22話 女王様も同じ血筋である事に気づきました。
「この辺りで広さは十分かしら?」
女王様は温泉で出会った頃よりも少し真面目な声質でリリーに訪ねてくる。
「うんっ、このくらいあれば全然大丈夫だよっ」
まぁ、サイズ感は自由に決めることが出来るため、調節は自由自在であるのだが、実際に見せるとなれば大きい方が格好が付いて見える。
集落にいる時に一度作っていた為、手順についても問題は無いのだが、カンナから出来るだけ簡単そうに作ってくれと言う事を言われているので張り切ってみよう。
「それじゃあ、やっちゃうよっ!?」
リリーは確認を取った。
女王様は縁側に腰を掛けると、どんなプレゼンをしてくれるのかと、柔らかな笑みを浮かべている。
リリーは両の手を絡めるようにして祈る様に呟く『自然管理《ネイチャーコントロール》』土が盛り上がったかと思うと、腰くらいまでの高さの盛り土が広がっていく、広がりきった状態はまるで生クリームを塗る前のホール型スポンジケーキの様な状態になった。
もちろんそのままでは終わらず盛り土の中心から円状に押し潰されていき、土製の巨大たらいの様な形になった。
女王様はこれに対して驚きの表情は浮かべていない。少し焦りながらも本番はこれでは無い。
もう一度『自然管理《ネイチャーコントロール》』と呟くと、たらい状になっている底の中心から、ゴゴゴゴゴッと言う音が聞こえたかと思うと、突然頭の高さくらいまでの水が吹き上がった。吹き上がった水は緑色をしている。
なんとなくやりたいことが分かっていた女王様であったが、出てきた液体が緑色をしていたため驚きの声を上げてしまった。
「何かしらこれは…」
リリーはその驚きに溢れた顔を確認し、やったっ! と心の中で小さな歓声を上げた。
緑色の液体はたらい状になっている縁一杯まで広がり程よい水量になると止まった。
「これがリリー特製『薬草風呂』だよっ!!」
どんな温泉であってもそれ以上の効能のものに出来ると言っていたリリーであったが、実際にどの様にして作るかまでは知らされていなかったたメリアとカンナも女王様と一緒に驚いている。
エヘン! と胸を張っているリリーであったが、本人の口から効能を聞いたり、どんなものであるのかの説明を聞かなければ入る事を躊躇したくなる色合いをしている。
「これは?? ちゃんと入れるんですぅ。なんだか怖い色してるですぅ。」
プレゼンする側のお前が言うんかい! とツッコミを入れたいカンナであったが、本当に入れるのかという疑問はカンナも抱えていたため実際に言葉に出せずにいた。
「もちろんだよっ、さっき入った温泉と比べると倍くらいの効能があるよっ! しかも泉質の影響での副作用もない様にしてみたのっ」
「副作用って何かしら?」
「いい効果のある温泉って、入り過ぎちゃうと体に毒になっちゃうこともあるんだよっ!」
「そうなんですぅ?」
「そうなのっ、この地に湧く温泉は簡単に言うとお肌を若返らせるくらいのすごい効能があるんだけど、毎日長い間入り続けてたとしたら逆にボロボロになっちゃうのっ! 薬になる様な良い効果のものでも、やりすぎちゃうと毒になっちゃうんだよっ!」
リリーの言葉に対して女王様はかなりの驚きを見せていた。驚きを見せるとともに王様の嘘情報に対してかなりの怒りを感じていた。
「あらあら、そうなのね、忙しくて長湯はあまり出来ていなかったのだけど、もし毎日長い時間入り続けていたら大変なことになってしまっていたかしら」
自分で喋っているにも関わらず、喋るごとに背後にドス黒いオーラが溢れ出しているように見える。
「女王様っ、少し怖いよっ…」
「あらあらごめんなさいね、うちの国王様をどうしてやろうか考えてたらなんだか熱くなってしまって…」
「国王様ファイトです!!」
「お父様ファイトですぅ!」
女王様の言葉を聞いて、悲しい運命が待っていることが決定した国王様への祈りを二人揃って捧げている。
「そういえば、この温泉は副作用? と言うものは無いのかしら」
「無い事はないよっ、でも薬草の効果で出来るだけ少なくしてあるんだよっ! エルフ以外の種族だと薬草の効果が強過ぎて副作用が出てしまうところも、エルフは薬草や自然からの抵抗力が強いからあんまり関係ないんだよっ!」
