プロローグ〜始まりの朝に〜
いまだ現代を忘れぬ近未来の街なみ。その一角に広がるは、個性あふれる家が立ち並ぶ住宅街。その中でも一際広い敷地をもち、一見しただけでもその財力が伺えるほどの豪邸。その一室のカーテンが静かに揺れていた。
カーテンから日が差し込み、小鳥の歌声が響く。いつもと変わらない朝。
「もう朝か。さて、二度寝しよ」
大きく欠伸をしてまたベットに潜り込む。
「昨日はずっと、照準補助デバイスのプログラム作成に追われてたからな、眠くて仕方ない。」
彼は白峰雪十。【国立新科学先進第一高等学校】在籍。職業・高校生、副業・主に軍のシステム構築の修正、及び補助。普通の高校生というには程遠いいだろう。
彼は小さい頃から多くの才能に恵まれて居た。その中でもソフトウェア関係のことは、元軍事情報部門の両親の影響もあり中学2年の頃には、システムの構築、セキュリティの生成など、その他多くの技術を習得していた。
特に、傑作の【元始型自立学習知能-ARICIA-】は大きな成果を出していた。
ARICIAの功績により先進的なセキュリティが構築可能になり、独自のプログラム言語を用いることによってそのセキュリティの安全性を向上させることに成功していた。
ARICIAの開発過程では、"より人間らしく"というコンセプトのもと両親のコネクションで軍との共同開発を開始し、ARICIAの肉体を生成。肉体についてはより実験的なものだが、様々な結果を考慮すれば成功といっても問題はないだろう。
ARICIAの肉体や外皮はほぼ機械だが、より人間に近づけるため体内の仕組みは人間に寄せて構築されている。さらに消化器官形エネルギー生成装置によってエネルギーを生成してるので、食事を取るという行動が重要になってくる。"食事をとる"というのはより人間らしい行動ではないだろうか
この情報は軍事機密とされている。おそらく”イルクネートの箱”の技術も使用しているからであろう。
軍の副業のきっかけは彼の父である白峰創護の薦めによるものだ。
創護は、もともと軍の上級大佐の立場で数々の作戦に関わってきたが、雪十の母親である識郷麗炎と結婚してからは退役を考えていた。しかし退役を許すわけにはいかないと言われ、緊急時には召集に応じ特務をこなす事、訓練生の教育を条件に、一時的に軍務を離れることを許された。現在は正規の軍務に戻り、訓練性の教育も引き続き行っている。
雪十は中学3年の頃、父に軍のシステム強化の補助に誘われ、その時の腕を買われて今はそれが副業となっている。
ちなみに麗炎は体術及び身体面の訓練教官として働いている。
あともう少しで寝付けそうだというところで。玄関が開く音が響き、誰かが階段を駆け上がってくる。そして、俺の部屋の扉が勢いよく開かれ、いつものフレーズが耳に入る。
「雪十!おきなさーい!」
怒気を孕んだ大声が俺の部屋に響く。
声の主は、幼馴染の小鳥遊真白であった。
高2にになってからはほぼ毎日、というか毎日起こしにくる。なぜかって?
訓練教官を勤めている両親はここ半年程、訓練生強化実習の教官として遠方の訓練地に赴いており、家には両親がいないのだ。それを心配したのか、母さんが隣の家に住んでいる小さい頃からの幼馴染である真白に、モーニングコールを頼んでいたのだ。俺は朝が弱いのだった。
「やっぱり真白か、勘弁してくれ。というか今日は休みだろ?」
「忘れたとは言わせないわ!今日は一緒に買い物に付き合ってくれるって約束したじゃない!」
「あぁ、そういえば今日だったっけ。というか、日にちは忘れていたがそのこと自体は忘れていないぞ!」
「あんたねぇ〜、まぁいいわ。さあ、早くいくわよ。 ほら、いつまでも布団にくるまっていないで!」
そう言いつつ俺の布団を引き剥がす。
「おい、何すんだよ寒いだろ布団返せよ」
「返すわけないでしょ、返したらどうせまたベットに潜り込む……って!あああああ、あんた!
なな、なんで服着てないのよ!っは、早く着なさいよ!」
「あ、いや、すまん。というかパンツは履いているけどな」
真白は顔を赤くしてあわあわしている、時々何かつぶやいているが小さすぎて聞こえない。
「わ、わかったから!早く着替えてよね!部屋の外で待ってるから!」
慌てた様子で真白がでていき、扉が音を立てて閉まる。
「ったく、なんだよ急に慌てだして。ちっちゃい頃は一緒にお風呂に入ったりしたじゃないか」
「それとこれとは違うの!」
扉の外から真白が叫んでくる。
「はいはい 、わかりましたよ。っと、おし、じゃーいくか」
手早く着替えを済ませ、部屋を出る。
「着替えるの早いわね。そんなに早く着替えられるんなら、先に着替えときなさいよ。もう!」
「ああ、すまない」
買い物のことを忘れていたから先に着替えるも何もないのだけど。これは俺が悪い。
「じゃあ改めて。ふふふ、聞いて驚きなさい。今日はあんたが好きなアニメの映画先行試写会にいくわよ!買い物に行くと言うのは口実でした!」
ジャジャーンと効果音がつかんばかりにチケットを2枚、目の前に出してきた。
「あれ?試写会今日だっけ?すっかり忘れてたよ。ありがとう、真白」
試写会のことは知っていたが、ここ数ヶ月徹夜続きで応募するのも思いっきり忘れていた。
「わ、私も少し気になってたのよ!あんたはついでよ!もしかして、興味なかった?忘れてるくらいだし......」
「いや、そんなことないよ!ありがとう!」
あのアニメは結構好きだから、本当にうれしい。
「ん?でも、ついでならなんで2枚もあるんだ?あれ、手に入れるの結構大変だぞ?」
「え、えーと。そ、そう!間違えてペアチケットに応募しちゃってただけよ!」
「そうか......」
ペアチケットなんてあったっけ?......まぁいいか。
「楽しみにしてなさいよ。そ、れ、と、途中で寝たら許さないからね」
「ああ、分かった。でも、俺より真白の方が寝そうだけどな。この間映画見に行った時、途中で寝たのは誰かなぁ?映画終わった時起こすの大変だったんだぞ」
「そ、その時は悪かったわよ。今回は気をつけるわ」
なんか、今回もまた寝そうな気がする。
雑談をしながら歩を進め、家の中央階段の中間に差し掛かった。その時。
「っ!」
真白が足を滑らせ、頭から落ちていく。俺の家の階段は大きく、受身もとれず落ちたりしたら怪我だけではすまない。
クソっ
俺はとっさに真白を庇いながら抱き、そのまま落ちていく。その瞬間、俺たちは謎の光に包まれる。
〜とある場所で〜
???「ん?何か一緒に巻き込まれなかったか?」
???「大丈夫だよ、きっとそこらへんのカエルとかでしょ?」
???「でも、ノア様にだけにはばれないようにしなくては」
???「そうだね、ばれたらカンカンだもんね〜」
???「てか、なぜカエル?」
???「何でだろ?ふと思いついた〜?」
???「いや、俺に聞くな」