女の部下という立ち位置
同じような疑問を抱える女性、いませんか?
常々、「上司」の立場にある男性に聞いてみたかったことがある。
それは、「自分のことを慕う女の部下がいたら、それは男性としても好かれていると判断するのか?」ということだ。
「男女平等」とか「女性管理職の登用」とかいう単語が狂ったように叫ばれなくなって久しいが、これは逆にこうした考えが定着してきているということなのだろうか。しかし、それでもまだ上司という立場にあるのは男性の方が多いのではないかと思う。いや、職種や職場環境によるだろうし、我が職場が少々古めかしい体質なせいか女性の管理職が圧倒的に少ないため、私がそう感じるだけかもしれないのだが。
念のため、我が職場のフォローをしておくと、別に男性の管理職が「女は登用しない。お茶くみとコピー取りしとけ」とか言ってるわけではない。むしろ、管理職になるような年代の女性こそ「お茶くみとコピー取りを生業としたいでござる」と思っている可能性が高い。かくいう私も、毎日封入作業とか、資料をホチキスで閉じる作業を生業としたいと思っている。いや、管理職になれるような年代ではないが。
話が逸れたが、そうした多くの男性上司と接していれば、自分なりに上司の評価をしてしまうのは自然なことだろう。
多くの場合は「可もあれば不可もある」という評価に落ち着くが、中には「日々そいつの不健康とご不幸をご祈念申し上げずにはいられない」という上司もいる。
そして、もちろん「この人はすごい人だ。この人の部下になれて良かったし、この人から『部下にして良かった』と思われる社員になりたい」と思わせてくれる上司もいる。そういう上司に出会えるのは本当に幸せなことだと思う。
思うのだ。
しかし、同時にこうも思う。
「でも、別に男として好きなわけじゃねえんだよなあ」と。
いや、もちろん世の中には、「上司として慕っているうちに、いつの間にか異性として好きになっていました。ですが、相手は妻子持ちで…」みたいな女性(誰?)もいることは分かる。しかし、そういうケースも中にはあるというだけで、上司として尊敬するイコール異性としてアリになるというわけではないと思うのだ。
世の男性上司の諸君からしてみれば、「何故いきなり無理やり恋愛という土俵に引っ張り上げられた挙句『ないわー』とばかりにこき下ろされてんだ。ふざけんな」と思うかもしれない。その点については申し訳ないと思うが、如何せんここは筆者が自身の日常から感じ取ったことを原材料に、独断と偏見という添加物を交えて(主成分と言って良い)加工し、出荷する場なので勘弁してほしい。
まあ、要するに私の日常において、私にそのように感じさせる場面が多々あるのだということをご理解いただければと思う。
例えば、非常に頭が良く、知識も経験も豊富で、上司からは一目置かれ、部下からは頼りにされ慕われる男性上司がいる。その上司から認められるよう仕事に励み、一定の評価を得て、部下として目をかけてもらえ、気安い雑談や仲間内での飲み会に誘ってもらえるようになる。
それは非常に喜ばしいことなのだが、しかし、だからといって飲み会で肩を抱いてきたり、膝枕やポッキーゲームをしたり、まるでこちらこそその上司を男として好きかのような冗談(だと思う)を言ったりするのはいかがなものなのか。「お前、俺のこと慕っているんだから、当然俺に女扱いされて嬉しいよな」みたいな態度は何なのだろうか。
「そんなもん、お前の上司がセクハラ野郎なだけだろ。総務課に訴えろ」というかもしれない。もし、一般的にそのような男性上司がいない、または希少種だというなら迷わずそうするのだが、如何せん我が職場という狭い世界にはそのような男性が多いのである(まあ、そもそも「周囲から優秀と評価される上司」という分母は少ないのだが、上司自身が「自分は優秀であり慕われている」と思い込むことを防ぐことはできない)。
仕事ができる男というのは、周りがそのように扱うせいか、本人もある程度その自負があり、堂々としている。そういう態度が、いっそう職場の中で存在を際立たせているのだろうが、そうやって周囲から一目置かれる存在に「飲み会やるから来いよ」と言われて断るとか、その状況に乗って行われるボディータッチやキャバ嬢接待のソフトな強要を拒むのは、年下の女にとってはなかなかハードルが高いのではないだろうか。
「のではないだろうか」という言い回しをしたが、実際私にはハードルが高かったのである。
