23話 最悪な状態での再会となりました。
最初、周囲の警戒を解いている状態で本当に良いのかと不安になっていたリリーであったが、5日も経つと慣れが生じてきた。
移動中の魔物の襲撃は、全て女王様によって討伐された。
細く整った体であるのにも関わらず、魔物からの襲撃を受けた次の瞬間には地面にクレーターが出来ている。
攻撃方法はシンプルである。
拳で思いっきり殴り、一撃で全ての敵を葬り去っている。
今も背後に現れた魔物が一瞬でのされている。
二本足で立つ筋肉の塊のようなウサギであったのだが、先頭を立っていた女王様はムーンサルトによって華麗に後方へと回ると、着地の勢いのままに地面に叩きつけた。
「あらあら、これで今日のお夕飯が決まったかしら」
リリーはこれが夕飯?と驚きの表情をしているが女王様は全体に向けて声をかけた。
「今日の移動はここまでにしてこのウサギさんをシチューにしちゃいましょう。今日は私が作るわね」
「こ、このウサギ食べれるのっ?」
「あらあら、リリーちゃん食料を見た目で判断してはいけませんよ」
「そんなこと言っても、かなり固そうだよっ…」
たった今、瞬殺したウサギは筋肉まみれで筋張って食べることが出来そうになど到底思えない。
「うふふっ、大丈夫よ、楽しみに待っていて頂戴。カンナちゃん準備をお願い。」
指示を受けたカンナは、速攻でたき火を作ると、料理道具を用意の準備に取り掛かった。
メリアと共に寝床を整え終わると、女王様はカンナに調理手順の説明をしながらも着々と調理を進めていく。
本来であればカンナが食事の準備を行っていたのだが、出てくる料理のレベルが物凄く低いものであったため、見かねた女王様が調理のやり方を教えながら作っているのだ。
「あのウサギ本当に食べれるのかなっ?」
リリーが疑問を小さく呟くと、近くにいたメリアが反応した。
「お母様の料理の腕は一級品なので気にしなくて大丈夫ですぅ」
メリアからそう言われたものの心配のままに焚き火となる枝を拾い集めていた。
「ご飯できたわよぉ〜」
女王様の声がリリーとメリアの元へと届いた。
調理を行っていたたき火の近くまで戻ると、心躍るような優しい香りが漂ってくる。
カンナは、女王様に言われた通りにシチューをよそうとリリーとメリアに渡す。
「あらあら、リリーちゃん驚いた顔をしているわね」
「う、うんっ、どうやったらこんなに柔らかくなるのっ?」
「このウサギさんは弱い火でゆっくりと火をかけてあげると見た目に反してすごく柔らかいお肉になるのよ」
「へ、へーそうなんだっ」
食事前なので説明の際に切断されたウサギの頭を指差しながら説明しないで欲しいと思ったリリーであったが、良い香りにつられてすぐにシチューを口へと運んだ。
「おいしいっ!!」
リリーはこのウサギからこんなに旨みが溢れるのかと思うと切断されたウサギの頭に感謝を伝えるお礼をすると、もりもりと食べ始めた。
「あらあら、嬉しいわ、たくさん作ったからどんどん食べてね」
リリーは女王様の言葉に頷くと書き込むようにシチューを食べ始めた。
食事タイムが終了するとこの日は疲れが溜まっていたのか、カンナとメリアはすぐさま寝床につくと寝息を立てて寝始めた。
存在をたまに忘れてしまう程の影の薄くなっている強面エルフのおっさんは周囲の警戒を行うと言って何処かに行ってしまった。
焚き火を囲んで座っていたリリーと女王様は何気なく内容のない話をしていた。
「あとどのくらいで集落までつくのかなっ?」
「あらあら、リリーちゃんそんなに急いで帰らなくても良いんじゃないかしら?」
「ううんっ、出来るだけ早くかえりたいのっ! 私を待ってる人がいるから」
「それは、この前教えてくれた凌多くんって子かしら?」
「そうだよっ、エリスさんって人にエルフ秘伝の魔法を教わってるんだけどっ、早く帰ってあげないとちょっと心配だからっ!」
「エルフの国を救ってくださる英雄様なのに、こんな可愛い女の子に心配かけるなんて、甲斐性があるのか無いのか分からないわね」
「まぁ、そうだねっ……凌多は抜けてるところが多いからねっ…….」
女王様少し意地の悪さを含んだ言い分に対してリリーは言葉を濁しながら返答した。
「ちょっと意地悪なことを聞いてしまったかしら」
女王様は微笑みを浮かべると、続けるように語り出した。
「私の経験上、男ってのは困った生き物だわ……自分の勝手気ままで我儘で不器用で、優柔不断な事が多いわ」
時折見せる懐かしそうな表情と共に髪が風に靡いている。
「でも、本当に大切に思える異性に出会えた時は、この男は他と違うかもしれない。と思うことがあるの……」
「詳しく教えてっ!?」
「そうねぇ、細かい事は内緒かしら?」
またしてもイタズラな横顔を覗かせた女王様は口元を隠しつつ、優雅に微笑んだ。
「一番聞きたいところなのにっ!!」
「そうねぇ、でもこの事は私から教わらなくても自然に気づくことかしら」
「気にならせといて、その答えはずるいよっ!!」
リリーはプックリと頬を膨らませると表情で抗議している。
