30話 エルフの王族は大きな秘密を抱えていました。
「首都の活気は凄いねっ!!」
リリーは朝市を見渡しながらそんな事を話しかけて来た。
「そうですね、この朝市はやはりエルフの国で一番だと思います」
「戦争中って事を忘れちまう程だな」
かなり多くの物と人間が市場に流れ込んでは、賑やかな声が飛び交っている。
エルフは森の中に住み、神秘的な格好をしていて、自然と生き死にを共にする。そんな想像をしていたのだが、この世界に来てから知ったのは、そんなテンプレの上でこの世界は動いていないという事であった。
「うんっ、良い匂いが漂ってるよっ、早く食べに行かなきゃ無くなっちゃうかもっ!」
リリーは食べ物を目の前にしているため、テンションが高い。
「そうですね、さっそく向かいましょうか」
カンナの言葉に反応してリリーはどの店の品を購入するか品定めを始めた。
エルフの国の首都に到着してから一夜が過ぎた。
早朝からお腹が減ったと騒ぎ出したリリーが首都の食べ物を食べてみたいと言い出したため、一番頼みやすかったカンナに頼んで城下町に連れて来てもらって現在に至る。
普段であれば、お騒がせ巫女様も付いて来そうなものであるが、あの巫女様は元々、王女様である。
気軽に城下町で騒いで遊んでという訳には行かないらしい。
また、一ヶ月以上ちゃんと休まる状態での休息が取れなかったという事もあり、体が限界を迎えているらしく、起きる気配が無いらしい。
メリアっぽいと言えばそこまでであるが、普通そこまで動いた事も無いような女の子があの移動距離は確かに大変な道のりであったのだろう。
まぁ、昨日の騒動での疲れが大半を占めているのだろうが....
そんな事を考えつつ、リリーとカンナの後ろに続いて歩いていると、リリーが食べたい物を発見したらしく、屋台を覗き込んでいる。
「これって何なんだろう?」
「これは、タコライスと言われるものです」
リリーとカンナの二人が話している言葉の中に聞き慣れたワードが出て来た。
「タコライス?」
凌多は自分の知っているものであるか確かめるために屋台を覗き込んだ。
そこには、何度か日本で目にしたものと同じ形でタコライスが存在していた。
「おっちゃん、このタコライスってのはおっちゃんが考えた料理なのか?」
「いいや、これは俺が生まれた頃からある料理だぜ、昔に遠い国から来た人間族に教えてもらって流行ったとか言ってたかな?」
「そうなんか、教えてくれてありがとよ。ついでになって悪いが一つ貰ってもいいか?」
「そう来なくっちゃな、ありがとよ!」
凌多は前日に首都で生活するう上で必要になるだろうと、メリアから渡されていたお金を使ってタコライスを購入した。
「凌多ってこういうのが好きなんだねっ!」
「まぁな、知っている食べ物だったからついな」
この首都に着いてから見知った食べ物に出会うことがかなり多い。
夕飯に王城で出された食事も凌多の見知った物があったくらいだ。
「何人もこの世界に転移して来てるって言ってたもんな、それにしてもこんなに色々伝えているとか、みんなエルフ好き過ぎるだろ……(ポツリ)」
凌多は、日本人の転移が多いのかな? などとしょうもない事を考えつつ、リリーとカンナの買い物に付き合った。
買い物を終えた3人は、カンナに腰が落ち着けられるからと言ってベンチが多く置かれている広場のような場所に連れてこられた。
3人が座れそうなベンチを見つけると腰を下ろした。
ふぅ、とカンナは一息つくと凌多に語りかけた。
「やはり、戦争がこの国の近くで行われると言う意味をこの国民は理解できていませんでしたね」
「そうだな、危機感が全く無いように見えたな」
カンナの言葉に凌多が答えると少し暗い雰囲気になってしまった。
普通であれば、少なからず緊張感が走り、あそこまで明るく、気楽な雰囲気で生活を送る事は難しいと思う。
凌多も軽く考えていた所にエリスの死が突然やって来たので何となく分かる。
あの状態は、戦争は死と隣り合わせであると言う事や、自分達の負けがあり得ると言う事を理解していない者たちの顔だ。
「メリア様はこうなると分かっていて、凌多さんが何とかするしか無いと踏んでいたんですね....」
カンナは理解出来なかった事が悔しいのか、少し俯きつつも言った。
凌多はカンナが落ち込むことでは無いんじゃないかと思いながらも、その悔しそうな横顔を見て何も言えないでいるとリリーが雰囲気を全く読まずに発言した。
「せっかく買ったんだからっ、早く食べようよっ!」
よだれを垂らしそうになりながら能天気そうなリリーの顔を見て何だか考えているのがバカらしくなってしまい、リリーの言葉通りに食事を頂く事になった。
「ふぅ、お腹いっぱいだよっ!」
「リリーさんの食べる量はすごいですね」
