祝福者じゃない
光を抜けての続きです
「異世界転移ってあの?」
「そうだ、よく漫画なんかに出てくるあの異世界転移だ」
「じょ、冗談でしょ?そんなことあるわけないじゃない。もしかして、あの時の衝撃で、頭がおかしく…...」
唐突な雪十の発言に、真白が困惑し、心配をするあまり彼の正気を疑う。
「まぁ、まず理由を聞いてくれ、そして、言っておくが俺の頭は至って正常だ」
そうだ、正常な筈……正常だ。
自分でも信じ難いことを口にしたことに、雪十は、自分自身ですら正気を疑った。
「あの、さっきから言ってる異世界転移って、もしかして祝福者のこと?」
ロイカさんは心当たりがあるようだ。しかし、心当たりがあるということは何度か似たことが起きているということだ。根本的な原因が何かあるのだろうか?。
雪十は、わずかな情報からさらに仮説を立てていき、彼の中の世界背景を構築していく。
「ロイカさん。何かご存知なのですか?」
「ええ、多分こうだろう、っていう予想はつくけど、それが必ずしも正しいってわけじゃないわよ?」
「分かりました。でも今は、少しでも情報が欲しいので、話していただけますか?」
今は、なにも分からない状況だ。元の世界に戻る方法を探すにしろ、とりあえずはここに留まることになるだろう。そして、いま一番に考えなければいけないのは安全の確保だ。
......真白を危険な目には、会わせたくないからな。
「ちょっと雪十!私を置いて話を進めないでよ!私もいるんだから!」
こう戸惑っている真白を見ると、真面目で弱点のないような姿はどこに行ったのやらと、生徒議会副会長殿。
「分かってるから。ちょっと待っててくれ。......すみません、話が逸れて。えっと、祝福者の話でしたよね。
お願いできますか?」
(真白には悪いが、今はロイカさんの話に集中したい。)
真白は拗ねたように頬を膨らませ雪十が寝ていたベットに横たわり、雪十がその姿を一瞥する。
(......可愛いな。むぁ、いかんいかん。)
「わかったわ、祝福者って言うのはね、まず、転移者と転生者と召喚者に分けられて、転移者は、その名の通り異世界から転移してきた人のことを言うの。
転生者は、前世の記憶を持って生まれてきた人のことを言うわ。最後に召喚者なんだけど、基本は転移者と変わらないわ。でも、それを誘発させることができるのよ。その代わり、大きな代償が伴うわ。
例えば、十歳までの小さい女の子を贄に捧げるとか、若いイケメンとか、時々によって変わるのよ。神にそれを捧げることによって、召喚者を召喚するのよ。
私が聞いた話だと、贄が変わるのは、神様の趣味だそうよ。でも、ここ数年は行われていないわね。
幾つかの国では禁止されてるわ。
そして、この三つをまとめて祝福者と言うのよ。さらに、その祝福者たちはそれぞれ違う特別な力を持っているそうよ、それについては私も詳しくは知らないわ。
......えっと、これが私が祝福者について知ってることね。」
「は、はい。ありがとうございます。」
(少女を贄に欲するなんて、何かしら裏があると考えたほうがいいかもしれないが、本当に神の趣味だとしたら、それってロリコン神とか、男好きの神がいるのか。まだ未来があり、いずれこの世界の未来となる子供を贄にするなんて。怒りを禁じ得ない。それにしてもこの世界の神って......まったくもう、はぁー。あ、そうだ真白。)
「おい、真白。話終わったぞ?ってうお!痛った!何だ!?」
(真白を呼ぼうと振り返ると、見事な蹴りが顔面に飛んできた。)
「いってー、またか。おい真白、起きろ〜」
雪十が鼻のあたりを押さえながら、右手で真白をゆすり目を覚ませるべく声をかける。
「う〜ん。あ......雪十。顔を押さえてどうしたの?」
「起きたか。話終わったぞ。後......顔は気にするな」
(蹴りが飛んできた理由、それは真白の寝相にある。そう、真白の寝相はとてつもなく悪いのだ。