「あらあら、ごめんなさいね、私の話よりもリリーちゃんのお話を聞きたいかしらね、凌多くんはどんな魅力があるのかしら?」
「うーんっ、魅力は正直分からないのっ、でも一緒にいると安心するし、相手の気持ちになって考えられる所は素敵だなって思うよっ!」
「あらあら、そうなのね……」
女王様は考え込むようにして表情を暗くすると、リリーは何か悪いことでも言ってしまったのではないかと少し焦ったような表情になる。
「どうしたのっ?」
「ごめんなさい、なんでもないわ、凌多くんがリリーちゃんにちゃんと振り向いてくれるといいわね」
「う、うんっ、そうだねっ…」
リリーは少し顔を赤くすると、女王様から逃げるようにして後ろを向いてしまった。
「あらあら、やっぱりリリーちゃん可愛いわね、うふふっ」
再びたわいもない会話に戻ると、リリーは凌多の出会いとこれまでの流れなどの思い出話を語り聞かせた。
「それでねっ、女王様に会うために集落から、、、」
「あらあら、私の名前はセフィリエルよ、女王様だと固いから周りに誰もいない時にはそう呼んでくれるかしら」
「セフィリエルさんっていうのねっ! そう言えば初めて聞いたかもっ!」
「あの子達は、娘と部下だから名前で呼ばないものね」
「そうなのっ! それでねセフィリエルさん! メリアってば酷いんだよっ……..」
その後、リリーがセフィリエルさんに今までの経緯を話し終えると、夜のお話会はお開きとなり、リリーは自分の寝床へと満足げにスッキリとした表情で向かった。
パチパチとたき火の弾ける音が聞こえる。
周囲は森に囲まれているにも関わらず、たき火の音以外、聞こえないくらいの静寂が周りを包んでいる。
たき火が朝まで持つようにと揃えられていた枯れ木を火の中に放り込む、ゆっくりと熱が侵食していく、そんな様を眺めつつ、セフィリエルは呟く。
「そうねぇ、リリーちゃんにとって大変になるかもしれないわね….でもこの役目は必要かしら」
セフィリエルは少し弱まってきた火を確認すると再び枯れ木を火の中に放り込んだ。
出発してから、一ヶ月近くの旅路を歩んだ一行はやっと集落の近くまでたどり着いた。
「ふぅ、そろそろですぅ?」
「そうですね、今日中には到着出来ると思います」
「長かったですぅ、それもこれも全部お父様が悪いですぅ」
メリアの愚痴を聞き流しつつも進んでいると、メリアはとんでもない事を言い出した。
「そう言えば”感情のタネ”とか言うのを凌多くんに植え付けたって言ってたですぅ?」
「言ったけどっ! それがどうしたのっ?」
からかってくるものだと思ったリリーは身構えながらも訪ねた。
「直接会ってから、浮気を知ったらリリーは感情の制御ができなくなるのですぅ! 今の内に自然探索して、変な花が咲いていないか調べておくですぅ!」
「ま、まぁ、そんな事は万が一にも億が一にもありえないけどっ、そうだねっ….」
リリーは確かに集落が近づくに連れて、本当に大丈夫なのかと疑う機会は増えていった。
自然に関する事なので、ここから「自然探索」《サーチ》すれば何が咲いているかなどすぐにわかってしまうだろう。
もうすぐ直接会えるというのに、今すぐにでも知りたいと思ってしまう。
「自然探索」《サーチ》
リリーは小さく呟くようにして唱え、魔法を行使し始めた。
「どうだったですぅ? 修羅場ですぅ?」
「メリア様おやめください、はしたないですよ」
「うーん、気になるですぅ」
周りが騒がしいと思いながらも探索を続けると、思ってもいない花の存在を大量に確認出来た….
もう一度、確認のために探索で探ってみるが間違いない。
「ちょっと、緊急事態かも知れないから。私、先に行くねっ!!!!!
言葉を聞いたメリアは驚くような表情でリリーを見た。
悲しそうな表情を浮かべていると思ったメリアであったが、浮かべているのは険しそうな表情である。
「後から、追ってきてくれるかしら?」
リリーの言葉を聞いたセフィリエルは一人で行かせてはマズイと思ったのか、メリアとカンナに急ぎめでくるように伝えると、ものすごい速度で飛び出していったリリーが向かった方向にこちらも、ものすごい速度で駆け出した。
リリーは自分の勘違いであってほしいと願った。
「その花がなんで咲くのかなっ? 違うよねっ? 」
凌多の気配は感知できている。その状態でこの広範囲にこの花が咲き乱れるなど、何が起こってしまっているんだ?
リリーは考えてもラチがあかないので考える事を辞め、全速力で飛ぶことに集中した。
5分も経たないうちに集落の正門へとたどり着いた。
リリーは凌多と多くの花が咲き乱れている方角に向かって飛んでいくと驚くべき光景が広がっていた。
そこには教会があった。
教会の周辺まで、花が咲き乱れている。
花は一種類しか今の所は見えない ”マリーゴールド” だ。
花言葉は大きく分けて二通りある。一つは変わらぬ愛。もう一つは、絶望や悲しみ。
教会の側面側に大きな穴が空いていた。
嫌な予感がする。
それでも行くしか、選択肢は残されていない。
リリーは中に入った。
そこで見たものは、動かないエリスを抱え、絶望にまみれた凌多の姿であった。