食事を終えて、カンナはリリーの食べる量に驚いていた。
話を聞くに、カンナ達と移動している最中には、少し食べる量が多いかなと思われるくらいの量しか食べていなかったらしい。
そう言えば、俺のことが心配であまり食事が喉を通らなかったと言っていたが本当のことだったんだな…
凌多はリリーに心配をかけてしまったんだなと思っていると、心配な人繋がりで王様の事を思い出した。
「そう言えば、王様は大丈夫なのか?」
凌多の言葉に対してカンナは言葉を濁した。
「あの後もこってり搾られていたのでどうでしょうか、いつもより厳しいお仕置きだったように見えましたから」
「納得できない事もあったが、王様は女王様のことを想ってやっていたんだろ?」
「女王様は結果主義ですからね….」
そんなことを話しながら、凌多は昨日の夜の出来事を思い返していた。
「いきなり帰って来たと思ったら、唐突すぎます。私にも分かるように説明してください。お母様!!」
シルベルは呆れながらもそう言い放った。
「あらあら、そうかしら?」
「そうです。お母様はいつだって説明不足です。だからお父様がそんな風に....」
シルベルは王座から吹き飛ばされて転がっている王様のことを見てそんな事を言った。
王様は完全に延びている。
「カンナ、取り敢えずお父様が延びている間に凌多くんたちの事と今までの事を説明して欲しいですぅ」
「わ、分かりました」
カンナはシルベルの元へと寄ると今までの事を説明し始めた。
「すげぇ、家族だな....」
「そうだねっ、ここまで個性的な家族とは思わなかったよっ」
「ちょうっと流石に恥ずかしいですぅ」
そんな事を凌多達は話していると、簡単な説明が終わったのか、シルベルは凌多の元へと近づいて来て凌多の周りをジロジロ観察しながら回った。
「そんなに見ないでくれるか? 恥ずかしいんだが」
「そうね、ごめんなさい。初めましてシルベルよ、貴方が英雄様なの? ちょっと覇気に欠けるわね」
そういうと、リリーに目線を向けた。
リリーは凌多をバカにされたと解釈したのか、プックリと頬を膨らませて怒りを可愛く示している。
「あら、可愛いわね、ごめんなさいね妖精さんが思っている意味で言ったわけじゃ無いわ。英雄とか大層な名前で呼ばれている人って気が大きい人が多いけど、彼はそうでは無いのねって事よ」
「そうなのっ? 一応その言い訳を聞いといてあげるっ!」
リリーはあまりシルベルの言葉を信じていないようだ。
「それでだ、この状況になったのはいいんだが、この後どうやって話を進めていくんだ?」
凌多の目の先にあるのは、仰向けに倒れている王様の姿であった。
その凌多の疑問を聞いて、セフィリエルが返答を返した。
「あらあら、そろそろ分かるかしら」
そういうと、仰向けに倒れている王様は光り始めた。光り始めた? 何故か光っている。
「ど、どうゆう事なのっ?」」
リリーの言葉を聞いたセフィリエルは返答せずに、王族の二人と凌多、リリー、カンナ以外は王座から外に出るように指示した。
数分間の間王様が光ったかと思うとそこにはエルフでは無い姿になった王様が現れた......
「ど、どどっ、どうゆう事なのっ?」
リリーは驚きから解放されると即座にそんな疑問をセフィリエルにぶつけた。セフィリエル少し笑みをこぼすと王様を起こしながらリリーの問いに答えた。
「そうねぇ、簡単に説明すると、私の旦那さんはドワーフだったって事かしら。その事を説明しないと今後の話は出来ないと思ったから先に姿を変えさせて貰ったわ」
急な話過ぎて、皆は声が出なくなっている。
一番呆けているのは、メリアだ。うん? メリアが何で呆けてるんだ?
凌多がそんな事を考えていると、メリアは数歩前に出た。
「そ、そんなぁ、お父様がエルフじゃないなんて聞いてないですぅぅぅぅうう!!」
メリアの叫びが王座の間中に響き渡った。
「メリア様落ち着いてください」
「な、何ででですぅ? シルベルは知っていたですぅ?」
「そうですね、知っていました」
「お母様、なんで教えてくれなかったですぅ!!!!」
メリアは聞いた事も無いほどの大声で叫んでいた。
「あらあら、ごめんなさいねぇ、この人がメリアに嫌われたく無いからあまり言わないでくれって言うから、言えなかったかしら」
「それでも、そんな大事はちゃんと言わなきゃいけないですぅ! 子供みたいに駄々をこねられる様な問題の次元の話じゃ無いですぅ!」
メリアが初めてもっともらしい事を言っている姿を見た。
「取り敢えず、メリア様落ち着いてください。何故今この状況でその事を言わなきゃいけなかったのか聞かないと何も始まりません」
カンナが必死に止めようとしているが、メリアは止まらない。
「この状況が、落ち着いていられるかですぅぅぅぅうう!!」
メリアの叫びは止まらなかった。