小さい頃、泊まりかなんかで寝る時は寝相の悪さから繰り出される猛攻を回避するために、俺は真白が寝た後に少し離れたところに寝ていたのだが、どんなに遠くに寝ても追ってきて締め殺さんばかりに抱きついてきた。正に"魔白"と化していた。
対策のため調べた結果、どうやら匂いに反応しているらしく、服を脱いで明後日の方に投げた時僅かながらそちらに反応した。調査の末一番いい対策は、真白が寝た後、俺がいつも使っている布団を囮に使い、それを抱きしめさせると言う方法。大抵は朝までその状態だが、油断していると襲ってくるので注意。まぁ、いまじゃ誰かが近くにいたらを蹴るくらいで、追ってくる様なことはなくなっている。しかし、あの寝相蹴りは未だに強烈だ。むしろ威力が上がってきている。)
「ま、真白ちゃん。今のは、わざとじゃないのよね?」
「今のって?」
「覚えてないのならいいのよ......」
「そう、ですか」
(ロイカさんも今のにはさすがにビックリしたようだ。あの大人しかった真白が、あんな鋭い蹴りを繰り出してくるのだから。)
「そうだ。あの、ロイカさん。さっきの話で質問したいことがあるのですが、いいですか?」
「いいわよ?」
「俺たちは、祝福者なのでしょうか?何かそれがわかるものはありますか?」
「祝福者を召喚した人か祝福者同士でなら見ることができると言われているものはあるわね。
確か、背中に羽のような紋章があるって聞いたけど」
「背中か......真白、見てくれないか?」
俺が服を脱ごうとすると。
「え、ちょっと待って。まだ心の準備が......」
「ただ背中を見るだけだろ?何をそんなに恥ずかしがってるんだよ」
「う、うん。じゃぁ向こう向いて」
俺は服を脱ぎ背中を真白に見せる。
「その、羽の紋章って大きいんですか?」
「背中全体に広がってるって聞いたわ、一目瞭然なほどにね」
「なら、多分違いますね。……雪十。背中、綺麗(ぼそ」
「真白、そろそろ触るのやめてくれないか?」
「ご、ごめん、つい」
真白は真っ赤になりながら手を引っ込める。何だ?俺何かしたかな?
「く〜羨ましい!私も甘酸っぱい恋を体験したかったわ〜」
ロイカさんは何かを悔しそうにしながら微笑んでいる。
「俺にないってことは、真白も違うかもな。いや、そうか。どちらか片方だけが祝福者だった場合、どちらの背中も何もないように見えるのか。気づかなかった。鏡でもあればわかりやすいんだが」
「鏡ならあるわよ。ほら」
そう言うと、ロイカさんは長方形の手鏡を本棚の脇から出してくれた。どうやらこの世界でも鏡はあるようだ。
「最初からこうすればよかったかもな、俺が先に見るけどいいか?」
「うん、雪十が見た後でいいわ」
俺は背中を鏡で見たが、普通になかった。よし、次は真白だな。
「真白?って、もう脱いでたのか」
振り返ると、真白はすでに上着を脱いでいた。
「あ、あんまりジロジロ見ないでよね!そ、そう言うのは、ちゃんと関係を作ってからじゃないと、ダメだからね!」
「お、おう。何を言ってるかわからないが」
鏡を渡したら俺はすぐに顔を逸らした。その一瞬でもわかるほどに、肌は白く綺麗で、美しかった。
「私もないわよ?」
「ってことは二人とも祝福者じゃないのかしら?」
真白が横で、もぞもぞしながら脱いだ服を着ている。
「みたいですね。......じゃあ俺たちは何なのでしょう?」
「それは......分かりかねるわ。ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。お話を聞かせて頂いただけでも十分です。ありがとうございます。ところで、さっきから 気になっていたのですが、奥にいる小さな女の子は誰でしょうか?」
「妹さん?」
さっきから後ろの方でちょろちょろ動き回っているので、すごく気になる。
「え!?あなたたち、あの子が見えるの?」