10話 トドメは他人に取られてしまいました。
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ガサッ、木々の間からこすれ合わせたような音が聞こえる。
「凌多っ、あの大きな木の後ろに2つの気配を感じるよっ(ぼそっ)」
「了解した(ぼそっ)」
凌多は、物音を立てないように木の後ろに向かって大きく回り込むと、
草木の隙間から対象を確認する。
俺の記憶上、あの魔物は『ゴブリン』と呼ばれる種族に思える。近くから見ると、意外に可愛い。
日本で言うところのブサカワイイと言うやつだろうか、漫画の中で見すぎたせいか、あまり嫌悪感が沸かない。
リリーの方に顔を向けると、思いっきり嫌悪感を露わにしていた。
やはり、妖精にゴブリンやオークなどの魔物は天敵なのだろうかと余計なことを考えてしまった。
ゴブリンに目を向けると木の実にかぶりついている。
リリーにやるぞ!という意思を込めたアイコンタクトを送ると、右腕に魔力を溜めた。
「風斬撃《ウインドスラッシュ》」
凌多は、ゴブリンに向けて風系統の魔法を打ち出した。
「グギィ?」
ゴブリンは魔力が草に掠る音に反応したものの、急な攻撃に対して対応することが出来ない。
魔法は2匹のゴブリンをまとめて切り裂いた。
「「グギャァァア」」
汚らしい断末魔をあげると、上半身と下半身が二つに別れ、地べたに転がった。
「うわっ、キモっ」
凌多は自分で命を奪ったゴブリンを確認し、流石の凌多も嫌悪感に晒された。
「凌多っ!魔物はこのままにしちゃダメよっ!」
リリーは嫌悪感を表情に出しつつも魔法で土を操ると、ゴブリンの上から被せるように落とした。
「どうゆう事だ?」
「魔物は同族の匂いに敏感なのっ、このままにしてると他のゴブリン達が寄ってきちゃう」
村からそこまで離れていないと言う事もあり、この場に魔物が集まるのはまずい。
リリーが言うに、火葬でも、土葬でもなんでも良いので周囲に血の匂いを撒き散らさないことが重要であるらしい。
「なんにせよ、初めての魔物討伐だなっ」
「そうねっ、まずはおめでとっ!」
ご褒美とばかりにリリーは頬に小さくキスをしてくれた。
体のサイズが妖精なので、触れただけのようなキスであったが悪い気分ではない。
「ありがとよ!じゃあどんどん狩っていくか」
リリー達は集落から体感で5、6km離れた場所に来ていた。集落の近くには結界が貼ってあり、魔物は近づいてこない。
そのため、リリーの指示通り移動してようやく魔物のナワバリがあるような場所までたどり着いた。
「リリー、どの方面に魔物がいるかわかるか?」
「うんっ、ちょっと待ってねっ」
リリーは集中力を高めると「自然探索《サーチ》」と唱え、周囲の魔物を捜索してくれる。
「500m西に進むと、魔物の気配が3匹分あるよっ!」
「了解した!」
リリーが示す方角に従って歩みを進めた。
今回の目的は魔物の討伐を繰り返すことで俺自身のレベル上げである。
実際、リリーがいなければこれほどの効率を生み出す事はできなかっただろう。
指示された目的地の近くにたどり着くと、背後や魔物の死角からの攻撃によって倒すことができる。
「いやぁ、思ったよりもなんとかなるな」
魔物に対してリリーの手助けがあるからといってもこれだけの成果を出せていれば上出来だろう。
凌多は上機嫌になっていたのだが、リリー先生からのダメ出しが入る。
「これじゃ全然ダメダメよっ」
「えっ、マジかよ?」
「うんっ、魔法を使うときに大切なのはイメージって言ったよねっ」
「あぁ、そういえば言われた気もしなくもないけど」
「そうっ、今の凌多は魔法がいっぱい使えるだけの初心者魔法使いなんだからっ、工夫する練習をしないと魔物に通じても、魔族には通じないよっ!」
そうだった、、、
俺が戦わなきゃいけないのは魔族なんだっけ、しかも戦争に出てくるくらいだから中々の数がいるのだろう。
「そうだな、工夫か、俺なりにやってみるよ」
その後は、リリーが魔法で魔物の集団を見つけては俺が色々試行錯誤をしつつ魔物の討伐を続けていった。
昼を過ぎた頃、周囲1km以内に魔物がいないことを確認すると昼食をとることになった。
「そういえば、リリーの自然を司る魔法?を使えるようになれば、戦いの幅が広がるように感じるんだが」
「もごっ、モゴッ、モゴモゴモゴ」
「食い終わってからで良いよ」
ゴックン
「私の自然魔法は、基本的に妖精族にしか使えないのよっ!」
「基本的に?」
「森や自然と特別に親和性の高いエルフなら、自然を司る。と言うよりも自然を利用する魔法を習得することができるらしいのだけどっ」
「そうなのか、、、じゃあ人間族の俺にはどっちにしろ無理ってことか」
「エルフにできるから、もしかすると凌多にもできるのかもしれないけどっ、私が出来ないから教えられないの〜」
「まぁ、リリーもできないんだったら当面は無理だな」
「そうね〜、モグモグ」
今までも気になっていたのだが、リリーは小さな体のどこに入るのか?というくらいの食事をとる。
いつも男子大学生の俺がお腹いっぱいになるくらいの食事量を1人前として、2人前の食事を【∞収納袋】から出して並べるのだが
きっちりと完食している。
リリーはよく食べるのだが口が大きくないので、もちろんのこと、俺の方が早く食べ終わるのでいつも暇になるのだ。
「リリーはよく食べるなぁ」
「そうっ?凌多と変わらない量よっ」
前提がおかしい。
「そんなに食べると太っちゃうぞ www」
ボコっ!
