32話 王様は物凄い爆弾を落としました。
side:凌多
王座での話し合いは、一度解散となり翌日の夜に再び行われる事となった。
理由としては、セフィリエルが考える時間が欲しいと言ったからだ。”例の男”がどのような者であるのか俺は知らないが、頭の回転が早そうなセフィリエルが考える時間を欲しがるくらいに大きな存在なのだろう。
俺からしてみたらエリスが死んでしまった原因の一端を担う男である。
もし、今後エルフと例の男との間での戦いが始まる事があれば、神託なんて物が無くても参戦させてもらうかも知れないな….
何はともあれ、今は目の前の戦争に集中するべきだ。今後これ以上の被害を出す訳にはいかない。
気持ちを切り替えよう。
話し合いが終わった後、凌多とリリー、カンナは食事を取ると、客室へと案内された。
客室へ案内されたといっても客人扱いは凌多とリリーの二人だけだ。
カンナが普段生活を行なっている住居は世界樹の近くにあるらしい。凌多達のお世話係として近くにいた方が良いというメリアの判断で隣の客室にいてくれるそうだ。
「悪いな、自分の家で寝たかったろ」
普通だったら一番ゆっくり出来る場所がいいに決まっている。自分達が無知だと言っても、別に部屋で大人しくしているくらいは出来る。
メリアが気を使ってくれたのであろうが、カンナ的には面倒な仕事を時間外に押し付けられた様な気分だろう。
そんな事を考えて声をかけた凌多であったが、カンナからは予想外の答えが返ってきた。
「そんなことはありませんよ、国に仕える者に支給される住居ですので小さいですから。こちらの方がゆっくり休めそうです」
「そうか、それならまあ良かったのか?」
「ええ、リリーさんが作ってくれるというお風呂にも入っていいという事だったので良い事づくしです!」
そう言って微笑むカンナは、とても楽しげな表情をしている。
今まで一応護衛という仕事をしていた為に気を張っていたのだろう。メリアを国に送り届けた事によってどこかやりきった様な気分であるのかも知れない。
「そうだねっ、お風呂に入れるのは嬉しいねっ! でも結局話はまとまらなかったねっ…..」
「まぁ、一触即発の状態で話も出来なかったんだろ? そこから考えたら結構な進歩な気がするぜ」
「そうですね、女王様に来て頂いて本当に良かったです」
確かに女王様がいなかったら話はこじれて大変な事になってしまっていただろう。
神様からの依頼は王様とシルベルとの両方がハッピーにならなきゃいけないとか言ってたな….
今の状況でも大変なのに、これ以上の状況になったら手も足も出せないぜ、今の状況でさえ俺が出来ていることがあるのか不安しかないっていうのに…..
「凌多さん顔がこわばっていますよ、せっかくの休めるタイミングなのですから少し気を楽にしてみてはどうですか?」
「気をつけてみるよ」
いきなり向けられた微笑みに、そっけない返事を返してしまった。
カンナはやはり俺の友人の柑奈に似ている。
気を張っているときの顔しか見ていなかったので気にならなかったが、普段の顔は同一人物だろと言ってしまいたくなるくらいだ。
そちらの疑問も頭の片隅に置いておこう。どこかに何かしらのヒントが転がっているかも知れない。
エリスが知っていた様に他の人が俺に似た人の情報を持っているかも知れない。
そんな事を考えていると、客室の前にたどり着いた。
リリーは、俺の表情からカンナのことを考えていることを察したのか、早く部屋に入る様に促しては、カンナにまた後でと別れを告げた。
別に気になって考えているだけで好意とかではないのだけどなぁ、なんて考えながらもリリーによって部屋へと押し込まれた。
客室として凌多とリリーにあてがわれた部屋はかなり豪勢なものであった。
集落と比べてベットはふかふかで、テーブルの上には果物の盛り合わせが置かれていた。
「やったー、食べ放題だねっ!!」
「さっき散々食ってなかったか?」
リリーは先ほどの食事で料理長が驚くほどの量の食事を取っていた。
料理長はリリーの食べっぷりを見て明日は満足させることが出来るくらいの食事を準備しますよとか息巻いていたが、普通に考えて食べ過ぎだ。
先程の夕食で、リリーは常人の5倍近く食べていただろう。それに集落に来た頃よりも食べる量が増えている気がする。
エルフの国では知り合いが多いから良いものの、今後のことを考えるとできるだけ控えて欲しい。
「そう言えば、この後お風呂に入るんだったねっ、その後の楽しみにしよっ! 凌多っ、私がお風呂に入ってる間に食べちゃダメだよっ!」
「食べないわ! 食事の後にデザートまで丁寧に出てきたろ、これ以上はいらないわ!」
そんなやりとりをしているとドアがノックされた。
「失礼するわね、取り込み中じゃないと嬉しいかしら」
「取り込み中って、何もしないわ!」
「あらあら、良いタイミングじゃなくて残念かしら」
凌多をおちょくった様なことを言いながら部屋に入ってきたのはセフィリエルだった。
メリアのおちょくり方と似てるな、親子だから当然かも知れないが…...
