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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第1章:『赤の神』戦争編
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第7話 「花畑の中で」

 どこか儚げな印象を受けるその女性は、俺の頬に触れながら小さく笑みを浮かべ続ける。

 いや、待てよ。これはただ触れているのではない。これは……。


 「……ムニムニ。気持ちいい」


 ほっぺをムニムニされてるっ! 頬を撫でていると思えば、優しく引っ張ったり完全に遊んでるぞこの人!

 その前にここはどこだ?

 ゴーレムに仕込まれていた魔法陣に巻き込まれたのまでは覚えている。一瞬でこの見知らぬ土地に飛ばされた事を考えるに、恐らくあの魔法陣は転移魔法の類だろう。

 

 ゴーレムを倒した相手を別の土地に飛ばす。あのゴーレムを作った魔導士は随分と手の込んだ真似をする性格らしい。それに、戦闘中に感じたあの違和感。

 あれはただの岩じゃ無かった。もっと別の何か……。


 ともあれまずは、目の前にいるこの女の人に何か聞いてみよう。


 「あ、あの、ここはどこじゃろうか?」

 「…………」


 むにむに。むにむにむに。


 女性は俺のほっぺがそんなに気に入ったのか、俺の言葉を華麗にスルーしほっぺをムニムニし続けている。

 正直こんなに綺麗な人にされるのは興奮するが、今はベア達が心配だ。

 俺はムニムニ触り続ける女性の手を掴み再度同じ質問を投げかけた。


 「ここは、どこじゃろうか?」

 「……ゴルガ帝国だよ」


 ムニムニを抑えられ若干しょんぼりした様子の女性が答える。


 「え? ゴ、ゴルガ帝国じゃと?」

 「うん」

 「……ホントに?」

 「うん」


 ヤバくね?

 うん、確実にヤバイよね。

 まさかの敵陣の中なんですけど。ゴルガ帝国に飛ばされたという事は、あのゴーレムはやはりゴルガ帝国の物だったのだろうか?

 

 俺は辺りを見回す。

 周囲には花が綺麗に咲き誇っており、少し離れた所に質素な木造の一軒家が立っている。ここはどうやら丘の上らしい。

 

 遠く離れた丘の先には、巨大な街がある事が確認できる。つまり、この場所は街の離れという訳だ。


 あのゴーレムが帝国の差し金であるならば、こんな街の離れに転移させるだろうか? 帝国の基地内部に飛ばすのが普通なのでは?

 

 とすれば、あのゴーレムは帝国の差し金では無く、転移先もランダムである可能性が高い。


 「……迷子なの?」

 「え?」


 小首を傾げた女性が問いかけてくる。大人びた容姿なのに、仕草は一々子供っぽいなこの人。

 だが、迷子という話に乗っかった方が得策かもしれない。

 この女の人にゴルガ帝国の外に出してもらえるよう頼めないだろうか?


 「う、うむ。実はそうなのじゃ。ギルド所属の冒険者なのじゃが、道に迷ってしまっての。ゴルガ帝国の外にはどうやって行けるのじゃろうか?」

 「ゴルガ帝国の人間じゃないの?」

 「……そ、そうじゃ」


 怪しまれたか? 冒険者は国境を越え活動できる。それゆえ、部外者がいても違和感が無いと思ったのだが……。


 「……外に出る道知ってるよ。でも、正式な道は遠い」

 「す、すぐに出る事は出来ぬのか?」

 「……抜け道なら知ってる。でも、夜にならないと見つかる可能性がある」


 抜け道か。確かに正式な道から出ようとすれば、何か許可証のような類の提示を求められるかもしれない。そうなったらお終いだ。

 ここは抜け道から出る方法で行こう。


 「すまぬが、抜け道からわらわを出してはくれぬだろうか?」

 「……うん。お名前は?」

 「司 咲夜じゃ」

 「……サクヤ。夜になるまで私の家で待っていよう」


 そう言うと、女性は近くにポツンと建っている木造の家を指さす。


 「うむ。世話にな――」

 「ジークフレン将軍!」


 突如、丘の向こう側から甲冑をきた1人の兵士が走りながら現れた。あの甲冑は知っている。ゴルガ帝国軍の規定装備だ。

 しかし、ここには俺とこの女の人しかいない。

 ジークフレン将軍とは?


 「ジークフレン将軍! 蒼の領土との国境付近の森において、再び戦闘が開始された模様です。将軍は出撃の準備をし待機とのこ……。うん? この子は?」


 胸に手を当て敬礼を見せる兵士は、俺の隣りにいる女の人に戦況を報告しあろうことか俺の存在に気付きやがった。

 ってかまさか、この女の人がジークフレン将軍とやらなのか!?

 こんなほんわかしてる人が!?


 「その格好、なぜムラクモの人間がここに?」


 明らかに怪しまれている。俺が冷や汗をかいていると、ジークフレンが俺の肩を抱き引き寄せる。


 「この子は私の友達。怖がらせたら――殺す」

 「ひっ! し、失礼しました!!」


 ジークフレンから発せられる強烈な言葉と、一瞬の殺気に兵士は即座に頭を下げその場から逃げて行った。

 再び静寂が訪れた花畑で、ジークフレンは俺の頬に手を伸ばしそっと触れる。


 「……私の家に行こう」


 そう言い、出会った時と同じ優しい笑みを浮かべた。

 だが、俺にとっては全く違う意味合いに感じる。


 心臓がバクバクと高鳴る。俺はまさかの、ゴルガ帝国の将軍と2人きりの状況になっていたのだった。

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