軽く言ったのだが、軽くない返答が顎に返ってきた。
「いくら私でも言って良いことといけないことがあるんじゃないのっ?怒るわよっ!!」
今にも怒りが噴火しそうなリリーの顔を見て
「もう怒ってるじゃん。」
そう呟くと、凌多の意識は闇に沈んでいった。
「もうっ、いつも起こしてばかりねっ!」
叩き起こされると、リリーの食事は終わっていた。
まだ、微かに痛む顎をさすりつつも、「いくわよっ」というリリーの言葉に従って魔物狩りを再開した。
「リリーをからかうのも一筋縄じゃいかないな」
「はぁっ、からかわなければ良いと思うのだけど、、、」
呆れたようなリリーの言葉を聞きつつも、半日の間ずっと狩り続けたため、凌多の魔法もだいぶ応用性の高いものになっていた。
最初、風系統の魔法を使う際には胴体や頭に向けて魔力を多く使ってぶっ放すだけであったのに対して
今では、最低限度の魔力を魔物の両の膝に連続して放つことで移動の自由を奪ってからトドメを刺すことや、
地面を土魔法と水魔法によって底なし沼状態にしてから攻撃を与えることなど、多くの試行錯誤を繰り返していた。
「底なし沼にして動けなくするのは、集団戦でも使えるかもねっ」
「そうだな、リリーみたいに空中に逃げられると手も足も出ないが飛べないと仮定すれば使えるだろうな」
「今日はここら辺にしておくっ?」
「そうだな、集落に帰ってから練習したいことがあるし、この辺りにしておくか」
凌多とリリーは集落に戻ると、この数日の疲れを癒すためにドップリと睡眠をとった。
次の朝、もう習慣になった事のように門番に声をかけ、集落を抜けると
昨日魔物を狩っていた付近までやって来た。
リリーの魔法によって探索をすることは変わらずであるが、凌多の戦い方には変化が生まれていた。
神様からもらった『刀』を腰に下げると、奇襲を仕掛ける普段の戦い方ではなく、魔物の前にワザと躍り出てから戦っていた。
「いつまでも奇襲だけじゃ、戦闘に役立たないからな!」
リリーは内心驚いていた。魔物との戦いにビビっていた昨日とは異なり、自らを敵の前に晒すことでさらなる効率を求めている凌多に対して成長を感じていた。
「それは、そうねっ、よく気づいたわねっ!」
「だろっ、俺も結構考えてるんだよっ」
接近戦に関しては、まだまだ素人同然の動きではあるもののなんとか攻撃を防ぎ、
戦闘の途中で泥沼の罠や、速度を重視した魔法で錯乱させるような動きを見せている。
片足を泥沼に飲み込まれ、逆の足は風魔法によって切断すると、使い慣れていない刀で無造作に魔物を切りつけ絶命させた。
慣れた手つきで魔法を唱え泥沼を広げると遺体を沈ませることで処理を始めた。
「どうよ!」
魔物の処理をしつつも珍しく凌多のドヤ顔である。
リリーは次の標的を探そうと周囲を探るがこの辺りには、魔物の気配がない。
今まで、凌多と倒した魔物は、
『ゴブリン』……23匹
『コボルド』……11匹
『オーク』 …… 3匹
である。
凌多が全て倒しているため、凌多はモチロン成長していたが、
リリーも2日間にかけて探索魔法をかなり使ったため、精度が上昇していた。
リリーは初日の探索魔法から狩場としているこの付近から更に6、7km離れたところにかなり大きな気配があることを感じていた。
しかし、成長したリリーは気配を感じるだけでなく、魔物を正確に把握することが可能となっていた。
把握している魔物は『トロルオーク』という上位種である。
昨日の凌多ではおろか、今の凌多でも勝率が五分以下になる相手だろう。凌多を見ると処理を終え、リリーに尋ねて来た。
「次はどこに行けばいい?」
「近くに魔物はいないわっ、少し離れたところに少し強い魔物がいるんだけど行ってみる?」
「行ってみようか、ヤバいやつだったらリリーに魔法使ってもらって、足止めしてから逃げれば間に合うだろ」
リリーは凌多の返答が否定的なものだと思っていたばかりに少し戸惑うが、発言に関してはそれもそうだと納得すると、『トロルオーク』がいる方角に向けて歩みを進めた。
「この洞窟の中に『トロルオーク』がいるわっ!」
