表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第3章:『翠の神』楽園編
33/37

第33話 「強欲」

 毒に苦しむベアは、汗を流しながらもギヴを見上げ力強く言葉を発した。


 「……死者を復活させる秘術は生命を冒涜する禁忌とされているわ。……たくさんのエルフの命を危険に晒して、そのクレアさんってエルフが本当に望んでると思ってるの? ……蘇らせたいほどクレアさんを愛しているのなら、もっとよく考えるべきだわ!」


 ギュッと両手を握りしめ、息苦しそうに呼吸を繰り返しながら語るベアに、ギヴは冷めた視線を送り続ける。


 「……少なくとも、私だったらそんな事絶対に望まない。大切な人が自分の為に罪を重ねるなんて、耐えられないもの……」

 「……クククッ、ハーハッハッハッ!」


 ギヴの高笑いが森に響く。頭に手を当て心底くだらないといった様子で地面の横たわっているベアを見下ろし、ギヴは歪んだ笑みを浮かべた。


 「愛している? あの女を? 笑わせるなよガキ! 俺はクレアを愛したことなど1度たりともねぇ! ただ気に食わねぇのさ!」


 再びギヴが指を鳴らし、転移魔法によってゾロゾロと野盗たちが姿を現した。おそらく第1陣の野盗が殲滅されることを想定において、この戦力を温存していたのだろう。


 1人でも見かければ、100人はいると思え、か。『インフィニティ・ギャングスタ』の構成員はかなりの規模だ。それを率いてるギヴも、あらゆる状況を想定した作戦を練っている。厄介極まりないな……。


 「俺はなぁ、欲しいモンは全て自力で手に入れてきた。金は勿論、『インフィニティ・ギャングスタ』の頭目という地位も。そして、この【神技】のスキルもだ」

 「自力で【神技】のスキルを手に入れた? お主のそのスキルは神託の儀式で授かったものじゃろう」

 「いや、俺が神託の儀式で授かったのは【強奪】のスキルだけだ。【強奪】のスキルには人生でたったの1回のみ、使う事が出来る特殊能力があった」


 ギヴの眼が大きく見開かれ、俺を真っすぐに見据えてくる。その迫力に、思わず俺は息を飲んだ。


 「……殺した相手のスキルを奪うことが出来るんだ。俺は、黄の領土の【神技】使いをぶっ殺して【神技】使いになったのよ。あの男は間抜けだった。意気揚々と神託の儀式を終わらせてきたその瞬間に、俺は奴を殺しスキルと武器を手にした。そうして、俺は欲しいと思った全てのモノをこの手に収めてきたんだ」

 「【神技】使いを殺した!?」

 「それなのに……」


 血が流れそうなほどにギヴは歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。


 「……それなのに、あの女だけだ。あの女だけは死んで俺の手から離れていきやがった。クレアが望んでいるかどうかだと? そんなモン関係ねぇーんだよ! 俺はクレアを蘇らせて、今度こそ俺の手の内から離さねぇ! それは、あの女が俺の所有物だからだ!」

 「そんなっ、最初からクレアさんの気持ちなんて考える気がないって言うの!?」

 「あぁそうさ! 自分の所有物が奪われたってことが、ただ気に食わねぇだけだ! あの女が望もうが望むまいが、俺はアイツを蘇らせる! クレアが死んで以降俺が抱え込んだ、このクソったれな気持ちに終止符を打つ為になぁ!」


 他者の気持ちを考えず、ただ自身の気持ちを優先し禁忌を犯そうとするギヴ。失った魔婚相手を蘇らせるその為だけに、この男は2000年間を死者復活の秘術に費やし続けた。


 もしギヴがクレアを愛していたのであれば、もしかしたら俺たちも理解できたのかもしれない。だがギヴの理性を失った狂気の瞳からは、その真意を知ることなど到底不可能だ。


 恐らくギヴは人一倍独占欲が強いのだろう。それは、虐げられてきたダークエルフという過去を持つからだ。そしてその独占欲のせいで、ギヴはクレアを失った喪失感に苦しみ続けてきた。死者を蘇らせるという、禁忌を犯してしまうほどに。


 「お話はここで終わりだ! さぁ野郎ども! 残りはあの黒髪のガキ1匹だけだ!」

 「ヒャッハァーー! ようやく暴れられるぜぇ!」


 再度、野盗の波が押し寄せてくる。ベアが相手をしていた数よりも更に人数が多い。

 俺はすぐさまベアを片手で抱え黒蝶丸を構えた。リボルバーはギヴに無効化されてしまう。何とかベアを守りながら、この野盗たちをしのがなければ。


 「……サクヤちゃん、私のことは放っておいて。貴方だけでも逃げて……」

 「嫌じゃ! ベアさんは絶対にわらわが守る!」


 俺は更に力強く、ベアを抱える腕に力を込めた。

 野盗たちとの距離はもう目と鼻の先だ。覚悟を決め俺が黒蝶丸を振り上げた瞬間、はるか上空で小さく何かが光った。


 その光はしだいにこちらへと近づいてきたかと思えば、無数の雨のように分裂し地上に降り注ぎ正確に野盗たちを撃ち抜いていく。


 「魔力の、弓矢?」


 そう、降り注ぐ光は弓矢の形をしており、射ぬかれた野盗たちは意識を失ったかのようにその場に倒れこんでゆく。降り注ぎ続ける弓矢から身を守りながら、ギヴが忌々しそうにそびえ立つ神樹を睨む。


 「これは、エルフ王家に伝わる魔装弓(まそうきゅう )……。シエラの奴、まだ神樹に引きこもっているのか」


 小さく舌打ちをしたギヴが、勢いよくこの場を離れ神樹の方へと走ってゆく。弓矢の雨は全ての野盗たちを射ぬき終えると、静寂が辺りを包み込んだ。


 あの弓矢は何だったんだ? ギヴは魔装弓と呼んでいたな。魔装弓を見た途端ギヴは神樹に走り出してしまったが、あそこには今ルンレッタがいるハズだ。早く助けに向かわなければ。


 俺は腕の中で抱きかかえているベアを見下ろす。その細い首には、シャーロットに斬りつけられた傷が小さく残っていた。


 ギヴはシャーロットの剣に毒を塗りこんであると言っていた。つまり、魔法ではなく何らかの薬物を使っているということだ。

 それならば、ベアの体内から毒を取り出せば助けられるかもしれない。すでにかなりの時間が経過してしまっている。

 俺は祈るような想いで、ベアの顔にかかった金色の髪を優しくはらった。


 「……ベアさん。今からわらわのすることを許してほしい」

 「……サクヤちゃん? なにを――んっ!」


 俺はベアの首に着けられた傷に口をつけた。突然のことにベアの体がピクンとはねる。

 俺は一か八かの賭けで、彼女の傷口から毒を吸い出しはじめたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