15話 想いは重く募りました。
いつも読んでくださりありがとうございます!!
やっと15話まで来ました。
これからもよろしくお願いします!!
夜中、部屋を抜け出したリリーは屋敷の側にある若木の下で何とも言えぬ気持ちを抱え一人反省会を行なっていた。
本日の会議で決まった事は正直、不服な点が多い。凌多が悪いのは変わらない。私がいるのにもかかわらずに他の女ばかりに構うように見えて仕方ない。
夜風が耳元を通り過ぎるたび、自然の雄大さを自分の小さい器と比べてはため息が漏れた。自然を操れると言う事は自然の意思を感じ取ることも同義だ。
普段であれば長所であるこの能力も、今は短所でしかない。
暗闇の中、夜道を照らすための篝火が所々にぼんやりと浮かんでいるように見える。
優しい明かりを見つめると、悲しみのような、苛立ちのような、なんとも言えない感情が小さい体を蝕むように襲った。
数多の感情が渦巻く中、一番に感じる感情は寂しいと言うものだ。
凌多は、この世界から見れば異世界人である。彼を救い導くのが私の使命であり存在意義である。
しかし、彼には魅力があり、人を惹きつける。
その魅力が何であるか正直分からない。明確に言葉にする事は難しいだろう。隣にいる時の安心感や多くの感情を理解することの出来る心の広さを持つ彼が、自分の知らないところで純真な心を儚く散らすことを想像すると悲しみが溢れてくる。
まだ日の浅い関係性であるにもかかわらず、そのように思わせてしまう彼の魅力はとても素晴らしい物に感じる。
そんな彼だからこそ私以外と関係性を深めることが、私を置いて行ってしまうように感じて寂しさを覚える。
私のそばにいて欲しい。
私の思い出の全てに彼が居て欲しい。
他には何もいらないくらいに.......
伝えたい想いは重く、呟く言葉は風に乗って遠くへ運ぶことができずに私の前に落ちる。
何度も繰り返すその言葉は、
「ずっと一緒にいたいな」
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朝、凌多が目覚めるとリリーはすでに部屋を出ているようだ。
ぐっーーっと、背筋を伸ばすと自分自身におはようと声をかける。
凌多の母親はすでに他界していて、父親と二人で暮らしていた。父親は母が他界してからというもの仕事に熱を入れていた。凌多は何一つ不自由な生活を送る事は無かったが不自由でなければ素敵な人生を謳歌できるわけではない。
自分が一番頼りたい時に頼りたい人がそばに居ないというのは酷く悲しいものだ。
「あいつが居ないからこんな事考えちまうんだ」
いつもであれば元気印が叩き起こしてくれるはずなのに今日は部屋にすら居ない。
どこに行ったのかと部屋を開け探しに行こうとすると目の前にエリスさんが立っていた。
「おはようございます、エリスさん」
「おはようございます。貴方様、朝食の準備が出来ています。みなさますでにお集まりですので、食卓の方へと向かいたいと思うのですがいかがでしょうか?」
「そうですか、お願いします」
エリスに続いて部屋を後にするとリリーを含めた3人とおじいエルフが食卓についていた。
「ごめん、ごめん、遅れた。リリーなんで起こしてくれないんだよ!」
「凌多がいつまでも私に頼ってるのがいけないのよっ。ちゃんと自分で起きなさいっ、これから私と別行動なのにそんなんじゃ迷惑ばかりかけるじゃないっ!!」
正論で捲し立てられると凌多は何も反論出来ずに席に着いた。
「今日の決闘はリリーちゃんの勝利ですぅ」
腹黒巫女様が何か言っている。いつもいつもいらん事ばかり言いやがって、人を困らせて遊ぶなんて、やはり腹黒である事以外に思いつかない。
文句の一つでも言ってやろうかと思うと長老が声をかけてくる。
「楽しげな会話中に申し訳ないのですが、せっかくに温かいので温かい内に頂きませんか?」
長老の言葉にメリアはコクコクと同意の相槌を打っている。
