27話 出発報告をエリスにしました。
「おはようございます。朝食の場で凌多さんを見るのは久しぶりですね」
「あぁ、悪かったな……」
言葉を濁しながらの凌多に対して、王族としての自覚を持ったメリアは吹っ切れた様子で、凌多イジリを開始した。
「全くもう、凌多くんは、落ち込みすぎですぅ。エリスに返せるのは今後の頑張りでだけですぅ。」
メリアの発言に対して、セフィリエルが反応した。
「あらあら、メリアちゃんも凌多くんと同じくらい落ち込んだ様子を見せていた様に思えたけど気のせいかしら?」
「え、えっ、あれは違うですぅ、凌多くんのことを心配してちょっと暗くなっちゃっただけですぅ〜」
「あらあら、メリアちゃんも女の子ってわけね!」
「そっちの方が違うですぅ〜!!!!」
流石の腹黒巫女様でも、母親に口では言いくるめられてしまうみたいだ。
このままではこちらの状況が悪くなってしまうと思ったメリアは標的を変えた。
「リリーは凌多くんの腕の中に包まれて幸せそうだったですぅ」
「うんっ、ちゃんとしてる凌多を久しぶりに見たからすごい嬉しかったのっ!」
「うっ、眩しいですぅ。甘いですぅ、甘過ぎるですぅ〜」
標的を変えたものの、純粋無垢な感情を押し付けられると思っていなかったメリアは、直視出来なくなってしまった。
「メリア様、そのあたりでよろしいですか?」
カンナは雑談を行なっている間に厨房での料理を済ませていた。
「料理の準備が出来ましたので運ばせて貰いますね」
食卓に料理が運ばれて来た。
暖かさを保ったシチューの様なスープは湯気を立てて、良い香りを運んでくる。
ほほ笑みながら給仕をしているカンナの姿はどこか優雅で、エリスを思い出させる。
あぁ、懐かしい感覚だ。
凌多は、この屋敷で給餌をしているエルフの姿をしたカンナとエリスをどこか重ね合わせて見てしまった。
「(エリスとカンナは違うよ〜、おんなの子を一緒くたんに認識するなんて、罪深いことを君は考えるな〜)」
頭の中でパウラの声が響いた。
「(違うわ!! たまたま被って見えただけだ)」
凌多の言葉に対して、全然否定出来てないよとパウラはため息をついた。
食事が始まり、おおよそ全員が食べ終わったかという頃にカンナが全員に向けて話始めた。
「今後の予定について話し合いたいのですが…このまま会議の場にしてしまってもよろしいですか?」
全員は雑談を止めてコクリと頷いた。
「それでは話を進めさせて貰います」
話題の中心はこの集落での敵との遭遇が思った以上に早いことであった。
「思ったよりも敵の進軍が早いかしら、正直、先行部隊とはいえこの集落に偵察として先行部隊を送るのであればあと2週間は遅くても良いはずかしら」
「そうですね、私もその様に考えていました」
「そしたら、リリーちゃんに本体の位置を探ってもらおうかしら」
「もぐもぐ、うんっ、やってみるねっ!!」
リリーは一度食事の手を止めて魔法を唱え始めた。
「自然探索 《サーチ》」
リリーの魔法によってできる限りの範囲を探索してもらった。
「えーっと、正直、軍隊くらい人数が多く集まっている場所は無さそうだよっ!」
「あらあら、困ったわねぇ、そうなのね…」
リリーが軍隊の存在を把握出来ないとなると、敵軍の動きを把握することは難しそうだ。
「おかしいですね……」
リリーさんが把握出来ないほどの距離までしか進めていないというのに、先行部隊を首都に近いこの集落まで送りつけてくる必要は無いと言っていいだろう。
カンナが疑問を浮かべていると、セフィリエルさんが答えを告げた。
「一種族の軍隊であったとしても色々事情があるのよ、敵対している部族の口減らしだったりする可能性もあるかしら」
「戦争でそんなことを…」
カンナは絶句する様な表情を浮かべているが、セフィリエルはそのままに言葉を続けた。
「可能性の話かしら……その他でも急いでエルフとの決着を付けなければいけない理由があるとか色々考えられるかしら」
セフィリエルは、今までの戦争でも魔族はおかしな動きが多くあった。それは種族内の抗争など、種族の軍隊として纏まってないからこそ引き起こされる問題が存在し、その点をついてエルフ側は毎回の戦争で大きな被害も出さずに勝利していたのだと説明した。
「なるほどな……」
凌多は大体の話の流れから状況の把握を行なった。
簡単に纏めるなら、普段通り理由が分からない行動をしている。でも、普段と比べて軍隊としての動きが早い様に思える。敵に対してのアドバンテージを取れる様な情報を持って首都に向かうことも難しそうである。と言ったところか…
「あらあら、そうねぇ、首都に向かってしまいましょうかしら」
セフィリエルの言葉に対して、カンナと凌多は同意を示した。
このまま、この場に居たところで出来る事はほとんど無いように思える。それであるならば情報を集めていそうな場所に合流してしまった方が早いであろう。
