21話 女王様の説得を開始しました。
「ううっ、メリアとカンナのバカァっ…そんなに言われたらもう集落に帰れないっ」
二人から永遠と不安を煽るような言葉を聞き続けたリリーは瀕死寸前となり、温泉の縁に倒れこむとシクシクと泣いていた。
その一方で、白く濁った程よい温かさを持つ温泉の効能と、長旅で溜まったストレスをリリーを弄り倒すことで発散できた2人は出発前よりも艶やかになっている。
「それにしてもこの温泉は本当にお肌に良いのかもしれませんね、少し浸かっただけなのにお肌がツヤツヤです」
エルフの首都からメリアに同行して出発してからかなりの日数、野営をしたために傷んでいた肌は打って変って赤ちゃんのようなもちもち肌になっている。
「うんっ、この温泉は良い効果ばかりだねっ!」
「そうなんですぅ?」
「この温泉の泉質を調べてみたんだけど、お肌にとっても髪にとっても物凄く良い効果ばかりだよっ! 王様が言ってた大部分は嘘じゃないかも!」
「なるほど、それはすごい効果ですね、確かにこの効能であればかなりの収益が見込めそうです」
実際の効能が本当に凄いことを女王様が感じているからこそ、集落程度の施設などではなく街として作り上げているのかなぁ…などとカンナが考えていると胸をつつかれるような感触がした。何事であるのかと飛び避ける様にして後ろに下がると白く濁った湯船の中からメリアが浮き出てきた。
「カンナの貧相なお胸にも効果があったなら良かったのにですぅ」
メリアはドヤ顔で自分の豊満な胸を見せつけるとカンナに押し当てている。かなり苦々しそうな顔をしているカンナを横目に何とかメンタルが回復したリリーは温まろうと湯に浸かろうとすると声がかかった。
「あらあら元気そうねぇ、隣いいかしら?」
リリーが声のする方に顔を向けるとグラマラスな体型をしている美しいエルフの女性が隣に入っていいかと尋ねている。
「どうぞっ、あの二人が少しうるさいかもしれないけどっ!」
「あらあら、そしたら失礼しようかしら」
隣にエルフの女性が湯船につかると、メリアが豊満な胸を永遠と自慢してくることに対してブチ切れたカンナがメリアに対して反撃を行っていた。体力に大きな差があるのか肩を掴まれたメリアはカンナによって無理矢理に湯船へと沈められている。
「あわわわわ、もうギブですぅ」
「大量な脂肪が胸についているのに沈んじゃうなんてメリア様は少し重すぎなんじゃないですか?」
「ぺったんこの男の子体系よりは全然いいですぅ、うっぷぅ、もうそろそろ本当に息が辛いですぅ」
どんな状況でも、悪口を止めようとしないメンタルが凄いなぁと思いながらリリーはゆったりと見ていると、もう耐えきれなくなったのかメリアはリリーに助けを求めてきた。
「リリー助けて欲しいですぅ!!」
「リリーさん、この腹黒巫女を貧乳同盟で一緒に沈めましょ、、、!?」
「ど、どうしたのっ!?」
リリーは今までの楽しげな表情からポカーンと呆けた表情への急な移り変わりに驚くと、メリアは、カンナの沈めようとする力から解放され、息を整えた。
リリーに対してなぜ助けてくれなかったのかと文句の一つでも垂れてやろうと顔を向けるとカンナが力を失った原因がリリーの横に浸かっていた。
「お、お母様!!!!!」
「じょ、女王様!!!!」
女王様に温泉で久しぶり会った二人はリリーを引き連れるとそそくさと温泉を上がり、着替えを済ますと3人の後に続いて上がってきた女王様と更衣室で顔を合わせる前に退出し、逃げる様にして客間に案内された。
この場でお待ちくださいと言われると、3人の前には食事が用意され、真向かいになる場所にも食事の準備が整えられている。
食べながら話そうという事なのかなぁと呑気にくつろいでいるリリーに対して強張った顔の二人…
少しの時間が経過すると、床に着きそうなまでに長い着物を着こなした女王様が向かいにあった食事の前に姿勢を正して座った。
「リリーちゃん、初めましてよく来てくれたわね、食事を用意したわゆっくりと食べて頂戴」
