経緯を聞いてから協力するかしないかを選択する」


「全然理解できないぞ.......」


 この二択の意味は何だ? 分からないが答えを出す以外の選択肢は無い。


 事の大きさに驚き立ち上がってしまっていたが、席を自分の元にたぐり寄せるとその席にドカッと座った。


「そうか、ありがとう」


 話を聞くという事を態度で示した俺に対して王様は小さく礼を告げると、事の経緯について語り始めた。


「この情報は先ほど話に出た伝令が命を賭けてこの王城まで届けたものだ」


 王様は、集落に魔族が攻め込んできた時の事を踏まえながら話を進めた。







 話の要点をまとめると、伝令が生き残ってこの場所までやって来る事が出来たのは、エリスが伝令の逃走を手伝った事が要因らしい。


 本来であれば、逃走途中で殺されてしまいそうな所を自然の力を纏わせ出来るだけ同化させる事によって、何とか敵の包囲から抜け出す事に成功したらしい。


 また、包囲を完了させた後、ガルベル将軍は教会に立てこもった集落の民に対してすぐに戦闘に入るのではなく選択を迫ったらしい。

 ”投降すれば命までは奪わない”そんな言葉をかけていたが、参謀によって将軍の言葉を無視して総攻撃が加えられた。そこからは戦闘状態になったらしい。


 エリスが全員を庇いながら戦闘を行い、周囲に展開していた部隊の大半を殲滅したが、体力の限界を迎えそうな所で()()()()()()()()()の戦闘が始まったらしい。


 エリスと部隊の兵士との戦闘中、将軍はエリスとの戦闘によって燃やされ、地中に埋められた仲間を見ながらただ立ち尽くしていた。言葉も出せずに涙を流しながら。


 何故そんな状態になったのかという事は分からないが、参謀によって手を出す事を止められていたらしい。


 その後、エリスとの戦闘によって勝利した。エリスとの戦闘中も涙を流していた。

 エリスとの戦闘が終わり勝利した後もガルベル将軍の瞳から溢れる涙は止まらずに流れ続けていたらしい。


 伝令は、エリスの最後(戦闘の結果)を見届けると死体に混じって逃走し、王城まで命からがらたどり着いた。










「話はこれで終わりだ。協力するかしないかは、君の意思に任せる。もちろんこちらの不手際だ。報酬の件に関しては戦争が終わってからなら協力をしなくてもここまで来てもらって事の代償としてお支払いしよう。」


 王様はそう言うと、俺に対して答えを迫った。


 答えは既に存在示されている二択だ。協力()()のか()()()のか、しかし、その二択の選択はどうやっても今の俺に出すことは出来ない。感情が混ざり合って今の自分がどちらを選択すれば良いのか全くと言って良いほどに分からない。



「今は、答えを出せない......考える時間をくれ」



 俺が示せる答えはこれ以外に思いつくことはなかった。


 時間で解決出来るようなものではないことは分かっている。自分の感情的な問題だ。

 誰かに相談した所で最後の答えは自分で出さなければならないだろう。

 

 分かっていながらも、今の自分が答える事は到底出来る事では無かった。


「分かった。明日の夜に予定されている会議までに答えを聞かせてもらいたい」


 そう言い放つと、王様はゆっくりとした足取りで部屋から出て行ってしまった。


「どうすりゃ良いんだよ......」


 頭を抱えて小さく呟いた。









 気がつくと、部屋を出て中庭のようになっている場所へと来ていた。

 部屋から出たのはリリーに見られたく無かったからだ。今までも散々に迷惑をかけて来たのにこれ以上リリーに迷惑をかける訳にはいかない。


 中庭の中心には噴水があった。淵に腰をかける。


 王城は最低限の灯りだけを残し薄暗くなっている。


 空には満天の星空が浮かんでいる。

 こんな感情でなければ、今まで見た事もないほどの星空に心が躍っていたのかもしれない。


「こんな所で何してるの?」


 俺の目線の先には、髪が濡れ風呂から上がったであろうシルベルが居た。


 ()()()


 リリーから逃れるために部屋から出て来たっていうのに、今の悩みの原因と出会ってしまうなんて.......


 腹の底が熱くなる。


「私は、お風呂の後はいつもここで涼むのよ、この場所って風が流れてい......」


 何か言っている。

 そこまで喋った事のないシルベルが話しかけて来ているという事はとりとめのない世間話なんかを俺に持ちかけて来ようとしているのだろう。


 俺が今どんな感情でお前の前にいるのかも知らずに......



