20話 温泉地に辿り着くと何故か街がありました。
お久しぶりです!
お待たせしてしまって申し訳ございません!!
side:リリー
「ハァ、やっと出てこれたですぅ」
「地上は陽が眩しいわねっ」
温泉地を目指し、出発から10日ほどの日数が経過していた。
一行は、地質検査によって温泉地が見つかった森に辿り着いたはいいのだが、正確な位置が把握できていなかった為、リリーに探索魔法を使ってもらう事によって地道に温泉地捜索を行っていた。
途中、数多くのエルフの気配をリリーが感じ取り向かったので、向かってみるとその先には地下に遺跡が延びていた。まさか、遺跡の中に存在するわけは無いと他の場所を探そうとする一行であったが「温泉地の情報をここにいる人に聞けばいいんじゃないっ?」という意見によって探索した結果、分かったのは温泉地どころか、生命が存在している形跡すら感じ取ることが出来なかった。
「何も無いように感じましたが、あの地下遺跡はなんだったのでしょうか?」
「入る前には確かにエルフの気配を数多く感じたんだけどっ、実際に行ってみたら何もなかったもんねっ...」
「不思議ですぅ... 正直王族の教育としてエルフの歴史をたくさん勉強したのに遺跡のことなんて教えられて無いですぅ...」
メリアが遺跡がエルフの歴史に関係して来ると思ったのには理由がある。地下遺跡は実際に入ってみると思った以上に大きく、地下都市の様に広がっており、文明が栄えていた形跡も発見する事が出来た。その中にあったのがエルフ語であったことからエルフの文明であることは間違い。
しばらくの間、探索を続けていたが何も発見出来ずにいると最奥に王城の様なものを発見した。
一行は警戒しつつも王城に足を運ぶと戦闘行為が繰り広げられた痕跡が残されていた。痕跡はかなり風化していた為、少なくともここ数年で行われたものでは無いことが確認出来たが、数年も人がいない様な場所でリリーが気配を感じた事に対して疑問を持ち一応王城を1日かけて探索したのだが、王座の様な場所が石碑に変わっていた事以外に変な場所は見当たらなかった。
「リリーさんの魔法が効果を発揮しなかったということは、道中に探索して魔物の居場所を正確に把握してくれていることから無いと思いますし、あの場所は一体何だったのでしょうか…」
「ん〜、そうだねっ、でも最後に見つけた石碑に書かれた意味はなんだったんだろうねっ」
王座に置かれた石碑に『サン・ジェントは諦めない。地上の王として君臨するその日まで…』と書かれていた。
「まぁ、分からない事をいつまで考えていても仕方ないですぅ...」
メリアの言葉に対してリリーとカンナは賛同すると目的である温泉地の探索の為に足を進め始めた。
リリー達は背の高い木が鬱蒼と生い茂る森を言葉少なに進んでいた。
地下遺跡を出発してから5日ほど経過し、強面エルフのおっさんが担いでいる籠は食料の消費によって軽くなり、メリアが移動に慣れると共に移動速度が速くなっていく。
温泉地に向けての移動はかなり順調なものに思えるが、一匹の妖精の機嫌が日程の経過と共に悪くなっていた。
「全然見つからないねっ…」
「たぶんそろそろであると思うのですが」
なんども聞いたリリーの言葉に対してカンナは少し呆れながらも答えた。
「今日中に見つかるかなっ!? 早く集落に戻りたいねっ!!」
目的はまだ何も達成できていないというのにリリーは既に帰宅の路を考えている。
女王様説得に時間がかかればかかるほどにリリーのイライラが更に溜まるのかと思うと憂鬱に思う。女王様の説得は簡単ではない。基本的に筋の通った話以外は聞く耳など持たないし、納得できるだけの要素があるのかしっかりと見極める方である。説得には時間が掛かるだろう。初めての道のりであったため移動にかなりの時間がかかってしまったが、帰宅の際にはいくらか時間の短縮も可能であるという事を考慮しても説得に1週間以上かかってしまえば予定していた1ヶ月間で集落に戻る事は出来なくなってしまう。
大変だな、リリーの機嫌をこれ以上悪くしないため、できるだけ早い説得ということも条件に加わったのか…とカンナが考えていると思考の外からの声が聞こえて来た。
「リリーちゃんは本当に凌多くんの事が好き過ぎですぅ。少しは凌多くん離れしたほうがいいですぅ」
移動に少し慣れたメリアは余裕ができたのか出発初日のような軽口を挑発気味にリリーに向けて話している。