リリーはそう言い放つと、薬草がどのような効果を持っていて美容にどのような影響がしてくるのか、また、美容だけでなく治癒効果もあるため、傷や怪我に対しての回復泉としても有用ということを話した。女王様はかなり興味が沸いているようだ。隣のメリアとカンナも驚きの表情で興味が沸いているようだ。
「湯船にはさっき浸かっちゃったから、今回は軽く浸かって泥パックでもしてみる?」
「泥パックってなんですぅ? 」
そんなこんなの会話をしながら興味津々の3人は実際に入浴し、泥パックなどのプラスαの要素も行うと、完全に薬湯の虜になっていた。
「はぁ、さっきの温泉も最高だったけどこっちもいいお湯ですぅ」
「そうですね、かなり満喫してしまいました。」
「あらあら、だらけきっているわね、でもそのくらいいいお湯だったわね」
3人はかなりだらけたような姿で、夜風を感じながら涼んでいる。メリアなど温泉に入り過ぎて疲れたのかうつらうつらとしている。今にも夢の世界へと旅立ちそうだ。
ただ、残念ながらまだ寝かせるわけにはいかない。これだけでは目標が何も達成出来ていないのだから。
「それでねっ!聞いて欲しいことがあるんだけどっ!」
「あらあら、何かしらリリーちゃん?」
コホンっとリリーは咳払いをすると、女王様に向けて話を始めた。
「この薬湯は一応エルフの国付近で採取出来るものだけで作ってみたのっ、だから私が栽培方法を教えて、エルフの国の情勢が安定してからさっきの泥パックが出来るように『自然管理《ネイチャーコントロール》』して温泉地を作れば水さえあればどこでもおんなじ温泉が楽しめるんだよっ! このまま20年間ここにいても美容に良いわけじゃないし、エルフの国を守るために王都まで来てくれませんかっ!」
リリーが女王様に対して真面目な話を始めるとメリアとカンナはその話をするのを忘れていたっという様な表情を浮かべているが、リリーは呆れて無視をした。
「あらあら、本当ならメリアちゃんかカンナちゃんから聞きたかった言葉かしら?」
女王様の言葉を聞いて二人はものすごい勢いで汗をかいている。
「もしかしたら、こっちの温泉のことを心配するかもしれないけど、温泉街にはこれだけの設備が整ってるなら温泉以外の魅力もあるから差別化ができると思うのっ!」
メリアはさらにそこの問題については考えていなかったという顔を浮かべているが、これに関しても無視をした。
メリアに任せずにこちらで話をしたほうがいいと思ったリリーは自身で提案の魅力について語り出した。多面的な話を展開し、女王様からの疑問点もなんとか答え切ると、女王様は分かったわ…と納得の声を漏らすと今後の動向についての答えを明言した。
「仕方ないわね、エルフと関係のないリリーちゃんにここまで言われちゃったら一応女王の名を授かっている身としては期待に答えるしかないわね」
説得が上手くいったことに対して3人は喜びを表した。
「やったですぅ、これでエルフの国もなんとかなりそうな希望が出てきたですぅ!」
その中でも一番の喜びを表しているマリアに対して女王様は冷たい言葉を投げかけた。
「あらあら、メリアちゃん。忘れているのかしら? 国を出発する前に長女として国を任せるといったと思うのだけれど、お城に戻ったら当然お説教が待っているわよね?」
女王様の一言によってメリアの喜びは塵となって消えた。
腰から崩れ落ち、地を這う芋虫のようになっている。当分は起き上がってこれないだろう。
女王様の説得が終わると、女王様は屋敷の外にて待機していた仲居達を呼び寄せると宿泊の準備を始めさせた。
説得が終わった時点からすぐに旅立とうと思っていたリリーであったが、準備と今後の方針に関する会議だけは行っていかないとこの街が混乱してしまうと言われればそれ通りの行動をするしかない。
出発予定は翌日の正午と決定し、すぐに客人用の寝室へと案内されたリリー、メリア、カンナとは違い、女王様は会議の為に各ポジションの重要なポストについているもの達を呼び出した。
「リリーさんのおかげで助かりました」
寝室に並べられた布団の中でカンナは唐突に感謝を述べた。
「えっ、いきなりどうしたのっ?」
「今回の件はエルフの問題であるにも関わらずリリーさんにおんぶにだっこ状態になってしまったことです。本来ならばリリーさんの能力に頼ることない説得を私かメリア様がしなければなりませんでした。その上、納得させる話し合いについてもリリーさんに話させてしまって、私は不甲斐なさすぎです…」
