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26話 強い想いは生死を超えました。




 散々泣き(わめ)いた凌多(りょうた)は、崩れ落ちたままでいた。


 涙はとうに枯れ果てた。


「ごめん、エリス……」


 なんども(つぶや)かれるその言葉は凌多(りょうた)の口から際限なくこぼれ落ちてゆく。


 感情の波は、時間の経過と共に消えてしまう事はなく、徐々に引いては、大波となって押し返す。



「そろそろいいかな〜」


 凌多(りょうた)の左手の親指が光る。ほのかな暖かさを感じると、目の前にパウラは現れた。


「いつまで泣いてるのさ〜、おとこだろ〜」


 眠そうな顔のままに凌多(りょうた)に話しかけて来た。


「うるせぇ…」


 生意気そうな口調と眠たげな顔に苛立(いらだ)ちを感じた凌多(りょうた)の口からは自然とそんな言葉が出て来た。


「うん〜、元気じゃないか〜!」


 想いが溢れている凌多(りょうた)であったが、その素っ頓狂(すっとんきょう)な態度は凌多(りょうた)の感情の波を止めた。


「何しに出て来やがった」


 この数日声も聞いていなかったので、久しぶりの登場にしてはタイミングが悪い。


「君に伝えたい事があってね、みんなが居なくなるまで待ってたのさ〜、あと、泣きやむまで待ってようと思ったんだけど……いつまでたってもピーピーうるさいからさ〜」


 凌多(りょうた)はゆったりとした口調で真実を告げてくるパウラに対して返す言葉もなかった。


「それじゃあ、いこうか〜」


「どこに行くんだよ……行くべき場所なんて無い」


「エリスのところだよ…」


 パウラはそう告げると、のそのそとした歩き方で教会の方面に向かった。


 凌多(りょうた)は、気になった。エリスのところってなんなんだ? 何ならエリスはこの目の前で眠っている。エリスは死んでいないのか? いや、そんな事はない。自分の腕の中で感じてしまった。死んだ後の冷たさを、命の価値を失ったような冷たさをだ…

 力が抜けきった足をゆらりと動かすと、パウラの後を追った。


 パウラは教会の中に入っていく。付いて行きたくなかった。パウラの真意がわからないというのと、この教会の中に入ってしまえばあの時の感情が再び襲ってくる気がする。しかし、パウラになぜその中に行くのかと尋ねても背中越しに行けばわかるといったような無言の返答が帰ってくるだけだ。


 凌多(りょうた)は意を決して教会内へと踏み込んだ。


「リリー様や、カンナ、メリア達と合流した後のことを覚えてる〜?」


「すまん、覚えてない」


「そっか〜、君が、ぼ〜っとしてる間に変化が凄かったんだから」


「変化?」


「ぶわぁぁって、花が広がってたんだから〜」


「花?」


「いちいち突っかかるな君は、まぁいいや、寝室で君の中にいる時リリー様が言ってたんだけど〜、浮気防止の為に”感情のタネ”っていうのを仕込まれてたんだよ〜」


「何だそれ?」


「簡単に言うと感情に反応して花が咲くらしいんだ〜、その後がこれさ」


 パウラは目の前を前足で示すとそこには教会中に枯れきった花の残骸(ざんがい)が残っていた。


「これは、君が咲かせたマリーゴールドの跡だよ〜」


「何でマリーゴールドなんだ?」


「花言葉が()()だからさ〜、エリスといた時の君の感情だろ〜、でね、”感情のタネ”は感情の大きさが大きい程に、感情が強ければ強い程に長い間咲いてるんだって〜」


 理由を聞いた凌多(りょうた)は、何でこんな物を俺に見せるんだという怒りがこみ上げて来た。もう枯れたんだから気を取り戻せってことか? だとしたら今後の付き合い方を考えるくらいだぞ…

 

 パウラは再び歩みを進めた。


 向かった場所は、エリスの死体があった祭壇の前であった。


「何でこの場所だけ?」


 凌多(りょうた)は疑問をついつい口に出してしまった。その場所は他と違って、マリーゴールドが生気を放って咲き誇っていたからだ。


「この花はマリーゴールドじゃないからだよ〜」


 どうゆう事だ? 凌多(りょうた)は前の世界でマリーゴールドを見た事があった。マリーゴールドにしか見えない。


「これはちがう種類だよ〜、リリー様が、廃人みたいになっていた君に語ってたんだ。これはアフリカン・マリーゴールドっていうらしいよ〜、パウラも知らない花だった〜」


 自分の知らない種類だ。凌多(りょうた)はこの花を見ると枯れてしまった他の花と違いまだまだ生気を感じた。


「この花の花言葉は、”()()()()()()()()()()()”この花を咲かせたのは君じゃないよ、エリスさ〜。エリスも食べたんだろ? タネを仕込まれたサンドイッチ〜」


 凌多(りょうた)は理解できなかった。エリスが置かれていた状況は絶望でしか無かったはずだ。戦えたのはほぼ一人だろう。集落の戦える人材は戦線へと連れて行かれてしまったのだから。一人で戦っている中で希望がどこにあったんだ。


