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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第2章:『黄の神』機械編
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第21話 「気持ちは銃と共に」

黒を基調としたその銃は各部位に金色の装飾が施されており、まだ1度も実戦で扱われていない事が、一切の汚れが無い点から予測が出来た。


 太陽の日差しを受け、銃身が美しく光る。

 バレットが続いて、この銃専用であろうホルスターを取り出しながら語る。


 「この銃、ボクの家で代々受け継がれてきた魔石で造った最高傑作の出来なんだ。全属性を含んだSランクの魔石を組み込んである。ぜひサクヤに使って欲しい」

 「Sランクじゃと!? な、なんでそんな大切な銃をわらわに?」

 「……サクヤたちって、普通の冒険者じゃないでしょ? きっと、何か大切な使命を背負ってピストーラに来た、ボクそう思ったんだ」

 「そ、それは……」


 今回の機械仕掛けのゴーレム事件の黒幕、それを探す為に俺たちはこの黄の領土に来た。だが、これは『三色同盟』を結んだ黒と蒼と赤の人間以外に知られるわけにはいかない。

 それはひとえに、敵がどこに潜んでいるか分からないからだ。


 『三色同盟』の領土の人間でも、この事件の真相を探っているのは信用できるごく少数の者であり、他の兵士や民、ギルドの冒険者たちにはただ蒼と赤の間で休戦協定が結ばれたとしか伝えられていない。


 無論、バレットを信用していない訳では無い。だが、彼女が黄の人間であり同盟に含まれていない限り、俺に真実を打ち明ける資格は無いのだ。これについては、神様から強く念を押されている。


 「あっ、無理に聞き出そうとは思ってないよ! でも、ボクはサクヤたちの力になりたい。それで考えたんだ、ボクに出来ること」

 「……バレットちゃん」


 バレットの言葉に、ベアが胸に手を当て小さく呟く。バレットが瞳に涙を溜めつつも、気丈に顔を上げる。


 「ボクの銃がサクヤたちの助けになるのなら、それ以上に嬉しいことは無いよ。……サクヤに出会って気付いたんだ。ただ銃を造るだけじゃ駄目。造った銃を誰に使って欲しいか、ボクの銃で何を成して欲しいか。その気持ちが大切なんだって」


 涙を拭いそう言い放ったバレットの瞳からは、強い信念の宿った力強さが感じられた。

 バレットがここまでしてくれたんだ。その気持ちに応えるのが、仲間というものだろう。


 「ありがとう、バレット。わらわはこの銃を大切に使う。お主の気持ち、しかと受け取ったのじゃ!」 

 「サクヤ……。ボク本当に、君たちに出会えて良かったよ!」


 堪えきれなくなったのか「うわぁぁん!」とバレットが泣きながら俺に抱き付いてくる。ずっと元気が無かったのは、自分だけ真実を知らされないのが心細かったからなのだろう。


 ひとしきり涙を流した後、バレットは何時もの調子に戻りホルスターを改めて取り出した。


 「う~ん。サクヤは帯を巻いてるから、腰につけちゃうと邪魔になるよね」


 じっくりとバレットが顎に手を添えながら俺の体を見回してくる。その顔は、一流の商売人の顔つきである。


 「うん、ここがいいね!」


 悩み続けた結果、バレットは俺のふとももにホルスターを取り付けてくれた。俺の着物は黒の神の趣味により、露出が多い。


 足も例外では無く、ふとももにホルスターを取り付けるのは動く分には何の邪魔にもならない。俺はホルスターにバレットから受け取った銃を収めた。


 「うん、似合ってるよサクヤ! カッコいい!」

 「うへへ~。そうかの?」


 ムラクモ国には銃なんて全く出回っていない故、何とも嬉しい気持ちになってしまう。しかもただの銃ではない。バレットの気持ちがこもった、特別な銃なのだから。


 「ボク特製の銃弾も渡しておくね。しばらくは大丈夫だろうけど、もし使い切ったらボクの工房に来てね」


 そう言うと、バレットは『フレイム・バレット』などの魔法弾が入ったポーチを渡してくれた。この銃弾さえあれば、魔力を消費する必要も無く疑似魔法を扱うことが出来る。


 銃について全ての話を終えたバレットは、改めて俺たちに向き直りニッコリと人懐こい笑みを浮かべた。


 「さて、もうお別れだねサクヤ。君には本当に色々な事を教えられたよ。仲間との旅の楽しさや、銃職人としての大切な心構え。そして……」


 一瞬の間を置いて、バレットが屈み込み俺の頬にキスをした。

 どこかぎこちなく、慣れない動作のキスではあったが、俺の心臓は爆発しそうな程ドキドキと早鐘を打つ。


 「そして人を好きになるって気持ち! 全部君から教わったモノだよ! ふぅ、やっとスッキリしたよ、言えて良かった!」

 「バババババ、バレット。ななっ、何を」

 「えへへっ。これからも銃工房『バレット・ラビット』をよろしくね!」

 

