第5話 「蒼の者達」
酒場を兼任した木造のギルド内にて、4人の男女が1つのテーブルを囲い顔合わせをしていた。無論、その4人のうちの1人は俺だ。
俺の隣りに座っているのが神託の儀式以降ずっとお世話になっている少女、ベアトリクスだ。そして、テーブルを挟み俺達の正面に座っているのがベアのパーティという訳だ。
「いやぁ! まさかベアの連れてきた子がこんな可愛い子とはな! あれだよなぁ、ムラクモ国の女の子は可憐って言うの? おしとやかな雰囲気が良いよなぁ」
こう語るのは俺の目の前に座る男、スヴェンだ。鎧を身に着け剣を携える、純然たる騎士といった格好をしている。緋色の髪に整った容姿をした彼は、黙っていれば絵本から飛び出した騎士様のようなのだが……。
「ねぇねぇサクヤちゃん! 真剣な話、着物の下に下着って――」
「……スヴェン、気持ち悪い」
かなり残念な性格をしているようだ。そんな彼に鋭いツッコミを浴びせたのがスヴェンの隣りに座る小柄な少女、ラウラだ。
茶色の髪にはピコピコと動く猫耳があり、ジトーっとした眼で俺の方を見てくる。獣人族と呼ばれる動物の特徴を持った種族だ。杖を携えているトコロを見るに、彼女は魔法使いらしい。
「ま、まぁ。変わった2人だけど腕は確かだから!」
俺に苦笑いを向けながらベアがフォローを入れる。
「よ、よろしく頼むのじゃ」
「「おぉ~……」」
俺が挨拶を交わすと、スヴェンとラウラから感嘆の声が漏れた。
鼻血を一筋流しながらスヴェンが親指を立てる。
「のじゃ娘、最高!」
「……かわいい」
くっ! この2人もか! ベアに続きなぜこんなにもウケが良いんだこの話し方は!
そんなこんなで自己紹介が終わりを告げ、本題のギルド登録の条件へと移って行った。蒼の神とのいきさつをベアが説明していくと、先ほどまで「ムラクモ万歳!」やら「サクヤちゃんまじ天使!」などと騒いでいたスヴェンとラウラが真剣な表情に変わった。
「なるほどな。こりゃ確かに異例だ」
説明を聞き終えたスヴェンが、腕を組み苦い顔を浮かべる。
「なによりも面倒なのは『紅蓮の竜騎士』だな。奴1人で国1つ滅ぼしたなんて逸話もある」
「……蒼の領土でも対抗できるのはクラウディオ様だけ」
そう、この条件でもっぱら最大の障壁として立ち塞がっているのは『紅蓮の竜騎士』の存在だ。ベアの話を聞くに【神技】のスキルの持ち主。
でもそれなら、ラウラが言ったムーランス王国の騎士団長クラウディオという男もそうなのか?
「『紅蓮の竜騎士』は【神技】のスキルを持つと聞いたのじゃが、クラウディオ殿もそうなのか?」
「あぁ、そうだぜサクヤちゃん。伝承によれば『災厄』とやらが近づいてくると、7人の神が自分の領土から1人づつ【神技】のスキルを与える人間を選ぶらしい。まぁ言い伝えだから、実際に『災厄』が近づいてるのかは知らないけど」
く、黒の神の奴、そんな重要そうな役目をあんな適当に決めたのか!? 思い返せば確かに、「そろそろ【神技】のスキル持ちの人間を選ばにゃならん時期」とか言ってた気がするぞ……。
「でも、今回の戦場にお父様は来られない。お父様が不在の中、勝たなくてはならないのよ……」
「ベア……」
ギリッ、とベアが歯を食いしばり拳に力を込めた。
……そうか。ただでさえ騎士団長の1人娘だと言うのに、その父親が【神技】のスキル持ちなんだもんな。親が偉大過ぎると、その子供の重責は計り知れないものがあるのだろう。
城でベアが悲し気な表情を浮かべた理由が少し分かった気がする。
「……サクヤの刀、珍しいね」
僅かに重い空気を吹き飛ばすかのように、ラウラがポツリと『黒蝶丸』を見つめながら呟く。その言葉に続くように、即座にスヴェンも身を乗り出す。
「俺も気になってた! ベアの話じゃかなり強いんだろ? その刀で戦うのか?」
「うむ。『黒蝶丸』というのじゃ」
「へぇ~! 鬼の群れを一瞬で片づけたらしいな。しかも神託の儀式を受けたその日に。だとすると異名が付く日も近いかもな」
「異名?」
俺の疑問の声にベアが答える。
「実力が世界中に認められると自然と異名が貰えるのよ。『紅蓮の竜騎士』もそうだし、お父様だったら『蒼穹の聖騎士』みたいな感じでね」
「職業や戦い方の特徴から異名が付けられる事が多いんだ。ベア、サクヤちゃんってどんな感じに戦うんだ?」
「そうねぇ。回りにヒラヒラ~って魔力で作り出された蝶が飛んでて、その中で踊ってる感じかしら」
俺の刀を振る姿はそんな風に見えていたのか。自分の戦いを誰かに評価されるのって、なんだか気恥ずかしいぞ……。
「……『舞姫』みたい」
ベアの話を聞き、ラウラが呟いた。『舞姫』の事は俺も知っている。ムラクモ国が発祥の物語に出てくる登場人物だ。舞をするように刀を振るい、悪者を退治する女の侍。
実を言うと俺のこの口調はその『舞姫』を真似ている。
「まぁ異名の話は置いといて、私はサクヤちゃんと一緒にその戦場に向かおうと思うの。できれば、スヴェンとラウラにも来てほしい」
ベアが真剣な眼差しで言う。俺としても戦力的にこの2人が着いてきてくれるのは嬉しい。だが、話してみて分かったがこの2人もベア同様に人が良い。
そんな人たちを、俺のわがままで連れ出して危険な目に合わせていいのだろうか……。
「む、無理にとは言わん。わらわは1人でも――」
「何言ってんのさ。一緒に行くぜ」
「……困ってる子を見過ごすなんて出来ない」
俺の言葉を遮るように、スヴェンとラウラが言葉を紡ぐ。
――あぁ、そうだ。この2人は紛れもなく、騎士道精神を大切にする蒼の領土の人間なんだ。
俺はベア達と共に、西の森へと向かう事となった。
相手は生きる伝説とも言える『紅蓮の竜騎士』。俺は本格的に、蒼と赤の戦争へと足を踏み入れようとしていた。