「ちょっと、リリーちゃんを借りていっても良いかしら?」
「どうしたんだ?」
「お風呂よ! リリーちゃんに作ってもらおうと思って呼びに来たの、凌多くんも来るかしら?」
「いかねぇよ」「あらあら残念かしら」
・・・
その後も散々に俺のことをイジリ倒すと、リリーを連れて部屋から出ていった。
「やっぱりあの親子のイジリは迷惑極まりないな…..」
一人になった凌多は気疲れをしてしまい、ベッドに横になった。
「ヤベェ、ちょっと寝ちまったか….」
凌多は少しの間ベットで寝てしまっていたらしい。リリーはまだ帰って来ていないが、そろそろ風呂も空く時間だろうと衣類の準備を整えようとすると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ん、誰だ?? 」
女性陣は全員どうせ風呂に行っているのだろうと思っていたので、ノックをする相手の予想が付かない。
ノックの音を残したまま、ドアは開かない。
ドアに近づき、開けるとそこに立っていたのは王様であった。
「今大丈夫か? 少し話がしたい」
「あっ、大丈夫だ、ですよ?」
驚いて満足行かずに敬語も話せないでいると、王様から楽な話し方で良いと告げられた。
「何も言わずに来てしまって、申し訳ないな」
そう言って王様は部屋にあったテーブル横の椅子に座った。
「全然構わないですけど、何かありました?」
何の話をしに来たのか分からないといった様子で困惑する凌多に対して、王様は唾をゴクリと飲み込むと思いっきり頭を下げた。
「すまなかった!!」
「えぇー!!!!!!! いきなり過ぎて意味が全然分からないんだけど!!」
「集落での話だ...」
慌てふためいた俺に対して言葉短く、そう告げると王様は俺が落ち着くのを見計らってから話を始めた。
内容をまとめると、王様はセフィリエルから今までの経緯を全て聞いたらしい。
旅路でリリーやカンナから凌多と出会ってからの話をセフィリエルが聞いていたため、エルフの集落にやってきた時の事や温泉地で郷中したこと、集落での俺の状態なども含めて全てだ。
「そこでだ。集落の君の話も聞かせてもらった」
少し慌てる。その話は俺の失態以外の何者でもない。
不思議なのは何故謝ったのだろう。
そんな疑問が浮かんだが、その後の話は俺の考えつかない方向だった。
「集落の中での死亡者にかなり友好的になったエリスがいたということを知った」
ドクンッと自分の心臓が大きく高鳴った。
「エリスは元々、私が派遣したのだ。集落が戦争で使われるかもしれないということが分かってから、何か起こった時に対処できる者としてな」
俺は王様が悪くないと言うことは分かりながらも意地悪な質問をしてしまった。
「な、なんでエリスだったんですか?」
「エリスはこの国のギルド長でかなりの実力者であった。彼女なら何が起こっても大丈夫、そう思って魔族の動きがいつもと異なると思った時に派遣したのだ、最悪の場合の保険としてな」
「エリスはギルド長だったんですか?」
「そうだ、彼女は元々国に仕えていたのだが、引退した後にギルドで働きその後ギルド長まで登り詰めている」
そこまでの高い地位にいたという事は聞いていなかった。確か、ギルドで受付をしていたと言っていたような…..
凌多の考えを先読みしたようにして王様が続きを話した。
「エリスには、集落の者達に自分はギルド長ではなくギルドで働いていた過去があると伝えてくれと言っていた。ギルド長クラスの者がいきなり集落に住み始めたら心配になるかもしれないと思ってな」
「なるほど、理解出来ました」
この王様は戦略を立てるのが取り柄とセフィリエルは言っていたが、戦略だけでなく先を見据えることが上手いと感じた。
今聞いたことでも、かなり前の段階から保険をかけていたようだし、元々、戦線になるはずではなかったただの集落にまで保険をかける事など普通だったらありえない事であろう。
「伝令も飛ばしていたから私との情報の交換も完璧に行われていた。」
王様の表情が段々に曇っていく。
「しかし、状況は知っている通りだ。エリスは亡くなり集落まで失ってしまった。これは私の失態だ」
怒りが漏れ出たのか、テーブルに手を叩きつけるとテーブルの上の果物が飛び散った。
「君の心を傷つけたのは私のせいだ。申し訳ないと思っている」
王様はそう言うと悔しさなのか、悲しさなのか見分けも付かないような表情で頭を下げた。
「待ってくれ! 貴方がそこまで言う必要はないでしょう。やるべき事をやった上での出来事なのだから!!」
凌多は頭を下げる王様に顔をあげるよう慌てて伝えたが王様の頭は上がらない。
長い間、すまないと頭を下げていた王様であったが、凌多の必死の説得によってなんとか顔を上げてくれた。
「もう大丈夫です。王様が集落やエリスの事を申し訳なく思っている事は伝わりました」
「あぁ、取り乱したすまない….」
王様はかなりちゃんとしている方であることは分かった。
今まで、王族のエルフとしか絡んでいる所を見たことは無かったが本来はこちらの姿なのだろう。真摯な想いが伝わってくる。
「俺も、何もできずに間に合いませんでした。でも、彼女の意志を継いでなんとかエルフを救うためにやって来ました。このような使えない僕で足りるのかどうかは分かりませんが、それでも、なんとか力になる為に……」
そんな俺を見た王様は何とか礼をしたかったのか、こんな事を言って来た。
「エルフの事情であるにも関わらず力を借りる事となってしまって、本当に申し訳なく思っている。戦争が何とかなれば私にできる事ならなんでもしよう」
「いや、別に礼が欲しくてしている訳じゃ…」
「ダメだ、これはせめてもの私からの償いだ。そのくらいはさせてくれ、戦争が終わった後にしっかりとさせて貰おう」
王様はこれ以上は自分の立場が悪くなると思ったのか、ピシャリと言い切ると、話を変えた。
「もう一つだけ君にしなければならない話が残っている。申し訳ないが聞いてもらっても良いだろうか」
王様はそう言うと、椅子に座り直し、一呼吸付いてから告げて来た。
「エリスを殺したのはシルベルが結婚したいと言っているガリアル将軍だ…..」
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再び期間が空いてしまいそうだったので急遽、本日2話目の投稿をさせてもらいました。
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