 唐突なキスで固まっている俺たちに対し得意そうにピンッと長いウサギの耳を立てて、バレットが頬を紅く染めながら笑顔を浮かべピースする。


 感情のまま素直に生きる少女、バレット・ラビット。彼女との出会いは、俺にとってかけがえのない大切な絆となったのだった――。



 ♢♦♢♦


 

 そして現在、俺たちはピストーラの街を出てムーラリアへと向かっていた。初めてされたキスに、俺の頬はまだ熱を帯びている。

 俺は夢心地のまま、バレットから受け渡された銃を手に取り眺めていた。


 「……最後にとんでもない爆弾残していったわねバレットちゃん」

 「油断できない相手」


 ほけーとしてる俺を見つめながら、ベアとジークフレンが言う。

 俺は銃のシリンダーを振り出し、そこに弾を込めていく。取り敢えずは『フレイム・バレット』を6発装填する。

 バレット曰く、この銃はリボルバーという種類の銃らしい。


 6発全てを装填し終えたその瞬間、俺たちの頭上を巨大な影が覆った。咄嗟に上を見上げると、空を飛ぶ巨大な翼が視界に入って来た。茶色の羽毛に覆われた体に、俺の背丈の2倍はあるかぎ爪がギラリと光る。この辺りでは滅多に見ない怪鳥の魔物だ。

 

 その眼は完全に俺たちを餌として見下ろし、獰猛なくちばしがカチカチと忙しなく音を鳴らす。


 「鳥型の魔物ね、厄介だわ」

 「……私が片づける。空飛ぶ魔物はドラゴンで慣れてる」


 そう言いながらジークフレンがハルバートを構えるが、俺がそれを制止する。


 「いや、ここはわらわに任せて欲しいのじゃ。バレットから貰ったこの銃を試したい」

 

 空を飛び近接武器が届かない魔物。これほど好条件な相手が現れてくれるとはありがたい。俺は銃を構え怪鳥に向かって狙いを定める。


 バレットの話では、魔法弾は構造の簡単な魔法しか撃ち出す事が出来ない。それはすなわち、それ相応の威力しか出せないという訳だ。

 

 銃を構えた俺に気付いた怪鳥が、けたたましい鳴き声を上げ正面から突っ込んできた。わざわざ狙いやすくしてくれるとは。


 「ここじゃ!」


 銃のトリガーを引き、ダァン! と『フレイム・バレット』が射出された。その瞬間、やけに大きな衝撃が俺の手に伝わってきた。銃弾が飛び出し銃口では小さく魔法陣が現れる。


 バレットが野盗との戦いで使用した際、小規模な炎が巻き起こった。恐らくはそれと同等の威力だと思うのだが――。


 怪鳥に触れる瞬間、『フレイム・バレット』の魔法が発動する。だが、その威力は想像とはまるで違い大規模な灼熱の業火が渦巻き、巨大な怪鳥をゆうに巻き込み一瞬で炭へと変えた。


 近くで魔法が発動したゆえに、とんでもない熱風が俺たちを襲う。


 「……威力高すぎない?」


 唖然とした顔で俺が呟く。

 

 え、怖い。何が起こった? 明らかにおかしいレベルの火力だったぞ。強力な魔物が跡形も無く燃やし尽くされるって相当だ。

 

 「な、なに今の……。最上級の火炎魔法でもあそこまで威力でないわよ」


 同じく唖然とした顔でベアが言う。

 もしかして……。


 「サクヤの【神技】のスキルに反応したのかも」


 ジークフレンが珍しく頬に汗を流しながら、俺の銃を見つめる。

 そう、俺の推測が正しければ、銃に組み込まれているSランクの魔石が【神技】のスキルに呼応し、『フレイム・バレット』の威力を驚異的なまでに高めたのかも知れない。

 

 それこそ、【神技】のスキルを持つ者のみに許される、神の領域に属する魔法の威力にまで。


 「こ、これはもしや。とんでもない代物なのでは……?」


 俺は改めて握っている銃を見下ろした。今思えば、射撃時の大きな衝撃は魔石と【神技】が呼応した衝撃だったのだろう。

 魔力の消費無しにノータイムで神の魔法を発動でき、その衝撃に耐える銃。


 それはもはや、黒蝶丸と同じく神器に等しいレベルと言えるのではないだろうか。改めて俺は、バレットの才能を痛感したのだった。

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