「くっそ、覚えてやがれ!」
三下のようなありふれた言葉をメリアにぶつけると、食事を摂り始めた。
リリーはもちろんのことたくさん食べているが、意外にカンナも多くの量を食べている。
やはり、護衛をしていると体力をつけるために食わなきゃいけないのかなぁ。そんな風に凌多が見ていると、視線にカンナが気づき会話を振ってきた。
「英雄様、先日も申し上げましたが我々は約半月ほどで女王様の元へ向かい、一ヶ月後にこの集落へと戻って来る予定です。」
凛々しい顔つきで、再確認といった内容を口にしたカンナはそのまま言葉を重ねた。
「食事の後、物資の再確認をした後に出立する予定です。もし、リリーさんに何か伝えたい事などあれば、出立の前までにお願いいたします」
そう言い終えると、カンナは食事に戻った。何故だかやりきったような表情をしていて、先程より3割増しで食事にガッついている。
「そうですぅ、愛の言葉をかけておくなら早めにしといたほうがいいのですぅ!」
こいつは、本当に要らないことしか言わないな、罰を与えよう。スープに入っていたグリンピースのような豆をすくい上げると親指で弾きメリアの額に向けて打ち出した。
パチっという音が響くと、メリアは額を抑えて抗議して来る。
「食べ物は粗末にしちゃだめなんですぅ、こんな事お母様にしかされた事ないのにぃ」
いや、されたことあるんかいというツッコミを入れようとしたが、確かに食べ物を粗末にするのはダメだな。軽く反省。
愛の言葉をかける予定は無いが、数週間とはいえずっと一緒に居たリリーと離れてしまうことには不安を感じる。
正直、まだまだ異世界のことについては分からないことだらけだ。知識不足はその都度リリー先生からのご指摘を受けて今日までやってきた。しかし、こんな事を言ったところで何にも始まらない事は知っている。女王様を口説き落とすためにリリーは必要不可欠で俺も自分のやるべき事をしっかりこなさなければならない。
なんて事を考えつつ食事を終えると、3人は各自準備をするために部屋に戻っていった。
手持ち無沙汰になってしまった凌多はエリスの元を訪ねた。エリスは、食卓の片付けを始めたばかりであった。
「少々お待ちください、終わり次第部屋に向かいますので部屋にて待っていて頂ければあとで向かいます。それよりも、リリー様に安全を願う言葉を伝えてきてあげてください」
リリーに言葉を伝える? 世間話だけでいいなら何度も繰り返してきてはいるのだが、他人に願う言葉をかけた事など、リリーどころか人生で一度もない。
「あ、あぁ分かった」
一応、返事をエリスに伝えると、食卓のある部屋を後にして、階段を登ると客室として与えられている部屋の前で足が止まった。
「なんて言えばいいんだよ......」
凌多は音にならないくらいの言葉を呟くと、どうしようかと思考中の頭のまま扉を開いた。
部屋に入るとリリーは自分専用のかなり小さいサイズのテントを含めた荷物をまとめていた。荷物と言っても、最初に持っていたものはそのくらいしかない。
一応、リリーに渡しておいた保存の効く食糧もまとめているみたいであるがカンナ達が用意してくれていることだろう。
リリーは部屋に入って来るなり、自分の事を見つめて来る凌多を見ると首を傾げどうしたのかと尋ねて来る。
凌多はかなり言葉につまりながらも言葉を紡いだ。
「まぁ、なんだ? アレだ」
「どれよっ?」
「一ヶ月の間離れ離れになってしまうわけだが、元気でやれよ、久々に会った時に元気が無いとこっちが困るからな......あと、お前が居てくれないと俺は何していいのか分からない事だらけだ。しっかり無事に戻って来てくれ。」
凌多の紡いだ言葉はひどく不格好でありきたりの言葉であったが、不格好な言葉の羅列であるからこそ伝わる真っ直ぐな想いを受け取ったリリーは満面の笑みを浮かべると
「うんっ!!!!」
大きな頷きとともに返事をした。