()()()()()()!!!!」



 考える前に自分の気持ちがそのまま口から溢れ出してしまった。


「何のことを言っているのかしら?」


 シルベルは表情を変えずに仏頂面(ぶっちょうつら)のままに疑問を返して来た。



「なんでっ......なんで()()()()()()との結婚なんだよ!!」


 シルベルが結婚しようと思うのがガリアル将軍で無ければ、こんな感情に俺がなる事はなかった。

 そもそも、魔族であるガリアル将軍の事など、シルベルはそこまで知らないはずだ。なのに何でそんなにすんなりと結婚相手を、自分との間に子を成す相手を決める事が出来るのか俺には()()()()()()


「どうゆう事なのよ、いきなりじゃ分からないわ、何があったのか説明して欲しいわ」


 そんな悠長(ゆうちょう)なことを言ってくるシルベルに対して、先程、王様から言われた事をそのままに伝える。

 そしておんなじ言葉をシルベルにぶつけた。


「何でガリアル将軍じゃないといけないんだ......魔族なら他にもいるだろう!!」


 シルベルは言葉を探すように、顎に手を当てるような形で俯いた。

 しばしの間そうしていたシルベルであったが、自分の中での答えが見つかったのか、顔を俺に真っ直ぐ向けて目が合うと、口を開いた。



「理由なんてほぼ無いに等しいわね、私が良いと思ったからからよ」



 俺は感情が爆発した。



 シルベルの胸ぐらを掴むと、感情のままに言葉をぶつけた。

 何を言っているのかは俺にも分からない。頭は回っていない。想いをちゃんとぶつけられているのかも分からない。


 しばらくそうしていたのかもしれない。息が途絶え途絶えになって、一度も表情の変化の無いシルベルを見て、俺は手を離した。


()()()()()?」


 シルベルはそんなことを言って来た。


 返す言葉は見つからない。何故、殴られようとしているのか分からない。


「あなたの大切な人(エリス)を奪ったような男と私を結婚させるために協力させられているっていうのに、あなたの想いはそんなもんなの?」


 シルベルは冷めたような言葉で告げる。


「私は、誰に何を言われようと、この気持ちを変えるつもりは無いわ」


 言葉を続ける。


「私は、彼と戦ったの。彼は、必死だった。生きることに、守ることに......あなたはどうなの? 今の私の話を聞いても感情を何処かで抑えている貴方の言葉はどれもこれも()()()()()ものばかりだわ」


「俺が?」


 感情的に動いてしまったと思っている俺に対して、感情を抑えている?


「私は、涙を流して他国の、しかも他種族の民を斬り殺す人を初めて見たわ、多分彼は弱い。どんなに戦闘が上手くても、どんなに人を殺す事ができても、彼は弱い。だけど、そんな優しすぎて甘すぎる彼が私は()()()わ。彼と共に生を歩んでみたいと思った」


 シルベルの言っている事は我儘(ワガママ)だ。一方的に自分の気持ちを()()()している。


「今から起きるのは()()なの、エゴとエゴの欲望と欲望のぶつけ合いよ、貴方はどうするの? 私は貴方がどう動こうとも構わないけど、貴方自身の感情に正直になって、欲望に溺れなさい。そのくらいの想いがなければ戦争なんて誰に言われても参加するべきものでは無いわ」



「そんなことして良いのか?」


 俺は戸惑ったが、言っている意味がようやく分かった。


 常識がズレているのは俺だ。この世界は()()()()()()()。そんな世界において、我儘(ワガママ)も、自分の欲望も無ければ、生きていく意味もやりたい事も執着だって生まれない。


 異世界(この世界)に来てから、やらされてばかりの俺は、()()()()()


 いや、この世界においての事だけでは無いのだろう。


 日本にいて加藤家の家族に生まれ落ちてから、これだけは譲れないと思った事も、我儘で他人を傷つけてしまったとしてもやり遂げたいと思った事なんて、一度も無いのかも知れない。いや、一度もなかったな.....