「情報を集められていなかったらあの人はどうなってしまうのかしら…」
セフィリエルの言葉を聞いて、寒気が走ったかと思うとセフィリエルの背後にドス暗いオーラの様なものが浮かんでいる様に感じる。
「怖っ! 女王様ってこんなタイプだったのか!?」
凌多はセフィリエルと初めて会い、ほぼ初会話であったため、少し腰が引けてしまった。一応、昨日の朝に挨拶は交わしたというのに…
「お母様は怖い人ですぅ…出来たら怒らせないでほしいですぅ」
いつもは会話に多く入ってくるメリアが先ほどの話題を変えた事といい、あまり女王様と喋ろうとしなかったのはこの状態を知っていたからか…
凌多は珍しくメリアに対して同情してしまった。
その後、いつ頃の出発にするか、カンナとセフィリエルはどのルートを使って首都に戻るのかなどを話し合い1時間ほど経過した。
「それでは、本日の夜、月が一番高い時間に出発しましょう!!」
カンナの呼びかけで会議がしまったかと思ったのだが、横からもぐもぐと言った声が聞こえてきた。
凌多は何かと思い横をみると、鍋ごと食卓に持ってきて頬張っているリリーの姿が…
「嘘だろ、まだ食ってたのかよ…」
会議中は多くの意見が主に3人から活発に出ていた為、声が途切れることが無く気付かなかったが、横で永遠と食べていたらしい。
「だって、この1ヶ月くらい凌多のことが心配で食が進まなかったんだもんっ!」
そういうと、最後の一口を頬張り、シチューの鍋はキレイに平らげられてしまった。
「悪かったよ……とは言っても食いすぎだろ!!」
凌多のツッコミが食堂に響くと全員の笑い声と共に会議は終了した。
朝食を済ませると、凌多とリリーはエリスの墓に来ていた。
「エリスさん。俺、覚悟決めたから、エルフの国を救ってくるよ、何が出来るかなんて分から無いけど、全力でやってみようと思ってるよ…」
凌多は両の手のひらを合わせて祈った。
「付き合わせて悪いな」
リリーに言葉をかけて帰ろうとした凌多であったが、リリーは隣で祈る様に指を胸の前で絡めたポーズから動こうとしない。
随分と長い間祈りを捧げると、ゆっくりと祈りを解いた。
「ごめんねっ、伝えたいことが多すぎて長くなっちゃったっ」
ペロッ、と舌を出してふざけて見せた。
帰ろうとする凌多に対して、リリーは思わぬ言葉を口にした。
「あぁ、そうだっ、教会の方に行かないっ!?」
教会の中に入ると、枯れた花が広がっていた教会内はキレイな状態になっていた。一部に咲く花を除いて…
「この花は凌多に”感情のタネ”って魔法を使ったんだけど、エリスにもかかっちゃったみたいで…」
少し申し訳なさそうに話をしてきたリリーであったが、一度、凌多はパウラから聞いていた為知っている。
リリーにパウラの存在を伝えて聞いたという事を伝えようとすると頭の中に声が走った。
「(りょ、凌多、リリー様に伝えるのはやめて欲しいんだ!!)」
「(え? なんで?)」
「(ゴメン! 後で説明するからさ〜 )」
珍しく焦った様な話し方であったので、そんなに言われたく無いことだったんだろう。でも、パウラとリリーは出会った事は無いはずだし…そう言えば、リリー様? 疑問がドンドンと浮かび上がって来る中でリリーからの声が掛かった。
「ねぇ、凌多聞いてるのっ?」
「あ、あぁ、悪い…」
パウラの事を考える事を一度辞めて、リリーの話に耳を傾けた。
「でも、何でこんなにエリスの咲かせた花はずっと咲いてるんだろうっ。親和性が高くたってこんなにはならない気がするよねっ。何かから力を借りた様なっ…」
「(パウラがエリスに加護の一部を与えていたことも関係してきそうだね〜)」
パウラは凌多にだけ伝わる声で話しかけてきた。
「(えっ、そうしたら俺に昨日言ってきた事って…)」
「(違うよ〜、エリスの想いが、僕の力を無理矢理に引き抜いて来たってことさ〜)」
「(な、なるほどな)」
ちょっと言い訳臭くはあったものの、取り敢えずは納得しておこう。
「(もしかすると、凌多がエルフの国を救うまでこの花は枯れないかもね〜…)」
「(ん? 何か言ったか?)」
パウラの呟きは、なんて言ったのか分からない程の小ささであったため、凌多はなんて言ったのか聞き取ることは出来なかった。
「そろそろ挨拶して行くっ!?」
「そうだな…」
この場所はこの異世界に来てから一番思い出深い場所かも知れない。
エリスはこの世界に来てから一番思い出深い人であった。
エルフの件が片付くまでこの場所に戻って来ることは出来ないだろう。役目を果たしたその後にまたここに来よう。
「僕はやり遂げたんだって…エルフの国を救ったって…思いを遂げたよって…嬉しい報告ができる様に…」
次回から、エルフの国を救うために本格的に動き出します。
お楽しみに!!
次回の更新は13日の金曜日です!
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