凌多は、今後の自分が何をすればいいのか分からず、エリスに聞こうと部屋で待っていたのだが一向に現れる気配が無く、リリーとのたわいのない会話をする事で出立予定の時間になってしまった。
他の用事でも入ったのだろうかとリリーと話しながらも部屋を開けるとそこには、優雅に主人を待つようにしてエリスが控えていた。
「うぉお、え? そこにずっといたのか?」
「はい、控えておりました」
「なんで入ってこなかったんですか?」
驚いてしまった凌多は尋ねるように聞いた。
「どんなに短い期間であっても旅立つ前は親しい人と共に言葉を交わすのが一番です」
「そうなのか?」
「そのようなものです。私はギルドに勤めておりましたのでたくさんの出会いと別れを経験してきましたから」
初めて見せる悲しげな表情が刹那的に垣間見えた。その後、リリーの方に体を向けると
「凌多様をしばしの間お預かりします。預かるだけですので必ず取りに戻ってきてください。」
エリスはそれだけ告げると、向かいましょうかとメリア達の元まで案内をしてくれた。
集合場所である集落の正門にたどり着くと、メリアとカンナ、それに加えて強面のおっさんエルフがすでに待機していた。
「なんで、エルフのおっさんここにいるんだ?」
「私も旅に同行する事になったのだ。荷物を運搬しながら巫女様に旅をさせる訳にはいかないからな」
そういうと、今リリーが持ってきた荷物を含め、全ての荷物を纏めると、どでかい背中からはみ出す程大きな籠に入れ込み担いだ。
「英雄様、リリーさんとの出立前の挨拶は出来ましたか?」
カンナが尋ねた。
「出来たが......その英雄様そろそろやめてくれないか?リリーがさん付けて俺が英雄様だと何か距離を感じるし、カンナにそれを言われると柑奈、いや、知り合いに言われているみたいでくすぐったい」
凌多が告げるとカンナはそうですかと一言相槌を打つ。
「それでは凌多様でどうでしょう」
「まぁ、そっちの方が全然いいな」
カンナに呼び名の変更を求めると、メリアも会話に入ってきた。
「じゃあ、私は凌多ちゃんと呼ぶですぅ」
「オカマの野郎を思い出すからそれだけはやめてくれ!!」
しばしのやり取りがあったものの「じゃあ凌多くんにしとくですぅ」と最終的にメリアが折れた。
メリアがぷくーっと膨れて抗議してくるが、おっさんの顔がチラつくのはどうしても嫌だ。
そんなこんなのやり取りを行なっていると予定の時刻になったようだ。
「そろそろですね!」
というカンナの合図とともに、4人は凌多に向かい手を振りつつ正門から歩みだした。リリーが側にいない事に対しての不安はまだあるものの一ヶ月ほどこの集落にいるだけで良いのであればそこまでの苦労も感じる前に帰って来る事だろう。4人の背中はすぐに見えなくなってしまった。
「頑張れ俺、なんとかなるさ」
前向きなセリフを自分に向けて呟くと、エリスと共に屋敷へと向かった。
見送りを終えた俺とエリスは長老の屋敷にたどり着くと、エリスに言われるがままに大広間へと向かった。
「リリー達も行っちゃったし、俺は今日からエルフ秘伝の魔法? とやらを学ぶって事でいいのか?」
「そうですね、今からお教えしようと思うのですが、最初にどのようなものであるかの説明から入らねばと思いまして、こちらに来ていただきました」
「なるほどね、ってかエルフ秘伝なのに教えていいのか?」
「はい、大丈夫ですよ。今までエルフにしか伝わらなかったためエルフ秘伝という枕言葉が付いていただけでありこの魔法を教わったものが認めさえすれば誰でも良いのです」
「そ、そうなんだ......」
何故だか随分と適当なように感じてしまうが本当に大丈夫なのだろうか......
「それで、エルフ秘伝の魔法はどんな魔法なんだ? 自然を利用するみたいな事は聞いてたけど......」
「詳しくお話しさせていただきます。」
こうして凌多の新魔法習得が始まった。