31話 想う気持ちはお互い様と分かりました。
「話が唐突過ぎたですぅ......」
王様がエルフでは無いという事を知ってから、ずっと喚き散らしていたメリアであった。
完全に疲れ果てたのか何処からか持ってきた椅子に座るとグッタリした様子で背もたれによりかかっている。
「王様もこの様子ですし、結婚についての話は出来そうに無いですね....どうしましょうか?」
すぐに目的の話をしたい所だが王様がそれを出来そうな状態に無いので、どうしようかとカンナは頭を悩ませている。
この場所に来た大きな目的はシルベルの結婚を認めさせてから戦争の準備に入る事であったのだが、王様が延びきった状態であると出来る話も出来ないだろう。
話が始まらない状況に置かれた凌多は一つの疑問が頭を過ぎった。
「そう言えば、一つ疑問があるんだが、聞いて貰ってもいいか?」
「あらあら、何かしら凌多くん。なんでも聞いて頂戴?」
「エルフの国だし、王族はエルフじゃ無いといけないと思っていたんだが、ドワーフの王様といい、魔族を王族に入れようとしていたりするのはいい事なのか? かなり今更な話だけど.....」
凌多の疑問に対して、少し困った様な表情を浮かべつつ、セフィリエルは説明を始めた。
「正直、全てを話すわけにはいかないから、大事な所だけ説明するけどいいかしら?」
「あぁ、勿論だ。そんなに難しく説明されたって、分からないことばかりだろう」
「あらあら、そうかしら。そうしたら説明するわね」
「メリアも聞きたいですぅ」
疲れ果てていたメリアも耳だけは傾けていたのか話に参戦してきた。
父親がエルフでは無いと告げられたメリアも王族であるとはいっても何も知らない凌多と同じ状態だ。
「簡単に言うと、王族の血は力を持っているのよ」
「力? 特別な能力があるってことか?」
「簡単に言うとそうかしら。別に望んだ訳じゃ無いのだけれどもね.....」
表情を落としながらセフィリエルは呟く様にそう言った。
表情から察するにあまりいいものでは無いのだろう。
簡単に説明してくれないかという事を伝えようとした凌多であったが、椅子に座っているメリアからの抗議の声が飛んだ。
「そんな話、聞いた事なかったですぅ......なんで言わなかったですぅ?」
メリアは、血族と聞いて自分も含まれているはずなのに話されていなかったことに対して悲しい気持ちになったのか、声のトーンが下がっている。
「言う必要が無かったかしら、メリアちゃんは他の王族と違って先祖返りしているでしょう。余計な心配はかけたく無かったかしら」
セフィリエルがそう言うと、メリアは驚く様な表情を浮かべた。
「な、なんで知ってるですぅ?」
「あらあら、私に隠し事なんて出来るはずないかしら」
セフィリエルが黙っていたことがある様にメリアにも何か隠し事があった様だ。
凌多は先祖返りって何の事だ? そんな疑問を持ちつつも聞いて良いのか分からずにいると、リリーも同じ疑問を持った様だ。
「先祖返りって何なのっ!?」
「あらあら、メリアちゃんはちょっとだけ世界樹の巫女として特別な力を持っているのよっ」
「特別な力?」
「あんまり知っていてもリリーちゃんや凌多くんには関係のない話になってしまうわ、簡単に言うと世界樹の声を聞くことができるのかしら」
「ううっ、そこまで知っていたんですぅ? 黙っててごめんなさいですぅ.....」
「そんなに気にしなくて大丈夫かしら」
そう言うと、初めて母親としての表情をのぞかせたセフィリエルは優しい表情でメリアを抱きしめながら小さく呟いた。
「どんな力を持っていても私の娘には変わりないわ。その力によって大きな問題が起きるわけでも無い訳だし、メリアちゃんはメリアちゃんの好きに生きていいわ縛られすぎない様にするかしら」
メリアはセフィリエルの胸の中でコクコクと頷きながら話を聞いていた。
隠していた事からして、メリアはその事をあまりセフィリエルや家族に知られたくなかったのだろう。
まぁ、どんな些細なことにしたって、他とは違う力って物はあまり知られて気持ちのいいものでは無いのだろう。
そこまで大きな事では無い気がするし、逆に言わなくても特に問題無い事だったから言わなかったのかも知れない。
少しの間、抱擁をしていた二人であったがゆっくり離れると、凌多に向き合った。
「あらあら、ごめんなさい。その話では凌多くんの疑問には答えられていないかしら」
「あぁ、まぁ別にいいんだけどな、知ったところで何か起こる訳でも無いし.....」
「いいえ、簡単に伝えておくわ。協力者にあまり隠し事をするものでは無いかしら」
セフィリエルは先程までの話で王族の血が特別であると言う所までは話したわねと、確認を取ると続きを語り出した。
「王族の血の力は世代を重ねると共にだんだん薄れているの」
「まぁ、近しい人と子でもなさない限りはそうかも知れないな」
「あらあら、今の話が理解出来るなんて凌多くんは学があるのかしら。そうね昔は逆に血が薄れない様に近しい人としか子を成せなかったと聞いているわ」
「まぁ、俺の住んでいた地域では結構理解出来ると思うぞ」
日本という場所に住んでいて義務教育をちゃんと受けていれば何となく感覚が分かる話だろう。ちゃんと理解出来ている訳では無いが.....