「そ、そんな事ないもんっ、凌多は私がいないとダメダメだからちょっとだけ心配してあげてるだけだもんっ」
「そうですぅ? 凌多くんはエリスとイチャイチャしているだけだから気にしなくても大丈夫ですぅ」
いつもいつも同じ会話で飽きないなぁ、と思いつつも私がしっかりしなければとカンナは気を引き締め直した。
1日かけて道無き道を進んでいると日が暮れそうな気配と共に独特な臭いが周囲に漂い始めた。
「そろそろですか….」
事前の情報から温泉の成分に含まれる独特な臭いが周囲に漂い始めたら近くに温泉地があると伝え聞いていたカンナは無事に近くまで来れている事に対して胸を撫で下ろした。
「もう近くにあるのっ? だったら今日中に温泉地まで行っちゃおうよっ!」
気楽に言ってくれるなぁとカンナは思ったが、近くにあることが分かったならとリリーは魔法を唱え始めた。
「自然探索《サーチ》」
リリーは周囲の探索を始めた。
「うんっ、北に1kmも無いところにエルフの気配が集まってるところがあるねっ。そこが温泉地だと思うよっ!!」
リリーはカンナに目的地を伝えると早く向かおうと移動の速度を上げた。メリアも流石に初めての長旅で疲れていたのか今日中について温泉に浸かりたいと言うとリリーの速度に合わせて一行は進み始めた。
リリーの示す方向に向かうと温泉地が存在していた。
温泉地はメリアとカンナの想像を超えるものになっていた。本当に十数年前の地質調査で見つけた秘湯であるのか疑うレベルの開発具合に一行は驚きを隠せなかった。
温泉地はもう既に秘湯ではなく開発整備が行われた街のような外観をしている。大きな外壁が王城のある王都の外壁に負けないくらいの威圧感を醸し抱いていて実際に戦闘行為も想定し、弓を放つ為の覗き穴や外壁の上に台座の設置がしてあり魔法使いによる砲撃も可能な形状に作られている。見る限り王城と同等もしくはそれ以上の警備兵が外壁上には見受けられ周囲への警戒も万全な状態なのであろう。
「温泉地って聞いてたからもっと静かで人もいないような所を想像していたけど思ったよりもすごい場所だねっ」
「私たちも想像していませんでした。女王様のことですから集落くらいのものは出来上がっているのかと思いましたが、ここまでとは…..」
「全くお母様はいつもやりすぎなのですぅ。王都よりも頑丈な外壁が僻地であるこの地域で本当に必要ですぅ?…ハァ….」
3人は温泉地に対しての意見をそれぞれ語ると、正門があるであろう場所に向かった。
正門にたどり着いたが、外壁から分かった通り、警備はかなり厳重になっていたため、通行するまでに時間がかかった。
一応、王族でありメリアがいるのにも関わらずチェックは厳重に行われ、20分以上の時間をかけてやっと中に入ることが出来た。
「この街並みはもう既に王都以上ですね...」
正門を抜けた一行はリリーを除いて温泉街の街並みを見て驚いた。区画整備がしっかりとなされているであろう街並みに露店がいくつも並び、道の端には用水路が引かれている。道の中央には噴水が夕暮れ時の暖かな日差しが水面でキラキラと輝き、街は活気で満ち溢れている。
実際ここまでの清潔さや綺麗さは王都には無いため、先ほどのカンナの表現は大げさに言っているのではなく、事実である。
「お母様やりすぎですぅ...」
長い旅路で疲れていたメリアもこの光景を目の当たりにした驚きによって疲れなど、どこかに行ってしまったのでは無いかと思うほどになっている。
正門からの景色に少し驚いて立ち止まっていると、警備の詰所がある方面から一人の女性エルフが駆け寄って来た。
「初めまして、メリア様御一行の案内をさせて頂きます。よろしくお願い致します。」
女性エルフは頭を下げると簡単な挨拶をして来た。
「このたびはどのような理由でこの温泉街までいらっしゃられたのですか?」
カンナが女王様に会いに来たという事情を話すと、客人用の温泉施設があると言うことを伝えられ、女王様の面会時間が決定するまでそちらで休まれては? という提案された一行は、案内係の女性エルフに連れられて客人用の温泉施設まで向かいだした。
「うわぁっ、集落では見たことない衣装だねっ。エルフはこんな服装もあるんだっ!!」
「いえ、私たちもこのような服装は初めて見ました。」
「そうなのっ?」
てっきり、エルフ全体で知られている服装だと思っていたリリーが少し驚くと、服装について案内係の女性エルフの方が教えてくれた。
