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24話 凌多の心は折れてしまいました。




 マリーゴールドが咲き乱れた教会内部でリリーが見たものは、動かないエリスを抱え、絶望にまみれた凌多の姿であった。


 リリーは、理解してしまった。

 

 最悪の事態が起こっていると……



 


 一瞬動揺してしまったリリーであったが、今やるべき事は凌多に何があったのかを確認する事だ。

 リリーは凌多の元まで駆け寄った。


「凌多っ、何があったのっ?」


 返答はない。凌多はエリスを抱きかかえたまま虚ろな表情で何も語らない。


「ねぇっ、言ってくれなきゃわからないよっ」


 必死になってリリーが声をかけるが、凌多はうんともすんとも言わない。

 

 このままじゃ何もわからないと思ったリリーは、周囲を見渡した。


 凌多に注目していたため気づかなかったが、エリスと凌多のいる祭壇の反対側には大量の死体が山のように積まれている。


 教会内は血にまみれている。多くの花が咲き乱れているため気付かなかったが、地面には血溜まりができるほどだ。


「ひ、酷いっ…」


 状況を見たリリーは、口に出したところで何も変わらない事が分かっているにも関わらず、気がつくとそんな言葉を呟いてしまっていた。


 この状況はいつ起こったのか? 凌多は戦って負けたのか? そうであるとしたらなぜ凌多は生き残っているのか?


 凌多にしかわからないであろう答えを模索したリリーであったが、やはり答えは分からない。


「このままじゃいけないよねっ、何かしなくっちゃっ」


 今の状況の確認をする為にまずはこの状況を作った犯人がどうしているのか把握しなければいけない。


「自然探索 《サーチ》」


 リリーは周囲にいるとは限らないが、犯人の敵影を見つけられるかもしれないと少しの希望を胸に魔法を唱えた。


「この気配は、セフィリエルさんねっ…..こっちの気配は?」


 かなりの速度でこの教会に近づく気配を確認できた。この気配はセフィリエルのものだ。

 一方で、逆の方向から近づく気配も同時に確認することができた。


「エルフじゃないっ…」


 リリーの魔法は精度が高くなって来ている為だいたいの種族は判別できる。この気配は魔物でもなく、エルフでもない。まだ出会ったことのない種族のものだ。


「もしかして魔族っ?」


 現在戦争中であるという事を考えれば選択肢はそこまで多くない。十中八九魔族であるだろう。


 セフィリエルもかなりの速度でこちらに向かっているものの、魔族と思われる種族はもう集落の中に入って来ている。

 そして、この教会に向かって一直線に向かって来ている。


「このままじゃいけない….」


 何故このような状況に陥っているのか把握できていないものの、動く気配のない凌多を抱えたまま魔族との戦闘になるのは避けたい。

 魔族であると思われる人数はおおよそ20人である。


「仕方ないねっ、ちょっと悔しいけどっ!」


 危険は犯せないと思ったリリーは、魔法を唱えた。


「自然管理 《ネイチャーコントロール》」


 大量の魔力を消費してリリーは教会を覆いこむようにして大地での壁を作ると、その周りに這うようにして木々を生やしてコーティングする事で、現状出来うる最大限の防御を行った。


 幸いな事に、魔族と思われる集団に大きな魔力の所有者の存在はいないようだ。


「とりあえず大丈夫そうっ......かなっ?」


 あとは、セフィリエルさんがこっちに向かって来てしまっている。場所は把握しているので魔族がいるかもしれないという事と自分達はなんとかなる状態であるという事を伝えれば何とかなるだろう。


「自然の置き手紙 《ネイチャーレター》」


 リリーは魔法を唱えると魔力で空中に文字を書き始めた。

 この魔法は、魔力で書いた文字を木々に刻み込み、それを伝えたい相手の前に生やすことによって伝言を伝える魔法である。


 リリーは魔法の行使をしたがセフィリエルはそのままこっちに向かって来る。


「なんで来るのっ?」


 セフィリエルの行動を不思議に思ったリリーであったが、その事に対して考えている余裕はすぐに無くなった。


ドゴーン….


