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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第2章:『黄の神』機械編
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第20話 「乙女たちの夜」

 宿屋に入り案内された客室は、ムラクモ国に馴染み深い畳が広がる、懐かしさを感じさせる部屋であった。さすがはピストーラ。世界中の国の風土をモチーフにした宿屋が数多く存在し、バレットが紹介してくれたこの宿屋はムラクモ国をモチーフにしているらしい。


 「素敵な部屋じゃない! サクヤちゃんの家もこんな感じなの?」

 「ここまで立派ではないが、畳などはわらわの家に馴染み深い物じゃ」

 

 ワイワイと部屋の中を観察していると、ふすまで仕切られていた寝室をジークフレンが開ける。そこには、3つの布団が仲良く並べられていた。


 いや、これはマズいのでは……。何やら嫌な予感が……。


 「……私ここに決めた」

 「はやっ!?」


 シュバッ! と一目散にジークフレンが、軍隊仕込みの身のこなしで右端の布団に潜りこむ。

 え、ちょっ。じゃあ俺は左の――。


 「はい! 私ココ!」


 ギャンッ! とスキルの【閃光】で一瞬にしてベアが、左側の布団に目も止まらぬ速さで潜りこんだ。

 

 ええええぇぇぇっ!! なんてしょーもない場面でスキル使ってるのこの人!? 


 計画通りと言いたげなジークフレンと、ニコニコ顔のベアの間に挟まれた布団を凝視し、俺はゴクリと唾を飲み込む。


 「そんなに緊張しなくても大丈夫よサクヤちゃん。女の子同士なんだし」

 「そ、そうじゃな……」


 声が裏返りながら返事をする。

 そうだ、俺は女の子。今は源吉ではなく、咲夜なのだ。女の子女の子。

 お? そう考えればイケそうな気がしてきたぞ。男とかこの場に居ないし、間違いなんて起こるハズが無いんだ。そうさ、ただ一晩2人に挟まれて眠るだけ――。


 「そろそろ温泉の方に行きましょうか。3人で入るの楽しみね」

 「……うん」


 ん? 温泉って皆で入るモノなんだっけ? 俺は男湯に入るから、2人とは別の……。あれ、俺は女の子だから女湯なのか? うん? 


 ここで俺は気づく。安易に温泉付きの宿屋を希望した愚かさに。完全に男湯に入るつもりでバレットに案内頼んでたわ……。


 「……ベアさん。わらわ、女じゃった」

 「知ってるわよ。サクヤちゃん時々おかしな事言うわよね」 


 ドヨーンとした顔で、俺はベアに呟く。2人は平気だろうが、俺からしたら自ら女の子との混浴を希望した変態である。司 源吉、一生の不覚。

 ってか、全部あの黒の神が悪い。今でも自分が男か女か混乱する時がある。


 「さぁさぁ、行くわよ~サクヤちゃん」

 「……ま、待って。わらわ後で1人で入る」

 「もう遅いし一緒に入りましょうよ。ホラ、お姉ちゃんが頭洗ってあげるから」


 くっ! こんな所でお姉ちゃん力発揮しなくていいよベアさん! 

 そんな俺の抵抗虚しく、引きずられるがままに俺たちは温泉へと向かって行った。


 

 ♢♦♢♦



 「や、やっぱ無理だってぇ……」

 

 脱衣所に到着した途端、ジークフレンとベアがポイポイッと服を脱ぎ始める。対称的に俺はというと、着物までは脱いだもののピッチリした黒の肌着のまま、自分を抱きしめるようにしながら壁に突っ伏していた。


 「サクヤ、今さら恥ずかしがる必要はない。ジーク姉はサクヤの体を隅々まで熟知している」

 「オホン! ま、まぁジークの事は置いといて。サクヤちゃん、さ、行こう?」

 

 1度咳払いをしたベアが、優しくほほ笑みながら手を差し出してくる。これ以上ゴネてたら逆に怪しいか? 腹をくくるしかないのか?


 震える手で、俺は最後の砦であった肌着も脱ぎ去った。カァ~っと、顔が上気していくのが分かる。俺はまだ、自分の体すら見慣れていないのだ。


 俺は完全にうつむきながら、差し出されたベアの手を握り浴場へと歩いていく。


 「ふふっ、何時もの凛々しいサクヤちゃんとは正反対ね」

 「うぅ……」


 妙に大人の色気を感じるベアに気恥ずかしさを感じつつ、俺は桶で体を流し湯に浸かった。ほわほわと暖かい湯が体全身に染みわたり、今日1日の疲れを癒していく。


 「はぁ~、気持ちいい~。時間も遅いし、貸し切り状態ね」

 「サクヤ、サクヤ」

 

 幸せそうな顔で温泉を満喫するベア。その横でチョイチョイと手招きするジークフレンに疑問を抱きつつ、俺はスイーと近づいていく。


 「どうしたのじゃ? ジーク姉」

 「はい、ギュー」

 「!!」

 

 ジークフレンの家で温泉に入った時と同じように、俺に抱き付いてきた。満足そうに小さくジークフレンがほほ笑む。


 「ジーク、何やってるのよ!」

 「前もしたことがあるから」

 「答えになってない! 貴方がそういう態度で来るなら、私にも考えがあるわ!」


 そう答えたベアが、ジークフレンの反対側から俺に抱き付いてきた。両サイドから柔らかいモノが押し付けられまくれ、完全に身動きが出来ない。

 

 何故こうなった!? この浴場広いですよお2人さん! なんでここだけに密集してるんですか!?

 混乱した俺の頭は最早まともな思考が出来ず、ダイレクトに伝わってくる柔らかい感触を前にただただ顔を紅潮させていくしか無かった。


 「あら、やっぱりサクヤちゃん肌綺麗よね。羨ましいわ」

 「そそっ、そんな事ないのじゃ」


 ペタペタとベアが俺の肌に触れる。抱き付いているからか、ベアが言葉を発するたびに吐息が耳にかかってくすぐったい。

 駄目だ、刺激が強すぎる! 俺は我慢の限界に達し、立ち上がり湯から出ようと――。


 「今回は逃がさない」


 ギラッと戦闘の時そっくりな眼差しで、ジークフレンが俺の腕を放してはくれなかった。

 ……お、終わった。

 

 その後ほぼ放心状態の俺の頭を嬉しそうにベアが洗い浴場を出たのち、俺たちは宿屋が用意した寝間着に着替え部屋へと戻り眠りについたのだった。


 

 ♢♦♢♦



 「サクヤ大丈夫? 寝付けなかったの?」

 「い、いや。気にしなくて大丈夫じゃ」

 「なら良いけど……」


 翌朝、迎えに来てくれたバレットから心配されてしまった。

 当然である。寝返りをうち横を向けばベアとジークフレンがすぐ傍で眠っているのだ。結果朝まで眠れれず、俺の目の下にはクマがバッチリ残っていた。


 バレットは心配そうに俺を見つめながらも、おずおずと口を開く。


 「……サクヤ、今日出発でしょ? だから、これを受け取って欲しいんだ」

 

 緊張した顔で、バレットが1つの箱を俺に渡してきた。

 中身をのぞいてみると、そこには見事な仕上がりの銃が一丁納められていた。

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