13話 凌多に似た人が見つかりました。
「知っているだけで、解決策は知らないのですよ」
お世話をしてくれていたエリスが、少し気まずそうに顔を下げつつ告げる。凌多はそれでも良いから教えて欲しいと話を急かした。
エリスは「これ以上、迷わせてしまうかもしれませんが、それでも良いのであれば」と一言告げてから話を始めた。
「私が知っているのは、貴方様です」
「えっ、俺!?」
「私は、貴方様と全く同じ顔をした知り合いがいます」
エリスの言葉で俺は少し動揺してしまった。カンナに何度も確認するように聞いてしまったが、自分と同じ顔が存在すると言われると嫌な気分がする。まるで、首筋を生ぬるい風が通り抜けた時のような不気味な気持ち悪さだ。
今までの自分の態度を振り返り、カンナに対して申し訳ないという気持ちとこれ以上聞く事に対しての不安を抱きながらもエリスの言葉に耳を傾ける。
「顔も仕草も声もまるで本人のように似ているのですが、性格が違う事から彼と異なる人物であるということに気づきました。最初に、お世話をさせて頂きたいと言ったのも本当は英雄様が彼に似ていたので気に止まり、立候補させて頂いたのです」
なるほどな、そう言えば最初に会った時に立候補したという旨を聞いた気がする。少しの会話であったが、俺と俺に似ている彼はそんなに似ているのだろうか?実際に関係を知りたい、カンナと柑奈の性格は似ているかどうかと言うと微妙なところだ。
自分と全く同じな顔がどんな性格であるのか、聞きたいような、聞きたくないような不思議な気持ちである。
「その方はいつも孤独でした。私が関わらせていただいた時の性格を簡単に表すのであれば、『一匹狼』というところでしょうか? 彼は一人を好み、他人と一切馴れ合わない性格でした」
そうなのか、、、、
俺も普通に学校生活を送っていた時には一人でいることが多かった。だがそれは悲しい事に寄せつけないのではなく寄り付かないことが多かったからだ。
こっちに来てからはいつもリリーがいてくれる為、一人でいることは少なくなった。
「貴方様の周りはいつもかなり華やかに見えます。その事から彼とは違うと思い、会話の際に確実に違うという事に気づきました」
「まぁ、相棒がいるからな、華やかにも見えるだろう」
「彼は明るい雰囲気など全く感じさせない言動をしていました。まるで生き急いでいるかのような、、、」
「その男は今どうしているか分かるか?」
「いえ、何せあったのが3年ほど前のことでしたので今は分かりません。」
なるほど、凌多は顎に手を当てると少しの間目を瞑り情報を整理していく。
俺を見てその俺が来たのかと間違えるくらいだ、聞くまでも無かった。
どこにいるかも分からないその男から情報を得ることは、難しそうであるが一応どんなやつか詳しく聞いてみても損は無いだろう。
「その男とはどこで出会ったんだ?」
「出会ったのは、エルフ王国の都市でお会いしました。その時、私はギルドの受付を仕事としていてその方はふらりと現れた旅人でした」
この世界にはギルドもあるのかと思い、ギルドについても聞きたいところだが話が逸れてしまうため我慢して続きを聞く。
「その時のギルドはかなり依頼が溜まっている状態でした。ギルドの依頼が溜まっている事を知った彼は驚くべき速度で依頼をこなして行ったのです。」
「その俺に似た男は、結構強かったのか?」
「野良のドラゴンを半日で単騎討伐など、輝かしい記録ばかりを残しているのでかなりの実力者であると思います。
そもそも依頼が溜まっていた理由は危険性が高く誰も依頼を受けなかった事が原因であるので、それを単騎で全てこなしてしまったと言えば実力の程が判りますでしょうか?」
ギルドに行ったことがない凌多は依頼に関する後半の偉業について詳しく理解することが出来なかったが、異世界ファンタジーで定番中の定番である『ドラゴン』を倒したとなればかなりの実力者であるように感じる。
エリスさんは話を続けた。
「ですが問題が発生しました。依頼を受ける方がいない事から金額をかなり釣りあげていたので、依頼を即座にこなしてしまった彼に支払う報奨金が用意出来なかったのです。ギルドでは活発に議論が交わされましたが、報奨金に値する褒美を与える事が出来なかったのです。その事を聞いた彼が求めたのが私でした」
あっけらかんと言い放つエリスさんを目の前にして凌多は目を白黒させていた。
まさか、俺の偽物の野郎もともと計画的な犯行であったか?確かに上品さとお姉さん属性を兼ね備えボンキュッボンであるエリスさんはよく見なくても超好みだ最初あった時から鼻の下が伸びそうになるのを必死に隠しながらこの屋敷での生活を送っていた。英雄様とか言われている男が鼻の下伸びているのはかなり恥ずかしいからな。そんな事を思いつつも妄想は加速してしまう。
「ということは、エリスさんの体を求めるなんて羨ましい。俺の偽物のくせしやがって、まさか、エリスさんの体を好き勝手に、、、、」
「好き勝手にされてませんよ」
「好き勝手されて無いんかーーい!!」
マジかよ、不覚にも俺の偽物すげえなと思ってしまう所だった。
「その方が私を求めたのは、私が自然との親和性が高く自然を利用した魔法を使えるのでその魔法の教授でした。」
「なるほど、、、、、って、えぇぇぇぇええええ!!!!
それって、リリーが言ってたエルフだけが使う事が出来るとかいう魔法なんじゃ!?」
こんな所にそんなすごい魔法使いが!!と興奮してしてしまい、座っていたイスから身を乗り出すと凌多の顔はエリスさんの顔の近くまで近づいていた。
続きを喋ろうとした凌多の背中に声が聞こえた。
「何してんのよっ!! なんで顔を近づけてっ、まさかっ!?」
何を勘違いしたのかリリーの体当たりが俺に向かって飛んでくる。魔物達との戦闘を経験した凌多はいつもとは一味違い、スルリとバックステップすると一瞬で体当たりを避けた。
「何だよいきなり!!」
「だって! 凌多がっ、私に許可もなくエリスさんにキスしようとしていたじゃないっ!!」
「しようとしてねーよ、っていうか何でリリーの許可が必要なんだよ!!」
いつもの漫談が行われていると、同じタイミングで帰ってきたメリアとカンナは扉の後ろに隠れるように身を寄せ合っていた。
「カンナ、知っていますぅ? あれが、世に言う修羅場と言うやつなのですぅ」
「そ、そうなのですか、私は男女間の機微がよく分からないのですが、、、」
「あの後、凌多は様々な問題が見つかり、リリーにもエリスにも捨てられてしまうのですぅ」
「捨てられた後はどうなってしまうのですか?」
「捨てられてしまった後は、、、、、」
「捨てられてしまった後は?(ゴクリ)」
「凌多が私のものになるので、、、、」
「ならねぇよ!!!!」
話を邪魔された事にイラついていた凌多はまぁまぁな強さのツッコミを巫女様の頭に入れていた。
「痛ったーーーーいですぅ!! お母さんにしか殴られた事ないのにですぅ!」
「殴られた事あるんかい!!」
久々の水浴び後でテンションが上がっているのか、巫女様のボケは冴えていた。間が悪い、、、、
真剣な話をしていたというのに? 話の腰が折れてしまった。
その様子を見たエリスさんは立ち上がると、お茶の準備を始めた。話を最後まで聞けなかったという凌多の気持ちとは裏腹にエリスさんからの提案があった。
「貴方様、もしよろしければ、エルフ秘伝の魔法お教えいたしましょうか?」