 魔族と思われる集団はこちらの防衛に気づいたのだろう。周囲を取り囲むように配置すると、周囲から魔法による攻撃を加えて来る。

 普通であればジリ貧となるところであるが、リリーは大量の魔力を所持している。その上に相手の魔力量も大体把握できているため攻撃が加えられた箇所を徐々に修復していけばこの防衛を破られることは無い。


 一斉放射による攻撃や魔法の系統を変えてみたりなど様々な工夫を凝らして攻撃を行って来るが、この防衛の前には意味をなしていない。

 元の力の差があり過ぎるのだ。


 攻撃が止まり、一息つけるのか? と思ったがリリーは周囲の状況を魔法によって把握すると魔力の枯渇によって止まった攻撃では無いことが理解できる。


 セフィリエルさんが敵襲に向かって突っ込んだのだ。


 こちらに注意が向かって来ていた為、魔族側も急な襲撃に備えていなかったのだろう。セフィリエルの突然の襲撃によって一人、また一人と生命の反応が消えていく。


「もうっ、女王様じゃなかったっけ?」


 一騎で敵の集団に攻撃を仕掛けていくその姿は、女王様としてふさわしく無いだろうとリリーは思ったが今は言っている状況では無い。


 最悪、セフィリエルが劣勢に立たされた場合に備え、即座に反応出来るようにと、集落を中心とした範囲の敵となりそうな気配を探るが既に見当たらない。集落内に攻め込んでいた魔族の生命の反応がすべて消失した。









 

 リリーは土と木々で作った防壁を解いた。

 周囲の敵影が完全に無い事を把握し、セフィリエルさんとカンナ、メリア、強面のおっさんエルフが集合した事を確認してから。


「セフィリエルさんっ、ありがとうっ!」


 防壁を解くと、心配そうな表情をしたセフィリエルが駆け寄って来た。


「あらあら、気にする事はないわ、雑魚だったから余裕かしら」


「お母様、もう少し自分の立場について理解したほうがいいと思うですぅ」


「女王様、この件に関しては私もメリア様と同じ考えです」


「あらあら、二人ともゴメンなさいね、でもリリーちゃんが困っていたから仕方ないわ」


 セフィリエルの言葉に対して、メリアとカンナは気持ちはわかるけど….と言葉を濁した。


 強面エルフのおっさんは何も言わない。ここには大きな立場の違いがあるからなのだろうか、もう一つは防衛の解かれた教会を見渡し状況が状況だけに言葉が出ないだけなのか…


 リリーは凌多を見つめている。


 凌多は、感受性が豊かだ。相手の気持ちを理解できるし、幅広い知識を持っているとリリーは思っている。

 リリーは知らないだけであるが、日本と異世界を比べると情報量が違う。人はみな生きることに必死で、多くの人は生まれてから死ぬまでその土地を離れない事の多い異世界とは異なり、スマホやテレビから多くの意見や状況を知ることのできる。


 その為、一個の話から多くの情景を想像することが出来るだけなのだが、異世界が基準となっているリリーやカンナ、メリアからすればそのように感じられてしまうだろう。


「取り敢えず、この状況をどうにかしなければなりませんね」


 カンナがそう言うと指示を出し始めた。


「リリーさんは凌多さんを安全なところに運び他の魔族が近づいてこないか確認しつつ凌多さんと一緒にいてあげてください。私と女王様、部隊長は死体をどうにかしましょう。メリア様は他の生き残りがいないか集落内を回ってきてください。」


 カンナの言葉に一同はコクリと首を振るとそれぞれの行動に移った。








side : カンナ


「あらあらカンナちゃんは優しいのね」


 セフィリエルと強面エルフのおっさん、カンナが共に墓を作ろうと作業しているとセフィリエルがカンナに声を掛けた。


「何のことでしょうか?」


「あらあら、嘘をつくときはもっと上手に演技しないとダメよ、嘘は女の武器なんだから」


 カンナはセフィリエルの言葉に顔をしかめた。


「バレてしまいましたか….]


