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序章 00 邂逅

 


 10月3日 AM 9:00


 マナリア諸島沖で発生した超大型台風24号は猛烈な勢力を保ちながら、日本列島を横断しようとしていた。





 10月9日 AM 5:58


 都内中心部にそびえ立つ「prescience」社、本社ビル。ゆうに300メートルは超えるであろう、そのビルの屋上に2つの人影があった。

 普段であれば人でにぎわう都内も前例のない巨大な台風の影響を受けてか、出歩く人がいないほど閑散としていた。そのため、ビルの屋上にいる2人をいぶかしむ者もいなかった。



 2人のうち、ビルの端に立ち下界を睥睨している方は目鼻立ちの整った偉丈夫で、溢れ出す威圧感からは神々しささえ感じ取れる。

 そしてその男の後ろに控えるようにして立っている方はフードを深く被り、ピエロのような仮面を付けているため性別の区別がつかない。ただ、その凛とした佇まいから気品の良さが見て取れた。



 2人がビルの屋上に現れてからおよそ5分が経った頃、男が口を開く。


「……先方は?」


 男の言葉には聞いた者が無意識のうちに従ってしまうような覇気がそなわっていた。


「いつでも構わないと……」


 対する後者の声音は中性的であるが、聞く者の心を穏やかにする美しいものであった。ただ、何かこの場を楽しんでいるかのような雰囲気もある。


「そうか……行くぞ。」


「ええ。」


 男の言葉に後者が了承の意を示したと同時に、2人に向かって雷が落ちる。



 落雷の激しい音と、眩い光につつまれた後、そこに2人の姿は無かった。






 同日 AM 6:00


 先程まで都内にいた2人はとある山の頂上にいた。

 

 標高2000メートルはある山々に囲まれ、その周りの山よりも一際高いこの場所からは辺り一面に清らかな白い雲が広がり、躍動感のある壮大な光景を見下ろせた。


「……。ここで良いのか?」


 山頂からの景色に心を奪われたのか、一瞬間をおいて男が問う。


「ええ、先方も直ぐに参られるかと。」


 フードの方がそう答えたと同時に、「ごきげんよう。」と、玉を転がすような美しい声が2人にかけられた。


 丁度、日の出と声の主の位置が重なっていたため、2人は声のした方を見て眩しそうに目を細める。そして、男の方が声の主に応えた。


「久しいな、日本の神よ。」


「ご無沙汰しています、異国の神よ。」




 対峙する日本の神と、異国の神。

 両者ともに、この世の者とは思えないほど整った顔たちではあるが、2人の纏う(まとう)質は正に対極に位置するものであった。

 日本の神は見るもの全てを魅了する美しさと全てを包み込む包容力を兼ね備えた柔らかい質であったが、異国の神の方は全ての者を畏怖させ、従えさせる激しい質であった。


 そして、対峙する2人を表すかのように空模様までもが快晴と雨雲に分断された。


 先程までは静まり返っていたこの一帯も、この異様な雰囲気に充てられたのか、寝静まっていた動物は覚醒することなく気を失い、意識のあった動物は心に強烈な恐怖を植え付けられ、苦しみながら次々に気を失っていく。



今にも暴発するかと思われたその時……。


「お二方とも、そこまでです。」


 男の後ろに控えていたピエロが2人の気のぶつけ合いを分散させる。




「ああ……。此度(こたび)の我らの目的はただ一つ、この国の主神であるそなたに忠告をしに参ったのだ。」


「私に忠告ですか?」


 女神は、予想だにしなかった男の発言に対し、驚いたらしく首をかしげる。

 そんな女神の反応には気にも留めず、男は淡々と話を続ける。


「……やつらがこの世界を脅かそうと動き始めた。直にこの国もその混乱に巻き込まれることになる。だから、気をつけろという忠告だ。」


「……そうですか。」


「これは意外だな……。我らの言葉を信じるのか?」


「ええ、貴方がこのような嘘をつくとは考えられないものですから。」

 そう言って、彼女は男に微笑みかける。


「そうか……。理解が早くて助かる。我らの要件は以上だ。」


「はい、ご忠告感謝します。」



「…。」「失礼します……。」

 来た時と同様に2人は一瞬で姿を消した。





「どうやら大きな借りが出来てしまったようですね……。」


 女神の呟きは誰に届くことなく、空に溶け込んでいった。






 こうして非公式ではあったものの、前例のなかった異国の神々による会談は誰に知られることなく幕を下ろしたのだった。






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「此度の取り計らい、感謝する。」


「いえ、無事に終わり何よりです。」


 日本の女神との会談を終えた2人は、とある神殿の通路を歩きながら話をしていた。



「彼らがなぜ、日本を舞台の中心に選んだのかは未だに分かっていませんがこれで私達が後れをとることもないでしょう。」


「ああ。」


話をしているうちに2人は一つの部屋の前にたどり着いていた。


「―後は我らの御子に任せるとしよう。」


「そうですね。私もあの子を支えるとしましょう。」


「ああ、頼む。では、次に会う時は我らが勝利する時だな。」


「ええ。」


「…。では、健闘を祈る。」

そう言って男は部屋の中へと入っていった。


「ありがたき…。」

ピエロは部屋に入って行く男に向い、まるでお辞儀をするかのように頭を下げ続けた。




お読みいただきありがとうございました。

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