1時間以上森を歩くと、トロルオークが存在するという洞窟の近くにやって来た。
洞窟の周りは少し開けた場所があり、洞窟の入り口はかなり大きな穴が空いていた。
凌多は少し考えると、姿も見た事がなく、リリーが少し心配するような相手であるのならと万全の準備を整えた。
リリーは一応のためと、探索魔法を使うと4km先にエルフが2人いる事が確認できたが、
どうという事もないだろうと思うと探索を洞窟内に向けた。
洞窟を進んでいく。
洞窟といっても所々天井部分がひび割れたように裂けていて光が漏れ混んでいる。
凌多としては視界があるのでかなり助かっている。これが転移させられた時の洞窟のようであったら無闇に進んではいないだろうと思いつつ進むと、
『トロルオーク』が寝床にしているだろう最深部の手前まで進んだ。
洞窟内に侵入してから10分ほど進んだところであった。
最深部の状況を窺えるような位置の岩陰に隠れると、声を潜めて話した。
「想像通り大きいな」
「そうねっ、でも想定の範疇内だわっ」
岩陰から見える『トロルオーク』は2体、
ここから見るに身長は4mくらいで、体型はトロルと付くだけあって贅肉に覆われている。顔はオークと同じように見えるが、体のサイズに比例してかなり大きい。
傍らにはキングアックスとでも名前の付きそうな大きな斧が一本、無造作に置かれている。
「どうするリリー、最悪足止め出来そうか?」
「そうねっ、あのくらいなら余裕でできそうだわっ」
狩りを始めてからリリーの魔法の威力がどのくらいであるのか見せてもらったが、やはりチートは強い。
風系統の魔法を全力で打つと森が100m先まで抉られるような威力を持っていた。
その時は、森を思った以上に傷付けてしまった自然を司る妖精さんwww
が焦って森の修復をしていたのはかなり面白いイベントであった。
それほどの力があるので、基本的にどんな敵だとしても対処できそうに思えるが、一応の確認は取っておく。
「じゃあ、『トロルオーク』の討伐と行きますか!」
「作戦はどうするの?」
「挑発してから、外におびき出す予定通りの作戦で行こうかな」
「分かったよっ、何か手伝う事はあるっ?」
「俺が最初、威嚇するから、挑発をしてくれると嬉しい。」
そういうと、凌多は岩陰を飛び出し、手前のトロルオークに対して大声を上げつつ手のひらサイズの火球を打った。
「うぉぉぉおおおお!!!!」
意味もない凌多の叫びを聞くと、『トロルオーク』は振り返った。
振り返ると同時に腹部に火球が打ち込まれる。
しかし、分厚い脂肪の前に大して意味も成さなかったかのように火球が消え落ちると、攻撃に反応した後方のトロルオークが凌多に向かって駆け出す。
体型に反して意外と素早い動きをしている。
凌多まで後、10mもないほどに迫ってくるとリリーが魔法を発動した。
駆けている足元に自然管理によって生み出した樹木によって足を引っかけさせると、
重量があるトロルオークは音を立て前のめりに倒れた。
「よし、逃げるぞ」
「うんっ!」
二人は目的を達成したかのように、トロルオークに背を向けて洞窟の出入口へと走り出した。
そんな二人を見たトロルオークは怒り狂った咆哮をあげ、二人を追いかける。
予想よりも移動速度が速かったものの、リリーの魔法で木々を乱立させたりと追撃の速度を落とす事でなんとか距離が開いたまま脱出に成功する。
遅れて、トロルオークが出てきた。
「思ったよりもすんなり行ったな!」
「そうねっ!これでここまで攻撃をしに来てくれ、、、」
リリーが最後まで言う事は出来なかった。
洞窟を脱出したトロルオークに対して一人のエルフが切りかかったのだ。
凌多とリリーは眼前の光景を見ると呆気にとられた。
「未熟者!敵に背を向けるとは何事だっ、貴様が英雄の名を名乗るなど1000年早いわ!」
綺麗なエメラルドグリーンの髪を持った
ショートカットの女性が凌多に対して喧嘩腰で叫ぶと、大剣をトロルオークの頭から一直線に振り下ろした。
いきなりの出来事に、凌多とリリーの理解は追いつかなかった、、、、