「当たり前よ、リリーちゃんへの指示は理解できるわ、大事な人が大変そうだったからね。メリアちゃんには多少辛くても経験してもらうべきだったわね」


「申し訳ございません….」


 女王様が言っている事は理解できる。

 カンナは、メリアのことを気にしてこの役割を振ったのだ。


 生き残りなどはいない。


 いるのであれば、あのタイミングでリリーが教えてくれたはずだ。気配を探知する魔法を持っているリリーもカンナの行動を理解したからこそ、生き残りがいないと言うことをあえて告げなかったのだ。

 カンナはこの遺体が多くあるこの場所からメリアを引き離したかったのだ。


 戦いの中に生きている自分と違ってメリアはあのような状況に遭遇した事はない。それどころか、長寿のエルフであるからこそ死と出会ったことも無かっただろう。

 顔がこわばっていた。自分では分かっていなかったかもしれない。

 

 カンナも一番最初に死と出会った時には、向き合う事が出来なかった。様々な感情が心と頭を吹き荒らす。

 理解は出来ている。別に何かが出来なかった訳じゃない。自分は悪くない。それでも、大き過ぎる出来事なのだ生命を失った瞬間に立ち会うと言う事は….


「リリーちゃんの方は大丈夫かしら?」


 セフィリエルが独り言のように呟く。あちらはメリアよりも重症であった。

 

 感情が振り切ってしまったようなあの表情はむしろ誰にでも出来る表情では無い。


 頭の中に『戦争事に向いていない』という言葉が浮かび上がってくる。

 基本的に悪くないのだが、今後のことを考え、英雄としての役目があるからこそ、あの状態はまずい。リリーが何とかしてくれれば良いのだが…....


そんな事を考えながらカンナはお墓を作るために地面を掘るのであった。








side : リリー


 集落の中は基本的に荒らされていなかった。彼らの目的は戦争のための足がかりとしてこの土地を使うための先行部隊だったのであろう。でなければあれだけの人数しかいない事の説明がつかない。

 また、魔族軍がこの集落までたどり着くには、あと一ヶ月はかかると言う事を事前に聞いている。

 

 今すぐ何かが起こるわけでないと言う事を知っているリリーは凌多を長老の屋敷まで連れてくるとそのままベットに寝転がした。


「辛かったねっ、ごめんね大変な時にそばに居てあげられなくてっ…」


 リリーは小さく言葉をかけるが、凌多には通じない。

 

 悲しみが満ち溢れた凌多は出会ったときは一応意識を残していたようだが、防衛が終わった後には意識を手放してしまっていた。


 あの状況であれば仕方ないだろう。凌多の事はセフィリエルさんやメリアやカンナに話していたがどのような場所で生活していたかなどは知らない。


 リリーが知っているのも【神様】からの知識に入っていたからに過ぎない。凌多の世界全体で戦争や命の奪い合いが行われていなかったわけでは無いが、少なくとも凌多が実際に見える範囲で行われていなかった。


 凌多の状態を調べる際に怪我がないかどうか一応の確認をした。

 どこにも新しい傷や戦いの後を確認することは出来なかった。予想にはなってしまうが間に合わなかったのだろう。

 

 エリスに教えてもらったという修行が完了したかどうかは分からないが、集落から離れていたのだろう。


 リリーは凌多の事を思うと、良かったと言う気持ちが湧き出て来てしまう。

 凌多がいればどうにか出来たかもしれないが、どうにもならない方が強いと思う。

 

 なぜなら、多種族とはいえ知能を持った敵と簡単に戦えるとは思わないからだ。

 その事を考えた上で出て来てしまった言葉は、


「凌多が生きていてくれてよかったっ、よかったよぉっ…..グスッ….」


 リリーの瞳から抑えきれなくなった涙が溢れてこぼれ落ちた。





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いつも誤字脱字の報告ありがとうございます

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