17話 サバイバル生活で森の主を倒しました。
体調を崩してしまって投稿が滞ってしまいました。
皆さんも気をつけてください!!
鬱蒼と生い茂る森の中、息を潜め標的に狙いを絞る。本来であれば息が切れてもおかしく無いような距離の移動によって強敵を追いかけてきた。酸素を欲しがる身体に対して音を立てないようにする為、酸素の供給を無理矢理止める。目の前の標的の動きに注視し、一撃で仕留められるようなタイミングを待つ。
息をひそめるのではなく止めているのは標的がニオイや音に対してかなり敏感なウルフ系の魔物であるファストウルフである事が理由である。一度対峙した時にその素早さに翻弄された事に加え、ニオイや音にかなり敏感である事から討伐に失敗した。
本来であれば何人もで取り囲み倒すのが最も効率が良いと思われるが、今は残念ながら一人きりだ。
先ほどファストウルフが移動した痕跡を発見し、その後を追いかけるようにして森の中を走り抜けてきた。ようやく追いつくと、ファストウルフは樹木から落ちてきたであろう赤い実に興味を示していた。
本来、普通の魔物が食事可能な状態になれば一目散に食事にありつくのであるが、少し知恵の回る魔物であればそうはいかない。食事中は自分が無防備な状態になってしまうということが分かっている。周囲の警戒を最大限にしていたファストウルフであるが、凌多に気づく事はなかった。周囲への警戒を解き、口の中に頬張ると噛み砕いた赤い実を首を上にあげながら伸ばし飲み込もうとした。
今だっ!!
凌多は、酸素を供給できず今にも攣りそうになっている両足を動かし、ファストウルフの死角になっている木の上から飛び出すように跳躍すると、勇猛果敢にファストウルフに対して飛びかかり、相手の反応を待たずして晒されていた首元に刀での一撃を叩き込んだ。刀はファストウルフの首に綺麗に入った。声を上げる暇もなく魔物の首が落ちた。
死体を確認し、周囲の警戒を行った。『自然探索』凌多は小さく唱えると、周囲100m以内に魔物の存在がない事が確認できた為に近くにあった太めの木の枝でファストウルフが入るほどの穴を掘ると死体を埋めて埋葬した。
「はぁ、やっと終わったぜ……」
凌多が一人きりで森に入ってから約30日ほどが経過していた。
森に入ってから10日間は苦労の連続であった。最初の数日は、標的である魔物を見つけることが出来なかった。痕跡すら見つけることが出来ずにただ彷徨い夜になる前に寝床を確保しては浅い睡眠をとる生活。今までの生活でこんなに短い睡眠を寝床の悪い場所で何日も行った事がなかったので心身の疲労はピークに達し、気が飛ぶのではないかと思いながらも彷徨い続けた。
しかし、7日が経過する頃には体がなんとか自然の環境に適応した。食料が【∞収納袋】から得る事ができたという事が大きい要因であると思うのだがなんとか一人の力で生存を続ける事ができた。そこからは自然の中に身を置いているからか周囲の気配や動きに対して敏感に対応できるようになった。
そして、10日目に事件が起きた。ゴブリンやコボルドに遭遇し数体の討伐に成功した凌多であったが、魔法が使えないという事から死体の処理について完全に忘れてしまっていた。
夜に睡眠を取っていると周囲から自分に向かってくる気配を察知し、飛び起きた。得物である刀を握ると周囲に多数の気配をしっかりと感じることが出来た。凌多が身構えると周囲の草むらから大勢のゴブリンが襲いかかってきた。数体同時に戦った事はあったが、周囲を完全に包囲された状態での戦闘が初めてであった凌多はなんとか攻撃をいなして躱しつつ、囲まれている気配の薄いところのゴブリンを一太刀でなんとか倒すことに成功すると、一心不乱に走り始めた。
知能が低いゴブリン達は集団的な行動でなく個々に連携の取れていない状態で凌多に対する追撃を始めた為、一人、また一人と脱落していき視界に入るゴブリンが少なくなって来た。最終的に凌多の背後にぴったりくっついて追走してくるゴブリンが3体になると息を整えつつ、足を止めてゴブリン達へと向き合った。
3体のゴブリンはともに追走していたゴブリン達がいなくなっている事に気づくと慌てふためいた。その一瞬の隙に凌多は肩に担いでいた刀で先頭のゴブリンを切り裂くと後方にいた2体に対して真正面から斬りかかりなんとか倒すことが出来た。やっと一息付けると思ったのも束の間、今度は斬り殺したゴブリンの死体の血の臭いに気が付いた追走脱落組が匂いを辿り凌多の元まで来た。