「この服装は、元々人間族に伝えられた服装であるらしいいのですが、商人から温泉地で着るには最適であると言われ女王様が購入してみた所、実際の快適度の高さから今ではこの温泉街全体で好まれる服装となりました。」
なるほど、と一行が頷くとこの着物が甚平という和服と呼ばれているものであるという事を伝えられた。この場に凌多がいたのであれば、異世界からの転移もしくは転生者辺りが教え広めた事であると理解出来ただろうが残念ながらこの場には凌多はいない。
街並みを眺めながら歩いていると、エルフの王都や他の地域には作られていないであろう食事や生活品が数多く露店に並べられている。
「せっかく温泉地を作るならと女王様が温泉地の特産品を作るようにと様々な試行錯誤を商人と職人を集めて行っているのです。」
様々なものに対して興味を惹かれていた女性陣は女性エルフからの案内を聞きながら歩いていると、
「到着致しました。こちらで御座います。」
目の前には集落の長老の屋敷と同じくらいの建物に案内された。
木目がむき出しになっているまま作られているその建物は、上品さとともに味のある木造のお屋敷になっていた。細部にまで細やかな装飾が彫り込まれている建物であり、木々に対する深い想いが伝わってくるように感じた。
「どうぞ、中にお入りください。」
言われるがままに中に入ると、綺麗な絨毯が惹かれた廊下に所々すごい値段が付きそうな花瓶や絵が飾られている。玄関を抜けると中庭が存在していた。日本庭園のような趣を持ったそこには小川が流れ、中央には松のような渋さを持った木が存在感を放っている。
「メリアの趣味には合わないですぅ。もっと自然のままの方が美しいですぅ,,,,」
メリアはブツブツ言っているが後の3人は壊さないようにと考えていた為、芸術品の品定めをするような余裕は持ち合わせていなかった。
簡単な迷路のように入り組んでいる廊下を移動し、奥の方までやって来た。
「こちらが温泉になります。皆様がご入浴されている間に女王様のお会い可能な時間の連絡がくると思われますのでそれまではごゆるりとお楽しみください。」
案内係の女性エルフは先ほど町で見かけた甚平とタオルを用意すると、優雅に一礼し出て行ってしまった。
その後、リリー、エリス、カンナの3人は暖簾を潜ると衣服を脱ぎ捨て温泉に浸かった。
「ふぅ〜、極楽極楽ですぅ。」
「メリア、おばさんっぽいねっ!!」
リリーの言葉に対してメリアは頬を膨らませて抗議している。
半月の野営によって疲れ果てた3人の体に温泉の暖かさが染み渡り徐々に体の緊張がほぐれていく。体がそろそろ芯まで温まりそうという頃合いになると、カンナはリリーに喋りかけた。
「女王様の説得が上手くいけば予定の1ヶ月で集落まで戻れますね」
機嫌を良くすると思ったリリーであったが表情は少し暗くなり、俯き加減だ。
「どうしたんですか?てっきり喜ばれるものだと思ったのですが…」
「あと少しで帰れるっていうのは嬉しいんだけど、少し心配なこともあるのっ」
「凌多君のことですぅ?」
「そうねっ、凌多にはエリスにお願いして一個仕掛けをしておいたんだけどっ…」
「仕掛けですか? どんな仕掛けをしたんですか?」
「ううっ…少し恥ずかしいんだけどっ、《感情のタネ》っていう魔法を使ったのっ」
「《感情のタネ》ですぅ? 初めて聞くですぅ」
「その魔法は、感情の種類に適した花を感情の大きさに応じて咲かせるって魔法なんだけどっ…」
「浮気したらすぐ分かるですぅ?」
「うんっ、だからエリスのこと好きになったりしたらすぐに分かっちゃうのっ」
「なるほどですぅ。浮気探知機ですぅ」
「そ、そんな言い方しないでっ! だから、早くもどりたいけどっ、戻るのも少し不安なのっ!」
リリーはそう言うと顔を湯船に沈めてしまった。メリアはニヤニヤしながら潜っているリリーに近づくと、
「帰ったらエリスのベットを確認してみるですぅ。多分赤い薔薇が大量に咲き乱れているですぅ。」
と小声で囁いた。それを見ていたカンナも久々に気を楽にすることが出来たのか、
「そのような状況になっていたら笑ってしまいますね」
と続いた。聞いてしまったリリーはいやぁぁぁっ!と叫ぶと再び湯船に潜ってしまった。
メリアとカンナはやっぱりリリーはからかい甲斐があると目を合わせてアイコンタクトすると、リリーをイジって遊ぶ2対1のガールズトークが始まったのだった。
水曜日に最新話投稿します!
興味を持っていただいた方は是非!!
昼寝王でTwitterもやっていますのでよければそちらも是非!!




