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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第2章:『黄の神』機械編
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第19話 「ギルドでの再会」

 俺たちがピストーラのギルドに着いた頃には、すっかり日も沈み夜中となっていた。商業都市らしく夜中もあらゆるお店や施設が営業中であり、この街は1日中騒がしい。喧騒鳴りやまぬギルドの扉であるスイングドアを開けると、俺たちの帰りを待っていたベアとジークフレンが心配そうに駆け寄ってきた。


 「サクヤちゃん! 遅かったじゃない、何かあったの?」

 「……対象の魔物に苦戦でもした?」

 「心配かけて済まなかったのじゃ、2人とも」


 ギルドの受付嬢に依頼達成の報告を済ませた俺とバレットは、小さなテーブルを囲み改めて4人で向き合う。


 「ありがとね、ボクの依頼手伝ってもらっちゃって。2人は大丈夫だった?」


 バレットの質問に、ベアが言いにくそうに苦笑いを浮かべる。


 「あー……。ま、まぁ依頼は達成したわよ。ジークが張り切りすぎた事以外は平和だったわ」


 話を聞くに、2人は洞窟に棲む魔物の討伐に向かったらしいのだが、ジークフレンの攻撃の威力が余りにも高すぎて洞窟ごと崩壊させてしまい、危うく生き埋めになる所だったらしい。


 「……あの程度の魔物じゃ私の相手は務まらない。やっぱりサクヤじゃないと」

 「勘弁してほしいわよホントに。あ、でも良い物手に入れたのよ。ホラ、魔物から手に入れた魔石。Aランクはあるんじゃないかしら」

 「あっ!」


 妙に誇らしげかつ熱のある視線を送ってくるジークフレンをよそに、俺はベアの言葉を聞きこの依頼の本来の目的を思い出した。


 や、やべぇ! 遺跡の魔物から魔石回収してねぇじゃん! 色々あり過ぎて忘れてた!


 「バ、バレットすまぬ! わらわすっかり魔石の回収を忘れておったのじゃ!」

 

 手を合わせバレットに頭を下げると、バレットは慌てて両手を振りブンブンと首を振った。


 「き、気にしなくていいよサクヤ! ボクも今思い出したくらいだったし! そ、それに……」

 「それに?」

 「……それに、ボクはサクヤと旅出来たことが何よりも嬉しかったから」


 テレテレと頬を紅く染め俯くバレットを、ジークフレンがジト目で見つめる。ベアはしおらしいバレットと俺を交互に何度も、両目を見開き見比べてくる。


 「……怪しい」

 「へ? ジーク姉、なにがじゃ?」

 「……夜遅くに帰って来て、出会った時とは様子が違うバレットとサクヤ」

 「はぇ?」


 ジークフレンの言葉の意味がよく理解できず首をかしげると、ベアが顔を真っ赤にしながらワタワタと慌てたように身を乗り出す。


 「ササ、サクヤちゃん! 正直にお姉ちゃんたちに話しなさい! 貴方まだ15歳なのにバレットちゃんと一体なにを――」

 「――あっ、そう言うこと!? ち、違うのじゃ2人とも! ななっ、なに勘違いしておる!」


 ベアの様子を見てようやく、2人があらぬ誤解をしている事に気付く。2人の反応のせいでほんのりと頭に浮かんでくるバレットの一糸纏わぬ姿を振り払うように、俺は恥ずかしさに同じく顔を赤くしながらも遺跡で何が起きたのかを2人に説明した。


 遺跡の魔物を倒し巣に飲み込まれ、ゴーレムを生み出す施設に転移したこと。そこで出会った魔晶の材料にされた男の魔人と、大鎌を扱う『純血の魔人』ことュラーラの存在。

 

 話を聞き終えた2人は、神妙な顔を浮かべ言葉を紡いだ。


 「そんな事があったのね。……魔人か、普通だったら信じないところだけど、サクヤちゃんの言う事だから本当なんでしょうね」

 「……その魔晶は?」

 「これじゃ」


 ジークフレンの問いかけに答え、俺は歪な形の魔晶を懐から取り出しテーブルの上に置いた。ゴトッと重みのある音を鳴らし置かれた魔晶は、相変わらず生々しい不気味さを醸し出している。


