18話 森の自然を司る聖獸と出会いました。
「ありがとう、君にはとても感謝しているよ」
声が聞こえたと同時に、森がざわめきだす。木々が揺れ地面が揺れているかのような地響きが起きたかと思うと木々の間から木漏れ日が差し込んだ。木漏れ日が思ったよりも眩しく凌多は目を瞑ってしまった。
「眩しすぎる。何なんだこれ?」
木漏れ日とは思えないほどの光の強さに驚き瞑ってしまった目を開けると目の前にウサギのような耳が長く垂れ落ち、頭の上にはタテガミのような炎が揺れている。長い尻尾を左右に振りながら少し眠そうに半目しか空いていない目が凌多を見つめている。背丈が凌多の膝下までしかないその生き物が凌多に向かって喋りかけてくる。
「やぁ、僕の姿を見せて話すのは初めてだね〜。僕は森の自然を司る聖獣のパウラだよ〜、よろしくね〜、りょうた」
「森の自然を司る聖獣?」
「うん〜、そうだよ〜」
パウラは、眠いのか前足の甲で目を擦っている。
「君とも今まで話をしていたじゃないか〜」
「話をしていた?」
全く理解出来ていない凌多であったが、「パウラは察しが悪いなもう〜」と言いつつも具体的な説明をしてくれた。
「なるほど、今まで俺が森と話していたと思っていたのはパウラ、お前と話していたんだな」
「うん〜、そうだよ〜、パウラは森を司っているからね〜、パウラの意思は森の意思みたいなもんだよ〜」
今まで森の自然に感謝していたのは、パウラに感謝していたと言う事になるのか。
「まぁ、お前がそうゆう存在ってことは分かったが、何をしに現れたんだ?」
「かんたんだよ〜、君を気に入ったから感謝を伝えるのと共に出てきたんだ〜、あと、お願いごともあってね〜」
お願い事?
凌多の顔は一瞬曇ったものの、まぁ、聞いてやろうと思い表情を戻した。
「お願い事って何なんだ? 聞いてやるよ」
一旦聞いてみてそこから判断しようと思った凌多であったが、パウラはお願いよりも先にやることがあると言いだし凌多の足元まで近づいてきた。
「りょうた〜、しゃがんで〜」
言われた通りにしゃがむと同じような目線にパウラがいる。
えいッ! パウラが一瞬踏ん張るような表情で首を前後に振ると頭のタテガミのような青い炎が凌多に向かって飛んでくる。
「はぁっ?」
一瞬の出来事に避けようとした凌多であったが炎は凌多の胸の辺りに当たったと思うと、燃え広がることも痛みや熱さを感じることもなくスッと凌多の体の中に入っていった。
驚き戸惑っている凌多であったが、パウラを見るとやり遂げたように、前足で額を拭いやり遂げたようなやりきった顔をしている。
「何をしたんだ?」
凌多が何を自分にしたのかと、苛立ちを含ませたような目でパウラを睨むととぼけた様な顔のまま返答が返ってきた。
「ごめんごめん〜、説明が足りなかったかもね〜、今のは僕なりに感謝の気持ちを伝えたんだよ〜」
「感謝の気持ち? 今のがか?」
「うん、今の炎は自然を司る聖獣が君を認めましたよっていう証みたいなものかな〜、簡単に言うとパウラの加護だね〜」
「それがあるとどうなるんだ?」
「別に何もないよ〜」
「それじゃあ、意味ねーじゃねぇか!!」
「慌てないでよ〜、意味がないっていったのはもう既に認めていたから加護を送るのが遅れちゃっただけなんだ〜」
「どうゆうことだ?」
本来ならば、先ほどの炎を聖獣が与える事によって信頼の証であることを示し、その際にエルフ秘伝の魔法が取得可能になるらしいのだが、凌多は既に与えられていた。実際にリリーが使っていた自然探索《サーチ》を支えたのが良い証拠であろう。あの時には既に認めてくれていたらしいのだが、せっかくならファストウルフの討伐を記念として与えたほうが良いと判断したらしい。
ファストウルフを討伐した意味はなんだったんだ、せっかくなら言わないで欲しかった。
説明を聞き、少し拗ねていた凌多であったが、パウラは続けて話した。
「まぁ、信頼しても姿を表すかどうかはパウラ達聖獣の決めることだからエリスはまだパウラの姿を知らないよ〜」
「エリスさんよりも信頼されたってことか、まぁ悪い気はしないがパウラ達?聖獣ってのは他にもいるのか?」
「うん〜、たくさんいるよ〜、海にも火山にも他の場所にもいるかな〜、だからパウラは森の自然を司る聖獣なんだ〜」
自然にもいろいろな形があり、エリスさんは森の自然との親和性が高くエルフ秘伝の魔法を使えると言っていた。他にも自然がありその分だけの聖獣がいるってことか….