「絶望はしていたはずだよね〜、いきなり追い込まれてしまったんだから〜、守る為にここに集落の人を全員集められただけでも大したものだと思ったよ〜」


「そうだよ、エリスの中では絶望しか無かったはずだ…」


「君がいなかったらね〜」


「は?」




「君がいたから死にそうになってる状況でもエルフの明るい未来を描けたんじゃないかな〜」


 声にならなかった。


「花がまだ枯れてないって事は、君が思うエリスの死の悲しみよりも強い君への希望を胸にエリスは死んでったんだよ〜」


 信じたくなかった。


「希望に思われていた君は、こんなところで立ち止まってていいのかい?」


 枯れたはずの涙が、溢れて来た。


「辛いのは君じゃない。君に希望を託したのに裏切られているエリスさ」


 今の自分がやらなければならないことがやっとわかった。


「心は決まったかい? 決まったら進もうよ、エリスの思いを遂げるために、もう誰も失わないためにね〜」


 この使命は絶対に果たすと心に決めた。



 溢れ出す涙を必死にこらえながら。















「うーんっ、大丈夫かなぁ」


 泣き崩れる凌多(りょうた)を見たセフィリエルはあの問題は本人にしか解決出来ないかしらと言って全員を屋敷に戻すように促し、凌多(りょうた)が来るまで接触しないようにと伝えた。


「そうかもしれないけどっ、うーんっ、心配だよーっ!!」


 実際にそばにいる事でリリーに出来た事は何一つ無い。しかし、何一つ出来ないからと言ってそばにいなくていい事にはならないのだ。


 セフィリエルに言われて凌多(りょうた)の元を離れてから随分と時間が経ってしまったが、まだ帰ってこない。心配のしすぎで寝室に居る気になれず、このままで大丈夫かと思っていると、遠くに人影が見えた。夜であるため、見えにくくはあるが、教会の方から歩いてくる。


凌多(りょうた)っ!!」


 リリーは人影に向かって飛んでいったが、すぐに分かった。


凌多(りょうた)じゃないっ!?」


 凌多(りょうた)と別れた後、完全に気を抜いてしまっていた。役割として振られていた周囲の警戒を完全に(おこた)ってしまっていた。


「まだいやがったのか、先行部隊の姿が見えねぇと思ったら妖精だと!? まぁ、邪魔だから消しておくか」


 目の前にいるのは魔族。先行部隊からの連絡が無いから二次部隊としてこの集落まで送られたのであろう。


「うりゃっ!」


 目の前の魔族は手に持っていた剣を振りかぶるとリリーめがけて振り下ろして来た。思ったよりも早い攻撃で即座に反撃する事は難しそうだ。


 目の前に植物を乱雑に成長させる事で攻撃を防いだ。


「舐めないでよっ! このくらい余裕なんだからっ!」


 単純な攻撃であったためそのくらいは簡単に防げると自信満々に言い放ったリリーであったが、思わぬ方向からの声がかかった。


「残念ながら、そんなに舐めてかかっては無いのでね、ごめんな嬢ちゃん」


「うそっ!!」


 思ってもいなかった。普段であれば周囲の警戒は魔法で行なっている為、挟撃などされた事もない。


 目の前に魔法での操作を行ってしまった為、この攻撃は防げない。


「そんなっ……」


 どうしようもないそんな声が漏れた時に予想外の展開が起きた。


「ぐわぁっ……」


 目の前の紳士的な格好をしている魔族の男の腹が切り裂かれ、上半身と下半身が真っ二つになった。力無く崩れ落ちると背後にいた人物が目に映った。


「わりぃな、待たせた……」


 そこには多くの返り血を浴びて服が真っ赤に染まった凌多(りょうた)がいた。


凌多(りょうた)っ!!」


 リリーは久しぶりに目にした凌多(りょうた)の健全な姿に興奮し、涙を浮かべながら凌多(りょうた)の胸に飛びつこうとした。


「ちょっと待て!」


「むぎゅぅうっ」


 凌多(りょうた)は目の前に差し出した手のひらでリリーの突進を止めると、最初に攻撃してきた魔族に対して追撃を行った。


「逃がさねぇよ」


「ふん、甘いんだよ、二人で攻撃しかけると思ってるのか、他にもいるんだよ、馬鹿が!」


 逃げ出した魔族は、周りからの防御が入ると信じこちらを振り返ったが、横槍が入ることは無かった。


「ぐわぁっ…」


 凌多(りょうた)は勢いそのままに剣を振り下ろすと、魔族は片腕を失った。


「チッ、いきなり振り返るんじゃねぇ、切り損ねただろうが」


「い、痛ってぇ、おい、やめてくれ…」


「やめてくれって言った相手にこんな事やって無かったら、こんな状況にはならなかったかもな」


 凌多(りょうた)は痛みで地面を転げ回っているチャラついた魔族に対してトドメを刺した。


「ふぅ、これで全員か……」


 凌多(りょうた)は周囲の警戒の為に行っていた「自然探索 《ネイチャーコントロール》」を解くと、一息ついた。


 振り返ると、頬を大きく膨らませて不満を示している面倒そうな妖精がこちらを見てみる。


「感動の再会だったのにっ、さっきの扱いはどうゆうことっ!!!!」


「いや、悪いな、まだ敵がいたぞ?」


「そんな事どうでも良いよ」


「どうでも良いってことはねぇだろ」


「どうでもいいのっ!!」


 リリーはそう言うと、今度こそはと凌多(りょうた)の胸に飛び込んできた。凌多(りょうた)はリリーが何か言う前に言葉を発した。


「心配かけて、世話してもらって悪かったな…」


「ほんとだよぉっ、もう、本当に心配したんだからっ…」


「悪かったって、これから俺頑張るから…まぁ、見ててくれよ」


「うんっ、グスッ…」


 リリーは一向に離れる気配を見せず、戦闘の音を感じて屋敷の外に出て来た一同に見られてしまった。


 かなり恥ずかしかったが、リリーの気持ちを無下(むげ)に扱えるはずも無く、メリア達にとってからかい甲斐のある格好の標的となってしまった。





読んでいただきありがとうございます。次回の更新予定は、10日(火)の予定です。

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