私は今でこそ酒が好きではあるが、気の合う友人や、家族との食事と話を楽しみながらの酒、または好きな肴で一人飲むのが好きなのであって、今でも職場の飲み会なんて楽しくもなければ嬉しくもない。
ただ、社会人として必要なコミュニケーションの一つと思うからこなすのであって、窓口で来客相手に愛想笑いを浮かべお世辞を言うのと何ら変わりない。だから、職場の飲み会を頑なに固辞する新人等がいれば「そうは言っても必要なことやぞ」と諭すことはするが、内心では「分かる!」と激しく同意しているわけだ。
その、職場の飲み会めんどくせえなあと思う原因の一つが、「上司からの女扱いを、相手が不快にならない程度にノッて受け流す」というスキルを要するということだ。
職場の飲み会と一口に言っても、実際にはいくつかの種類に分かれると思う。
例えば、新年会や忘年会、歓送迎会等のセレモニーというか行事として行われる飲み会がある。これは、基本的に課を単位としており、仲が良かろうが悪かろうがその範囲で行うことになる。これはやりたいかやりたくないかではなく、やるべきものとして認識されているため、酒が飲めない人間も飲める人間も混在し、互いに少し遠慮し合っているという良くも悪くも羽目を外すほどには盛り上がらない、お行儀の良い飲み会だ(まあ、こういう飲み会にしか誘われないため、ここぞとばかりに羽目を外す輩もいるが。だから誘われねえんだよ、と言いたい)。
対して、職場内で仲のいい社員同士が有志で行う飲み会がある。いわゆる「今晩飲みに行こうぜ」というヤツだ。これは、有志で行われるため、似たようなノリの人間が集まりやすく、楽しく騒ぐことを目的にしているため、羽目を外しやすい飲み会である。
これが、前述した「受け流しスキル」を要するため、面倒くさいのである。
そもそも、誘う側の上司は、部下を気安く誘っているつもりかもしれないが、誘われる側からすれば相手はどんなに気安くでも上司であるから不興を買いたくないと考えるため断りにくい。
仮に断った時には嫌な顔をされなくても、「あいつ飲み会に誘ってもこないし、可愛げないんだよな」という認識をされれば、いずれ巡り巡って仕事に支障が出るかもしれないと考えればやはり断りづらい。「飲みニケーションは仕事をする上で大事」という理屈は、要するに「飲みニケーションできない奴は仕事で困ることになるぞ」という脅し文句に近い。
ましてや、入社して1~3年程度の若手の女性職員に、年上の上司からの飲みの誘いを上手く断りつつ好感度も維持しろ、というのは難易度ハードに近い。少なくとも、私にとっては某メジャーゾンビゲームを、初見でノーマルモードセレクト、一回もゲームオーバーになるなと要求されたに等しかった。
断れないのであれば行くしかないのだが、行ったら行ったでそこではキャバ嬢接待の強要という、こちらもまた難易度の高い要求をされるのである。
別に、小皿に取り分けるとか、酒の減り具合をチェックしつつ適度なタイミングでお替りを注文するとか、そんな新人スキルの話ではない。
肩を抱かれ、過去に12回くらい聞いたような話題を「さしすせそ」の言葉で盛り上げ、「あーん」とかいう食べさせ合いに乗り、ポッキーを加えた顔が迫ってきたら、さりげなく躱すか直前でぶった切る、膝枕を求められたら3分程度我慢して、「トイレに行きたくなっちゃった」と席を外し、戻ったところで席の入れ替えをする、という対応を笑顔でこなす、ということだ。
…ここまで書いてふと思ったのだが、こんな飲み会をしているのは我が職場だけ、ということもあるのだろうか。いくらなんでも、セクハラという言葉が定着した現代で、如何せん古めかしすぎる気がしてきた。
…ともかく、そういう要求があるわけだが、何も男性上司だってあからさまに「ああしろこうしろ」と要求してくるわけではない。嫌なら断れば良いだけの話である。ただ、目下の人間にとっては「拒む」「断る」という選択肢はあって無いようなものだ。選択しても良いが、選択した後にはとんでもない結末が待っているような気がして不安になる。ましてや新人であれば猶更だろう。流石に長年そういう場を経験していれば、別に自分の人生にとってのアルマゲドンでした、なんて大惨事にはならないことくらい分かるが、それも結局経験があるから言えるのだ。
若い女の部下は、内心はともかく表面上では笑顔で「受け流しスキル」を発動し、その場を白けさせることなく乗り切り、自分自身も楽しんでいるように振る舞う。いや、そうしたことを差し引いても楽しんでいるのかもしれないし、いずれ自分にリターンがあるならOK!と割り切っているのかもしれない。