凌多は自分の世界に入って少し思考をしているとパウラから声が掛かる。
「それでね〜、今凌多は魔法が使える状態になったし、森の中では身体能力が上がっているはずだよ〜、でも…..」
「でも何だ?」
「まだ、自然探索《サーチ》以外の魔法は使えないよね〜?」
「おう、そうだな!で、それがなんだ?」
「ここで〜お願いなんだけど〜パウラを君の冒険に連れていって欲しいんだ〜」
「はぁ? 森の自然を司る聖獣だったら自然の中に居なきゃいけないんじゃないのか?」
「そんな事ないんだよ〜、最近パウラに加護をもらいに来る人も居なくなっちゃったし暇になったんだ〜」
「でもそれなら別に、俺と一緒じゃなくても、一人で行けばいいじゃないか」
「歩くのが面倒なんだよ〜(ボソッ)」
「え? なんて?」
「歩くのが面倒だから〜、りょうたの中に居て楽しながら冒険がしたいんだ〜」
凌多は絶句した。森の自然を司っているとか言うからすごいやつだと思いきや見た目通りの性格しやがってる。
「その代わり〜、君にエルフ秘伝の魔法? って呼ばれてる魔法の使い方を教えてあげるよ〜」
「……….どうしよ」
凌多は顎に手をあていつもの考えるポーズを取るとかなり考えた。こいつと一緒に冒険をするとかなり面倒な事に巻き込まれそうな気がする。これは考えて出た結論ではなく自分自身の勘だ。理由なんてない。面倒な事が起こりそうな気がする。
普段であれば、断ってエリスさんにでも魔法を学べばいいと思う凌多であるが、パウラを連れて行くかどうかかなり迷っている理由がある。その理由は簡単だ。
パウラは、カワイイのだ……
凌多は元々犬や猫といった動物がとても好きだ。カワイイ動物に対して目がないと言ってもいいくらいに好きだ。日本に住んでいた時も動物が好きすぎて猫カフェや犬カフェによく通っていた。その動物に対しての愛情はストライクゾーンが大きく、異世界で初めてゴブリンと対峙した時も魔物であるにもかかわらず少しカワイイと思ってしまったほどだ。
そして、今目の前にいるパウラはおっとりとした喋り方が愛くるしさを含んだ外見とあいまってものすごくカワイイ。
今まで日本にいた時、何度も何度も犬や猫との生活を夢に見た。しかし、片親ということもあり、ペットとして飼いたいという欲よりもずっとそばにいれないことから何かあった時にどういった対処もできない事から飼うことを諦めていた。
悩み抜いた凌多は、この世界では仕事や学校の為に目を離さなければいけないタイミングは無い。ずっとそばにいる事が出来る事、魔法を教えてくれるという理由から決めた。
「……分かった。俺たちにはやる事があるんだ。それでも良いなら一緒に来いよ」
凌多は本当であれば今すぐにでも抱きつきたいという欲望を抑えて格好をつける為にいつも通りの喋り方を続ける。
「やった〜、りょうたありがと〜」
パウラはそういうと、地面から飛び上がり凌多の胸へと飛び込んだ。
凌多は興奮の絶頂にいた。顔のニヤケはとどまることを知らないほどに…..
パウラが旅についてくる事が決まると、脱いでいた装備を探しに行った。今までであれば、どこに置いて行っていたかなど分からなかったが森の中では自然探索《サーチ》が使えるため案外楽に見つける事ができた。装備を身につけ、刀を久々に鞘へと仕舞い込むと何故か上手く入らない。何故だ?と思いつつも仕方ない。鞘に入れることを諦めると集落へと戻る為に帰路についた。
集落まで後2kmもないほどの距離で眠そうになりながらも横について歩いてきたパウラが先程とは違い少し低いトーンで喋りかけてきた。
「りょうた、感じてる?」
「何がだ? 特に何も起こっていないように感じるが」
今までずっと集落の位置がわかるようにと自然探索《サーチ》を使いつつここまで歩いてきた凌多であったが特に問題が起こっているようには感じない。首を傾げつつパウラを見ると顔から真剣さが伝わってくる。
「何か起こっているのか?」
パウラの真剣な顔を見た凌多は少しビビりつつも何のことを言っているのか尋ねた。
「集落に向かって、悪意のある集団が向かってきているよ」
凌多は、その言葉を聞くと集落へ向かう速度を最大限まで上げて走り出した。
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