「そんなに自分のやりたい事を正直にやっても良いのか?」


「そうよ、当たり前じゃない。()()()()()だもの、誰にも縛る事は出来ないわ」


「....... 分かった。」


 覚悟を決めた。やりたい事は元々あったのかも知れない。


 これは、普通に考えればいけない事なのかも知れない。でも、今、俺は()()()()()()()()と決めた。





 この戦争は、エルフを救う為の戦いじゃ無い。




 全ての元凶を見つけ出して殺すただの ”()()” だ。

 

 





 

 






 軋むベットの上に、熱い吐息が漏れていた。


 何も知らないものが聞けば奇声にも聞こえるような声が部屋中に響いている。

 

 次第に軋むベットの音が早くなった。

 大きな軋む音を最後に、荒々しい息使いは次第にゆっくりなものになった。


「あらあら、私を遠ざけていたのに、こんなに求めてくれるなんて思っても居なかったわ」


 毛布に包まりながらもそんな事を言ってくる彼女の言葉に対して、男は答える。


「今日だけは許してくれ......」


 そんな、弱気な発言は、彼女の言葉が皮肉を言っていると分かっての返答だろう。


「あらあら、そんなに彼のことが心配だったのかしら?」


「お前も、いや、お前が一番分かっているのだろ? 彼は昔の俺みたいなものだ。弱いし、壊れやすい。」


「ちゃんと言ってくれないと()()()()()かしら」


 彼女の言葉に、ハァ......とため息を漏らすと、ベットの横に備わっている机の上にあった。水を飲み干した。


「協力のことに関して隠し事をしたく無いというのは本当の事だ」


「知っているかしら」


 聞いていたのか、そう言ったような目線を向けると彼女はペロッと舌を出すと、とぼけたような顔をした。


 男は話を続けた。


「だが、彼の今後のためにも必要と思ったのも理由の一つだ。彼はこの戦争が終わった後にも多くの困難に見舞われそうだ。今回のことは(かて)にしてほしい。そうでも無ければ、この戦争に参加する()()()()が彼に無さすぎる。彼はまだ若い。私たち年寄りが出来る事なら少しでも導いてやらねばならない。困難を目の前にした時、自分という意志が含まれない想いでは()()()()()()()()()()()()のだから」


「あらあら、そうなのかしら.........」



 そう言って彼女は、ベットから起き上がると、カーテンを開き、そのまま窓を思いっきり開けた。



「そうゆう事らしいわ、だから、その弓を降ろしてもらっても良いかしら?」


 窓の外に向かって声をかけた。


 窓の先にいたのは体に似合わないほどの大きな弓を構えて浮いている()()()であった。


 魔法で作られたと思われる弓と矢には誰が見ても分かるくらいに強力である事が見て取れる。


 当然だ。リリーが王様を()()()()ために作り上げた魔法なのだから。



「まだ、信頼した訳じゃないからっ! 凌多の敵は凌多が気付く前に私が()()するって決めてるのっ!!」


「あらあら、そうなのかしら。でも、リリーちゃんが()()()()()()と、凌多くんも()()出来ないかしら」


 セフィリエルの言葉に対して、()()()と顔を背けると、魔法で作られた弓矢を降ろした。

 弓矢は降ろすと共に七色の光の粒子となって消えた。


()()()()()! ちゃんと想いは言葉で伝えることの出来ない王様なんて、王様()()だよっ!!」


 リリーは捨て文句を放つと、ふわりと浮いたままに窓の外の何処かへと消えてしまった。


「あらあら、一本取られちゃったかしら?」


 セフィリエルは意地悪げな顔を浮かべると王様は反論した。


「まだまだ、分かっちゃおらんな、男というものは弱くて馬鹿な生き物なんだよ、一度身をもって経験しない事には何も理解できん」


 そういうと、目の前の王様失格という言葉から逃げようとしたのか王様は、セフィリエルの逆を向いて寝始めようとした。


 セフィリエルはそっぽを向いてしまった王様の背中にもたれかかかると、耳元で呟いた。


「あらあら、うふふっ。12年分を一日で補う予定なんだから、まだ寝かせないかしら」


「はっ!?」


 驚きの表情を浮かべている王様をベッドに抑え込むと


「あらあら、そんな顔してどうしたのかしら? 夜はまだまだ長いわ.......楽しませてくれるんでしょう?」


 そう言うと、二人は体を重ねた。



 





 翌朝、干からび切った王様が寝室で発見されたらしい。

 




ここまで読んでくださってありがとうございます。

かなり物語として盛り上がって来たと思いますので、次話以降もお楽しみにっ!!


感想沢山いただけて嬉しく思っています!!

作者の励みになっています!!

これからも気合を入れて更新していきたいと思っていますのでよろしくお願いします!!


次回の更新は水曜日の朝9時の予定です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