悔しさをにじませたように話すカンナに対してリリーはそんなことはないと言葉を重ねた。
「関係ないよっ、エルフとか妖精とか、人間とか、種族は関係ないのっ、私たちは凌多がエルフの手助けをするって決めた時からもう味方なんだからっ、一心同体なんだからっ、そんなことは気にしなくていいのっ、その時々で出来る人が出来る事を全力でやるだけだよっ、そんな時に遠慮なんていらないんだからっ!」
リリーが自分の想いを伝えると、カンナは「しかし!...」と言葉を続けようとすると隣からスースーと寝息が聞こえてきた。
「メリア様っ…」
リリーは安らかな寝息を立てたメリアを見ながら優しさに溢れた笑顔を浮かべつつカンナに語りかけた。
「今必要なことはゆっくり疲れを取ることかもねっ、メリアが仕事をしなければいけない所はここじゃないから今は休憩してるんだよっ、私たちも寝ようっ!」
「分かりました。この感謝は今後の態度で返していく事とします。」
「うんっ、よろしくねっ!」
今は反省することよりも明日以降に備える必要がある事を理解すると、カンナはゆっくりと眠りについた。
翌日の正午、早めに屋敷を出発したリリー一行は正門の前にて女王様が来るのを待っていた。
「昨日はゆっくり出来て良かったねっ!」
「メリアは爆睡かましてやったですぅ!」
「メリア様、言葉使いがよろしくないです」
「今日からお母様と一緒だから今のうちに毒素を出しておくですぅ!」
「毒素って、自分で言ってしまっていいんですか?」
そんなこんなの会話をしていると正午を告げる鐘と共に女王様は正門に現れた。
「あらあら、遅くなってしまってごめんなさい、では、行きましょうか」
集落に向けて一行は出発した。
道のりは知っていると言うので女王様を先頭にしてついていく一行であったが、ふと疑問を持ったリリーがカンナに問いかける。
「普通こういう時って護衛のカンナが先頭だよねっ?」
「普通はそうですね先頭を歩まずとも進行方向は指示できますから」
「そうだよねっ、なんで女王様が先頭なのっ?」
「それはお母様が自ら言い出したんですぅ」
先頭を歩む女王様の表情は楽しさに溢れたと言ったようなウキウキした顔をしている。
「あらあら、リリーちゃんはまだ知らないかもしれないけど、私は女王様だからこんな時にしか先頭が歩けないのよ、本当はいつも先頭を歩みたいものだわぁ」
ふーん、そんなもんなんだ…
リリーがそんなものなのかと思っていると、ある事を忘れていた。
「あっ、周囲の警戒をするの忘れてたっ!」
すぐにでも魔法を唱えては周囲の警戒を始めようとしたリリーであったが、メリアとカンナの両名によって止められた。
「リリーさん、その必要はありません」
「なんでよっ、女王様が先頭を歩いているのだからむしろちゃんと警戒しないと危ないんじゃないのっ?」
リリーが疑問を口にすると同時に、王女様のすぐ横に生えている草むらからガサガサという音が聞こえると数匹のイノシシのようなフォルムをした魔物が飛び出してきた。
ブヒヒっ、ブヒーッ!!
かなりの速度で飛び出してきたため、リリーは即座に魔法を使おうとしたが間に合わない…
「女王様っ、危ないっ!!!!」
もうだめだっ、女王様にぶつかる寸前、その後の血に塗れた姿を想像してしまいリリーは目をつぶった。
ドカンっ!!
かなりの衝撃音だ。このまま目をつぶっていてもしょうがない。せっかくここまで来たのにこんな簡単に?
リリーはゆっくりと目を開けるとそこには想像のできなかった姿が…
「そういえば、リリーさんはまだ知りませんでしたね。」
女王様には傷一つ付いていない。しかもイノシシのような魔物はクレーターのような窪みを作って倒れている。
「あらあら、久しぶりの運動だったから張り切り過ぎちゃったかしら」
あっけらかんとした表情で、にこやかに微笑む顔を驚きに包まれながらも見ているとカンナが単純明快に説明をしてくれた。
「女王様も、第二王女様と同じでかなりのバトルジャンキーであらせられるのです」
リリーはエルフの王族の血筋はどうなってるんだ…という思いをなんとか心の中で噛み殺した。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
リリー視点の話が続いていますが、次話から凌多(主人公)の再登場です。
楽しみにしていてくれると嬉しいです!!
感想、評価、ブックマーク、レビュー待ってます!!




