28話 出発前は楽しいひとときを過ごしました。
side:???
「これが、TV局ってやつか…」
男は丸い球体を浮かべた様なデザインの建物に入っていく。
玄関口を通り抜けると、電車という乗り物に乗る際に使った様なゲートが見えた。
「ここでもこのカードが必要なのか?」
用意させたカードは万能だなと思いつつカードを使って通り抜けようとするとゲートは音を立てて閉まったままである。
どうしようかと悩んでいると、警備の格好をした者が駆け寄って来た。
「ここは関係者以外立ち入り禁止です。身分証は持っていますか?」
「なんだそれは? これのことか?」
男は懐から警察と呼ばれる者に作った方が良いと助言を受けて作った自己証明証を見せるが、これではないと言われた。
「面倒だな…」
男は呟くと曲がった木の棒のような物を警備の格好をした男の頭にかざすと「精神支配 《マインドコントロール》」と唱えた。
警備の格好をした男は目が虚ろになると、ゲートを開けるために動き出した。
「やはり、この世界は思っていたよりも簡単そうだな……」
確信を得たように頷きながら独り言を呟くと、警備の格好をした男に一番影響力のある者の元まで連れて行けと命じた。
あの板の権利を手に入れる事ができれば、情報網を支配したといっても良いほどの影響力を手に入れられるだろう。
ニヤリとした笑みを浮かべると、先導して案内を始めた男の後ろに続いた……
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side:凌多
エリスの墓に挨拶を終えた後、長い間使わせて貰っていた客室で準備を行っていた。
準備と言っても、【収納袋】に必要だと思う少しの荷物をしまい込んで、刀を磨いたら終了だ。
刀を磨いている最中に間食としてオヤツを食べていたリリーは凌多に喋りかけた。
「何してるのっ?」
「刀の整備だよ、この刀にもかなり世話になってるからな」
「でもっ、整備って言ってもこの刀って形状維持とか言う整備不要のスキル付いてるよねっ? 整備しなくても大丈夫なんじゃないっ?」
「一応やってるだけだよ、いくら整備不要って言ったって何かを切って、そのままの状態で次も使うのは気が引けるだろ?」
「そうなのかなぁ?」
「そんなもんだよ、俺のいた日本って国では、物を大切にしてると魂が宿るっていう伝承もあるくらいだからな、大切に使っていて損はないだろ?」
そう言うとリリーは何かを思いついたような顔をして凌多の方に座ると、鼻歌を歌いながらゆったりしている。
数分で整備を済ませると、凌多は【収納袋】の中に刀を仕舞い込むみ、準備が終わった事を確認してベットに腰を掛けた。準備が終われば出発までに時間がある。少しだけでも仮眠を取ろうとベットまでやって来たのだが、目の前にリリーが浮いている。
「どうしたんだ? ちょっと仮眠を取りたいからどいて欲しいんだけど」
「次は私の番だねっ?」
「リリーの番?」
「そうだよっ、リリーも女王様を説得したり、凌多を守ったり、看病したり、大変だったんだから少しは労ってよねっ!!」
「そ、そうだな、ありがとう。それで何をすれば良いんだ?」
「そんなの決まってるよっ! 愛でるように頭を撫でて欲しいのっ!」
「マジかよ、面倒だな….」
「面倒って何っ? 武器は大切に扱うっていうのに、私の事は大切じゃないのっ?」
「あ〜、いや、うん、そうだな、悪かった…」
面倒に思う気持ちを抑えられない凌多であったが、しぶしぶ同意してしまった。
満面の笑みを浮かべたリリーは座っている凌多の脚の上に寝転がると、美容院でシャンプーをして貰うくらいの気軽さで頭を撫でるように促して来た。
「はぁ……」
ため息を漏らしながらも、仕方ないというような表情を浮かべつつもリリーの頭を撫で始めた。
数分間、撫でていると準備が終わったかとカンナが部屋を訪ねて来た。
コンコン…..
「失礼します。凌多さん、準備の方は整っていますでしょうか?」
部屋を開けるなり確認を行ったカンナは、リリーを撫でている凌多と目が合った。
数秒固まってから、カンナは急に赤くなると失礼しました、と言っていきなりドアを閉めて何処かに行ってしまった。
「どうしたんだろうねっ?」
リリーが話しかけてくるが、凌多はこのリリーが頭を撫でられ惚けていた姿を見て、何か変な勘違いでもしたという事が分かった。
あとで誤解を解かないと…...
なんて事を思っていると、ドテドテドテという音がどんどん近づいて来る。
勢いよく、ドアが開いた。
「容疑がかかってるですぅ、大人しくお縄につけですぅ!!」
やはり、誤解を招いたようだ…一番面倒な奴がやって来た。
「リリーのその顔、やっぱりさっきまでエッチな事をしていたかもというカンナの読みは正しかったですぅ。みんなが大変な時にそんな事してるなんて逮捕ですぅ、メリアの裁きにかけるですぅ!!!!」
テンションがかなり上がっているメリアの後ろには、通報したと思われるカンナが名前を出されて焦っている。
何を言ってもこの面倒な腹黒巫女様には通じないだろうと思った凌多は、乗っかりつつ面倒ごとを擦りつける事にした。
「バレちまったか… 何とでも言いやがれ、俺はしたい事をするんだよ!」
「えぇーーー、容疑を認めるですぅ!!??」
メリアも本当にしているとは思ってなかったらしく、驚きの表情を浮かべている。
「容疑は認めてやる。だがな、真実はリリーとだけじゃない。カンナも一緒になって楽しんでたぞ!!」
メリアは振り返って後方にいたカンナを見ると、メリアは唖然としたような表情を浮かべている。
カンナはいきなりの凌多のカミングアウト的発言に固まってしまった後、メリアに必死になって違うと首を横に振って否定している。
「一人だけ裏切ろうったってそうは行かないぜ、罰としてメリアの質問には全部答えとけ!」
凌多はそう言うと、窓から身を乗り出して外に出て行った。
部屋からは、カンナの必死に否定する大声が聞こえて来たが、一切振り返る事なく屋敷から離れて行った。
外に出ると、やる事もないのでリリーを肩に乗せたままブラついて仮眠でもできる所を探そうと周囲を見渡していた。
「あんな躱し方もあるんだねっ!」
リリーもメリアとのやり取りが面倒だったのか、そんな言葉をかけて来た。
「メリアの相手していると、不毛な掛け合いが続きそうな気がしたからな…」
そう返した凌多だったが、リリーは捉え方が違ったらしい。
「そんな照れ隠ししなくても良いのにっ、本当は私の頭をもっと撫でていたかったんでしょ?」
「えっ?」
「あの木の下がゆっくり出来て良い感じだよっ!」
「あ、あのぉ、リリーさん、まだ続けるの?」
「当たり前でしょっ? せっかくその為にメリアから逃げて来たんだから…」
凌多は、もっと面倒な目になったと後悔したが、満面の笑みを浮かべているリリーに対して面倒をたくさん掛けてしまった事を思い出し、躱す方法が見つからなかった。
「ホントにもうっ、凌多は私のことが大好きなんだからっ!!」
もう逃げる事は出来ない。継続して頭を撫でる事が決定してしまった……
「(不幸だぁーーーーーーーーーっ!!!!)」
声にする事の出来ない嘆きは心の中にで押し留められた。
少し短いですが、キリが良かったので今日はここまでにしました!!
明日、続きを投稿するので楽しみにしていてください!!
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