追撃組から離れたタイミングがバラバラであったのか、数体が一緒にくる事はあっても脱落組が全員で来なかった事が救いであった。なんとか襲来の度に返り討ちにする事が出来た。襲撃が止んで1時間後、今までに相手取ったことがない数との戦闘であった為かなり消耗してしまったがなんとか終わった。全身の体力を使い果たした凌多はグッタリとした体勢で木に持たれかかかると、ゴブリンの襲撃の理由が死体であることに気が付いた。25体近くのゴブリンの死体が周囲に転がっているのを確認し、死体の処理のメンドくささに嫌気がさしていると、凌多の元に更なる悲報が訪れた。
凌多がこの数日で狩った魔物は、ゴブリンとコボルドである。その際にはコボルドの死体も埋葬などはしていなかった。しかも夢中で走り抜けて来たここではチロチロと小川の流れる音が聞こえる。ここらの周辺でコボルドを狩っていたことが凌多に対する不幸を告げる事となる。ゴブリン達の埋葬を行なっていると周囲に気配を感じた。まだいたのかと思い刀に手をかけた凌多であったが出現したのがコボルドであった事によって大きく事情が変わる。もう終わったと一度力を出しきった体にムチを打ち、足に力を入れて体勢を整える。
ゴブリンとコボルドの大きな違いは知能が少し上がる事だ。今までの数体を相手にするような状況であればなんら問題が無かったのだが周囲に10体存在するとなると話は変わってくる。
一斉に攻撃してくるくらいの知能はあるのだ。もう無理かと思われたが、ゴブリンの埋葬のために掘った穴と埋め立てであり、土が軟らかくなっている地理関係が凌多に有利な環境を作り上げた。一斉に攻撃を仕掛けようと考えていたコボルド達は、地に足を取られもたついた。視力よりも聴力や嗅覚に重きを置いている魔物としての特徴もあり、思うような動きが取れずにいる。25体を埋葬するための穴や土が柔らかい所などがあればそれはそうだろうと思いながらも、一体ずつに攻撃を仕掛けていく。一体ずつであれば完全に有利対面だ。
戦況は思うように進みあと残り3体となった事から、少しの余裕が見え始めた凌多であったが、その余裕に足を掬われた。自分で掘った穴と言っても暗闇の中7体のコボルドを討伐し、その上で足場の確認を怠るなど難しい話になってくる。
ここまでやってもう無理かと思った凌多は歯を食いしばり、小さく悔しさの声をあげた。ファンタジーモノの主人公ならここで新たに覚醒とか出来るんだろうなんて無理な夢物語を思い浮かべながら体勢を崩しコボルドが自分に向かって木に大きな石を取り付けたオノのような武器を振り下ろしてくる。ここまでだと思い目を瞑った凌多はリリーやエルフの事を思い出しごめんと心の中で謝罪した。
死を覚悟した凌多であったが、いつまで経っても痛みは襲ってこない。
「あれ、なんでだ?」
目を開けると、そこには自分にではなく他に目を向けているコボルド達の姿が……
どうなってんだ?と一瞬動揺してしまった凌多であったが好機を逃すわけにはいかない。目の前の凌多に対して刀を向けると力の限り、思いっきり力の限りに胴体をまとめて薙払った。
コボルド達は、しまったと言うような顔を浮かべたものの時すでに遅く、凌多が足を踏み出して懐から胴体に向かっての斬撃に対応することが出来ず、3体纏めて葬りさられた。動揺していたコボルド達に何があったのかと思い先ほどまで視線があったであろう場所に視線を移すと、そこには大きな狼がいた。ファストウルフだ。シュッとした体型に黒い毛並みが綺麗に生え揃い、凛々しい顔をしている。口にコボルドの死体を咥えると、凌多に対して敵意を放っていることが分かった。理解できたこいつがこの森で一番強い。こんなやつとこの状態で連戦になるなんて、一旦は死を覚悟した凌多であったが、一度、生を感じることが出来てしまってからにはどうにかして生き延びたい。
戦いに勝つには攻めあるのみ、凌多は疲労が溜まりきった足を全力で動かし、土を蹴ると一目散にファストウルフに斬りかかったがすんでのところで避けられてしまう。なんとか体勢をと思った瞬間には体が宙に浮き吹き飛ばされていた。見えないほどの速度で飛ばされ、近くの木まで転がりぶつかった。痛みをこらえ戦いを続けようと刀を杖代わりに立ち上がった凌多であったが、ファストウルフは興味がなくなったかのように凌多に一瞥をくれると、コボルドを口に咥えるとその場を去った。
全力を使い果たしていた凌多はその場に倒れこむようにして寝転がった。
その後、何度もファストウルフと遭遇し立ち向かったがどうしてもその速度についていけなかった。
「なんでだよ、あんな魔物相手に僕が魔法も無しの状態で倒すことなんて出来ねぇ」