いっただきまーすと喜び勇んで目の前のご馳走にありつくリリーに対して、王女でもあるメリアを沈めようとしていたカンナと女王様に小さい頃から厳しく躾けられていたのにも関わらずおちゃらけな態度を見せてしまったメリアは微動だにできずにいる。
「おいしいっ!!」
初めての味で、集落とはまた違った味付けだなぁと思いながらも口の中いっぱいに頬張っていると、女王様がリリーに対して微笑ましそうな笑みを向けたのちに、メリアとカンナに冷めた目を向けた。
メリアとカンナは背中に悪寒が走ると、背筋をこれ以上ない状態まで正し、女王様に視線を向けた。
「あらあら、メリアちゃん、カンナちゃんどうしたのかしら? そんなに怖いお顔なんかして」
女王様の言葉に対して何も返せずにいると、女王様は言葉を続けた。
「ふぅ、仕方ないわねぇ、疲れていたのでしょう。今回だけは見逃してあげるわ、次同じ様にはしたない姿を見せたら昔みたいに礼儀正しくなる様な調教…こほん、授業をしてあげなければならないわね」
見逃してくれるという言葉を聞いた二人は一瞬晴れやかな気持ちになったが、最後の言葉を聞いて、食事を始める前以上に固くなった。
「あらあら、こんな状態じゃあ何の理由があって来たのかもわからないわね」
女王様が困った様な顔を浮かべているが、メリアとカンナの心の中ではお前が原因だろと涙を流していた。悪いのははしゃぎ過ぎた自分たちであるという事を棚に上げて。
「そうしたら食事をとりながらで構わないから私の話を聞いて頂戴」
そう告げると女王様はこの十数年で何があったのかを端的に喋り出した。数多くの話をしていて話が横道に逸れてメリアの昔話をしてしまい、メリアが赤面するシーンなどもあったのだが話をまとめるとこうだ。
王様に温泉の存在を伝えられてから2,30人の護衛と共に温泉地にたどり着いた女王様は宿の様な宿泊施設を建築を命じつつ毎日温泉に浸かっていた。20年後に観光地化するという目的があったので100人程度は宿泊可能な施設に作り上げたらしい。
そんなこんなで2年が経過した頃、野党に襲われた商人達の一行が逃げている場面にでくわし、商人達の懇願によって精鋭の護衛達を引き連れていた女王様は野党を捕縛した。
商人達は心の底から感謝し、恩を返すと言って一月に一度温泉地に商品を運び入れる様になったらしい。捕縛した野党達をどうしようか悩んだ挙句、開発の手伝いをさせる事によって罪を償わせようとしたのだが一筋縄ではいかなかったため、女王様による調教…こほん、授業を行い性根を正し、なぜ野党に落ちてしまったかという理由を聞き出すと近くの集落で非道な搾取をおこなっていることがわかった。
そのままにしておくのは観光地化する上で愚策と思った女王様は集落の長を捉えて新しい長を立てようとしたのだが、また同じ様なことが起こるかもしれないと思った集落の者達は女王様が開発している地域に住みたいと言い出し、開発の手伝いをすることと引き換えに移住を許可した。
その他にも近隣で悪さを働いていた野党に度々遭遇しては、問題を解決すると徐々に住民が増加していった。
振り返れると、住民はかなりの人数に膨れ上がっており、商人達はせっかくこれだけの人数が集まっているのであればと土地と産業の開発を提案するまでになっていた。女王様も温泉地内でも職にあぶれる者まで出てきてしまったため、これを快諾した。
観光地化に力を入れることでこの温泉街に徐々に人数が集まり、これ以上の人数が集まると予想していた温泉地よりも力を持ちすぎてしまうと思った女王様はこれ以上の拡大を防ぐために街を囲む壁を製作し、移住人数の制限を行い出した。
いつの間にか魅力的な土地となってしまったこの土地を他の集落が徒党を組んで狙ってきたりなど様々な問題の発生と解決を繰り返した結果、安全性と魅力のある観光地化の両立のため首都と肩を並べるほどの警備と軍事施設を整えたらしい。
「という事が私がこの温泉に来てからやった事で、この頃やっと落ち着いてきたわ。後は食事の質向上くらいね」
