第4話 「神からの条件」
「このムーラリアから西へ向かった先の森で、蒼と赤の両軍が戦闘中なのですがそこに『紅蓮の竜騎士』が現れたとの報告が上がりました。こちらからもクラウディオを送りたい所なのですが、生憎彼は今別の戦場に出向いています。そこで貴方の力をお借り――」
「お、お待ちください!」
スラスラと話を続けていた蒼の神を制し、ベアが焦燥を含んだ顔で叫んだ。すでに彼女は膝をつくのを止め、立ち上がっている。
「ギ、ギルド登録で条件があるだなんて話聞いた事がありません! それに、サクヤちゃんは黒の領土の人間です!他国の戦争に巻き込むなんて!」
ベアが俺の前に立ち庇ってくれる。
彼女が言っていることは最もだ。ギルド登録は素性などを調べられる事はあれど、条件が突き出される事は無い。ましてや、戦争の手助けをしてくれなどもってのほかだ。
戦争となれば、その国の兵やギルドの人間が戦うのが常識である。他の神の同盟国に救援を求める事はあるだろうが、ムラクモ国にそんな話は来ていなかったし、国に話を通さず俺個人に助けを求めるのは妙だ。
それに蒼の神のあの表情。他国の人間に助けを求めるほど切羽詰まった戦況であれば、汗の1つでも流して良さそうなのだが、まるで俺がどう出るか楽しんでいるかの如く涼しい笑顔のままだ。
ベアは俺を庇う事に必死で気付いて無さそうだが、蒼の神には何か隠している意図があるように感じる。
「ベアさん、ありがとうなのじゃ。でも、わらわはこの条件を飲む」
「サ、サクヤちゃん!? いくらサクヤちゃんが強くても『紅蓮の竜騎士』がいる戦場なんて……」
軍神との異名を持つ赤の神の統治下の人間は好戦的で、戦闘を生業とする者が多い。領土も7人の神の中で最も広く、その頂点に君臨しているのが『紅蓮の竜騎士』だ。
そんな人間がいる戦場に、神託の儀式を受けたばかりの俺が行くなんて馬鹿げた考えかもしれない。
それでも、俺は昔からギルドで立派な冒険者となって活躍する事を夢見てきた。蒼の神が条件を出すのであれば、それを超える必要がある。
俺は覚悟を決め真っすぐに、ベアの瞳を見据えた。
「ベアさん。わらわの心は既に決まっておる」
「……サクヤちゃん」
俺の言葉を聞いた蒼の神が立ち上がり、凛とした声で告げた。
「ではムラクモ国のサクヤよ。貴方の力に期待していますよ」
こうして、蒼の神との謁見は俺が条件を受け入れる形で幕を閉じた。
♢♦♢♦
「の、のうベアさん? 何をそんなにふて腐れておるのじゃ?」
「むぅ~」
ベアのパーティがいるというギルドに向かう最中、ベアは俺の手を引っ張りながらも唸り続けている。傍から見ても不機嫌であることが分かる。
「私はまだ納得いってないよ。ギルド登録であんな危険な条件を出されるなんて」
確かに俺でも腑に落ちない部分はある。初めてギルド登録する人間が元から強いなんて可能性は低い。ゆえに戦場に駆り出される条件なぞ普通ありえない。
「でも、わらわは少し楽しみじゃ。『紅蓮の竜騎士』の伝説は幼き頃から良く聞いておる。その者と会えるのかも知れないのであれば、心も高揚するというモノじゃ」
「……心配だなぁ。サクヤちゃんが強いのは十分知ってはいるけど、それでも15歳の女の子である事に変わりはないし」
ギュッと、俺の手を握るベアに力が入る。
黒の神の統治下にいる人間は礼節を重視し、ひたすら己の高みを目指し研鑽を積む傾向にある。それは自分にも当てはまる事で、俺の場合はそれが剣術であった。
幼い頃から刀を握り修行してきた俺にとって、『紅蓮の竜騎士』のような他国のつわものに触れる機会が訪れると、不安よりも喜びが勝ってしまう。
「……よし、決めた。私も、いや! 私達も一緒に行くわ!」
「わたしたち?」
「えぇ! 私のパーティも貴方と共に行く! 安心して、足は引っ張らないから」
嬉しい申し出だが、いいのだろうか? 正直ここでベアと離れるのは少し、いやかなり心細かったが、危険な戦争に向かうのだ。むしろ俺の方が心配してしまう。
俺は【神技】と『黒蝶丸』がある為ある程度は戦えるだろう。決してベア達の実力を舐めているわけでは無い。ただ、俺はベアに傷ついて欲しくないのだ。
「小さい子が自分の国の戦争に参加するのを黙って見過ごすなんて出来ない。蒼の神様も1人で行けなんて一言も言ってなかったし!」
「じ、じゃが、危なくなったらすぐ逃げるのじゃぞ? わらわの為にベアさんが傷つくところなんて見たくない」
「サ、サクヤちゃん……!」
頬を赤く染めたベアが、抱き付いてくる。もはや何度目か分からないが、何度やられても慣れないな……。
ベアの胸と俺の慎ましい胸が合わさり、ムニュッと形が変わるのが分かる。
ってか、俺おっぱいあるじゃん! 怒涛の展開で忘れていたが、夢にまで見たおっぱいが俺自身に装備されている!
……後で揉みしだいとこ。欲を言うならもう少し大きい方が俺好みだったな。これじゃ俗に言う貧乳だ。
ということは、黒の神は貧乳好きなのか……。おえっ、気持ち悪。
「でも、サクヤちゃんも気をつけてね」
まさか自分のおっぱいの事を考えていたなど知る由も無いベアは、俺を力強く抱きしめながら言う。当然俺も気をつける。まだ死にたくはないからな。
だが、ベアの口からは覚悟していた事の更に上を行っていた。
「『紅蓮の竜騎士』は【神技】のスキルの使い手だから!」
「……へ?」
ええええええええっ!!
俺の心の中で、絶叫がこだました。