まぁ、この世界は魔法があるおかげで科学の方は進んでないみたいだし、この世界の人が今の簡単な説明で理解しろって言われたら難しいのだろう。
「その血が原因で私の祖母の代で問題が起こってしまったの」
問題が起きたということに反応してしまった凌多とメリアであったが、もう解決したから今は関係ないかしらというセフィリエルの言葉で胸を撫で下ろした。
セフィリエルは話を続けた。
「王族の血の力を更に薄めて抑える為に私の両親の代からエルフの王族は秘密裏に他の種族としか子供を成せないという制約を設けたのかしら」
「なるほどな、混血させて血の力を抑えようとしたのか」
「そうなるかしら、だから今回の件でもシルベルはエルフとの間では、婚姻を結べないからこんな状況になっているのかしら。」
完全にシルベルのワガママで戦線が押されていると思っていたが、それだけが理由という事では無いのかも知れない。
結婚して子をなすという事は王族には必須な条件であるという事はどの世界でも変わらないのだろう。
メリアがどうなのかは知らないが、巫女という役職がある以上、シルベルが結婚して子供を授かった方が良いということであるのかも知れない。
セフィリエルは、メリアには無い悩みがシルベルにある事でメリアが負い目を感じてしまうと思ったから王族の血についての話をメリアにしなかったのかも知れないな、隠し事をしていた理由は互いが互いに心配をかけさせたく無かったからか、お互い様だな。
そんな事を凌多が思っているとリリーは他の事が気になった様だ。
「そう言えばどうやってエルフの姿になっていたのっ? 魔法かと思ったけど、魔法でずっと隠し続けるって難しいよねっ?」
「あらあら、こんな便利な物があるかしら」
そういってセフィリエルが見せて来たものは、トップに大きな宝石の様なものが付いた指輪であった。
「なんなのこれっ?」
「これで、姿を変えることが出来るのよっ。」
そういうとセフィリエルは指輪を自分に当てるとリリーの姿に変身した。
「こんな感じかしらっ!?」
「えっ、私だっ!!」
声までほぼ同じだ。話してみても変な事を言われなければ見分けがつかないかも知れない。
自分の姿に戻ると、王様の元まで近くと体に指輪を当て、ドワーフの姿からエルフの姿へと変えた。
「なんだか見慣れた姿じゃ無いと気持ち悪いかしら」
「そ、そんな悲しいことを言わないで欲しいものだ」
「あらあら、やっと起きたのかしらお寝坊さんね」
「その様な言葉は、ベットの上で聞きたかったものだな」
ようやく目を覚ました王様は嫌味を言いつつも地べたに転がっていた体を起こして王座に座った。
「起きてすぐで申し訳ないのだけど、シルベルが他種族としか結婚できない事を知っていたあなたが何故反対しているのか教えてもらおうかしら」
セフィリエルは王座に腰を掛けた王様に向かって問いかけた。
「うむ、簡単だ.....シルベルにはメリアと同様、どこにも行って欲しく無いのだ!!」
ドゴーーーーン....
王様はセフィリエルによって再び宙を舞った....
「あらあら、ちゃんと話さないと次はないかしら」
「わ、分かった勘弁してくれ、ちゃんと話す」
この王様、娘達のことを溺愛しているくせに娘からどう見られているのかとか考えた事は無いのだろうか?
凌多は少し呆れた表情で夫婦漫才を見ていると、王様はおっほんっと咳払いをすると背筋を正してから喋り出した。
「この事は、あまり言いたくなかったのだが隠していてもセフィリエルがこちらに来てしまった以上、隠す事は出来ないだろう」
「あらあら、そもそも隠し事は良くないかしら」
「うむ…例の男がこの5年で再び動き出そうとしているという情報が入っている」
一瞬の沈黙が走った。セフィリエルの目つきが一瞬鋭くなり、殺気が走った。
しかし、すぐに普段のセフィリエルの雰囲気に戻ると柔らかい雰囲気で話し始めた。
「あらあら、私を遠ざけ、シルベルの結婚反対も納得出来る話かしら」
「どうゆう事だ? シルベルと結婚させようとしている将軍のことか?」
「違うわ、この事はこの戦争には関係ないことかしら」
「そうか.....」
”例の男”不安になる様な単語であるが、そのありきたりな代名詞で置き換えられるくらいに二人の中では注目度の高い人物なのだろう。
一瞬の殺気を感じるに、味方という訳ではないのだろうが、魔族とは違うエルフの敵であるのだろうか?
「戦上手で戦略を立てるのだけが取り柄の貴方が、ここまで攻め込まれているから何事かとは思っていたのよ、そちらでも問題が起こっていたのは予想外だったかしら」
「その”例の男”ってなんなんですぅ!? この戦争が終わったら教えて欲しいですぅ。もう、仲間外れは嫌ですぅ......」
「すまんな、メリアよ」
王様とセフィリエルの話を聞くに、集落にまで警戒が及ばなかった理由はそのことが大きく関わってくるのだろう。今まで怒りを露わにしていたセフィリエルがその話を聞いて納得したほどだ。
一応頭の片隅にでも覚えておこう。例の男の存在さえなければここまで攻め込まれることもなかっただろうし、集落も無事だったはずなのだから。
凌多は復讐心にも似た思いをその例の男に向けると、記憶にしっかりと刻み込んだのであった。
読んでくださってありがとうございます!!
少しだけ設定の確認です
注釈:この話での世界樹の声を聞くことが出来るというのは、世界樹からの神託(世界樹の巫女の本来の仕事)とは異なるものです。世界樹の意思を感じ取れる事がメリアの特別な力で、世界樹からの神託は世界樹の根元にある石版に記される形で現れます。