一通りの話が終わる頃には食事も終わり、メリアとカンナは口をパクパクさせながら聞いていた。
「この十数年でそこまでしちゃうなんてすごいねっ!!」
英雄の国建設ストーリーの自伝を聞いている様でテンションの上がっていたリリーは女王様であることなど忘れて話かけた。
「あらあら、ありがとうリリーちゃん。私がすべき事はほぼほぼ終わったから後は温泉をゆっくりと楽しめるわ、やっとゆっくり入れるのよ、今までは何かと忙しくて毎日入ってはいたけど短い時間しか入浴できなかったから」
女王様の言葉に対して、ハッとしたメリアは、夢見る女の子がやっとの事で夢を叶えた様な達成感に満ち溢れた表情をしている女王様に対して、イヤイヤながらに話しかけた。
「お、お母様,,,,その事なのですが、首都の方面やエルフの国全体で問題が起こってしまっていて、お母様にもお力添えを頂きたくて今回は温泉地まで来たのですぅ…」
女王様は、メリアの言葉を聞くと優しさに溢れたう様な顔から一変、般若の様な表情になると、その怒りを顔に貼り付けた様な表情のままにメリアに優しく尋ねた。
「あらあら、それは私が行かないといけない様な問題なのかしら」
「そ、そうです…このままだとエルフの国が崩壊してしまいますぅ。グスンっ…」
般若の顔を崩さないままの女王様に対して自分の意思を伝え切ったメリアに、カンナは珍しく尊敬の眼差しを送るのだった
「あらあら、どうゆう事なのかしら、20年継続して毎日湯船に浸かってないのに…シクシク、で誰のせいでそんなことになっているのかしら? カンナちゃん」
メリアがもう喋れないと見るや、カンナに喋る様にと暗に示した言い回しに一瞬、驚いてしまったカンナであったが、気を取り直すと誰が悪いのか告げた。
「ひゃ、はい。悪いのは魔族と王様でございます。」
「あらあら、他の種族も関係しているのね、ちゃんと聞こうかしら」
怒りを纏った般若の様な表情から落ち着きを取り戻すと、女王様は仲居を呼びつけ食後のお茶を準備する様に言いつけると話を聞くため姿勢を正した。
「あらあら、そうなの、話は分かったわ」
食後のお茶が準備されると共に仲居に対して部屋の近くに近づかない様に言いつけると、カンナが自分の知り得ている現状をエルフ族と魔族との戦争についての話を中心に説明した。
「魔族の進行程度であればいつもの様に撃退してしまえばいいでしょう?」
の様な相槌はあったものの基本的にカンナが一人で語り切ると、カンナは冷めきったお茶を一気に飲み干した。
「あらあら、なるほど、内容は把握したわ。(あの人はあとで処刑が必要ね….)ボソッ」
含みのある低いトーンで殺意まであるのではないかという程に恐怖を含んだ一言を付け加えた。カンナは震え上がった。
「い、今は、先ほど説明させて頂いた英雄様であられる、凌多さんの出現によって王城は落ち着いていますが刻々と敵軍の侵略が進んでいる状態です。」
「そうだよっ、凌多がいてちょっとは役に立ってるのかもねっ!」
凌多のことを引き合いに出しつつ、リリーがドヤ顔をしつつ胸を張った。
最初はなぜその様な事をしていたのか理解ができなかったカンナであったが、リリーがこちらを向いている事から何かを伝えようとしていることがわかると状況を覆す可能性のある話をしていない事を思い出した。
「そ、それでですね、ここにリリーさんを呼んだのです」
「リリーちゃんをですか?」
「はい、リリーさんがここに来てくれたことには理由があるんです。出来れば広めの場所にいってその事を示せると嬉しいのですが….」
「分かりました。この屋敷には中庭だけでなく裏庭もありますからそこにしましょうか、リリーちゃんが何を見せてくれるのか楽しみです。」
女王様は含みのある言葉を放つと裏庭に案内する為に立ち上がった。
「(ここからが本番ですぅ…)ボソッ」
女王様に続いて裏庭に向かおうとすると後半は全てカンナに任せて役目を放り投げた泣き虫巫女様がようやく復活していた。
誤字報告をくださっている皆さんありがとうございます!
少なく出来るように頑張ります(~_~;)