 「これが魔晶……。な、なんだか気味が悪いわね。噂では魔晶って魔石と同じくキラキラ輝いてるって聞いた事があるけど、これは明らかに違うわよね」


 そう言いながら、ベアが依頼で手に入れた魔石を魔晶の隣りに置いた。魔石の方は美しい青色に発光しており、形も綺麗な真円を描いている。色と輝きからして、水属性のAランクが妥当だろう。


 「見比べてみると、余計にドス黒さが際立つね……」


 バレットが恐ろしそうに身を引きながら魔晶を見つめる。

 確かに、魔力を含んだ石だとしたら魔晶の色は異常だ。脳裏にちらつくのは、消える間際の男の魔人の姿だ。

 魔晶からはあの男の魔人の怒りや憎しみ、悲しみといった負の感情が込められているように感じる。

 そこで俺は、男が最後に言い残した言葉を思い出した。


 「あの男の魔人、魔晶になる寸前にわらわに言ったのじゃ。故郷の紫の領土を助けてくれと」

 「……紫の領土に魔人が住み着いているなんて話聞いた事無い。ゴルガ帝国でもそんな噂は無かった」

 「うむ、じゃがあの瞬間に男が嘘を吐いたとも思えぬ」

 「謎が謎を呼ぶばかりね……」


 はぁ~、と4人の溜息が漏れる。

 『紫の神』が統治する人間は魔法の扱いに優れ、穏やかで聡明な人物が多いことが特徴だ。他の国の魔法学校の教師として派遣されてくる者も多く、俺も幼い頃に1度、旅をしている紫の領土出身の人間に出会った事がある。


 簡単な魔法の仕組みや歴史を、優しく教えてもらった記憶が今も残っている。そんな紫の領土が、あろうことか魔人と関わりがあるとは到底思えない。ましてや魔人の故郷などと、そんな事がありえるのだろうか?


 「何はともあれ、1度ムーランス王国に戻って現状報告しましょ」


 ベアの言葉に、バレットが耳をピンッと立てる。


 「あ、あのっ。今日はピストーラの街にいるんだよね?」

 「えぇ。もう夜遅いし、一泊していくつもりよ。サクヤちゃんとジークもいいわよね?」

 「大賛成じゃ」

 「……私も構わない」


 バレットが立ち上がりぎこちない笑みを浮かべる。


 「じゃあ、ボクが宿屋を紹介するよ! どんな感じのが良い?」

 「温泉付きじゃ!」


 バレットの計らいに甘え、俺はいち早く要望を出した。何といってもここは手に入らない物は無いと呼ばれる天下の商業都市ピストーラ。温泉だって当然あるだろう。


 温泉大好きムラクモ国出身の自分としては、この希望は外せない。ュラーラとの戦闘の疲れは温泉でなければ癒せん、うん。


 「あははっ、サクヤは温泉が好きなんだ。了解、良い宿屋を知ってるんだ、案内するよ!」


 魔晶と魔石を荷物にしまった俺たちは、バレットの案内に続き宿屋に向かう為ギルドの外に出た。夜風が優しく頬をくすぐり心地が良い。


 「……サクヤと温泉に入るのはこれで2回目。楽しみ」

 「えっ!? ジーク貴方、サクヤちゃんと温泉に入ったことあるの!?」

 「……姉として当然」


 グッ、とジークフレンが親指を立てる。ショックを受けた様子のベアとジークフレンの言い争いをよそに、俺は静かに隣を歩くバレットを見つめた。

 ゴーレムの施設を出てからバレットの元気が無い。あれだけの事態に巻き込まれたのだから、当然と言えば当然なのかも知れないが、少し心配だ。


 「着いたよみんな!」


 しばらくピストーラを歩き続けていると、大きな木造の宿屋にたどり着いた。裏手からは温泉のものであろう湯気がモクモクと空に上がっている。


 「おぉ~! 立派な旅館じゃ! バレットも一緒に泊まったらどうじゃ?」

 「ううん、ボクは自分の銃工房に戻るよ。明日の朝迎えに来るね、おやすみ」

 「そうかぁ、わかったのじゃ。おやすみ、バレット」


 挨拶を終えピストーラの街並みに消えていくバレットの後ろ姿を見送りつつ、俺たちも宿屋の中に入って行く。

 いざ、愛しの温泉に出陣の時である!

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