かく言う私も、飲み会の誘いがくれば、「めんどくせえなあ、でもこの前断ったし、そろそろ顔出ししておいた方が今後のためかな…」と、リスクとリターンを天秤にかけ、リターンがあると信じて参加するのである。もちろん、リターンがあると思わせてくれるのか優秀な男性上司の条件なのだから。
しかし、流石に、飲み会の席だけではとどまらず、その後に「今日は楽しかったよ」みたいなメールまで来るとなると、「お前は彼氏か!」とスマホを叩きつけたくなるし、酒が入っていない状態にも関わらず、「〇〇(女性の部下の名前)は、俺のこと好きだもんな~」という発言を聞けば、顔面に使用後のお茶っ葉を熱々で喰らわせたくなっても仕方がないと思う。
と、まあ、女性側の理屈は分かる(もっとも、ここまで職場の飲み会に対して否定的な女も私くらいかもしれない。世の女性社員は、もっとポジティブに職場の飲み会を楽しんでいる可能性は高い)。
分からないのは、男性側の理屈である。
再び言うが、上司として尊敬し慕っているからといって、男として好きなわけではないのだ。別に、仕事のできる上司が、皆が皆イケメン・ハンサム・男前なわけではない。実績と定評がある男はだいたいオッサンである。男の魅力は顔ではないというし、実際そうだとも思うが、それはあくまでその男を客観的に見る側が言うことであって、男自らが言うことではない。大体、イケメンじゃない男が「男は顔じゃないから」と自ら口にしている場合、「男は顔じゃないことを前提とすれば、俺はカッコイイ男の部類に入る」という自負がちらついて気持ち悪い。
また話が脱線したが、女の部下は男性上司に異性を求めていないのだが(むしろ邪魔くせえのだが)、今までの対応を見るに、男性上司は自分を慕う女性の部下に対し、異性としての対応を求めがちではないかと思う。端的に言えば、自分を慕う女の部下は皆「自分に抱かれても良いと思ってる」と思っているような気がする。
上司として尊敬されていれば、男としても魅力的に感じられていると思うのであろうか。そういう男にな女扱いされれば、女は嬉しいはずと思うのだろうか。
こちらとしては、正直部下として目をかけてもらえれば良いのであって、女扱いとかいらんのですよ!と叫びたくなるのだが。
ちなみに言っておくが、私の言う「女扱い」「異性扱い」というのは、下世話で端的な言い方をすれば「エロい意味で」ということであって、「男として扱え」とか「女としてこき下ろしても良い」と言っているわけではないので、ご注意いただきたい。
例えば、私が上司の立場になったとき、年下の男性の部下に上司として慕われたからといって「愛い奴め、抱いて進ぜよう」とは思わないし、今のところ「抱かれても良い」と思える男性上司もいない。
仮に、「抱かれたい」と上司に対して感じている女がいたとしても、それは別に「上司として尊敬に値するから」ではなく、「男として魅力的に感じる部分があったから」なのだと思う(いや、知らんけど)。
男は、自分よりも立場的にも精神的にも上位にいる女性、つまり尊敬する女性を性的な対象として見にくいのだと聞いたことがある。全くの事実とまでは言わないが、あながち間違ってもいない理屈であると思う。良くも悪くも自分より下に見ることが出来なければ欲情はできない、ということだ。
良くも、というのは庇護欲であろうか。悪くも、というのは侮りだろう。つまり、自分が優位にいなければならないというわけだ。
その理屈で言えば、種類はともかく好意を寄せてくる女の部下というのは、確かにエロい意味で女扱いしやすいことになる。
しかし、あくまで理屈は理屈だ。ここに書き連ねたことは、私の狭い世界で発生した疑問と、偏った知識と経験による考察でしかない。男が全員同じように考えているわけではないことは分かるし、そもそも「女は~…」とか書いているが、その「女」に含まれているのが私だけで、世の女性達は「尊敬する上司にマジで抱かれたい。そういう生業に就きたい」と考えているかもしれない。
というわけで、この世の多くの男性にとっては、女の部下から「上司として尊敬されている」ということは「男として好意を持たれている」とニアリーイコールなのか否か、是非ともお聞かせいただきたいのである。
まあ、説明されたからと言って共感できないであろうことは聞く前から分かっているのだが。
やっぱり、我が職場が特殊なのか?