一人きりになって、会話が減ってしまっていた凌多であったが、数日かけても倒すことが出来なかった相手を想像し、弱音を吐いた。凌多は一人きりの悲しさを感じ、リリーやエリス、メリアの話を思い出す。
『自然への感謝』
久しぶりに思い出した彼女らの言葉の中にエリスから別れる際にもらった言葉を思い出す。彼女は、自然への感謝をしつつ魔物を倒して貢献をしろと言うようなことをいっていた気がする。何か引っかかった。自然への感謝をすることによってエルフ秘伝の魔法を習得していた筈であるのに、最近では、命を奪われそうになったファストウルフを倒す事だけに集中しすぎてしまっている気がする。
初心に戻ろう。感謝の気持ちを伝える術を知らない凌多は森に入ってから15日後から朝の瞑想を始めた。自然への感謝を伝える事で、元の目標である自然との親和性をあげてエルフ秘伝の魔法の習得のために乗り出したのだが、この時冷静になって自分を振り返ることで今までとの大きな違いを感じた。
「そういえば、ゴブリンやコボルドの大群と戦った時は何であんなに視界が広がっていたのだろう。」
凌多が大群と戦っていたのは夜である。それにもかかわらず、日中と同じように戦うことが出来た気がする。また、森の中は自然に出来たアスレチックのように障害物がかなり多い。それにもかかわらず、かなりの速度で動けるように感じているが、平地の野原や、修行を行っていた訓練場で同じような動きができていたかと言うと否である。ずっと、環境に適して慣れただけであると思っていたが、そんな球場職があっていいのか? 不思議に思った凌多は一つの答えにたどり着いた。これって自然との親和性が高くなっているってことでいいんだよな。
自分の中で導き出した答えに納得すると、瞑想の時間を増やし、自然への感謝を伝えることに専念し始めた。正直、狩りは前回の大群との戦いがあってからめっぽう魔物の数が減った。周囲に魔物はほぼ居なくなってしまったといってもいいだろう。そんな状況も相まって専念し始めた自然に対する感謝であったが、25日をすぎた頃から変化が生じ始めた。
「そろそろ、いいんじゃないかな」
そう、自然が伝えてきているように感じる。瞑想による自然への感謝を伝え始めてから10日前後がたっているが、思いのような、囁く言葉を感じる。聞こえると言うよりは感じるといったほうがいいかもしれない。
「そろそろ、あの狼を倒してみてよ」
はっきりと聞こえる。ずっとあの狼を倒せと自然が訴えかけてくる。そういえばエリスも自然の言葉が聞こえると言うような事を言っていた。これはそういう事なのかと思いながら立ち上がると、寝床に決めていた大きな木のウロに置いたままにしていた刀を取り出す。肩慣らしに魔物の探索でもして狩ってみるかと思うと、再び事前が語りかけてきた。
「そんな事しなくても探してあげるよ。思うままに言葉を紡いでごらん。」
凌多は、理解が追いつかなかったが、心に感じるままに口を動かした。『自然探索』紡いだ言葉は、自分の知っているものであった。言葉の紡ぎと共に凌多の体から柔らかな波動の様なものが発散されると広がりきった波動は自分の元へと収束する様に戻って来ることで周囲の状況が理解できた。東の方向100mほど先に敵影を見つけた。これがどんな魔物であるのかは分からないが、とりあえず向かってみようと足を動かした。
森の中をかける速度に変化を感じる。エリスと別れ森に入る前の自分であればこの速度の半分ほどであっただろうと思う。これも自然との親和性が高まった証拠かと感じながらも視界に入ったのはアホな面構えをしたゴブリンであった。全力で走ったそのままの速度でゴブリンの前に踊り出ると勢いそのままにゴブリンを切りつけた。自分が思っている以上の速度で放たれた斬撃は切り口から血が飛び散らない程の切れ味であった。
「力も上がってるのか?」
今更ながら親和性ってなんだ? と思いながらも死体の処理を終えるとまた、自然の声が聞こえてきた。
「おー、やるねー、次は狼を倒してくれてもいいんじゃないかな?」
そう告げた自然の言葉に従いファストウルフを討伐に向かった。そして、討伐から30日が経つ頃にファストウルフの討伐に成功したのだ。
ファストウルフの討伐に成功し、埋葬を終えた凌多は一息ついていた。すると、凌多はファストウルフ討伐前に聞こえてきた自然の声が再び聞こえた。
「ありがとう、君にはとても感謝しているよ」
そして、凌多は驚くべき光景を目にする事となる。
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